Special Feature
クラウドファースト時代のハードウェアビジネス(下) 大手メーカーの“ハイブリッド”戦略
2021/06/24 09:00
週刊BCN 2021年06月21日vol.1879掲載
NEC
システムの場所を選ばず共通の基盤を展開
サーバーの運用支援をクラウドサービスとして提供コロナ禍の2020年上半期は、NECのx86サーバー「Express5800」シリーズのビジネスは一時的に落ち込んだ。しかしながら、早くも下半期からは回復基調となっている。企業ではテレワークなどの新たなIT需要が発生したが、新しい需要の全てがクラウドファーストとなっていないのだろうと話すのは、プラットフォームソリューション事業部デジタルマーケティンググループの櫛田慎哉・マネージャーだ。サービスレベルや性能要件などで、オンプレミスに残るサーバー製品はそれなりにある。全体としてオンプレミスの市場は横ばいから若干の下降傾向にはあるものの、それが急激に落ち込むことはないはずだ。実際、コロナ禍でテレワーク環境を整備するため、大規模なVDI(仮想デスクトップ基盤)を新規にオンプレミスで導入する案件も出てきている。
最近顧客からは、オンプレミスのITインフラもクラウドのように利用したいとの声が増えていると言う。このあたりは、富士通の顧客と同様であり共通のニーズだろう。将来的なクラウド活用を見据え、オンプレミスの環境についても、必要に応じて迅速にリソースを切り出して利用できるようにするのだ。
一方で、クラウドとオンプレミスの両方の技術を使うようになり、運用の負荷が増大しているとの声もある。新たにクラウドを利用するとなれば、クラウド上でのセキュリティの確保や性能担保など、新たな運用管理のノウハウが必要だ。クラウド、オンプレミスの両方を使うとなれば、IT部門の負荷はどうしても増えてしまう。オンプレミスだけを使っていた際にも、IT部門のエンジニアの負荷が既に高かった組織は多い。むしろ企業のIT管理者の数は減る傾向にすらあり、監視や保守に手が回らずに突発的な障害などに迅速に対処できないところもある。さらに、運用管理業務の属人化が進んでいる組織は多い。
NECでは、IT部門の人材が不足しがちな中小規模の企業向けに、オンプレミスのサーバーとクラウドを連携させることで、サーバーの運用をNECが担う運用サービスを提供している。これはサーバー製品に包含した形のサービスで、「NEC ICT Management Service and Technology」の名称で展開している。ポリシーを設定すれば、運用支援をNEC側でサポートして実施するもので、サーバーと運用をセットしたサブスクリプション型のサービスだ。サーバーは必要なものをビルディングブロック形式で選択でき、運用もテンプレートが用意されており、それを導入すればある程度の運用は自動で回せるようになる。「今まではサーバーを導入するまでがNECの役割だったが、これからは入れた後の運用までを当社が担当する」と櫛田マネージャーは説明する。
これを実現するためにNECでは、新たなサーバーを1台導入すれば、既存のサーバーやデバイスの稼働状況まで見える化するためのエージェントを提供している。これによりサーバーはもちろん、ネットワーク機器やPCなどの稼働状況の可視化も可能となる。ネットワーク構成やIT機器の一覧なども、自動で描いてくれる。組織内のシステム構成の詳細な把握は、中小規模の企業などではなかなか手が回らないところでもある。そのため何かトラブルが発生しても、原因を究明して復旧するのに手間と時間がかかる。環境を可視化した情報を用い、NECがクラウド上から運用サービスをリモートで提供する。これは有償のサービスとなる。
顧客の選択に応じられる豊富なクラウド商材
NECとしては、クラウドはビジネスの課題を解決し、DXを実現して生産性を上げるための一つのツールと捉えている。このツールとしてのクラウドには、現状二つのポイントがある。一つは人手不足で生産性の確保がままならない課題を、クラウドで解決すること。もう一つが、コロナ禍で求められるニューノーマルな働き方の実現に、クラウドで新たな価値を提供することだ。
国内でも全てをクラウドに移行したいと考え始めた企業は、確かに増えている。しかしながら現実的には、全てをクラウド化してこれまでのやり方をドラスティックに変えられるところは少ない。結果的にクラウドとオンプレミスを選択して組み合わせ、ハイブリッド型で利用する。残されたオンプレミス環境を最大限に生かすため、NECはICT Management Service and Technologyを提供しているわけだ。
クラウドサービスとしては、同社のDCを利用して提供する「NEC Cloud IaaS」を組み合わせることで、ハイブリッドクラウド環境を実現する。また、NEC Cloud IaaS相当の機能を顧客のDC上で展開する「NEC Cloud Stack」も提供する予定で、プライベートクラウドでのハイブリッド構成も可能だ。加えてメガクラウドサービスも適宜選択可能としている。このように多様な解決策を提供できるのが、NECのハイブリッドクラウド戦略となる。自前の環境に置けば、重要なデータの特性に合わせた管理の自由度は高い。そもそもNECのクラウドは、政府調達や金融機関の規制などに対応できる高度なセキュリティが特徴でもある。
また、顧客が新しいサービスを開発したい場合は、マルチクラウドで迅速に構築するケースもある。NECはクラウド商材を増やし、顧客の選択肢を増やすことに注力している。そして多様な環境の活用には、ネットワークが重要だと言う。しっかりしたネットワークがなければ、遅い、導入に時間がかかるなどの問題が発生し、ハイブリッドクラウドの価値は提供できない。「ネットワークのコネクティビティはかなり意識している」と言うのは、サービスプラットフォーム事業部クラウドアーキテクチャーグループの堀口智也・マネージャーだ。
同社ではNEC Cloud IaaS、NEC Cloud Stackに加え、オンプレミスで顧客がハードウェアを所有するタイプのプライベートクラウド構築サービス「NEC Cloud System」を用意しており、これらは基盤として同じVMwareベースの技術を選択できるようになっている。そのためこれらの環境のどこでも、同じように情報システムを動かせる。ネットワークに加えて同じアーキテクチャーを採用することで、ワークロードを柔軟に移動できる。今後はコンテナ技術の活用も含め、国内市場の動向を見据えてこの領域のサービスも拡充する予定だ。
NECのクラウドを活用してパートナーが価値を提供できる
NECではCloud IaaSを提供したことで、クラウド型のITインフラ運用のノウハウがたまっている。それを生かして、今後のハイブリッドクラウドサービスの拡充を図る。そのため顧客が運用主体となっている既設の情報システムについても、NECが運用主体となって運用管理の負荷をより軽減していくことを考えている。運用主体が顧客でもNECでも、機能や技術はなるべく共通化することで効率化を図っていく。
これらの取り組みにより、顧客はインフラのことを気にすることなく、アプリケーションやサービス開発に集中してもらう。運用も含んだハイブリッドクラウド環境全体の提供が、結果的にハードウェアのビジネスの維持にもつながるとNECでは考えている。それに加え、エッジなど新たなニーズがあり、ハードウェアの市場はまだまだ広げられる。その上で、今後提供するハードウェアには、インテリジェンスを持たせ新たな価値も提供する。「その価値がまた、新たな需要につながる」と櫛田マネージャーは言う。
ハイブリッドクラウド戦略を進める上でのパートナー戦略は二つある。まず、グローバルベンダーとの戦略としては、AWSおよびAzureとの積極的な協業がある。また、NEC Cloud IaaSのアーキテクチャーにも組み込まれているVMwareとも密に連携する。AWSとはグローバルレベルのパートナーとして実績も積み上がっており、顧客からは「NECだからAWSを使うのも安心だ」という声が寄せられていると堀口マネージャーは言う。
一方で国内パートナーとの協業戦略としては、販売パートナーとの新たな関係性を構築する。例えば、販売パートナーであるSIerなどのデータセンターにNEC Cloud Stackなどを置いてもらい、パートナーの地元に密着したクラウドサービスを展開してもらうことを考えている。さらに「NEC Cloud IaaSであれば、パートナーのパッケージを展開するのも容易」と櫛田マネージャー。従来のExpressサーバーのビジネスでも、パートナーとExpressサーバーのアセットを一つにした展開や、NEC側でパートナーソリューションも含めパッケージ製品としてNECも販売する形態、そしてパートナーのサービスにNEC製品を組み込んでもらう施策があった。NEC Cloud IaaSでも、これらと同様のアプローチをとることで、販売パートナーの価値を向上できるはずだと言う。
国内企業には、ITインフラに対する国内特有の要求がある。それにきめ細かく対応できることが重要だ。多様化する要求に柔軟に応えるのがNECのハイブリッドクラウドの戦略だ。より現実の利用実態に合わせたサービス、製品を提供し、顧客がベンダーに合わせるのではなく、自分たちのニーズに合った使い方ができるサービスを選ぶべきだと櫛田マネージャーはアドバイスする。

グローバルでビジネスを展開するサーバーベンダーが、そのスケールを利用して豊富な製品ラインアップやコストで攻勢をかける一方、国産ベンダーには自社のクラウドサービスや、システム構築部隊、顧客の業務に関するノウハウなどがある。サーバーというプロダクトとクラウドサービスをどのように組み合わせてハイブリッドクラウドを実現するのか、国内大手の富士通とNECに聞いた。
(取材・文/谷川耕一 編集/本多和幸・日高 彰)
前回の特集では、今後さらにパブリッククラウド利用の拡大が予測される中、グローバルで活躍するハードウェアベンダーのハイブリッドクラウド戦略を取りあげた。デル・テクノロジーズ、日本ヒューレット・パッカード(HPE)はともに、自社のハードウェアをサブスクリプション型の契約で提供し、CAPEX(設備投資)からOPEX(従量課金の経費)に変えて利用できるようにしている。またエッジやAI、機械学習など、企業の多様化するニーズにきめ細かく対応する製品ラインアップを用意し、パブリッククラウドだけでは対処できないニーズに柔軟な対処ができるようにしている。
ハイブリッドクラウド化でネットワーク機器の機能などもソフトウェアで実装されるようになり、新たなエンジニアスキルが求められている状況を踏まえ、HPEではIT管理者の人材不足を解消し新たなスキルの獲得や、自動化による管理者業務の負担軽減にも力を入れる。
管理者の負担をAI、自動化技術を活用し軽減する取り組みには、デル・テクノロジーズも注力している。その上で製品ライフサイクルの管理を、SDGsを意識したものにしようとしているところはかなり特徴的だ。
今後の企業におけるITインフラは、SDGsを意識したものしか選ばれなくなることを先取りしており、企業体力のある同社ならではの取り組みと言えそうだ。
これら強力なグローバルのハードウェアベンダーと、国内サーバー市場で激しいシェア争いを繰り広げている国産サーバーベンダーは、いったいどのように戦おうとしているのか。今回の特集では、国内主要ハードウェアベンダーとして富士通、NECのハイブリッドクラウド戦略を取りあげる。中堅中小企業では、サーバーなどのハードウェア導入を起点とし、システムインテグレーションの形で情報システムを導入してきた。今後はそれが、クラウド形の情報システムを「利用」することで価値が提供できるよう変革する必要がある。この変革の実現には、サーバー販売を主としてきた販売パートナーとの関係性も変えなければならない。
数の経済効果を使い、コスト効率の高いサーバーを開発し市場投入できるグローバルベンダーに比べ、国産ベンダーは製品単体のコストメリットで勝負するのは難しいだろう。一方で富士通、NECは、国内に自社データセンターを構え、コロケーションサービスや独自のプライベート型のクラウドサービスを提供できる。これらとオンプレミスに導入するハードウェアを柔軟に組み合わせられれば、国産ベンダーならではの顧客に寄り添ったきめ細かな対応が可能なはずだ。
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