Special Feature
データドリブン時代の電機大手の一手
2021/07/15 09:00
週刊BCN 2021年07月12日vol.1882掲載

国内電機大手が、データドリブン時代のビジネスモデルの構築に取り組んでいる。日立製作所とパナソニックが米国ソフトウェア企業の大型買収を相次いで発表したことはその最たる例だ。また、三菱電機、東芝も、データを活用したソリューション事業を今後の重点成長領域に設定。ソニーやシャープも、データ活用において存在感を高めようとしている。ITを主軸事業とする富士通やNECだけでなく、それ以外の電機大手にとっても、データドリブン時代の到来は大きなビジネスチャンスにつながる。
(取材・文/大河原克行 編集/日高 彰)
一般的に「電機大手8社」という言い方がある。日立製作所、ソニー、パナソニック、三菱電機、東芝、富士通、NEC、シャープの8社のことを指す。事業構造や得意分野、生い立ち、事業規模はさまざまだが、ここにきて、各社ともデジタル領域への投資を加速したり、データを中心に捉えたビジネスモデルの構築に余念がない。本紙では、ITをコア事業に据える富士通、NECの事業戦略を取り上げることが多いが、今回は両社以外の電機大手6社の取り組みに焦点を当てたい。
過去最大規模の買収
今年に入ってIT業界を驚かせたのが、日立とパナソニックが、それぞれ米国ソフトウェア企業の大型買収を発表したことだ。
日立は、デジタルエンジニアリングサービスの米グローバルロジックを買収。今年7月末までに買収を完了し、日立グローバルデジタルホールディングスの完全子会社とする。買収総額は、有利子負債返済を含み96億ドル(約1兆500億円)と、日本の電機業界では過去最大となる。
一方、パナソニックは、サプライチェーンソフトウェア専門企業の米ブルーヨンダーの全株式を取得すると発表。今年度第3四半期までに買収を完了する予定だ。パナソニックは、すでにブルーヨンダーの20%の株式を8億ドル(約880億円)で取得していたが、残りの80%の株式取得と有利子負債返済を含めて71億ドル(約7700億円)で買収する。ピーク時には2兆円の売上高を誇った三洋電機の買収額を上回ることになる。
両社が買収した米ソフトウェア企業の売上高は、いずれもわずか10億ドル前後(約1100億円)であり、それにも関わらず、巨額の買収額になった点にも注目が集まった。日立とパナソニックは、なぜこれだけの大型買収を行ったのか。
継続率9割の強固な顧客基盤
日立が買収したグローバルロジックの設立は2000年9月。米カリフォルニア州サンノゼに本社を置き、世界14カ国に約2万人以上の従業員を擁する。20年度の売上収益は9億2100万ドル、調整後EBITDA率は23.7%に達しており、今年度見通しは売上収益で約12億ドルと、高い成長を見込んでいる。
Chip-to-Cloud(チップからクラウドまで)に対応できるデジタルエンジニアリングサービス企業であり、高度なソフトウェアエンジニアリング技術やエクスペリエンスデザイン力に加えて、通信や金融サービス、自動車、ヘルスケア・ライフサイエンス、テクノロジー、メディア・エンターテイメント、製造など、多様な業界に関する専門知識を有し、400社を超える企業に導入。継続率は9割以上という強固な顧客基盤を持っているのが特徴だ。
日立の東原敏昭会長兼CEOは「グローバルロジックの買収は、Lumadaを進化させ、グローバル展開を加速させるのが狙い。別の言葉でいえば、『世界のLumada』にするための買収である」と断言する。
Lumadaは、データから価値を創出し、デジタルイノベーションを加速するための日立独自のプラットフォームであり、日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション、サービス、テクノロジーで構成される。16年の提供開始以来、国内外を含めて1000社以上への導入実績を持ち、20年度売上収益は1兆1100億円。これを、21年度には42%も成長させ、1兆5800億円に拡大する計画を打ち出し、さらに、25年度には売上収益で3兆円、調整後営業利益で5000億円を目指している。
Lumadaの課題を解決する
だが、Lumadaにはいくつかの課題がある。一つは、海外展開の遅れだ。Lumada事業の海外売上比率は約3割。日立全体の海外売上比率は52%であり、Lumadaが国内偏重型であるのは明らかだ。海外比率を早期に高めるため、グローバルロジックが貢献することになる。
二つめは、製品事業におけるLumadaの実装の遅れだ。日立のITセクターでのLumadaの活用は進展しているものの、他の製品事業とのシナジーはまだ限定的だといわざるを得ない。
6月に社長兼COOに就任した小島啓二氏は「グローバルロジックは、製品事業を行っている企業のデジタル化を支援する会社。日立の製品を活用した提案だけでなく、日立の製品事業のデジタル化も推進できる」とする。鉄道やビルシステム、家電、自動車部品、制御システムなど、日立が持つ製品とLumadaとの連携において、幅広い業界知識と実績を持つグローバルロジックの存在は大きな役割を果たすことになる。さらに、グローバルロジックの顧客や新規領域の顧客に対して、日立が強みとするOT×IT×プロダクトを組み合わせて、ミッションクリティカル領域まで製品やサービスを提供するメリットも生まれる。
そして、三つめがクラウドアプリケーションの開発の遅れだ。ITセクターを統括する德永俊昭副社長は「日立は業種ごとの深い知識やノウハウを武器に、信頼性が重要なミッションクリティカルシステムの受託型開発に強みを持ち、基幹系領域で事業を拡大してきた。だが、グローバルの顧客と協創するという能力やクラウドアプリケーションの開発力が不足していた。グローバルロジックの買収により、アジャイルやクラウドをベースにした協創型企業へと進化することができ、高い成長を、日立のITセクターのなかに取り込むことができる」とする。
このように、グローバルロジックの買収は、成長ドライバーと位置づけるLumadaの課題をカバーする要素が多い。東原会長は「日立と補完できる部分が多く、シナジーを発揮できる。また、特定領域に強みを持っているのではなく、幅広い産業でノウハウと経験がある点も、買収の決め手の一つになった」とし、「グローバルロジックは、Lumadaの成長エンジンになり、成長を加速できる。ポジティブなサイクルを生むことができ、社会イノベーションカンパニーへと日立を進化させるための最善の手段である」と位置づける。
世界最大級のSCMソフト企業
パナソニックが完全子会社するブルーヨンダーは、1985年に設立された企業だ。もともとは、JDAソフトウェアとしてスタート。2018年に、AIおよび機械学習技術を持つドイツのブルーヨンダーを買収し、20年2月に社名を変更した。
店舗向けPOSで創業した旧JDAは、買収を繰り返して、小売業におけるサプライチェーンソリューションに事業領域を拡大。消費財や食品飲料業界のほか、ハイテク、自動車、プロセス、倉庫管理などの製造、物流分野にも対象を広げてきた。
20年度の売上高は10億ドル。現在、76カ国で3000社が採用。製造業では世界トップ100社のうち48社が導入。物流業では上位10社中9社、小売業では100社中65社が導入しているという。3000社のうち、約1000社が、ブルーヨンダーの複数のパッケージを活用。他社への乗り換えは5%前後に留まっており、安定的なユーザー基盤が特徴だ。
パナソニックの楠見雄規社長CEOは「ブルーヨンダーは、世界最大のサプライチェーンソフトウェア企業。パナソニックが、サプライチェーン全体における革命的ソリューションを起こしていくために不可欠なピースであると考えた」と語る。
パナソニックは、製造現場や物流現場、小売店舗向けにさまざまなセンサーやエッジデバイスを提供。製造ラインを運用、監視するソリューションや、倉庫管理者や配送ドライバーが所持して作業をするデバイスでも高いシェアを持つ。小売店に設置される決済端末では国内シェア7割を誇り、自販機、外食、流通、物流のほか、鉄道やタクシーなどの交通分野、ガソリンスタンドなどのエネルギー分野などにも幅広く導入されている。
一方、ブルーヨンダーの中核となるのは、Luminate Platformである。このプラットフォームの上で、製造向け、物流向け、小売り店舗向けなどのシステムが動作しており、各現場での情報をリアルタイムに収集できる。これによって、輸送の削減、過剰在庫や欠品の撲滅、納期遵守率の向上などが可能になり、さらに、サプライチェーンの混乱が予想される場合には、事前にアラートを発信する。経営環境の変化に柔軟に対応した運用が可能になるのだ。
パナソニックが得意とするエッジ部分で取得した各種データを、グローバルスタンダードとなっているブルーヨンダーのLuminateソリューションで集約・分析し、その結果を再びエッジへ戻し、サプライチェーン全体の課題解決を実現できるようになれば、エッジだけに留まっていたパナソニックの「現場プロセスイノベーション」の提案を劇的に進化させられる。パナソニックにとってはグローバルに打って出ることができ、日本市場で遅れているサプライチェーンパッケージソフトウェアの導入にパナソニックのフットプリントを生かせるメリットもある。
そして、パナソニックとブルーヨンダーが将来目指しているのは、サプライチェーン全体を結んで自律的な運用が行える「オートノマスサプライチェーン」の実現だ。
オートノマスサプライチェーンが実現すると、車の自動運転のように、サプライチェーンが自律的に最適化され、オペレーションも自動化される。たとえば、小売店の需要変動や在庫状況と、食品メーカーの製造、仕入状況が自律的に連携することで、需要に最適な量の食品を生産し、迅速に供給。それが、自律的に行われることで、食品廃棄ロスを大幅に減少したり、業務の効率化や人手不足の課題も解決できる。
パナソニックの経営に足りないのは、リカーリングビジネスだ。リカーリングビジネスに注力しているソニーが、20年度に過去最高業績を達成したのに対して、パナソニックは営業利益、税引前利益、当期純利益はいずれも前年比2桁減。売上高は25年ぶりに7兆円を切った。コロナ禍の影響で難しい経営の舵取りが求められるなか、リカーリングビジネスの差が両社の明暗を分けたともいえる。
一方で、SaaSモデルへの移行を積極化しているブルーヨンダーのリカーリングビジネスの比率は67%に達している。
ブルーヨンダーの買収は、BtoB事業を担うコネクティッドソリューションズ(CNS)社が舞台となる。同カンパニーは、日本マイクロソフトの社長を務めた樋口泰行氏がカンパニー社長を務める。樋口カンパニー社長は、「サプライチェーンというミッションクリティカルな領域で一度導入されたシステムは代替されにくく、参入障壁を築くことができる。リカーリングにより、安定的で高収益を得るビジネスを展開できる。ブルーヨンダーのリカーリング比率をさらに引き上げることを優先したい」と語り、さらに「パナソニックが持たない手法を、ブルーヨンダーから学べるメリットは大きい。それにより組織能力を強化し、ビシネスの拡大につなげることができる」とする。
樋口カンパニー社長の肝入りで進められてきたブルーヨンダーの子会社化は、それを具現化するものだと言える。パナソニックの次の成長に向けた構造改革という点でも重要な意味を持つものになりそうだ。

国内電機大手が、データドリブン時代のビジネスモデルの構築に取り組んでいる。日立製作所とパナソニックが米国ソフトウェア企業の大型買収を相次いで発表したことはその最たる例だ。また、三菱電機、東芝も、データを活用したソリューション事業を今後の重点成長領域に設定。ソニーやシャープも、データ活用において存在感を高めようとしている。ITを主軸事業とする富士通やNECだけでなく、それ以外の電機大手にとっても、データドリブン時代の到来は大きなビジネスチャンスにつながる。
(取材・文/大河原克行 編集/日高 彰)
一般的に「電機大手8社」という言い方がある。日立製作所、ソニー、パナソニック、三菱電機、東芝、富士通、NEC、シャープの8社のことを指す。事業構造や得意分野、生い立ち、事業規模はさまざまだが、ここにきて、各社ともデジタル領域への投資を加速したり、データを中心に捉えたビジネスモデルの構築に余念がない。本紙では、ITをコア事業に据える富士通、NECの事業戦略を取り上げることが多いが、今回は両社以外の電機大手6社の取り組みに焦点を当てたい。
過去最大規模の買収
今年に入ってIT業界を驚かせたのが、日立とパナソニックが、それぞれ米国ソフトウェア企業の大型買収を発表したことだ。
日立は、デジタルエンジニアリングサービスの米グローバルロジックを買収。今年7月末までに買収を完了し、日立グローバルデジタルホールディングスの完全子会社とする。買収総額は、有利子負債返済を含み96億ドル(約1兆500億円)と、日本の電機業界では過去最大となる。
一方、パナソニックは、サプライチェーンソフトウェア専門企業の米ブルーヨンダーの全株式を取得すると発表。今年度第3四半期までに買収を完了する予定だ。パナソニックは、すでにブルーヨンダーの20%の株式を8億ドル(約880億円)で取得していたが、残りの80%の株式取得と有利子負債返済を含めて71億ドル(約7700億円)で買収する。ピーク時には2兆円の売上高を誇った三洋電機の買収額を上回ることになる。
両社が買収した米ソフトウェア企業の売上高は、いずれもわずか10億ドル前後(約1100億円)であり、それにも関わらず、巨額の買収額になった点にも注目が集まった。日立とパナソニックは、なぜこれだけの大型買収を行ったのか。
継続率9割の強固な顧客基盤
日立が買収したグローバルロジックの設立は2000年9月。米カリフォルニア州サンノゼに本社を置き、世界14カ国に約2万人以上の従業員を擁する。20年度の売上収益は9億2100万ドル、調整後EBITDA率は23.7%に達しており、今年度見通しは売上収益で約12億ドルと、高い成長を見込んでいる。
Chip-to-Cloud(チップからクラウドまで)に対応できるデジタルエンジニアリングサービス企業であり、高度なソフトウェアエンジニアリング技術やエクスペリエンスデザイン力に加えて、通信や金融サービス、自動車、ヘルスケア・ライフサイエンス、テクノロジー、メディア・エンターテイメント、製造など、多様な業界に関する専門知識を有し、400社を超える企業に導入。継続率は9割以上という強固な顧客基盤を持っているのが特徴だ。
日立の東原敏昭会長兼CEOは「グローバルロジックの買収は、Lumadaを進化させ、グローバル展開を加速させるのが狙い。別の言葉でいえば、『世界のLumada』にするための買収である」と断言する。
Lumadaは、データから価値を創出し、デジタルイノベーションを加速するための日立独自のプラットフォームであり、日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション、サービス、テクノロジーで構成される。16年の提供開始以来、国内外を含めて1000社以上への導入実績を持ち、20年度売上収益は1兆1100億円。これを、21年度には42%も成長させ、1兆5800億円に拡大する計画を打ち出し、さらに、25年度には売上収益で3兆円、調整後営業利益で5000億円を目指している。
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