Special Feature
データドリブン時代の電機大手の一手
2021/07/15 09:00
週刊BCN 2021年07月12日vol.1882掲載
三菱電機
業務の知見を生かし、エッジ側でソリューションを開発
三菱電機は25年度を最終年度とした中期経営計画のなかで、「統合ソリューション提供の拡大」を掲げるとともに、四つの象限に分けた事業領域の一つである「育成事業/新規事業」のなかで、「データ連携、データ活用型ソリューション事業の拡大」に注力するとしている。
同社では、19年に打ち出した経営戦略において、ライフ、インダストリー、インフラ、モビリティの四つの領域に対して、統合ソリューション事業に取り組む考えを示し、20年4月にはビジネスイノベーション本部を設置して、統合ソリューションへの取り組みを本格化させてきた。
三菱電機の杉山武史社長(※7月2日、鉄道用装置の不正検査の責任を取り辞任の意向を発表している)が「創立100周年を迎えた三菱電機が、この5年間でどう変わるかを示すものになる」と位置づける新たな中期経営計画において、統合ソリューションは、25年度までの売上高で3000億円の増加を目指す隠れた成長事業の一つになる。
杉山社長は、同社の統合ソリューションを「強いコアコンポーネントに、長い事業経験で獲得した豊富なフィールドナレッジ、AIやIoTなどを含めた先進的デジタル技術を用いることで、主にエッジ側でソリューションを作っていくことになる」と定義。「コンパクトなAI」技術と位置づける三菱電機独自の「Maisart」や、統合IoTの「ClariSense」、5Gをはじめとした「通信関連技術」などが、三菱電機の統合ソリューションを支える主要技術になる。
Maisartを活用した事例では、レーダーで収集したデータをもとに、津波の発生検出とほぼ同時に、陸地での津波浸水深を高精度に予測し、迅速な避難計画の策定を支援。沿岸地域での防災や減災に貢献しているという。
中期経営計画では、投資を重点的に振り分ける重点成長事業として、FA制御システム、空調冷熱システム、ビルシステム、電動化/ADASと、これらの事業を支えるパワーデバイスの五つを定めているが、これらの領域においても、統合ソリューションが重要な役割を果たす。
たとえば、電動化/ADASでは、高付加価値位置情報提供サービスや大型施設内の自動搬送システムなどによるMaaS領域での新事業創出を目指し、三菱電機が保有するインフラ機能や、路側センサーや管制システム、衛星測位などのサービスなどと協調した狭域自動運転システムの提案も行う。
「さまざまな機器やシステムのデータを連携、分析し、顧客に最適なソリューションを提供するのが三菱電機の統合ソリューションとなる。オープンイノベーションによる顧客との共創や、M&Aなどの積極的な活用により、ソリューション領域を拡大していきたい」と、杉山社長は意気込む。
東芝
インフラ事業に加えデータサービスを成長の軸に
東芝は、今年5月に発表した経営方針で、中期経営計画「東芝Nextプラン」の基本的な方向性は変えないことを強調。綱川智社長CEOは第3フェーズと位置づける23年以降に「CPS(サイバーフィジカルシステム)テクノロジー企業としての飛躍」を掲げ、「CPS化に加えてデータサービスの展開で次世代の事業モデルを作り上げる」と宣言した。
東芝はインフラサービスとデータサービスに注力していく方針であることを、6月に行われた株主総会でも、株主の質問に答える形で改めて強調。デジタル技術やデータ活用による社会課題の解決に取り組み、デジタルおよびデータ事業の成長を加速することを示した。
CPSテクノロジー企業の姿としては、既存のインフラサービスを進化させ、as a Service化、CPS化したサービスの提供と、そこから生み出されるデータによる付加価値を創出するほか、新たな技術を新規インフラサービスとして社会実装し、量子暗号通信や精密医療などを強化する。将来的には、これらのサービスからもデータを生み出し、新たな事業を展開する。フィジカルデータのマッチングプラットフォームにより、さまざまなデータを収集、蓄積し、ビッグデータとして扱い、プラットフォーム化することでユーザーに価値をもたらすデータサービスを提供する方針だ。こうしたインフラサービスやデータサービスの領域で、それぞれ世界トップシェアを目指すことも示していた。
具体的な取り組みとして綱川社長は「量子コンピューター時代の新標準ネットワークシステムとなる量子暗号通信や、購買データや人流データなどを流通することで地域社会をより便利に活性化するデータマッチングプラットフォームなどの最先端の技術を活用し、時機を逃さずに成長を加速したい」と述べた。具体的には、東芝データが持つ消費動向データを他社の消費動向データとマッチングすることで、新たな価値を生み出すといった取り組みも行っていく。
また同社では、デジタル・データ事業や脱炭素社会へのソリューション分野を成長分野とし、210億円の先行投資を行うことも示している。今年10月には、24年度を最終年度とする中期経営計画を発表する予定だが、このなかでも「デジタル/データ事業の成長加速」は、引き続き、同社の重要な事業戦略に位置づけられる。
ソニー
イメージセンサーにAI処理機能を統合
「クリエイティブエンタテインメントカンパニー」を目指すソニーは、データを活用したソリューションビジネスには距離感があるように見えるが、モビリティ領域においては、コンセプトカー「VISION-S」を活用して、さまざまなセンサーからデータを収集。すでに、公道走行テスト、高速走行下での5Gを用いた通信の実証実験などを行っている例がある。
ソニーは14年に、同社初の車載向けCMOSイメージセンサーの商品化を発表して以降、カメラによる車外センシングや、欧州などで義務化される車内センシング、LiDARなどの研究開発を積み重ねてきた経緯がある。センサーを中心とした最新技術とデータの活用によって、「今後数年の時間軸で、モビテリィの安全領域でソニーが貢献できる機会が増える」と、ソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長CEOは語る。
ソニーの取り組みで注目しておきたいのが、20年5月に発表したインテリジェントビジョンセンサーである。
これは、イメージセンサーにAI処理機能を搭載することで、高速なエッジAI処理を可能にし、必要なデータだけを抽出してクラウドサービス利用時におけるデータ転送遅延時間の低減、プライバシーへの配慮、消費電力や通信コストの削減などを実現するものだ。AI機能を実装したカメラの開発が可能となり、今後、小売業界や産業機器業界における多様なアプリケーションの実現や、クラウドと協調した最適なシステムの構築に貢献するという。
吉田会長は今年5月に行った経営方針説明会において、「30年には1250億台のIoTデバイスが普及し、データ量が爆発する。その結果、膨大なデータを処理し、送信し、蓄積するために、消費電力は大幅に増加することになる」と述べ、IoTを持続可能なものにするには、データセンターでの集中処理に加えて、AIを用いた分散データ処理に取り組む必要があると指摘していた。
この問題に対して同社では、CMOSイメージセンサーを用いたエッジソリューションを提供している。「目的に応じて学習したAIを、CMOSセンサーに積層したロジックチップ内に格納し、情報を処理することができる。このソリューションは、IoTにおける情報量と消費電力量を大幅に削減できるものであり、環境負荷低減に貢献すると同時に、セキュリティ、プライバシーに配慮したものになる」(吉田会長)と強調した。
吉田会長がこれだけの時間を割いてデータを活用したソリューションに言及したのは初めてのことだ。ソニーも、データ領域への取り組みに注力しはじめているのだ。
シャープ
プラットフォーム間をWeb APIで接続する
シャープは、同社独自の「AIoTプラットフォーム」を軸とした取り組みが注目を集めている。AIoTプラットフォームは、データを活用したサービスを顧客に提供していくクラウド基盤であり、同社のAIoT家電向けサービスに活用するだけでなく、大阪ガスやノーリツ、リンナイなどと相互にプラットフォームの連携を図り、外出先のスマホから風呂を沸かしたり、帰宅時に複数の家電と給湯器をまとめて操作したりといったことを可能にしている。
また、関西電力やKDDI、セコム、日立キャピタルなどの企業とデータ連携も進めている。シャープの冷蔵庫や空気清浄機などの家電の利用データを活用して、見守りサービスに活用している例もある。また、これらの家電データを電子情報技術産業協会(JEITA)の「JEITAスマートホームデータカタログ」に提供。業界の枠を越えた連携を行う素地を整えている。
シャープのAIoTプラットフォームが特徴的なのは、プラットフォーム同士を相互接続することで連携する「プラットフォーム間連携」を前提としている点だ。
一つのプラットフォームに集約するメガクラウドプロバイダーのような手法ではなく、業種、業界の違いを乗り越えて、多彩な機器やサービスを柔軟につなげていくという考え方であり、これは、経済産業省が進める「スマートライフ政策」と連動した考え方だ。
Web APIを用いることで、独自に構築されたクラウド同士でも容易にやり取りを行うことを目指しており、各社の機器とプラットフォーム、サービスが相互に連携して、生活課題を解決することになる。
同社では「既存のプラットフォーム同士をつなぎ、データを利活用することが、クラウドが中心となった時代の最善な手法になると捉えており、これこそが、日本の企業の競争力向上にもつながる」とする。
AIoTプラットフォームはオープン戦略を前提としている。各種機器メーカーや、サービス事業者との連携を進め、相互のデータ活用による各種サービスの実現、マーケットプレイスの提供なども目指しており、すでに約40社との連携を行っているという。
「AIoTプラットフォームに収集したデータを蓄積、分析することで、さまざまなサービスを開始したり、利用者の生活の質を高めることができる」とする。業界横断型のデータ連携で、新たなスマートライフを実現する取り組みの基盤になる。

国内電機大手が、データドリブン時代のビジネスモデルの構築に取り組んでいる。日立製作所とパナソニックが米国ソフトウェア企業の大型買収を相次いで発表したことはその最たる例だ。また、三菱電機、東芝も、データを活用したソリューション事業を今後の重点成長領域に設定。ソニーやシャープも、データ活用において存在感を高めようとしている。ITを主軸事業とする富士通やNECだけでなく、それ以外の電機大手にとっても、データドリブン時代の到来は大きなビジネスチャンスにつながる。
(取材・文/大河原克行 編集/日高 彰)
一般的に「電機大手8社」という言い方がある。日立製作所、ソニー、パナソニック、三菱電機、東芝、富士通、NEC、シャープの8社のことを指す。事業構造や得意分野、生い立ち、事業規模はさまざまだが、ここにきて、各社ともデジタル領域への投資を加速したり、データを中心に捉えたビジネスモデルの構築に余念がない。本紙では、ITをコア事業に据える富士通、NECの事業戦略を取り上げることが多いが、今回は両社以外の電機大手6社の取り組みに焦点を当てたい。
過去最大規模の買収
今年に入ってIT業界を驚かせたのが、日立とパナソニックが、それぞれ米国ソフトウェア企業の大型買収を発表したことだ。
日立は、デジタルエンジニアリングサービスの米グローバルロジックを買収。今年7月末までに買収を完了し、日立グローバルデジタルホールディングスの完全子会社とする。買収総額は、有利子負債返済を含み96億ドル(約1兆500億円)と、日本の電機業界では過去最大となる。
一方、パナソニックは、サプライチェーンソフトウェア専門企業の米ブルーヨンダーの全株式を取得すると発表。今年度第3四半期までに買収を完了する予定だ。パナソニックは、すでにブルーヨンダーの20%の株式を8億ドル(約880億円)で取得していたが、残りの80%の株式取得と有利子負債返済を含めて71億ドル(約7700億円)で買収する。ピーク時には2兆円の売上高を誇った三洋電機の買収額を上回ることになる。
両社が買収した米ソフトウェア企業の売上高は、いずれもわずか10億ドル前後(約1100億円)であり、それにも関わらず、巨額の買収額になった点にも注目が集まった。日立とパナソニックは、なぜこれだけの大型買収を行ったのか。
継続率9割の強固な顧客基盤
日立が買収したグローバルロジックの設立は2000年9月。米カリフォルニア州サンノゼに本社を置き、世界14カ国に約2万人以上の従業員を擁する。20年度の売上収益は9億2100万ドル、調整後EBITDA率は23.7%に達しており、今年度見通しは売上収益で約12億ドルと、高い成長を見込んでいる。
Chip-to-Cloud(チップからクラウドまで)に対応できるデジタルエンジニアリングサービス企業であり、高度なソフトウェアエンジニアリング技術やエクスペリエンスデザイン力に加えて、通信や金融サービス、自動車、ヘルスケア・ライフサイエンス、テクノロジー、メディア・エンターテイメント、製造など、多様な業界に関する専門知識を有し、400社を超える企業に導入。継続率は9割以上という強固な顧客基盤を持っているのが特徴だ。
日立の東原敏昭会長兼CEOは「グローバルロジックの買収は、Lumadaを進化させ、グローバル展開を加速させるのが狙い。別の言葉でいえば、『世界のLumada』にするための買収である」と断言する。
Lumadaは、データから価値を創出し、デジタルイノベーションを加速するための日立独自のプラットフォームであり、日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション、サービス、テクノロジーで構成される。16年の提供開始以来、国内外を含めて1000社以上への導入実績を持ち、20年度売上収益は1兆1100億円。これを、21年度には42%も成長させ、1兆5800億円に拡大する計画を打ち出し、さらに、25年度には売上収益で3兆円、調整後営業利益で5000億円を目指している。
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