「週刊BCN 創刊40周年記念特集 SMB向け基幹業務ソフトは新たなステージへ 前編」はこちら
コロナ禍で社会は大きく変わった。SMB向け基幹業務ソフトウェアの市場でも、ユーザーやパートナーの意識は変化し、クラウドを選択する動きが目立っている。各業務ソフトベンダーは、クラウドビジネスのさらなる拡大に向け、パートナーとの関係強化などに取り組んでいる。市場が大きく動いている中、生き残りをかけた各ベンダーの競争はすでに始まっている。
(取材・文/齋藤秀平)
週刊BCNは今年10月、創刊40周年を迎えます。本紙が長年取材してきたITビジネスの現在を分析し、未来を占う記念特集を連載形式でお届けします。
ユーザーは利便性や業務効率化を重視
国内では、かねて労働人口の減少が大きな社会課題となっており、企業は生産性の向上に向けて各種対策を講じてきた。そのうちの一つがクラウドサービスを含めたITの導入だ。クラウドについては、これまでは比較的意識の高い企業が利用を進めていたが、コロナ禍で状況は一変。リモートワーク向けで活用が広がり、ユーザー側の意識も変わってきた。
応研 東京本社 藤井隆文 統括マネージャー
応研東京本社の藤井隆文・統括マネージャーは「お客様の意識がすごく変わったと感じている。特に業務効率化に関する要望が高まっており、生産性を上げていく上でクラウドを選ぶ動きが増えている」とし、同社の岸川剛・取締役営業部長は「さまざまなサービスをつなぐことを考えると、オンプレミスよりもクラウドの方が連携がしやすい。コロナ禍で、こうした方向を目指す中小企業や小規模事業者が増えてきている」と語る。
応研 岸川 剛 取締役
freeeの渡邉俊・執行役員/アライアンス事業部長は「どこからでも仕事ができる環境を整備しないといけないよね、という声はエンドユーザーからよく聞こえるようになっている。手段の一つとしてリモートワークがあり、中小企業も、コロナ禍前に比べて(クラウドの活用について)意識するようになっている」とし、「オンラインでの経費精算や、今まで紙で回していた稟議を電子化したいというニーズが出てきている」と話す。
freee 渡邉 俊 執行役員
一方で、ユーザーの意識は変わってきたが、まだ日本全国には広がっていないとの意見も。弥生の岡本浩一郎社長は「しっかりと帳簿をつけないといけないという意識はかなり広がった。そして、いろいろな制約の中で、リモートワークを含めて企業が事業を継続することに対する意識も高まった」としつつ、「東京の視点ではリモートワークが当たり前のようになっているが、日本全体が同じように変わっているわけではなく、まだら模様になっている部分はある」と指摘する。
弥生 岡本浩一郎 社長
パートナーの商機は拡大、組手も多様に
クラウドに対するユーザーのニーズが高まる中、オンプレミスのパッケージソフトを軸にビジネスを展開してきた各ベンダーは、クラウドを注力領域に設定している。導入を拡大していく上で、重要になってくるのがパートナーの存在だ。
ピー・シー・エー(PCA)の佐藤文昭社長は「クラウドやサブスクリプションサービスの場合、オンプレのビジネスよりも継続的にパートナーやユーザーに寄り添うことが重要になる」と話す。その上で、「PCAの場合はパートナーを通じたユーザーへのアプローチがメインになるので、今まで以上に両者との関係を密にすることを目指している」と語る。今年4月には全国のパートナーと連携してカスタマーサクセスを支援する専門部署も立ち上げた。
PCA 佐藤文昭 社長
オービックビジネスコンサルタント(OBC)も、従来と同じようにクラウドビジネスでもパートナーエコシステムの力で成長を実現していく考え。同社の和田成史社長は「よりパートナーと密着して、それぞれのパートナーに強みのある部分で力を発揮してもらえるようなエコシステムづくりに取り組んでいる」とし、「DXに向けた本質的な価値をしっかりとパートナーと一緒に提供することで、パートナーにとってのビジネスチャンスもより大きくできる」との見解を示す。
OBC 和田成史 社長
クラウドネイティブなベンダーもパートナーエコシステムの強化に向けて動いている。マネーフォワードの辻庸介社長CEOは「パートナーはこの1年半で全体的に数が増えており、特に会計事務所は、顧問先が1000や2000あるような大規模事務所でかなり進んでいる」と説明。さらに「クラウドのニーズはあるので、代理店のパートナーも頑張って広げようとしている。中堅規模のユーザーでは、ビジネスのオペレーションに合わせて一部カスタマイズが必要なケースもあるので、各地のSIerと組んでそうしたニーズに応える体制も整備していきたい」と話す。
マネーフォワード 辻 庸介 社長CEO
一方、OSKの橋倉浩社長は「パートナー戦略では共創がキーワードになる」として、販売チャネルの整備だけでなく、サードパーティーとの連携も重要視している。同社の統合型グループウェア「eValue V」とPCAの「PCA会計DXクラウド」は、昨年、API連携を実現し、競合ベンダー同士による新しい協業の形を示した。OSKは今後もユーザーからの要望があれば競合ベンダーとの協業を拡充していく可能性はあるとしており、橋倉社長は「それぞれの会社として、ここは守る、というような軸足は重要だと思うが、非常に速いスピードで変革が進む中、最終的にはユーザーにとってよいものをタイムリーに提供するという点で共創は必要。たとえ競合ベンダーであったとしても柔軟に対応していきたい」としている。
OSK 橋倉 浩 社長
開発は法改正や新しい制度も視野に
各ベンダーは、コロナ禍で加速したクラウドのニーズを取り込むことに加え、今後の法改正や新しい制度も視野に入れながら開発を進める構えだ。応研の藤井統括マネージャーは、直近の注力ポイントとして来年施行される改正電子帳簿保存法を挙げ、「法改正の目的は、お客様の生産性を上げていくことだと捉えている。クラウドを選択するお客様が増えている中、製品開発を進める上では、お客様の位置や法改正の意図をしっかりとくみ取っていくことが大切だ」と話す。業務処理の自動化を重視し、バックオフィスの生産性が上がるような機能やサービスの拡充を加速させるきっかけとしたい考えだ。
2023年10月の実施されるインボイス制度についても、各ベンダーはビジネスチャンスになると見ている。各ベンダーが参加する電子インボイス推進協議会で代表幹事法人となっている弥生の岡本社長は「何も準備せずにスタートしてしまうと、紙が山のように生まれて、業務の効率化どころか対応が余計難しくなってしまう。多くの企業が最初から電子インボイスを扱えるようにIT業界全体で環境を整備していく必要がある」と力を込める。
コロナ禍は、業務ソフト市場にとってはクラウドの普及に向けた転換点になったといえる。各ベンダーは現在、クラウド関連の新しい製品やサービスを市場に投入しており、今後、こうした流れがさらに加速する可能性は高い。PCAの佐藤社長は「サービスが多角化している中、生き残っていくためには(予断を持たず柔軟な発想で)いろいろなことにチャレンジしていかないといけない」と実感を話すが、他の有力ベンダーにとっても共通した課題と言えそうだ。