Special Feature
DXを加速させるクラウドプラットフォームになるか 意外と知らない?「IBM Z」の進化
2021/09/20 09:00
週刊BCN 2021年09月20日vol.1891掲載

デジタルトランスフォーメーション(DX)を志向する企業が、その足枷とも指摘されるレガシーシステムをどう刷新するかを経営上の重要課題に据える例が増えてきた。そして、レガシーシステムの象徴として語られることが多いのがメインフレームだ。しかしトップメーカーの米IBMは、自社のメインフレーム「IBM Z」を、足枷どころかDXの基盤になり得る強力なクラウドプラットフォームに進化させていると強調する。日本市場でIBM Zはそうしたポジションを確立できるのか。
(取材・文/谷川耕一 編集/本多和幸)
2018年9月に経済産業省から出された「DXレポート」では、既存システムがDXの足枷になると指摘された。ここで言う既存システムとは、技術面の老朽化、システムの肥大化や複雑化、ブラックボックス化などの問題があり、高コスト構造の原因となっている「レガシーシステム」のことだ。
日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の17年のアンケート調査によれば、回答企業約200社中、8割の企業がレガシーシステムを抱え、そのうちさらに7割ほどがこれを経営や事業戦略上の足枷だと認識している。理由としては「ドキュメントが整備されていないため調査に時間を要する」「レガシーシステムとのデータ連携が困難」などが挙げられている。
ブラックボックス化し技術的にも古いレガシーシステムでは、新しいクラウドシステムとの連携も難しく、それがDX基盤の整備を阻害する。25年までにレガシーシステムをなんとかしないと企業を崖下に落としてしまうということで、DXレポートのメインテーマとして問題提起されたのが「2025年の崖」だった。
メインフレームがDXの足枷 なんて言われるのは日本だけ
レガシーシステムと言われて真っ先に思い浮かべるのはメインフレームだろう。「旧態依然」「高価」「独自のアーキテクチャーで相互運用性が低い」「何十年も前のプログラムが今なお動き続けている」といった負のイメージがある。しかしながら、「DXの足枷にはならず、AIなどを活用するクラウドプラットフォームとして活用できるメインフレームがある」とIBMは主張する。それが「IBM Z」だ。そもそもメインフレームがDXの足枷になるというのは「日本独自の論調」だと日本IBMテクノロジー事業本部の川口一政・ 技術理事は語る。実際、世界中でIBM Zの利用は増えているという。IBM Zの出荷キャパシティ(処理性能)を見ると、10年で3.5倍に増えている。特筆すべきは、IBM Zの標準エンジン以上に、IBM Z上でのLinuxの利用が拡大している点だ。堅牢かつオープンなプラットフォームとしての価値が直近の市場では評価されているように見える。
「日本にはメインフレームを20年以上、何ら修正を加えずに使い続けてきた文化がある。それをいよいよ更新しなければならなくなったわけだが、何十億円もかけて同じようなものを作り直すという考え方では確かに足枷になってしまう」と川口技術理事。もはやメインフレームでも常に変化するコンティニュアス・デリバリー(継続的デリバリー)が必要で、IBM Zはそうしたシステムだと強調する。メインフレームをIBM Zで最新化すれば、むしろDXは加速できるとしている。
IBMには、DXの基盤となり得る水準でメインフレームを進化させているベンダーは自分たちだけだという自負があるようだ。川口技術理事は「メインフレームを使い続けている企業も、当社だけがメインフレームの進化に十分な投資を続けていることは理解している。そのため、IBM Z以外のメインフレームを使い続けている企業では、IBM Zに乗り換えるかメインフレームを脱するかの選択になっている」と話す。 IBM Zは新しくなっても30年前のCOBOLのプログラムが動き、その上でAIなど新しい技術を活用できる。「かなり古いIT資産も生かしつつDXを加速させる」のがアピールポイントだ。
OSもチップも進化のペースを緩めず
IBMは21年7月、次世代オペレーティング・システム「IBM z/OS V2.5」を発表した。今回のバージョンアップでは、AIの活用、アプリケーション・モダナイゼーションに関する新機能を追加したほか、レジリエンシー(弾力性)、セキュリティの強化、デベロッパー・エクスペリエンスの向上などを図った。
セキュリティ面の強化としては、全方位型暗号化の対象となるデータセットの種類を拡張し、アプリケーションを作り変えることなくデータを暗号化できるようにした。また、異常な挙動のリアルタイム検知ができる「z/OS Anomaly Mitigation」という機能も備えた。
ハイブリッドクラウド向けの機能では、Java/COBOLの相互運用性を強化した。またz/OS上で動作するDockerコンテナ環境「z/OS Container Extensions」の性能を強化するとともに使いやすさを向上させた。このほか、クラウドストレージを統合する機能も追加し、ハイブリッドクラウド・ストレージを使ってストレージ費用を最適化できる。「z/OSの世界はハイブリッドクラウドと縁遠いと思われがちだが、オープンなシステムと連携してハイブリッドで動くようになっている」(川口技術理事)
ハードウェアに関しては、現行バージョンのz15では12コアの14nmチップを採用しているが、IBMは既に15年7月には7nm線幅の半導体の試作に成功し、17年6月には5nm、21年5月には2nmのテスト用半導体の製造に成功している。7nmは10nmに比べ50%の高性能化が図られ、2nmでは7nm比で45%の性能向上と75%の電力削減を実現できる。IBM Zのプロセッサーは、性能向上と省消費電力の進化をハイペースで続けている。
こうした流れの中で、21年8月23日にはAI処理の高速化を実現する「IBM Telumプロセッサー」を発表した。IBMが初めて設計したAIオンチップ・アクセラレーションにより、トランザクション処理の中でAIの推論を利用できる。極めて高いセキュリティ性や高信頼性といったIBM Zの良さを生かしつつ、AIをトランザクション処理に融合できるのだ。
AI、機械学習の処理は、GPUを用いて効率化するのが一般的だ。OLTPのシステムなどからデータを抽出し、これをGPUで処理して予測モデルなどをつくる。つまり、トランザクションとGPU処理は分離され、双方を連携させて使う。ある程度時間をかけ、精度の高いモデルをつくるのであれば、こうした手法でも問題はないだろう。
しかしこれからはさまざまなシーンでAIや機械学習の恩恵を受けたい、できるだけリアルタイムにAIの判断を活用したいというニーズが増えると予想される。であれば、OLTPの処理の中でAI機能を使いたくなる。それを実現するのがTelumプロセッサーという位置づけだ。「AI的な処理に閉じているアプリケーションは、GPUを利用すればいい。OLTPの中で不正検知をする、クロスセル、アップセルの提案をするなどの場合は、AIとOLTPの処理が一つとなり、データも同じものが使えなければならない」と川口技術理事は言う。Telumプロセッサーは22年前半に登場するz16で採用される予定だ。
DXプラットフォームとしての普及には認知度向上が課題
IBMはIBM Zについて「クラウドプラットフォームとして使うべきマシンだ」と強調する。理由の一つは、COBOLのような旧来のアプリケーションも、新しいLinuxのアプリケーションも一つのマシンでカバーできることだ。IBM Zは「Red Hat Linux」に対応し、「Red Hat OpenShift」が動くので、Kubernetesコンテナも利用できる。「IBM Zは1台で大規模な処理ができ、コンテナも400万台を統合して動かすことが可能。CPUの高い能力、複数システムの動的な並列処理などの機能により、1台でも圧倒的に多くの処理ができる」(川口技術理事)もう一つの理由が、高いセキュリティ性だ。SoR、SoEの両方を一つのクラウドプラットフォームで動かしたいとなれば、多様なデータを扱うことになり、一般的には安全性を厳重に守る難易度も増す。IBM Zは独自の機構により、暗号化、アクセス制御をハードウェアレベルで実現しているため、全てのデータを暗号化してもトランザクション性能にほとんど影響を与えない。
既にIBM Zは、パブリッククラウドサービスとして「IBM Cloud Hyper Protect Crypto Services」で利用されているほか、ブロックチェーンのサービス基盤としても使われている。IBMとしては今後もより高いセキュリティ性が求められるサービスのプラットフォームとしてIBM Zを活用していく方針だ。さらに、AIとOLTPを融合させるニーズが高い場合も、IBM Zを提案するケースが今後は出てきそうだ。
処理の集約性が高く柔軟性もあり、高信頼性、高セキュリティ性を確保できるIBM Zのような環境を、オープンシステムを組み合わせて実現するにはかなりの手間がかかるだろう。手間がかかれば、当然コストも上がる。一方、IBM ZでLinuxやKubernetesを動かせば、他環境とのアプリケーションの相互運用や連携もしやすくなり、オープンなクラウドプラットフォーム構成を実現する難易度は下がる。そう考えれば、プライベートクラウドの選択肢としてIBM Zは有効だ。
海外の事例のように、あえて次世代のIT基盤としてIBM Zを選び、DXに取り組む企業の登場が日本でも登場する可能性は小さくない。特に現状メインフレームを継続利用している企業では、この選択は現実的かもしれない。ただし、IBM ZがDXのプラットフォームになり得る製品として日本市場で十分に認知されているかというと、そうとは言えないのが実情だ。
この課題を解決するには、DXプラットフォームとしてIBM Zを率先して提案するパートナーの存在も重要だろう。ユーザー企業側はもちろん、パートナーがDXの手段としてIBM Zを認識する。そのための積極的な情報発信がIBMには求められている。

デジタルトランスフォーメーション(DX)を志向する企業が、その足枷とも指摘されるレガシーシステムをどう刷新するかを経営上の重要課題に据える例が増えてきた。そして、レガシーシステムの象徴として語られることが多いのがメインフレームだ。しかしトップメーカーの米IBMは、自社のメインフレーム「IBM Z」を、足枷どころかDXの基盤になり得る強力なクラウドプラットフォームに進化させていると強調する。日本市場でIBM Zはそうしたポジションを確立できるのか。
(取材・文/谷川耕一 編集/本多和幸)
2018年9月に経済産業省から出された「DXレポート」では、既存システムがDXの足枷になると指摘された。ここで言う既存システムとは、技術面の老朽化、システムの肥大化や複雑化、ブラックボックス化などの問題があり、高コスト構造の原因となっている「レガシーシステム」のことだ。
日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の17年のアンケート調査によれば、回答企業約200社中、8割の企業がレガシーシステムを抱え、そのうちさらに7割ほどがこれを経営や事業戦略上の足枷だと認識している。理由としては「ドキュメントが整備されていないため調査に時間を要する」「レガシーシステムとのデータ連携が困難」などが挙げられている。
ブラックボックス化し技術的にも古いレガシーシステムでは、新しいクラウドシステムとの連携も難しく、それがDX基盤の整備を阻害する。25年までにレガシーシステムをなんとかしないと企業を崖下に落としてしまうということで、DXレポートのメインテーマとして問題提起されたのが「2025年の崖」だった。
メインフレームがDXの足枷 なんて言われるのは日本だけ
レガシーシステムと言われて真っ先に思い浮かべるのはメインフレームだろう。「旧態依然」「高価」「独自のアーキテクチャーで相互運用性が低い」「何十年も前のプログラムが今なお動き続けている」といった負のイメージがある。しかしながら、「DXの足枷にはならず、AIなどを活用するクラウドプラットフォームとして活用できるメインフレームがある」とIBMは主張する。それが「IBM Z」だ。そもそもメインフレームがDXの足枷になるというのは「日本独自の論調」だと日本IBMテクノロジー事業本部の川口一政・ 技術理事は語る。実際、世界中でIBM Zの利用は増えているという。IBM Zの出荷キャパシティ(処理性能)を見ると、10年で3.5倍に増えている。特筆すべきは、IBM Zの標準エンジン以上に、IBM Z上でのLinuxの利用が拡大している点だ。堅牢かつオープンなプラットフォームとしての価値が直近の市場では評価されているように見える。
「日本にはメインフレームを20年以上、何ら修正を加えずに使い続けてきた文化がある。それをいよいよ更新しなければならなくなったわけだが、何十億円もかけて同じようなものを作り直すという考え方では確かに足枷になってしまう」と川口技術理事。もはやメインフレームでも常に変化するコンティニュアス・デリバリー(継続的デリバリー)が必要で、IBM Zはそうしたシステムだと強調する。メインフレームをIBM Zで最新化すれば、むしろDXは加速できるとしている。
IBMには、DXの基盤となり得る水準でメインフレームを進化させているベンダーは自分たちだけだという自負があるようだ。川口技術理事は「メインフレームを使い続けている企業も、当社だけがメインフレームの進化に十分な投資を続けていることは理解している。そのため、IBM Z以外のメインフレームを使い続けている企業では、IBM Zに乗り換えるかメインフレームを脱するかの選択になっている」と話す。 IBM Zは新しくなっても30年前のCOBOLのプログラムが動き、その上でAIなど新しい技術を活用できる。「かなり古いIT資産も生かしつつDXを加速させる」のがアピールポイントだ。
この記事の続き >>
- 21年7月発表の次世代オペレーティング・システム「IBM z/OS V2.5」 その進化のポイントは?
- DXプラットフォームとしての普及には認知度向上が課題 IBM Zを率先して提案するパートナーの存在も重要
続きは「週刊BCN+会員」のみ
ご覧になれます。
(登録無料:所要時間1分程度)
新規会員登録はこちら(登録無料) ログイン会員特典
- 注目のキーパーソンへのインタビューや市場を深掘りした解説・特集など毎週更新される会員限定記事が読み放題!
- メールマガジンを毎日配信(土日祝をのぞく)
- イベント・セミナー情報の告知が可能(登録および更新)
SIerをはじめ、ITベンダーが読者の多くを占める「週刊BCN+」が集客をサポートします。 - 企業向けIT製品の導入事例情報の詳細PDFデータを何件でもダウンロードし放題!…etc…
- 1
