政府は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指す方針を打ち出している。温暖化対策を経済成長の制約やコストと考えることから脱却し、ビジネスモデルを転換して新たな成長を模索する機会と捉えようとしているのだ。今年6月には、経済と環境の好循環をつくり出すことが期待できる成長分野として14産業を選定。その一つが半導体・情報通信産業だ。世界的に加速するカーボンニュートラルへの取り組みは、日本の情報通信産業の将来にどんな影響を及ぼすのか。
(取材・文/大河原克行  編集/本多和幸)

今さら聞けない「カーボンニュートラル」

 カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出が「差し引きゼロ」になった状態を指す。つまり、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、森林などによる「吸収量」を差し引いた合計をゼロにすることを意味する。カーボンニュートラルを実現するためには、温室効果ガス排出量の削減に取り組む必要があるのはもちろん、吸収作用の保全や強化も必須となる。

 2015年に採択されたパリ協定では、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成する」といった世界共通の長期目標の合意が得られた。この実現に向けて、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げている。

 政府は20年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言。同12月には経済産業省が関係省庁と連携して、カーボンニュートラルの取り組みを「経済と環境の好循環」につなげるための産業政策として「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(グリーン成長戦略)を策定した。

 カーボンニュートラル実現に向けた施策は今年に入ってからも動きが激しい。政府は21年4月、30年の新たな温室効果ガス削減目標として、13年比で46%の削減を目指すなどの新たな指針を示した。さらに6月には、経産省主導でグリーン成長戦略をアップデートし、より具体的な施策を明らかにしている。

一筋縄ではいかない課題「あらゆる政策を総動員」

 グリーン成長戦略ではまず、「温暖化への対応を経済成長の制約やコストとする時代は終わり、国際的にも成長の機会と捉える時代に突入した」と指摘している。一方で、「2050年カーボンニュートラルの実現は並大抵の努力では実現できず、エネルギー・産業部門の構造転換、大胆な投資によるイノベーションの創出といった取り組みを大きく加速することが必要である」と、一筋縄ではいかない課題であり、長期的な変革が必要になることも強調。その上で、「政府はグリーン成長戦略に基づき、予算、税、金融、規制改革・標準化、国際連携などのあらゆる政策を総動員する。大胆な投資を行い、イノベーションを起こす企業の前向きな挑戦を全力で後押しし、産業構造や経済社会の変革を実現する」との姿勢を示した。

 カーボンニュートラルの取り組みは世界的に急拡大しており、コロナ禍からの経済回復・成長の柱に「グリーンニューディール」や「グリーンリカバリー」を打ち出している国も少なくない。日本の施策も同じ文脈上にあると言えよう。

 グリーン成長戦略の具体的な目標としては、19年時点で4.4億トンの電力部門におけるCO2排出量を、50年には脱炭素電源に移行することでCO2を極力出さない仕組みとする。民生、産業、運輸の非電力部門では10.3億トンのCO2排出量を50年までに極力電化し、電化できない部分は水素、合成燃料(メタネーション)、バイオマスで対応。それでも完全な脱炭素は現実的ではないため、電力、非電力ともに、大気からCO2を直接回収するDACCSなどの技術や植林で炭素除去を行い、収支をゼロにする。

 こうした目標の実現に向けてはまず、「2050 年カーボンニュートラル」を実現するためのエネルギー政策に伴う産業構造の変革を成長につなげられる14の産業分野を選定。それぞれの成長のための実行計画を、50年までの時間軸を持った「工程表」に落とし込んだ。研究開発、実証、導入拡大、自立商用の各フェーズを設定し、初期段階の研究開発フェーズでは、政府の基金や民間の研究開発投資を活用。最終工程となる自立商用フェーズでは、標準化が進み、公的支援がなくても自立的に商用化が進む状態を目指す。

 さらに、「工程表」の実現を後押しするための政策ツールも充実させる。長期に渡る技術開発や実証のために、2兆円のグリーンイノベーション基金を用意し、NEDOを通じて野心的なイノベーションに取り組む企業を10年間に渡って支援するほか、黒字企業を対象にカーボンニュートラルに向けた投資促進税制、研究開発税制の拡充を図る。さらに事業再構築・再編等に取り組む企業に対する繰越欠損金の控除上限を引き上げる特例を設け、民間投資を喚起していく。加えて、水素ステーションに関する規制改革などを進め、急速充電やバイオジェット燃料、浮体式洋上風力の安全基準づくりも進める。民間投資を呼び込む金融市場のルールづくりにも取り組む方針だ。