Special Feature
Microsoft Azureのデータマネジメント戦略 オープンソースに注力し、データ活用の内製化を重視する
2021/10/25 09:00
週刊BCN 2021年10月25日vol.1896掲載

コンテナベースでアプリケーションを開発すれば、ほかのクラウドサービスなどのコンテナ環境に移動することは容易になった。一方データは、いったんクラウドに蓄積すると、そこから動かすことはあまりない。いかに多くのデータを自社のクラウドに誘引できるかは、クラウドベンダーのビジネスを大きく左右する。オンプレミスの「SQL Server」で多くの実績を持つマイクロソフトは、Azure上でどのようなデータベースサービスを提供することで、ユーザーのデータを呼び込もうとしているのだろうか。
(取材・文/谷川耕一 編集/日高 彰)
大量のデータをクラウドとオンプレミスの間で行き来させるには、手間も時間もかかる。また、多くのクラウドサービスではデータを格納するコストよりも、取り出すコストのほうが高く設定されている。つまり、ユーザー側が一度クラウドに入れたデータを移動させる理由はほぼない。
このような構造があるため、各クラウドベンダーはユーザー企業の事業の根幹にあるデータを獲得すべく、データベースサービスに力を入れている。大手クラウドベンダーであり、同時に既存製品のSQL Serverで膨大な数のユーザーを抱えるマイクロソフトも、Azure上にさまざまなデータベースサービスを展開し、多様なニーズに応えようとしている。

データベースでもオープンソースを重要視する
マイクロソフトはWindows OSで評判の良くない更新作業について、より良い顧客体験を提供できるよう日々努力している。そのために世界で12億ほどのWindowsユーザーのPC利用状況データ、たとえば更新時のネットワーク速度や時間などの情報を集め、分析し更新作業の最適化に取り組んでいる。その効果もあり、更新タイミングがユーザーの作業をあまり邪魔しないようになるなど改善の兆しも見える。ユーザーから集められた膨大なデータは、AzureのSQL DatabaseやSynapse Analyticsに蓄積されているかと思いきや、Azure上で動作はしているものの、オープンソースデータベースであるPostgreSQL(VeniceDB)が使われているという。これには、2019年に買収したシタスデータ(Citus Data)による、PostgreSQLを大規模に拡張する技術を用いている。Citusの技術を活用することで、CPUコア数2800、ノード数100以上のクラスターを構成しているのだ。
Citusの開発チームはマイクロソフトのオープンソースソフトウェアの開発チームに組み込まれ、統合後も引き続きPostgreSQLのオープンソースコミュニティに貢献を続けている。ほかのクラウドベンダーもオープンソースのデータベースを利用したデータベースサービスを展開しているが、多くの場合ソースコードに手を入れ独自化している。一方マイクロソフトは、オリジナルのソースコードには手を入れていないのが特徴だ。ソースコードをフォークして独自開発しないため、ベンダーロックインも防げると主張する。
オープンソースのリレーショナルデータベースでは、MySQLや、ほかではあまり見られないMariaDBもAzureのフルマネージドサービスとして展開している。「Cache for Redis」や「Managed Instance for Apache Casandra」もあり、多様な選択肢が用意されている。既にマイクロソフトはLinuxやJava、Dockerなどさまざまなオープンソース技術に対応し、開発コミュニティへの貢献も積極的に行っている。SQL Serverという自社の商用製品があるデータベース領域でも、そのスタンスは変わらないのだ。
マネージドサービスならではの付加機能でニーズに応える
Azure上で主にSQLで使えるデータベースには、Azure SQL Database、PostgreSQL、MySQL、MariaDB、Synapse Analyticsの五つがある。これらはいずれも「ただサーバーをクラウドに持ってきてPaaSとして動かすのではなく、クラウドならではの機能を追加している」と説明するのは、日本マイクロソフト Azure ビジネス本部 マーケットデベロップメント部 シニアプロダクトマネージャー/Azure Subject Matter Expertの廣瀬一海氏だ。
例えば、SQL Databaseではアドバイザー、チューニング、モニタリングの機能があり、データが増えた際のパフォーマンス劣化に対し改善提案をしたり、アプリケーションの更新でCPU負荷が上がれば、機械学習技術などでそれを検知し適切なアラートを上げたりもできる。ほかにもクラウドならではの拡張性を生かし、CPUやメモリ、ストレージ性能のオンデマンドでの拡張も可能だ。またセキュリティや監査に対応するためのガバナンス機能も組み込まれている。
ほかにも高可用性のための複数ノード構成やバックアップ機能なども、用意された機能として利用でき、ユーザーが自分で仕組みを構築する必要はない。セキュリティではAzure ADと連携できるのも特徴で、誰がログインしどのような処理をしたかも詳細に記録できる。これらクラウドならではの機能は、SQL DatabaseだけでなくSynapse AnalyticsやPostgreSQLなどにも反映し機能強化しているという。
現状、SQL Databaseでは「Single」「Elastic Pool」「Managed Instance」の3種類が用意されている。Singleは予測可能なワークロードに対しパフォーマンスが必要なケースで利用し、リソースの保証が必要なアプリケーションに最適だ。Elastic Poolはマルチテナントアプリケーションで効率を高めて利用するもので、1台で複数のデータベースを動かしリソースをシェアし効率化が図れる。Managed InstanceはSQL Serverと完全な互換性があり、その上でPaaSのメリットも得られるサービスとなる。
サービス選びにおいては、サポートやメンテナンスの違いを考慮する必要がある。オープンソースのデータベースも問題があればなるべく早くパッチを当てるが、開発コミュニティとの関わりで、SQL Databaseよりも時間がかかることもある。またほかのポイントとしては、フェイルオーバーなどの可用性実現の仕組みがデータベースごとに異なるため、より高い可用性を求める場合はSQL Databaseを選ぶほうが良いと廣瀬シニアプロダクトマネージャーは話す。ほかにもエンタープライズ視点でセキュリティやコンプライアンスを見れば、SQL Databaseには優位性があるとも言う。
その上でMicrosoft Azureのデータマネジメント、データ活用全体の戦略としては、ユーザー側での「内製化」が重視されている。データ活用は企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)に直結する領域であり、ユーザー企業自身で全てのデータを統合、集約しセキュアに取り扱えるようにすることで、変革のスピードを速めることができる。そのために社内のデータエンジニア、データサイエンティスト、データアナリストなど異なる役割の担当者間がスムーズに連携し、ビジネス価値を高めることを目指せるようにしている。
例えば、Azure Synapse Analyticsをデータウェアハウスとしてデータプラットフォームの中心に置き、SQL、NoSQLのさまざまなマネージドデータベースを組み合わせ、組織のどういったデータがどこにあるかをデータカタログ機能で明らかにし、Power BIで可視化を行う。このような一連のデータ管理、分析を、Azureならエンド・ツー・エンドでサポートできるというわけだ。
SQL Server 2012サポート終了 パートナーと組んで移行を支援
2022年7月にはSQL Server 2012のサポートが終了する。そのため、古いSQL Serverの更新が必要となっている。当然マイクロソフトとしては、Azure上のSQL Databaseなどに移行してもらいたいところだろう。Azureではデータ分析用途のOLAP、トランザクション処理用のOLTP双方のニーズで構築されたオンプレミスデータベースの移行に対応する、幅広いユースケースを持っている。業務・売上データの分析を目的に、SQL Serverでデータマートやデータウェアハウスを構築している場合は、Synapse Analyticsへ移行する事例が国内で増えている。一方で会計パッケージや労務管理データベースなど、トランザクション処理システムのクラウド移行は、中堅中小企業でニーズが高まっている。その際にはデータベース単体ではなく、紐づくアプリケーションも一緒にクラウド化するケースが多い。マイクロソフトでは、.Net系アプリケーションに紐づくSQL Serverを一緒にモダナイズするようメッセージを強化しており、支援を行っていくとしている。
実際のクラウド移行案件では、パートナーの力も借りる。そのためのマイクロソフトの戦略としては、「オンプレミスのデータベース、サーバーの移行」「アプリケーションとデータベースのモダナイズ」「データ分析および機械学習」の三つの領域に分け、それぞれで実績とキャパシティを持つパートナーとの協業を進めている。前者の二つは既存環境からの移行が多いため、協業パートナーとはアセスメントやPoCを取り組みやすくする提案やメニューを展開。データ分析および機械学習の領域は、Azureでデータ分析をするメリットを、ハンズオンやハッカソンを通じ「手触り感」として顧客に掴んでもらう施策をパートナーと繰り広げる。
SQL Server 2012からの更新で、Azure SQL Databaseの最新版を使うとなれば、アプリケーションも含め移行後のテストなどを十分に行わなければならない。テストなどに手間がかかるのは同じだと判断できるなら、PostgreSQLなども移行先になり得るが、高い可用性を求める、あるいは分析に特化した利用だというならば、SQL DatabaseやSynapse Analyticsが選択肢としては有望だ。移行先に迷った顧客はパートナーの力を借りることになるだろう。パートナーには顧客の環境を見極め、得意領域に沿った提案をする能力が問われるのである。

コンテナベースでアプリケーションを開発すれば、ほかのクラウドサービスなどのコンテナ環境に移動することは容易になった。一方データは、いったんクラウドに蓄積すると、そこから動かすことはあまりない。いかに多くのデータを自社のクラウドに誘引できるかは、クラウドベンダーのビジネスを大きく左右する。オンプレミスの「SQL Server」で多くの実績を持つマイクロソフトは、Azure上でどのようなデータベースサービスを提供することで、ユーザーのデータを呼び込もうとしているのだろうか。
(取材・文/谷川耕一 編集/日高 彰)
大量のデータをクラウドとオンプレミスの間で行き来させるには、手間も時間もかかる。また、多くのクラウドサービスではデータを格納するコストよりも、取り出すコストのほうが高く設定されている。つまり、ユーザー側が一度クラウドに入れたデータを移動させる理由はほぼない。
このような構造があるため、各クラウドベンダーはユーザー企業の事業の根幹にあるデータを獲得すべく、データベースサービスに力を入れている。大手クラウドベンダーであり、同時に既存製品のSQL Serverで膨大な数のユーザーを抱えるマイクロソフトも、Azure上にさまざまなデータベースサービスを展開し、多様なニーズに応えようとしている。

データベースでもオープンソースを重要視する
マイクロソフトはWindows OSで評判の良くない更新作業について、より良い顧客体験を提供できるよう日々努力している。そのために世界で12億ほどのWindowsユーザーのPC利用状況データ、たとえば更新時のネットワーク速度や時間などの情報を集め、分析し更新作業の最適化に取り組んでいる。その効果もあり、更新タイミングがユーザーの作業をあまり邪魔しないようになるなど改善の兆しも見える。ユーザーから集められた膨大なデータは、AzureのSQL DatabaseやSynapse Analyticsに蓄積されているかと思いきや、Azure上で動作はしているものの、オープンソースデータベースであるPostgreSQL(VeniceDB)が使われているという。これには、2019年に買収したシタスデータ(Citus Data)による、PostgreSQLを大規模に拡張する技術を用いている。Citusの技術を活用することで、CPUコア数2800、ノード数100以上のクラスターを構成しているのだ。
Citusの開発チームはマイクロソフトのオープンソースソフトウェアの開発チームに組み込まれ、統合後も引き続きPostgreSQLのオープンソースコミュニティに貢献を続けている。ほかのクラウドベンダーもオープンソースのデータベースを利用したデータベースサービスを展開しているが、多くの場合ソースコードに手を入れ独自化している。一方マイクロソフトは、オリジナルのソースコードには手を入れていないのが特徴だ。ソースコードをフォークして独自開発しないため、ベンダーロックインも防げると主張する。
オープンソースのリレーショナルデータベースでは、MySQLや、ほかではあまり見られないMariaDBもAzureのフルマネージドサービスとして展開している。「Cache for Redis」や「Managed Instance for Apache Casandra」もあり、多様な選択肢が用意されている。既にマイクロソフトはLinuxやJava、Dockerなどさまざまなオープンソース技術に対応し、開発コミュニティへの貢献も積極的に行っている。SQL Serverという自社の商用製品があるデータベース領域でも、そのスタンスは変わらないのだ。
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- マネージドサービスならではの付加機能でニーズに応える
- 2022年7月にはSQL Server 2012のサポート終了 パートナーと組んで移行を支援
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