Special Feature
富士通PCの40年とこれから シェア奪還に向けた構造改革進む
2021/11/11 09:00
週刊BCN 2021年11月08日vol.1898掲載

1981年5月に「FM-8」が発売されて以来、富士通ブランドのPCは40年の節目を迎えた。これまでに累計で1億4000万台以上のPCを世に送り出し、日本のPC市場を支えてきた富士通PCに大きな転機が訪れている。歴史を振り返るとともに、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の最新の実績と事業構造を読み解いてみたい。
(取材・文/大河原克行 編集/日高 彰)
数々の「世界初」を実現してきた富士通PC
富士通PCの第1号機は、1981年5月20日に発売した「FM-8」である。先行したNECの「PC-8001」より約2年遅れての投入だったが、販売店などから「重戦車並みの装備」とも言われ、性能の高さは折り紙付きだった。先行メーカーが慌てて対抗機を開発するといった動きも見られ、高性能化では先行メーカーを焦らせた。当初は「FUJITSU MICRO」が正式名称であり、その後「FM」と略した型番が採用され、現在の「FMV」につながっている。FMVのブランドは、93年に発売したDOS/V機から採用。国内で圧倒的シェアを誇ったNECのPC-9800シリーズ包囲網を形成するDOS/V陣営の中で、最も高いシェアを誇ったのがFMVだった。
富士通PCの歴史は、挑戦の連続である。89年に発売した「FM TOWNS」は、世界初のCD-ROMドライブ標準搭載PCとして登場。マルチメディア時代を牽引したほか、93年の「FMV-DESKPOWER」では、現在まで個人向けPC市場で続いている、多くのアプリケーションソフトをあらかじめ搭載する仕組みを提案。2000年の「LOOX」では、世界初のワイヤレス通信モジュール(当時のPHS)内蔵PCとして、外出先でネットに接続できる環境を提案した。そのほかにも、PCの普及にあわせて女性向けPCやシニア向けPCといった取り組みを開始。現行モデルである「LIFEBOOK UH」シリーズは、13.3型液晶を搭載したモバイルPCとしては世界最軽量の634グラムを達成。軽量化技術においては他社の追随を許さない。
18年5月からは、レノボグループが51%を、富士通が44%を出資するジョイントベンチャーとして再スタート。レノボグループが誇る調達力、コスト競争力を生かしたモノづくりや、迅速性と柔軟性を持った経営体質への転換などを図っている。
今年10月5日にはWindows 11が正式リリースされたが、この日に新製品の記者会見を行ったのはFCCLだけだった。先頭に立ってPC業界を盛り立てるという姿勢は、40年間にわたって市場を牽引してきたという責任感によるものだろう。8シリーズ20機種のWindows 11搭載PCを一気に発表し、コロナ禍でのオンライン生活に合わせた機能を搭載した新コンセプトの14型ノートPC「MHシリーズ」や、ハイリテラシーユーザー向けの新モデル「FMV Zero LIFEBOOK WU4/F3」を新たに追加してみせた。
また、富士通PC誕生40周年企画として、LIFEBOOK UHのキーボード部材をベースにしたモバイルキーボードを、クラウドファンディングで商品化した。FCCLがキーボード単体の周辺機器を新規に開発したのは初めてのことであり、クラウドファンディングも初の取り組みだ。このほか、40周年モデルの発売も予定している。挑戦する姿勢をもとに、これまでのPCとは異なるコンセプトを持ったデバイスが登場することに期待したい。
20年度は法人不振で「歴史的大敗」に
だが、富士通PCは26年ぶりの厳しい状況にある。MM総研によると、20年度(20年4月~21年3月)の国内PC市場における富士通のシェアは、前年度の16.2%から5ポイント以上もシェアを落とし、10.9%に留まった。20年度のブランド別シェアでは5位となっている。
富士通のシェアが10%台だったのは、Windows 95の発売直前となる94年度の10.1%にまでさかのぼる。翌年の95年度にはFMVシリーズの販売が軌道に乗り、9.3ポイント増の19.4%へと一気にシェアを拡大。それ以降20%前後のシェアを維持し、2000年代にはNECとトップシェアを争っていた。その点から見ても、20年度は歴史的大敗を喫したともいえる状況なのだ。

この実績を深掘りしてみると、興味深い状況が浮き彫りになる。MM総研の調べでは、個人向けPCでは19年度の14.4%から14.6%へと、わずかとはいえシェアを拡大したのに対して、法人向けPCでは16.8%から9.4%へと大きくシェアを下げたのだ。
17年、富士通の100%子会社の富士通パーソナルズから個人向けPCの販売機能をFCCLに移管して以来、個人向けPCの開発・販売はFCCLが直接担当している。また、海外における個人向けPCは、レノボグループの販売網を活用し、19年9月から香港での販売をスタート。現在、台湾、シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナムにも拡大している。FCCLでは、20年度には過去最高益を達成した模様であり、その好調ぶりが伝わってくる。
その一方で、教育分野を含む法人向けPCは、FCCLが開発・生産したものを、富士通本体が販売およびサポートを行うという仕組みだ。
つまり、20年度の大幅なシェア減少は、富士通本体が担当する法人分野での落ち込みが大きく影響しているというわけだ。特に、20年度のPC需要を支えたGIGAスクール構想では、その波に乗れなかったことが響いている。もともと得意としていた教育分野において、富士通のシェアが大きく縮小。富士通の20年度連結業績で、法人向けPC事業を含むユビキタスソリューションは売上高が前年比26.5%減と、事業規模を4分の3にまで減少している。
こうした動きをみると、FCCLと富士通本体との間で、PC事業の取り組みにおいて温度差を感じざるを得ない。
富士通に頼らない開発・生産体制を確立
両社の間では、生産体制においても変化が見られている。21年5月から、島根富士通ではノートPCの生産に加えて、デスクトップPCの生産を開始した。これは、富士通グループ内でハードウェア製品を製造する富士通アイソテックでのPC生産を完全移管したものだ。
これまでは、個人向け、法人向けを問わず、デスクトップPCは福島県伊達市の富士通アイソテック、ノートPCは島根県出雲市の島根富士通が生産を担当。東日本大震災で富士通アイソテックが被災した際には、島根富士通がデスクトップPCの代替生産を行うなど、強い連携が特徴だった。だが、島根富士通がレノボ傘下のFCCLの100%子会社であるのに対して、富士通アイソテックは富士通の100%子会社。今回のデスクトップPC生産の完全移管で、PC生産のすべてをFCCL側に一本化ということになる。
同様の取り組みは、すでに海外でも行われている。富士通は構造改革の一環として、直下にあったドイツ・アウクスブルクのPC開発・生産拠点を20年度上期に閉鎖した。一方FCCLは20年4月、自前の開発拠点として「FCCL GmbH」をドイツに設立。20年3月にはチェコに生産拠点を確保し、FCCL主導によるPC開発・生産体制へと移行している。21年度からは、国内外ともにレノボ傘下のFCCLが、富士通に頼らずに開発・生産を行う体制を整えたというわけだ。
また、21年4月からは、レノボ出身の大隈健史氏が、FCCLの社長兼CEOに就任。大隈社長は「FCCLの独自性を持つための最適解を探し続けることが必要」だと語る。この人事も富士通色を薄め、レノボ色を強めることにつながる。
歴史を振り返れば、1994年に富士通PCがシェアを一気に高めた要因は、それまで同社がなかなか成功できなかった個人向けPC市場にFMV-DESKPOWERおよびBIBLOを投入し、個人向けPCの販売が急増したことに加えて、実績を持っていた法人向けPCビジネスが両輪として回る基盤が整ったことが挙げられる。それに対して現在は、好調な個人向けPCと低迷する法人向けPCというように、両輪のバランスが崩れたことがシェア減少の要因となっている。
言い換えれば、26年前とは逆に、今度は法人向けビジネスをいかに成長させるかがシェア奪還の鍵になる。
2021年度上期においても、FCCLは個人向けPC市場では存在感を発揮しているものの、法人や教育分野では“DHL”(デル・テクノロジーズ、日本HP、NECレノボ・ジャパングループ)の後塵を拝したままだ。40周年の節目を迎えた富士通PCにとって、国内PC市場で再び存在感を発揮するための新たな体制づくりが求められている。

1981年5月に「FM-8」が発売されて以来、富士通ブランドのPCは40年の節目を迎えた。これまでに累計で1億4000万台以上のPCを世に送り出し、日本のPC市場を支えてきた富士通PCに大きな転機が訪れている。歴史を振り返るとともに、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の最新の実績と事業構造を読み解いてみたい。
(取材・文/大河原克行 編集/日高 彰)
数々の「世界初」を実現してきた富士通PC
富士通PCの第1号機は、1981年5月20日に発売した「FM-8」である。先行したNECの「PC-8001」より約2年遅れての投入だったが、販売店などから「重戦車並みの装備」とも言われ、性能の高さは折り紙付きだった。先行メーカーが慌てて対抗機を開発するといった動きも見られ、高性能化では先行メーカーを焦らせた。当初は「FUJITSU MICRO」が正式名称であり、その後「FM」と略した型番が採用され、現在の「FMV」につながっている。FMVのブランドは、93年に発売したDOS/V機から採用。国内で圧倒的シェアを誇ったNECのPC-9800シリーズ包囲網を形成するDOS/V陣営の中で、最も高いシェアを誇ったのがFMVだった。
富士通PCの歴史は、挑戦の連続である。89年に発売した「FM TOWNS」は、世界初のCD-ROMドライブ標準搭載PCとして登場。マルチメディア時代を牽引したほか、93年の「FMV-DESKPOWER」では、現在まで個人向けPC市場で続いている、多くのアプリケーションソフトをあらかじめ搭載する仕組みを提案。2000年の「LOOX」では、世界初のワイヤレス通信モジュール(当時のPHS)内蔵PCとして、外出先でネットに接続できる環境を提案した。そのほかにも、PCの普及にあわせて女性向けPCやシニア向けPCといった取り組みを開始。現行モデルである「LIFEBOOK UH」シリーズは、13.3型液晶を搭載したモバイルPCとしては世界最軽量の634グラムを達成。軽量化技術においては他社の追随を許さない。
18年5月からは、レノボグループが51%を、富士通が44%を出資するジョイントベンチャーとして再スタート。レノボグループが誇る調達力、コスト競争力を生かしたモノづくりや、迅速性と柔軟性を持った経営体質への転換などを図っている。
今年10月5日にはWindows 11が正式リリースされたが、この日に新製品の記者会見を行ったのはFCCLだけだった。先頭に立ってPC業界を盛り立てるという姿勢は、40年間にわたって市場を牽引してきたという責任感によるものだろう。8シリーズ20機種のWindows 11搭載PCを一気に発表し、コロナ禍でのオンライン生活に合わせた機能を搭載した新コンセプトの14型ノートPC「MHシリーズ」や、ハイリテラシーユーザー向けの新モデル「FMV Zero LIFEBOOK WU4/F3」を新たに追加してみせた。
また、富士通PC誕生40周年企画として、LIFEBOOK UHのキーボード部材をベースにしたモバイルキーボードを、クラウドファンディングで商品化した。FCCLがキーボード単体の周辺機器を新規に開発したのは初めてのことであり、クラウドファンディングも初の取り組みだ。このほか、40周年モデルの発売も予定している。挑戦する姿勢をもとに、これまでのPCとは異なるコンセプトを持ったデバイスが登場することに期待したい。
この記事の続き >>
- 国内PC市場における富士通のシェア 20年度は法人不振で「歴史的大敗」に
- 再び存在感を発揮するための新たな体制づくり 富士通に頼らない開発・生産体制を確立
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