かつてはPCやワークステーション向けのGPUメーカーだったエヌビディア(NVIDIA)だが、同社製品はディープラーニングの高速化に適していたことから、AI技術にとってもなくてはならない存在となった。そして、データが爆発的に増大する時代を迎えた今、エヌビディアは既存のアーキテクチャーでは容易には得られないコンピューティング性能を実現すべく、新たな製品戦略を描いている。11月に開催された技術イベント「GTC」での発表内容から、次世代のコンピューティング技術の在り方を探る。
(取材・文/渡邉利和  編集/日高 彰)

グラフィックスはもはやGPU用途のワンオブゼム

 GPUの分野で圧倒的な存在感を示すエヌビディアは、GPUの性能を生かせるワークロードとしてAI技術の活用にもいち早く注力し、現在ではむしろAIを始めとする次世代のコンピューティング技術の新領域を切り開くことに精力的に取り組んでいる。GPUはもはやグラフィックス処理のためのデバイスというよりも、「次世代コンピューティングを実現するための要素技術」という位置づけになったような印象さえある。

 同社が現在注力しているのは、AI技術のさらなる発展に加え、より複雑でよりリアルなシミュレーション技術や、広範な仮想空間である“メタバース”の実現、そしてそれらを可能とするのに必要とされる演算性能を実現するための次世代コンピューティング技術の開発と言えるだろう。

 コロナ禍の影響もあってオンライン開催が続いている同社のプライベートイベント「GTC」の基調講演では、創業者のジェンスン・フアンCEOが最新の技術発表やビジョンを語るのが恒例となっている。フアンCEOは米国半導体工業会が主催する年次晩餐会で最高の栄誉となる、2021年度の「ロバートN.ノイス賞」を授与されており、「業界のアイコン」と評されている。ここでは、次世代コンピューティングに向けた同社の取り組みについて概観し、今後のコンピューティングの進化の方向性について考えてみる。
 
ジェンスン・フアン CEO

CPU・GPU・DPUの組み合わせで性能を向上

 エヌビディアはGPUによって評価を高め、業績を伸ばしてきた企業だが、現在ではGPU以外の製品ポートフォリオも拡大している。20年には高速インターコネクト技術のリーディングカンパニーであった米メラノックステクノロジーズ(Mellanox)を買収し、HPC分野で事実上の標準インターコネクト規格となっていたInfiniBandおよびその技術を応用した高速イーサネット技術を獲得した。

 さらに、同社が開発していた「SmartNIC」を発展させ、ネットワーク関連のワークロードをシステムのメインのCPUなどからオフロードすることを可能にする新たなアクセラレーターを、「DPU(Data Processing Unit)」としてGPUと並ぶ重要な製品と位置づけた。

 また同社は英アーム(Arm)の買収も発表しているが、こちらは現時点ではまだ英国政府の承認が得られておらず、完了していない。とはいえ、同社はすでにArmアーキテクチャーに基づくデータセンター向け高性能CPUの「Grace」を発表済みで、23年初頭に発売予定とされている。これで、AIなどのワークロードを高速化するためのアクセラレーターとして広く活用されているGPUに加えて、DPU、CPUの3種類のプロセッサーを組み合わせるという同社の基本的な戦略が完成する形となっている。

 システムの演算性能を引き上げるには演算処理を担うCPUの性能を高めればよい、というのは事実ではあるが、現在のCPU性能向上のペースでは、今後求められる演算処理性能をまかなえないという懸念がある。かつてプロセッサーの性能向上の経験的な指標としてよく言及されていた「ムーアの法則」は、直接的には半導体の集積度の向上ペースを「18~24カ月で2倍」とし、このペースが当面続くと予想したものだが、処理性能もおおむねこのペースで向上してきた。一方、データ爆発などと呼ばれる最近のデータ量の増大ペースはもっと急激な指数関数的な上昇を示しており、CPUの性能向上だけに頼っていては増大し続けるデータ量に追い付くことはできず、結果としてデータを処理しきれなくなるとみられている。

 そこで、CPUに加えて各種のアクセラレーターを活用することで、システム全体の処理性能を引き上げるという発想が生まれた。もともとGPUはグラフィックス処理に特化した設計となっているが、特に大量データを「学習」するAIの処理にも適しており、AI技術の急速な発展と歩調を合わせる形で同社のGPUの用途が拡大し、AI処理のためのアクセラレーターとして脚光を浴びる形となったのは周知の通りである。CPUだけでは不足する処理能力を、特定のワークロードに特化したアクセラレーターで補う、という手法の実効性は既に実証済みだと言え、今後はどのアクセラレーターをどのような組み合わせで利用するかが問われる局面に入ってくると思われる。