IT業界にとってはデジタルトランスフォーメーション(DX)絡みの需要は“追い風”になっており、2022年上期は多くの話題が業界をにぎわせた。好調な大手SIerの業績や事業再編、大型買収など、週刊BCN編集部が注目するニュースをピックアップ。なお続く変化の動きを紹介する。
(構成/齋藤秀平、岩田晃久)
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2021年度決算 IT投資意欲は高水準で推移
SIer主要3社の21年度(22年3月期)の連結決算が出そろい、軒並み好業績となった。顧客のIT投資意欲が高水準で推移していることに加え、新規のM&A効果などが後押しした。
大手SIerの決算を伝えた5月23日・1923号の紙面
NTTデータの22年3月期の連結売上高は前期比10.1%増の2兆5519億円、営業利益は同52.8%増の2126億円と過去最高の業績を更新し売上高は33期連続の増収を達成。国内IT投資が底堅く推移していることに加え、海外事業におけるM&Aや円安による為替のプラス要素、さらに一連の構造改革が好業績につながった。
野村総合研究所(NRI)の22年3月期連結売上高は前期比11.1%増の6116億円、営業利益は同31.5%増の1062億円、営業利益率は同2.7ポイント増の17.4%と過去最高の業績を更新。営業利益は23年3月期までの4カ年中期経営計画の目標としていた1000億円を1年前倒しで達成した。
TISの22年3月期の連結売上高は前期比7.6%増の4825億円で12期連続増収、営業利益は同19.7%増の547億円で11期連続増益を達成した。既存事業が力強く伸びたことに加えて、M&A効果も約100億円あった。営業利益率も11.3%と20年度比で1.1ポイント増えている。
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NTTとNTTデータ グループの海外事業を統合
NTTとNTTデータは5月9日、NTTグループの海外事業を統合すると発表した。今年10月にグループのグローバル事業を統括する持株会社NTTインクを母体に、NTTデータが55%、NTTが45%を出資する海外事業会社を設立し、戦略・実務面での連携を進めて海外でのさらなる成長を狙う。
NTTの澤田純社長(左)とNTTデータの本間洋社長
NTTグループの海外事業は、NTTインクの傘下で、NTTデータと、データセンターやネットワークなどを提供するNTTリミテッドが展開している。今回の事業統合では、海外事業会社とNTTリミテッドをNTTデータ傘下に移管し、海外事業を集約する。NTTデータが得意とするコンサルティングやアプリケーション開発などに、NTTリミテッドが強みとする高付加価値サービスを融合させ、データ活用ビジネスの高度化を図るほか、5G/IoT、スマート関連ビジネスの創出・拡大を進める。
新しい海外事業会社は、売上高が3兆5000億円、従業員数が18万人の規模となり、海外売上高比率は約60%になる見通し。海外事業会社を設立した後、NTTデータは新たに国内事業会社を設立する。23年7月以降は持株会社化したNTTデータの傘下に海外と国内の両事業会社を配置する予定。
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ブロードコム ヴイエムウェアを7兆7500億円で買収へ
米ブロードコムと米ヴイエムウェアは米国時間5月26日、ブロードコムがヴイエムウェアの発行済み株式すべてを取得することで合意したと発表した。買収金額は610億ドル(約7兆7500億円)。合わせてブロードコムはヴイエムウェアの80億ドルの純負債を引き受ける。買収は現金と株式によって行われ、ヴイエムウェアの株主および規制当局の承認が得られれば、2023年10月期中に完了する見通し。18年に発表された米IBMの米レッドハット買収(340億ドル)などを抜き、企業向けソフトウェアベンダーの買収金額では過去最高となる。
ブロードコムのソフトウェア部門が「VMware」ブランドに
(ブロードコムの発表資料より)
買収完了後、ブロードコムのソフトウェア部門は「VMware」のブランドで運営され、ブロードコムが持つITインフラやセキュリティに関するソフトウェアが、新たなVMware製品群として統合される予定。
ブロードコムは、近年はソフトウェア企業の買収を強化しており、18年にメインフレーム向けソフトウェアやアジャイル開発ツールを手掛ける米CAテクノロジーズを189億ドルで、19年にセキュリティベンダー米シマンテックの法人向け事業を107億ドルで買収していた。ブロードコムの既存事業にヴイエムウェアの売上高(22年1月期は129億ドル)を加えると、売り上げ全体のおよそ半分をソフトウェア部門が占める形となる。
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ソフトウェア協会と電子情報技術産業協会 トップ交代で新体制に
上期はIT関連業界団体の体制にも動きがあり、ソフトウェア協会(SAJ)と電子情報技術産業協会(JEITA)のトップが交代した。SAJは、筆頭副会長だった田中邦裕・さくらインターネット社長が6月8日付で会長に就任。JEITAの新会長には、同1日付で富士通の時田隆仁社長CEO・CDXOが就いた。
就任内定会見に臨んだ田中氏(右)
田中会長は5月31日の就任内定会見で「デジタル前提の社会をつくるためにしっかりと活動していく」と抱負を語った。
注力する取り組みについては、教育分野への支援や政府や関係省庁への政策提言を継続し、スタートアップ企業への支援を新たなミッションとして掲げた。地方での活動の活発化や、今年3月時点で700を突破した会員数のさらなる拡大も目指す。
時田会長は6月2日に記者会見し、「あらゆる分野においてデジタル化が急速に進展する中、デジタル人材を育てていくことは年々重要性を増している」とし、「日本政府が推進する『デジタル田園都市』を実現するためには、デジタル技術を提供する企業のみならず、デジタル技術を活用する企業にもデジタルの知見を持った人材が不可欠」と語った。