Special Feature
無料サービスからビジネスの中枢へ ビジネスチャットベンダーの成長戦略
2022/10/27 09:00
週刊BCN 2022年10月24日vol.1943掲載
新型コロナ禍以降、国内で急速に普及したビジネスチャット。ビジネスワーカーの働き方がハイブリッド型に移行していく過程で、新たなコミュニケーション手段として市民権を得るに至ったが、市場を俯瞰すると新型コロナ禍でのニーズは一巡したように見える。そこで、新たな方向性を模索し始めているビジネスチャットベンダーの成長戦略について、国内トップベンダーへのインタビューをもとに探った。
(取材・文/石田仁志 編集/藤岡 堯)
代表的なビジネスチャットツールには、主にPCやモバイルで活用するグループウェアやオフィススイート製品系の製品として、「Microsoft Teams」「Google Chat」などがあり、純粋なチャットツールという立ち位置の製品としては、「LINE WORKS」や「Chatwork」などがある。また、コロナ禍でIT企業やエンジニアを中心とした特定領域においては、「Slack」が人気を集めた。
ただし、国内の労働人口全体を考えると、業務インフラとして完全に定着したところまでは至っていないのが現状のようだ。アンケートなどによるマーケティング支援を手掛けるモニタスが5月に公表した「利用実態調査 ビジネスチャットツール編」によると、ビジネスチャットツールの認知・利用状況は、認知率が54.7%、利用経験率が40.1%、そして現在の利用率は38.6%という結果となっている(図参照)。
IT業界に身を置いていると、ビジネスチャットを知っていることは当たり前という感覚を持つかも知れないが、実際は市場としてもまだまだ戦略的拡販の余地は残されている。乱暴にまとめるとすれば、(使いこなせているかは別としても)大企業には基本的に一巡し、中小企業に対してはまだまだという状況のようだ。
ここからは、各ベンダーにとっては新しい拡販戦略が必要とされる。従来はコロナ禍での困りごとに対する画期的な問題解決ツールという立ち位置で、インバウンド的な需要に応えてきたが、これからは独自のマーケティング戦略や成長戦略に基づくアウトバウンドのアプローチが必要になってくる。
現在各ビジネスチャットベンダーが見据えている方向性は、大きく二つに分かれている。一方は、大手・中堅企業を中心とした既存ユーザー層に向けた機能強化。例えばメジャーツールの一角を占めるSlackは、現在は米Salesforce(セールスフォース)の傘下でビジネスアプリケーションとしての色合いを強めていく方向にかじを切っている。
他方が国内企業の労働生産性向上というアプローチで、特にデジタル活用が遅れている中小企業のDXを後押しするというものだ。その中で、無償ユーザーの有償プラン化、周辺サービスとの連携など、コミュニケーションツールとしてのプラットフォーム性を利用した形で、事業と収益の拡大を図っている。特に市場への広がりという部分でこれから動きが活発化していくのが、後者の中小企業領域である。この領域に力を入れる国内2社の動向を見ていこう。
LINE WORKS
国内で9000万人以上が利用しているLINEのユーザビリティを踏襲したビジネスチャットツールとして高い認知度を誇るのが、ワークスモバイルジャパンが提供するLINE WORKSである。LINEの「トーク」機能を中心に仕事で使うさまざまな機能を集約しており、研修をしなくても使い始められるというハードルの低さから、幅広い業種の大手から中小企業、地方自治体まで広範囲で採用されている。
ワークスモバイルジャパン 増田隆一 社長
他のビジネスチャットツールがPC利用を念頭に設計され、デスクワーカーを中心に普及していったのに対し、LINE WORKSはスマートフォンファーストで開発され、非デスクワーカーの会社にも多く導入されてきた。その結果、スマホの普及に併せてユーザー数は増加した。増田隆一社長は「ビジネスは順調に推移し、有償ビジネスチャットのシェアも5年連続トップを獲得している。2023年度第3四半期においてARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)が100億円を突破した」と手応えを語る。
今後の注力施策としては、中小企業のデジタル化支援と、大企業での部分的な活用という二つを掲げる。その際に生きるのが、LINEの認知度、ユーザー数である。中小企業に対しては、必ずしもビジネスチャットの存在が知られていない中で、LINEと同じ使い勝手という部分は大きな訴求効果となる。大企業に対しては、ビジネスチャットツールの中で唯一個人のLINEと繋げられるという強みを生かし、B2CもしくはD2Cビジネスにおいて、「顧客がLINE、会社はLINE WORKS」というかたちで、ガバナンスを効かせつつ顧客エンゲージメントを高めるためのコミュニケーションツールとして活用する用途が見込めるという。
ツールとしての今後の方向性として増田社長は「製品自体の機能強化を意識するよりも、LINE WORKSというプラットフォームの上に連携統合していくような流れを考えている」と話す。その一例として、「業種特化型のデファクトツールとLINE WORKSを連携させることで業種ごとの使い勝手を高めていき、その業界で働いている人たちの働き方を進化させていく」と説明する。
製品の販売に当たっては、ビジネスパートナーとの連携を実現させる考えで、特に、地方でLINE WORKSを活用してもらえる事業環境を狙っているという。「大手や中小、都市や地域の格差を意識しないかたちでコミュニケーション、コミュニティ、ビジネスマッチングが生まれるプラットフォームをつくっていきたい。それが今後の課題であり、われわれならそれができる」と法人ビジネス本部本部長の名倉桂吾・執行役員は意気込む。Chatwork
中小企業向けで最も高いシェアを持つのが、Chatworkが展開する「Chatwork」である。当初から中小企業向けに特化した製品開発を行い、コロナ禍以前から登録ID数、導入者数ともに高い伸びを維持し続けている。「中小企業向けの市場はこれから本格的に広がっていく。早期に1000万IDを達成し、24年までに中小企業向け市場で“圧倒的な”トップシェアの獲得を目指す」と、福田升二・取締役COO兼ビジネス本部長は語る。
Chatwork 福田升二 COO
Chatworkの特徴は、エンタープライズ向け製品と比べてシンプルな機能に絞っていることだ。それに加え、社外の人と繋がりやすい「ネットワーク効果」を備えている点も強みである。「他のビジネスチャットは法人に導入することが起点となっていて、閉じたグループの中で使うことが前提。Chatworkは元々の思想が電話やメールに近く、外部とも個人と個人で簡単に繋がることができる」と、小西芳樹・ビジネス本部副本部長兼PLG推進部マネジャーは説明する。
このネットワーク効果が、デジタル化が遅れている中小企業に製品を普及させるにあたって生きてくる。「既存のChatworkユーザーが、外部の取引先やフリーランス、士業といった個人事業主に対してChatworkを使ったコミュニケーションを勧めていくことで、人づてに広がっていく。そこで新しいユーザーがデジタルの利便性に触れ、有償ユーザーとなっていく」(小西副本部長)のである。
成長戦略としては、ネットワーク効果と機能拡充によってID数を増やしていく一方で、中小企業向けの「Chatwork DX相談窓口」といった周辺サービスの強化を進めている。現在複数のサービス事業者との提携を進めており、中小企業向けにデジタルでコンタクトできる入り口を活用して、最終的にデジタル系のサービスを提案・販売する「ビジネス版スーパーアプリ」へとつなげていく。
「ユーザーが意識しなくても、Chatworkさえ使っていれば経営に必要なツールやソリューションが手に入り、本業に集中できるという状態をつくる。ベンダーには、中小企業向けにDX商材を売るならチャットワークと組むしかないと思ってもらえるようにする」(福田COO)。
今後は、有望な中小企業向けDXサービス系スタートアップに出資して事業領域を強化するほか、M&Aも積極的に推進し、成長スピードを加速させる方針だ。「中小企業の一歩先の働き方をどう提供するかを考えている。ビジネスチャットはDXを進めるにあたって最もシンプルで簡単なもの。まずは最初の一歩を踏み出してほしい」と福田COOはアピールする。
とはいえ、大多数の中小企業は現状、ビジネスチャットの必要性を認識していない。大組織ですでに利用している場合であっても、外部とのビジネスコミュニケーションにおけるメインツールとして利用している比率は低い。メールは電話からその地位を奪ったが、ビジネスチャットは内部でのコラボレーションがメインである。その点をどう乗り越えていくか、そして、利便性を腹落ちさせて自然にデジタル活用を浸透させていけるかが、普及のかぎを握りそうである。そしてそれが成し遂げられた先に、日本企業の労働生産性が底上げされているというのが、理想的なシナリオといえるだろう。
(取材・文/石田仁志 編集/藤岡 堯)

コロナ禍で一気に普及するも 利用率は4割弱にとどまる
個人間のコミュニケーションでは一足先にチャットやSNSがコミュニケーション手段の中心へと移行した一方、ビジネス領域では相変わらず原則対面、電話やメール、FAXによるコミュニケーションが続いていた。それが働き方の大きな変化によって、Web会議ツールと共にビジネスチャットが注目を集めるようになり、多くの機能が無料で使えるということもあって一気に普及したかたちである。代表的なビジネスチャットツールには、主にPCやモバイルで活用するグループウェアやオフィススイート製品系の製品として、「Microsoft Teams」「Google Chat」などがあり、純粋なチャットツールという立ち位置の製品としては、「LINE WORKS」や「Chatwork」などがある。また、コロナ禍でIT企業やエンジニアを中心とした特定領域においては、「Slack」が人気を集めた。
ただし、国内の労働人口全体を考えると、業務インフラとして完全に定着したところまでは至っていないのが現状のようだ。アンケートなどによるマーケティング支援を手掛けるモニタスが5月に公表した「利用実態調査 ビジネスチャットツール編」によると、ビジネスチャットツールの認知・利用状況は、認知率が54.7%、利用経験率が40.1%、そして現在の利用率は38.6%という結果となっている(図参照)。

IT業界に身を置いていると、ビジネスチャットを知っていることは当たり前という感覚を持つかも知れないが、実際は市場としてもまだまだ戦略的拡販の余地は残されている。乱暴にまとめるとすれば、(使いこなせているかは別としても)大企業には基本的に一巡し、中小企業に対してはまだまだという状況のようだ。
ここからは、各ベンダーにとっては新しい拡販戦略が必要とされる。従来はコロナ禍での困りごとに対する画期的な問題解決ツールという立ち位置で、インバウンド的な需要に応えてきたが、これからは独自のマーケティング戦略や成長戦略に基づくアウトバウンドのアプローチが必要になってくる。
現在各ビジネスチャットベンダーが見据えている方向性は、大きく二つに分かれている。一方は、大手・中堅企業を中心とした既存ユーザー層に向けた機能強化。例えばメジャーツールの一角を占めるSlackは、現在は米Salesforce(セールスフォース)の傘下でビジネスアプリケーションとしての色合いを強めていく方向にかじを切っている。
他方が国内企業の労働生産性向上というアプローチで、特にデジタル活用が遅れている中小企業のDXを後押しするというものだ。その中で、無償ユーザーの有償プラン化、周辺サービスとの連携など、コミュニケーションツールとしてのプラットフォーム性を利用した形で、事業と収益の拡大を図っている。特に市場への広がりという部分でこれから動きが活発化していくのが、後者の中小企業領域である。この領域に力を入れる国内2社の動向を見ていこう。
LINE WORKS
LINEの使い勝手を踏襲したわかりやすさ 非デスクワーカーからも高い評価
国内で9000万人以上が利用しているLINEのユーザビリティを踏襲したビジネスチャットツールとして高い認知度を誇るのが、ワークスモバイルジャパンが提供するLINE WORKSである。LINEの「トーク」機能を中心に仕事で使うさまざまな機能を集約しており、研修をしなくても使い始められるというハードルの低さから、幅広い業種の大手から中小企業、地方自治体まで広範囲で採用されている。
他のビジネスチャットツールがPC利用を念頭に設計され、デスクワーカーを中心に普及していったのに対し、LINE WORKSはスマートフォンファーストで開発され、非デスクワーカーの会社にも多く導入されてきた。その結果、スマホの普及に併せてユーザー数は増加した。増田隆一社長は「ビジネスは順調に推移し、有償ビジネスチャットのシェアも5年連続トップを獲得している。2023年度第3四半期においてARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)が100億円を突破した」と手応えを語る。
今後の注力施策としては、中小企業のデジタル化支援と、大企業での部分的な活用という二つを掲げる。その際に生きるのが、LINEの認知度、ユーザー数である。中小企業に対しては、必ずしもビジネスチャットの存在が知られていない中で、LINEと同じ使い勝手という部分は大きな訴求効果となる。大企業に対しては、ビジネスチャットツールの中で唯一個人のLINEと繋げられるという強みを生かし、B2CもしくはD2Cビジネスにおいて、「顧客がLINE、会社はLINE WORKS」というかたちで、ガバナンスを効かせつつ顧客エンゲージメントを高めるためのコミュニケーションツールとして活用する用途が見込めるという。
ツールとしての今後の方向性として増田社長は「製品自体の機能強化を意識するよりも、LINE WORKSというプラットフォームの上に連携統合していくような流れを考えている」と話す。その一例として、「業種特化型のデファクトツールとLINE WORKSを連携させることで業種ごとの使い勝手を高めていき、その業界で働いている人たちの働き方を進化させていく」と説明する。
製品の販売に当たっては、ビジネスパートナーとの連携を実現させる考えで、特に、地方でLINE WORKSを活用してもらえる事業環境を狙っているという。「大手や中小、都市や地域の格差を意識しないかたちでコミュニケーション、コミュニティ、ビジネスマッチングが生まれるプラットフォームをつくっていきたい。それが今後の課題であり、われわれならそれができる」と法人ビジネス本部本部長の名倉桂吾・執行役員は意気込む。
Chatwork
中小企業向けに特化した製品戦略 「ネットワーク効果」で個人にもリーチ
中小企業向けで最も高いシェアを持つのが、Chatworkが展開する「Chatwork」である。当初から中小企業向けに特化した製品開発を行い、コロナ禍以前から登録ID数、導入者数ともに高い伸びを維持し続けている。「中小企業向けの市場はこれから本格的に広がっていく。早期に1000万IDを達成し、24年までに中小企業向け市場で“圧倒的な”トップシェアの獲得を目指す」と、福田升二・取締役COO兼ビジネス本部長は語る。
Chatworkの特徴は、エンタープライズ向け製品と比べてシンプルな機能に絞っていることだ。それに加え、社外の人と繋がりやすい「ネットワーク効果」を備えている点も強みである。「他のビジネスチャットは法人に導入することが起点となっていて、閉じたグループの中で使うことが前提。Chatworkは元々の思想が電話やメールに近く、外部とも個人と個人で簡単に繋がることができる」と、小西芳樹・ビジネス本部副本部長兼PLG推進部マネジャーは説明する。
このネットワーク効果が、デジタル化が遅れている中小企業に製品を普及させるにあたって生きてくる。「既存のChatworkユーザーが、外部の取引先やフリーランス、士業といった個人事業主に対してChatworkを使ったコミュニケーションを勧めていくことで、人づてに広がっていく。そこで新しいユーザーがデジタルの利便性に触れ、有償ユーザーとなっていく」(小西副本部長)のである。
成長戦略としては、ネットワーク効果と機能拡充によってID数を増やしていく一方で、中小企業向けの「Chatwork DX相談窓口」といった周辺サービスの強化を進めている。現在複数のサービス事業者との提携を進めており、中小企業向けにデジタルでコンタクトできる入り口を活用して、最終的にデジタル系のサービスを提案・販売する「ビジネス版スーパーアプリ」へとつなげていく。
「ユーザーが意識しなくても、Chatworkさえ使っていれば経営に必要なツールやソリューションが手に入り、本業に集中できるという状態をつくる。ベンダーには、中小企業向けにDX商材を売るならチャットワークと組むしかないと思ってもらえるようにする」(福田COO)。
今後は、有望な中小企業向けDXサービス系スタートアップに出資して事業領域を強化するほか、M&Aも積極的に推進し、成長スピードを加速させる方針だ。「中小企業の一歩先の働き方をどう提供するかを考えている。ビジネスチャットはDXを進めるにあたって最もシンプルで簡単なもの。まずは最初の一歩を踏み出してほしい」と福田COOはアピールする。
中小企業のデジタル化と生産性向上の後押しを期待
ビジネスチャットは、コミュニケーション・コラボレーション領域のプラットフォーム製品であり、業務の中央に位置する。ビジネスワーカーのワークプレイスを従来のPCとグループウェアから、モバイルとビジネスチャットを中心とした新たなかたちへと刷新できる可能性を秘める。とはいえ、大多数の中小企業は現状、ビジネスチャットの必要性を認識していない。大組織ですでに利用している場合であっても、外部とのビジネスコミュニケーションにおけるメインツールとして利用している比率は低い。メールは電話からその地位を奪ったが、ビジネスチャットは内部でのコラボレーションがメインである。その点をどう乗り越えていくか、そして、利便性を腹落ちさせて自然にデジタル活用を浸透させていけるかが、普及のかぎを握りそうである。そしてそれが成し遂げられた先に、日本企業の労働生産性が底上げされているというのが、理想的なシナリオといえるだろう。
新型コロナ禍以降、国内で急速に普及したビジネスチャット。ビジネスワーカーの働き方がハイブリッド型に移行していく過程で、新たなコミュニケーション手段として市民権を得るに至ったが、市場を俯瞰すると新型コロナ禍でのニーズは一巡したように見える。そこで、新たな方向性を模索し始めているビジネスチャットベンダーの成長戦略について、国内トップベンダーへのインタビューをもとに探った。
(取材・文/石田仁志 編集/藤岡 堯)
代表的なビジネスチャットツールには、主にPCやモバイルで活用するグループウェアやオフィススイート製品系の製品として、「Microsoft Teams」「Google Chat」などがあり、純粋なチャットツールという立ち位置の製品としては、「LINE WORKS」や「Chatwork」などがある。また、コロナ禍でIT企業やエンジニアを中心とした特定領域においては、「Slack」が人気を集めた。
ただし、国内の労働人口全体を考えると、業務インフラとして完全に定着したところまでは至っていないのが現状のようだ。アンケートなどによるマーケティング支援を手掛けるモニタスが5月に公表した「利用実態調査 ビジネスチャットツール編」によると、ビジネスチャットツールの認知・利用状況は、認知率が54.7%、利用経験率が40.1%、そして現在の利用率は38.6%という結果となっている(図参照)。
IT業界に身を置いていると、ビジネスチャットを知っていることは当たり前という感覚を持つかも知れないが、実際は市場としてもまだまだ戦略的拡販の余地は残されている。乱暴にまとめるとすれば、(使いこなせているかは別としても)大企業には基本的に一巡し、中小企業に対してはまだまだという状況のようだ。
ここからは、各ベンダーにとっては新しい拡販戦略が必要とされる。従来はコロナ禍での困りごとに対する画期的な問題解決ツールという立ち位置で、インバウンド的な需要に応えてきたが、これからは独自のマーケティング戦略や成長戦略に基づくアウトバウンドのアプローチが必要になってくる。
現在各ビジネスチャットベンダーが見据えている方向性は、大きく二つに分かれている。一方は、大手・中堅企業を中心とした既存ユーザー層に向けた機能強化。例えばメジャーツールの一角を占めるSlackは、現在は米Salesforce(セールスフォース)の傘下でビジネスアプリケーションとしての色合いを強めていく方向にかじを切っている。
他方が国内企業の労働生産性向上というアプローチで、特にデジタル活用が遅れている中小企業のDXを後押しするというものだ。その中で、無償ユーザーの有償プラン化、周辺サービスとの連携など、コミュニケーションツールとしてのプラットフォーム性を利用した形で、事業と収益の拡大を図っている。特に市場への広がりという部分でこれから動きが活発化していくのが、後者の中小企業領域である。この領域に力を入れる国内2社の動向を見ていこう。
(取材・文/石田仁志 編集/藤岡 堯)

コロナ禍で一気に普及するも 利用率は4割弱にとどまる
個人間のコミュニケーションでは一足先にチャットやSNSがコミュニケーション手段の中心へと移行した一方、ビジネス領域では相変わらず原則対面、電話やメール、FAXによるコミュニケーションが続いていた。それが働き方の大きな変化によって、Web会議ツールと共にビジネスチャットが注目を集めるようになり、多くの機能が無料で使えるということもあって一気に普及したかたちである。代表的なビジネスチャットツールには、主にPCやモバイルで活用するグループウェアやオフィススイート製品系の製品として、「Microsoft Teams」「Google Chat」などがあり、純粋なチャットツールという立ち位置の製品としては、「LINE WORKS」や「Chatwork」などがある。また、コロナ禍でIT企業やエンジニアを中心とした特定領域においては、「Slack」が人気を集めた。
ただし、国内の労働人口全体を考えると、業務インフラとして完全に定着したところまでは至っていないのが現状のようだ。アンケートなどによるマーケティング支援を手掛けるモニタスが5月に公表した「利用実態調査 ビジネスチャットツール編」によると、ビジネスチャットツールの認知・利用状況は、認知率が54.7%、利用経験率が40.1%、そして現在の利用率は38.6%という結果となっている(図参照)。

IT業界に身を置いていると、ビジネスチャットを知っていることは当たり前という感覚を持つかも知れないが、実際は市場としてもまだまだ戦略的拡販の余地は残されている。乱暴にまとめるとすれば、(使いこなせているかは別としても)大企業には基本的に一巡し、中小企業に対してはまだまだという状況のようだ。
ここからは、各ベンダーにとっては新しい拡販戦略が必要とされる。従来はコロナ禍での困りごとに対する画期的な問題解決ツールという立ち位置で、インバウンド的な需要に応えてきたが、これからは独自のマーケティング戦略や成長戦略に基づくアウトバウンドのアプローチが必要になってくる。
現在各ビジネスチャットベンダーが見据えている方向性は、大きく二つに分かれている。一方は、大手・中堅企業を中心とした既存ユーザー層に向けた機能強化。例えばメジャーツールの一角を占めるSlackは、現在は米Salesforce(セールスフォース)の傘下でビジネスアプリケーションとしての色合いを強めていく方向にかじを切っている。
他方が国内企業の労働生産性向上というアプローチで、特にデジタル活用が遅れている中小企業のDXを後押しするというものだ。その中で、無償ユーザーの有償プラン化、周辺サービスとの連携など、コミュニケーションツールとしてのプラットフォーム性を利用した形で、事業と収益の拡大を図っている。特に市場への広がりという部分でこれから動きが活発化していくのが、後者の中小企業領域である。この領域に力を入れる国内2社の動向を見ていこう。
この記事の続き >>
- LINE WORKS:LINEの使い勝手を踏襲したわかりやすさ 非デスクワーカーからも高い評価
- Chatwork:中小企業向けに特化した製品戦略 「ネットワーク効果」で個人にもリーチ
- 中小企業のデジタル化と生産性向上の後押しを期待
続きは「週刊BCN+会員」のみ
ご覧になれます。
(登録無料:所要時間1分程度)
新規会員登録はこちら(登録無料) ログイン会員特典
- 注目のキーパーソンへのインタビューや市場を深掘りした解説・特集など毎週更新される会員限定記事が読み放題!
- メールマガジンを毎日配信(土日祝をのぞく)
- イベント・セミナー情報の告知が可能(登録および更新)
SIerをはじめ、ITベンダーが読者の多くを占める「週刊BCN+」が集客をサポートします。 - 企業向けIT製品の導入事例情報の詳細PDFデータを何件でもダウンロードし放題!…etc…
- 1
