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産学で挑む最先端テクノロジー ミスマッチしないための出口戦略

2022/10/31 09:00

週刊BCN 2022年10月31日vol.1944掲載

 最新技術の発展期には産学連携の動きが活発になる。現在であれば、AIやデジタルツイン、メタバースといった分野で、企業と大学が関わりを深め、社会実装に向けた取り組みを加速させている。企業にとっては研究機関の人材や施設の活用、大学にとっては研究資金や新たな視点を得る手段、という相互のメリットは変わらないが、長い歴史の中でより成果を得るために見直されている部分もあるようだ。“出口戦略”をキーワードに産学連携の最新のあり方を探った。
(取材・文/大蔵大輔)
 

ソフトバンク × 慶應義塾大学SFC研究所
技術と事業はマッチングしない

 ソフトバンクは今年6月に慶應義塾大学SFC研究所(SFC研究所)と連携し、慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスに「デジタルツイン・キャンパスラボ」を設立。10月から本格的に研究開発をスタートしている。ラボでは同社の5Gネットワークがスタンドアロンで構築されており、今後はセンサーや動画像認識、空間センシングなどによるキャンパス空間のデジタル化、物理空間と仮想空間の相互連携による問題発見や課題解決、自動運転のための自己位置推定技術などの研究を行っていく。

 今回のプロジェクトでソフトバンク側の責任者を務める先端技術研究所の湧川隆次所長は「5Gは個人向けコンテンツとしては4Gと差別化できるものが少なく、産業向けのインフラとしての期待値が高い。その中でもデジタルツインは大容量・低遅延・多接続というメリットを生かし切ることができるテクノロジーだ」と通信キャリアとしてデジタルツインに取り組む意義を語る。
 
ソフトバンク 先端技術研究所 湧川隆次 所長

 自動運転を例に挙げると、分かりやすい。例えば、時速100キロメートルで走行する自動車をデジタルツインによって現実と仮想空間で同期させた場合、1秒のタイムラグが発生するだけで、車の位置には約30メートルのズレが生じる。これは安全性を最重視する同分野にとって看過できない問題だ。このようにスマホではなかなかメリットを実感できない5Gだが、産業インフラにおいては旧世代の通信では代用できないものとなっている。

 企業の取り組みである以上は最終的な出口として「事業化」を設定しているケースが多いが、今回の連携の狙いは別のところにあるという。「デジタルツイン・キャンパスラボは、5Gや3Dマップという技術を使い倒してもらうことが目的で、事業化を出口にはしていない」(湧川所長)。実は大学におけるモバイル通信はWi-Fiで止まっている。同校の卒業生である湧川所長は「かつてSFCは最新のネットワークを利用できることで有名だった。使い倒す学生が山のようにいるので、通信ベンダーはこぞってキャンパスに最新機器を持ち込み、テストを行っていた。しかし、モバイル通信となると周波数が必要な無線ということもあり、大学側では手を出せない。地域WiMAXの取り組みもあったが、本格的な運用には至らなかった。5Gは次世代のインフラとして期待されているのに、それを自由に使える環境が大学にないというのが現状だ」と話す。それゆえに「5Gを多用途に使い倒してもらえる」という環境は非常に貴重で、明確な事業化のビジョンを設定せずとも十分に価値があるというわけだ。

 事業を出口としない理由は他にもある。それが「技術と事業はマッチングしない」という産学連携の落とし穴だ。「研究開発だと何をもってゴールとするか明確だが、事業開発はそう単純ではない。事業は最新テクノロジーを使いこなせれば成功するわけではなく、マーケティング戦略などに影響されるところが大きい。また評価軸が多岐に渡るので、成功の判断も難しい。したがって、技術と事業を切り離して考えることが大事だ」(同)。

 近年は企業と大学の研究のあり方も変化している。かつて大学では基礎研究が中心だったが、インターネットの社会における役割が大きくなるにつれて、応用研究の注目度が高まってきた。事実を探究する基礎研究と異なり、応用研究には問題意識が必要だ。そこで問題意識を提起する企業との連携がこれまで以上に活発化になってきた。

 湧川所長は「従来はコストが高くて途中で止めることができないような研究が多かったが、現在はデジタルの進歩によって低コストでさまざまな研究ができるようになり、継続/中止の判断がしやすくなった」と語る。先端技術研究所でも「3年で成果が出なければトピックを入れ替える」とのことだが、産学連携においてもスピード感のある研究が今まで以上に求められるようになってきている。
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