「DXの波でモダナイズの引き合いが増えた」「モダナイズ需要で来期は二桁成長が期待できる」といった声がITベンダーの経営者から聞かれる機会が増えてきた。レガシーシステムを刷新しようという動きがあるのは間違いないが、旧来の「リプレース」とは何が異なるのか。DX推進のために必要な情報システムのあり方を、企業はどのように描くべきなのか。
(取材・文/日高 彰)
業務アプリの「毎日更新」も実現
DXの推進にあたって、情報システムのモダナイゼーションは避けて通れない課題だとされている。モダナイゼーションは直訳すれば「近代化」であるが、一口に「情報システムをモダナイズする」と言っても、実態としては保守期限の切れたITインフラのリプレースに過ぎないものから、アプリケーションの構成やデータの移行・統合などを含むものまでさまざまである。
あらゆるシステムは老朽化する以上、それをモダナイズすること自体は決して新しい需要ではないが、DXの機運の高まりとともにモダナイズというキーワードがとりわけ注目されるようになったのは、レガシーシステムがビジネスのデジタル化の足かせになっているとの認識が広がったからだ。
PwCコンサルティングは、売上高500億円以上の国内企業でITモダナイゼーションに関与する役職者を対象としたアンケート調査を実施している。この中で同社は、「パブリッククラウド」「アジャイル開発方法」「クラウドネイティブ技術」のすべてを全面的に本番環境で採用している企業を「先進」、いずれかを本番活用している企業を「準先進」とカテゴライズしているが、今年の調査では先進企業は全体(有効回答数524)の7%、準先進企業は29%にとどまっている。
モダナイズの必要性が叫ばれる中、中堅以上の規模の企業でもアジャイル開発やクラウドネイティブ技術についてはまだ十分に活用が広がっていない様子がうかがえるが、モダナイズの効果は明らかだ。同じ調査では業務アプリケーションの更新頻度を尋ねているが、モダナイズ先進企業の34%が「毎日」、16%が「随時」、21%が「週に1回程度」更新していると回答しており、合計すると約7割の企業がユーザーの要望を迅速にアプリケーションに反映できていることがわかる。もっとも、これは鶏と卵の関係であり、モダナイズしたからアプリケーションを迅速に更新できたとも、迅速に更新したいからモダナイズを強力に推進したとも読み解くことができるが、いずれにしてもスピード感を持ってデジタル技術を活用するには、システムのモダナイズが必須であることに疑いはない。
資産の可視化とグランドデザイン
企業のDX意欲に応えるべく、ITベンダー各社もモダナイズ需要取り込みの動きを本格化させている。富士通は9月、社内に「モダナイゼーションナレッジセンター」を新設し、顧客の情報システムの抜本的な見直しを支援するための取り組みを強化した。
モダナイズは、まずユーザー企業の業務とIT資産を詳細に調査・分析することから始める。アプリケーション構造の分析においては、機能コンポーネントを自動発見するマイニング技術と、発見した機能コンポーネントに基づいてアプリケーションの全体像をビジュアル化する独自の「ソフトウェア地図」技術を用いるという。また、システム業務の分析においては「Celonis」や「Signavio」など社外のツールも活用する。
次に、ユーザー企業の中長期的な事業目的と整合させる形で、ITアーキテクチャーのグランドデザインを策定する。ここではコンサルティング子会社であるRidgelinezとも連携する。現状からの積み上げ型ではなく、システムのあるべき姿を描き、そこからの逆算でモダナイズの計画を立案するとしている。
また、この過程で情報システム全体のスリム化も行う。業務やIT資産の分析を行うと、ほとんど使われていないにもかかわらず維持されているアプリケーションやデータが見つかることが多い。モダナイズの実作業に入る前に、稼働していない資産を洗い出して不要な部分を除去する。これだけのプロセスを経た上で、アプリケーションのリライト(書き直し)や別の基盤への移行といった実際のモダナイズ作業を行う。
従来も、資産の分析やアプリケーションのリライトなどは、富士通独自のツールを用いて手がけてきたが、業務や資産の分析からモダナイズ作業まで全体のプロセスをメニュー化するとともに、外部のテクノロジーも積極的に取り入れた形でサービス提供するのが今回のポイントとなる。
新たに設置したモダナイゼーションナレッジセンターは、ユーザー企業との直接の接点は持たないが、富士通の営業部門や開発部門のバックエンドで、モダナイズの専門組織としてプロジェクトを支援する。社内外の知見の収集・整理や、各種ツールやサービスを提供する外部パートナーとの連携窓口などの機能を持たせ、モダナイズのベストプラクティスを蓄積することを目指す。今後は欧州や北米にも活動エリアを広げる考えだ。
富士通 枦山直和 モダナイゼーション ナレッジセンター長
モダナイゼーションナレッジセンターの枦山直和・センター長は、「(今回のサービスでは)モダナイゼーションを進めながらデータ活用の基盤も整備して、データドリブン(経営)の起点にする」と述べ、アプリケーションのモダナイズを行うのと同時に、さまざまなサブシステムにサイロ化し分散していたデータを活用するための仕組みを導入することで、モダナイズを単なるシステム更改ではなく、DX推進に資する投資にできると説明した。
経済産業省が2018年に公開した「DXレポート」には、「レガシーシステム問題の本質は『自社システムの中身がブラックボックスになってしまったこと』にある」との記述があり、その一因として「ベンダー丸投げ」でのシステム開発が挙げられている。さらに同レポートは、一過性の投資でモダナイズを行っても、マネジメントが不十分な場合、時間とともに再びブラックボックス化を引き起こすとも指摘している。DXを継続的に牽引できるシステムをユーザーに届けるには、モダナイズのプロセスの一つである「グランドデザイン」において、ユーザーに伴走する形であるべきシステムの未来像を描くことがベンダーには求められる。