SIer大手3社の2023年3月期の業績は増収増益で好調な決算となった。NTTデータは既存事業が堅調に伸びたことに加え、データセンター事業などを手がけるNTTリミテッドの連結子会社化、円安などが増収要因となった。野村総合研究所(NRI)は22年度までの4カ年中期経営計画で掲げた主要目標を達成。海外売上高はM&A効果もあって中計期間中に2.3倍余りに増えている。TISは24年3月期までの3カ年中計の目標を1年前倒しで達成するとともに売上高は初の5000億円の大台に乗った。23年度も国内外のデジタル化需要を追い風にSIer大手3社は手堅い成長を見込んでいる。
(取材・文/安藤章司)
NTTデータ
中計目標を2年前倒しで達成見込み
NTTデータの連結売上高は、前期比36.8%増の3兆4901億円、営業利益は構造改革などの費用がかさんだものの、増収に支えられて21.9%増の2591億円で着地した。22年10月にデータセンター(DC)事業などを手がける英NTTリミテッドを連結子会社にしたことも増収を後押しした。
24年3月期はNTTリミテッドが通年で連結対象になることもあり、連結売上高は17.5%増の4兆1000億円、営業利益は12.7%増の2920億円と大きく伸びる見込み。26年3月期までの4カ年中期経営計画では連結売上高4兆円超を目標にしているが、これを2年前倒しで達成できる見通し。だが、営業利益率は7.1%と中計で目標としている営業利益率10%には届かない見込みで、「利益率の向上が課題として残っている」(本間洋社長)と捉えている。
NTTデータ 本間 洋 社長
利益率を高める施策として、NTTリミテッドでは低採算事業の撤退や人員配置の最適化などの投資を継続しており、23年度は190億円を投じて構造改革に取り組む。ほかにも先進的なデジタル技術を駆使してビジネスモデルを変革するDXや、そのための上流コンサルティングサービスにより多くの力を注ぐことで付加価値を高めるとともに、ソフト開発を人件費の安い地域で行うオフショアやニアショア開発を推進することでコストを下げる施策も継続して取り組む。
DC増設に約3500億円を投資
NTTリミテッドがNTTデータグループに加わったことで、DC基盤から通信ネットワーク、業務アプリ、上流コンサルティング、運用サービスまで一気通貫で提供が可能となり、本間社長は「世界規模のフルスタック・オファリングが大幅に強化された」と話す。これまでは主に海外でのDCや通信ネットワークは都度グループ内外から調達してきたが、NTTリミテッドは世界第3位のDCシェアを誇り、DC間をつなぐネットワークも有していることから、IT基盤からアプリケーションやコンサルティングに至る能力を自社で揃えられるようになった。
これを受けてNTTデータでは、既存のSI事業とNTTリミテッドのDCやネットワークを組み合わせた提案に注力。NTTリミテッドを傘下に迎え入れてからの半年余りで2000億円規模の提案を全世界で行っているという。本間社長は「フルスタック・オファリングの需要は確かに存在する」と手応えを感じている。並行してNTTリミテッドの顧客にSIを売り込んだり、NTTデータの既存顧客にNTTリミテッドのDC商材を売り込んだりしてクロスセルを推進し、相乗効果を高める方針だ。
NTTリミテッドを中心としたNTTグループ全体の直近のDC電力供給量は1100メガワットに達しており、内訳は米州が300、EMEA(欧州・中東・アフリカ)400、インド150、APAC(アジア太平洋)250の各メガワット。仮に1サーバーラックあたり5キロワットの電力を消費するとラック換算で22万ラック相当にもなる。NTTグループでは、27年度までの5年間で電力供給量をさらに倍増させる意欲的な計画を立てている。
NTTデータは23年度に既存のSI事業の高度化、フルスタック・オファリングの強化に約320億円、NTTリミテッドを中心としたDC増設に約3500億円をそれぞれ投じる計画を立て、収益力の強化を図る。また、7月1日付で持ち株会社のNTTデータグループの下に国内と海外の事業会社を配置する組織体制へと移行し、国内外の事業会社に対するガバナンスや事業運営の円滑化を進める予定だ。
野村総合研究所
主力のSTARを豪州子会社へ移植
NRIは、23年3月期までの4カ年中期経営計画で示していた売上高6700億円の目標に対しての実績は6921億円、うち海外売上高は1000億円に対して1232億円、営業利益は1000億円に対して1118億円を達成し、当初目標を大きく上回った。
とりわけ海外売上高は、中計が始まる前の19年3月期は530億円だったのに対して、オーストラリアでの既存事業の伸長、ならびに北米の中堅SIerのCore BTS(コアBTS)のグループ化、円安効果などが追い風になって2.3倍余りに増加。また、全体の営業利益率は商品開発や構造改革など毎年300~500億円ほどを投じたにも関わらず、中計期間中に14.3%から16.2%に拡大させた。
23年度から始まった新しい3カ年中期経営計画では、高効率な開発フレームワークやAIツールを駆使して既存事業の生産性を抜本的に向上させるとともに、22年から本格的に立ち上げた北米市場でのSI事業の成長基盤の確立、社会全体を先進的なデジタル技術で変革する高度DXの挑戦を主な柱に掲げる。
ほかにもNRIの主力サービスである証券業向け基幹業務システム「STAR」のソースコードを整理して保守コストを削減。並行してSTARシステムをオーストラリアで金融業顧客を多く持つAUSIEX(オージーエックス)への移植を推進。NRIの主力商材の一角を占めるSTARの海外輸出はオーストラリアが実質初めてとなり、NRIグループの強みを生かしたビジネスを展開しやすくなると期待されている。
野村総合研究所 此本臣吾 会長兼社長
北米のCore BTSは、従来のネットワーク機器の販売から米国におけるDXを推進するコンサルティングやアジャイル開発へと軸足を移すため、経営トップを若手に譲ると同時に複数の営業責任者を交代させるなど、自らがドラスティックな改革を実行。北米でのSIは、粗利が限られる機器販売から距離を置きつつ、DXを主軸として「スピード感をもって変革していく」(此本臣吾会長兼社長)方針だ。
NRIでは、企業単独のデジタル変革をDX1.0、業界横断のデジタル変革をDX2.0、さらに行政や企業、環境など社会全体をデジタルで変革するDX3.0の考えを提唱。此本会長兼社長は「DXの次元が高まれば高まるほど利害関係者が増え、難易度も高まるが、そのぶん価値も大きくなる」と捉えDXの高度化を推し進める。
新中計では引き続き年間500億円規模の成長投資を継続し、26年3月期までに売上高8100億円、うち海外売上高は1500億円、営業利益率17.9%を目標に据える。
TIS
既存事業が好調に推移 独自サービスで成長持続へ
TISは連結売上高が初めて5000億円を突破した。売上高は前期比5.4%増の5084億円、営業利益は13.9%増の623億円と大きく伸び、24年3月期までの3カ年中期経営計画で目標としていた売上高5000億円、営業利益580億円を1年前倒しで達成した。受注高、受注残高も過去最高に積み上がっていることから、24年3月期の売上高は4.2%増の5300億円、営業利益は1.9%増の635億円を見込む。
既存事業が好調に推移する一方、国内では税理士事務所やその顧問先企業に向けて独自の会計や税務パッケージソフトなどを販売する日本ICSの連結子会社化を3月に発表。TISグループの金融機関向けビジネスとの相乗効果によって日本ICSの直近の売上高69億円を早い段階で100億円規模に拡大させる目標を掲げる。
海外ではグループ会社で決済関連のソフト開発を手がける米Sequent Softwar(シークエント・ソフトウェア)の売却やSIerのMFEC(エムフェック、タイ)の受託ソフト開発事業の一部を地元のコンサルティング会社に売却、インドの大手経営コンサルティング会社、Vector Consulting Group(ベクターコンサルティンググループ)との資本業務提携を1月に発表するなどグループ再編を進めている。
TIS 岡本安史 社長
岡本安史社長は、「TISグループ独自の知財を使ったITオファリングサービスを国内外で一層手厚くするのが狙い」と話す。先進ITを駆使したデジタル変革の需要増を追い風に業績を伸ばすとともに、価値が大きく競争力のあるTIS独自のITオファリングを重点的に伸ばしていくことで成長を持続させる。