理究は、「AI for Science開発用スパコン」と位置づけられ、AIとHPCを組み合わせて科学的発見を加速することを目的に開発されている。R-CCS AI for Scienceプラットフォーム部門AI開発計算環境運用技術ユニットの山本啓二・上級研究員は、「現時点において、日本最高水準のAI性能を持った計算機だと言える」と語る。
理究のポイントは、AI for Science研究におけるスパコン活用を加速する役割を担うことだ。AI for Scienceとは「科学研究を加速するためのAI」と定義でき、科学プロセス全体を自動化して研究の進化速度を高めること、分析結果を論文にまとめるといった作業でAIを活用すること、そしてこれらの成果を人類の「知」として蓄積、活用することを目指している。
R-CCSの松岡聡・センター長は、「これまでの科学研究は、人手による実験であり、家内制手工業のようなものであった。これが、AI for Scienceによって多くのプロセスが自動化されることになる。世界は、『AIで科学をする』競争に入った。われわれは、理究や富岳NEXTなどを通じて、科学研究の産業革命を起こすことになる」と語る。
計算科学研究センター
松岡 聡 センター長
理究では、GPU計算資源や基盤モデル、AIソフトウェアスタック、運用サービスを一つの基盤で実現しており、同一のマシン、同じアカウント、一つのデータを使って、シミュレーションやAI学習および推論を切り替えなしで利用できる点も、AI for Scienceの加速につながる。理究は5月から試験的に先行利用を開始しており、10月からの本稼働を予定している。
量子との連携で新たな研究開発を
26年6月から運用を開始しているROQUOは、量子コンピューティングとHPCとの連携を加速し、従来のスパコン単体では困難だった新たな計算領域の開拓を目指している。富岳と同じ建屋内に設置し、低遅延の高速ネットワークで密結合した計算環境を実現。同じ建屋内にある超伝導型量子コンピューター「ibm_kobe」(IBM Quantum System Two)とも接続する。さらに、全国の複数のスパコンや、埼玉県和光市の理研和光キャンパスに設置している米Quantinuum(クオンティニュアム)のイオントラップ型量子コンピューター「黎明」とも高速ネットワークで接続し、量子とHPCによるハイブリッド計算の実証が可能だ。黎明は現在の20量子ビットの環境から、26年10月には56量子ビットにアップデートする予定だ。
さらに松岡センター長は、「日本の科学分野における勝ち筋は、AI for Scienceから産業イノベーションにつなげることである」とし、「目指しているのは、民間の数百万人の研究者を含む、あらゆる研究開発の担い手が、スパコンを利用できる環境をつくることである。それが、富岳との大きな違いである」とも語る。性能を競うスパコンをつくるのではなく、AI for Scienceの浸透や、AIおよびスパコンの産業イノベーション領域での利用を促進する取り組みが、富岳NEXTを筆頭にした日本のスパコン戦略の肝になっている。