生成AIの急速な進化が、SIビジネスに大きな影響を与えている。企画から実装、テスト、運用までの全工程にAIを組み込む「AI駆動開発」は、単なるツールだけの問題ではなく、開発プロセスやスタイルを含めた、エンタープライズ向けSIのあり方を根本から変革する存在となりつつある。AI駆動開発はSIerに何をもたらすのか。積極的に取り組む3社の動きを追うと、変化の輪郭が見えてきた。
(取材・文/安藤章司)
人員配分が逆転
AI駆動開発がもたらす大きな変化の一つは、開発工程における人員配分の逆転だ。従来型SIでは、少人数の熟練者が要件定義や設計を担い、その後に多数のプログラマーを動員して開発を進めるのが一般的だった。ところが、プログラム生成がAIによって瞬時に行える時代になると、この構図は根本から変わる。
エクサウィザーズグループの新会社として、AIネイティブなSIを担うExa Frontier Edgeの福田政史代表取締役は、「要件定義や設計に9割方の人的リソースを投入することになる」とみる。その結果、チームのメンバーそれぞれがユーザー企業と向き合い、基幹業務システム刷新の目的や課題意識、ユーザーが求めるものを深く理解することが求められるようになる。つまり、これまで一部の上流担当者だけに求められていたヒアリング力や業務理解が、メンバー全体のスキルとして必要になるということだ。
Exa Frontier Edge
福田政史 代表取締役
ULSコンサルティングがAI駆動開発の軸に据える自律型AIソフトウェアエンジニア「Devin」(開発は米Cognition AI=コグニションエーアイ)も、こうした変化を象徴する存在だ。設計書に従ってプログラムを生成し、動作試験を行い、成果物をクラウド上に格納するまでの一連の動作を、まるで1人のエンジニアのように自律的にこなす。複数のサブシステムを同時並行で開発することも得意としており、「従来であれば数百人月を動員していたような大規模開発を少人数で行えるようになる」とのULSコンサルティングの桜井賢一副社長は話す。
ULSコンサルティング
桜井賢一 副社長
理論上は無限に動員できるAIエンジニアを駆使することで、開発のスピードとスケールが根本的に変わる。顧客の情報システム部門の組織づくりに関するコンサルティングや外部SIerへの発注に対する助言といった同社のビジネスにおいても、工数を大幅に削減するAIの活用は前提となっており、桜井副社長は「AI抜きでは考えられない」と言い切る。
コード生成の工数が減ることは、ユーザー企業側にもメリットがある。成果物を実際に動く状態にしてユーザーに使用感を確認してもらう工程を挟みやすくなるのは、その一つだ。Exa Frontier Edgeの福田代表取締役は、ユーザー側から「思っていたものと違う」という声があっても仕様変更に柔軟に対応できるため、「納品したシステムの定着率が高まりやすい」と語る。本番稼働に近いダミーデータを生成して検証できる点も、従来手法では難しかった部分だ。
エンジニアの人材像も変化
上流工程への重心移動は、組織と人材のあり方にも影響する。クリエーションライン取締役の荒井康宏・CTOは、「AI駆動開発の本質は、開発プロセスと組織を変えること」と指摘する。プログラム開発を担う人員がほぼゼロになる以上、まとまった数の開発人員を動員する大きな組織は不要となり、「少人数チーム制」への転換が不可欠だと説く。
クリエーションライン
荒井康宏 CTO
組織設計で重要なのは、現時点のAIの能力で物事を測らないことだと荒井CTOは強調する。「3年前に『ChatGPT』が登場したとき、生成AIがこれほど短期間で難易度の高いプログラム生成をこなすようになると予想できた人はごくわずかだった」とし、AIの進化に合わせた組織・プロセスの見直しを常に続けることが求められると訴える。組織の対応シナリオを複数準備し、AIの状況に応じて、柔軟に切り替えていく姿勢が問われる。自社の変革の進捗について荒井CTOは、「登山に例えればまだ3合目に到達したに過ぎない」と厳しく評価した上で、さらなる加速を誓う。
新しい人材像も生まれつつある。クリエーションラインは「GtM(Go to Market)エンジニア」の育成に力を入れている。ユーザー企業のビジネス戦略に明るく、かつAI駆動開発にも長けた“前線配置型のエンジニア”を指す。ユーザー企業が新しいサービスや製品を開発する際のマーケティング戦略の立案から、市場進出の支援まで踏み込んで担うことで、SIerとしての提供価値を最大化する。上流工程に人員を配置するには、こういった新しいスキルをいかに身につけてもらうかも課題となってくる。
エンジニア個人のスキルに加えて、開発手法全体を見直す必要もある。Exa Frontier Edgeが重視するのは「ハーネスエンジニアリング」だ。ハーネス(馬具)で馬を扱うように、AIが正しく動くために必要な環境やツール、フレームワークを用いて、AIの精度を高めるアプローチだ。生成AIで生成されるコードは品質がばらつくため、使用する言語やライブラリー、実行環境などの仕様を細かく指定して品質を一定に保つことが欠かせない。「AIを前提にした設計手法づくりや、使用するAIモデルに適合した仕様書・指示書の作成ノウハウをいかに獲得していくかが重要になる」と福田代表取締役は話す。同社はこのノウハウをテンプレート化して製品とし、内製化を希望するユーザーに提供したい考えで、福田代表取締役は「製品ビジネスも軌道に乗せたい」と意欲を示す。
AI駆動開発は収益モデルにも影響を及ぼす。従来の人月単価をベースとしたモデルは、開発工数が激減するAI駆動開発では実質的に成り立たなくなるからだ。クリエーションラインの荒井CTOは、非機能要件の多寡や、要件定義・設計・保守・セキュリティー対応などトータルでの価値をユーザー企業に認めてもらうことが不可欠になると指摘する。Exa Frontier Edgeの福田代表取締役は、自社の議事録や財務諸表の作成・分析などの経営管理全般にもAIを全面的に活用する「AI駆動型経営」を自ら実践する構えを示す。「人とAIの最適バランス」を追求しながら新時代のSIerビジネスモデルの早期確立を目指す姿勢だ。
新たなビジネスを創出
AI駆動開発がSIerにもたらすのは、効率化だけではない。ULSコンサルティングでは、Devinを活用した案件として、開発者の異動や退職によって「ブラックボックス化」した既存システムの調査依頼が増えている。ソースコードやデータベース構造の解析、影響範囲の調査など、「これまで何週間もかけて行っていた作業が瞬時に行えるようになった」と桜井副社長は話す。
こうした既存システム調査のニーズは、これまで潜在化していた需要だ。解析に膨大な時間とコストがかかるため、手がつけられないまま塩漬けになっているシステムは少なくない。AIによって解析コストが劇的に下がれば、大規模基幹システム刷新へのハードルも下がり、モダナイゼーション需要の掘り起こしにつながる可能性がある。ULSコンサルティングが強みとする内製化支援や情報システム部門の組織づくりといった上流工程の支援と組み合わせることで、既存システムの調査から刷新計画の策定、実行支援まで一貫して手掛けられる。
ULSコンサルティングでは、大規模なシステム刷新において、Devinに正しくソースコードを生成させるための設計書の書き方や、ライブラリーや実行環境のバージョンを指定する共通実装ガイドを作成するなどして、「安定した品質でシステムを生成できる知見やノウハウを蓄積する」(桜井副社長)ことで、新たな需要の開拓を進める構えだ。
一方で、現時点ではAI活用が限定的となっている領域もある。例えば、大規模基幹システムや社会インフラ系のシステムは、24時間365日止まることが許されず、何十年にもわたって高い保守性や拡張性が求められる高度な非機能要件が重要になる。クリエーションラインの荒井CTOは「ベテランSEでも難しい領域は、AIにとっても難しい」と語る。これは金融業などの規制業種向けシステムも同様で、AIの進化とSIの難易度を見極めつつ、AI活用の応用範囲を段階的に広げながら、専門的価値をいかに打ち出せるかが、成長のかぎを握るようだ。
3社に共通するのは、AI駆動開発を単なる開発ツールとしてではなく、ビジネスモデルそのものを再構築する契機として捉えている点だ。その変革はまだ途上にあるが、方向性は明確になってきたと言えそうだ。