AI PCなどAI処理に対応した製品の販売拡大に伴い、オンプレミス環境で活用できるAIアプリケーションが少しずつ広がりを見せている。PC上でAI処理ができれば、従量課金のコストの削減に加え、情報が社外に流出するリスクが抑えられるというメリットがある。商機を見出し、機能やラインアップの充実を図る各社に、製品の強みや市場のニーズ、今後の展望を聞いた。
(取材・文/下澤 悠)
K-kaleido
AI文字起こしをネット接続なしで
K-kaleidoは、2025年11月にAI PC用の翻訳・文字起こしアプリケーション「スピーチコネクト」の提供を開始した。企業や自治体のセキュリティー強化のニーズに応え、クラウドを介さずローカル環境で会話音声をリアルタイムにテキスト化し、会議ごとにログとして保存する。AI PCのプロセッサーに含まれるNPUを活用して音声処理を行っており、クラウドベースの製品と精度を比べても、静かな場所での会話であれば大きな遜色はない程度に利用できるという。
K-kaleido
安生健一朗 代表取締役
安生健一朗・代表取締役によると、設計思想として「クラウドは便利だが、何でもそこに上げてしまうのは思わぬリスクもある。ユーザー側でもリテラシーを持って一度運用を見直してほしい」という思いがある。最近では、クラウド上の認証方式が弱かったり運用ミスでパスワードを盗まれたりと、クラウドのリスクが目立つ場面も多いといい、会話のデータが手元にあれば情報漏えいを回避できると力を込める。
スピーチコネクトはインターネットにつながらない環境で利用できるという利点がある。そして基本は買い切り型で提供するため、サブスクリプションの費用が長期的にかかり続けるのを避けられることも強みだ。安生代表取締役は、AIをクラウドで動かすコストは徐々に大きくなっていると指摘。「本来固定資産であるPCを、単なる作業端末にせずもっと計算資源として活用することで、クラウド経由と比べてコストは抑えられる」と強調する。
スピーチコネクトの文字起こし画面
安生代表取締役は、米Intel(インテル)日本法人でプロセッサーなどの開発に携わっていた経験を持つ。BtoB市場で提供されるAI PC向けのソフトウェアを増やすため、24年に独立してK-kaleidoを設立した。方針として同社単独でアプリの開発・販売に取り組むのではなく、裾野を広げるためアプリストア「AI Edge Hub」を立ち上げ、国内の個人エンジニアに向けてローカルAIアプリの販売機会を提供する。これまでの経験で築いたメーカーや販売店とのつながりを生かし、普及を支援する考えだ。
「かつてたくさんあった日本市場向けのアプリは、現在ほとんどなくなってしまったが、開発するスキルを持つ技術者はいるはずだ。毎年国内でPCは約1000万台販売されるが、うち8割は法人向けのため、PC向けビジネスを立ち上げればボリュームマーケットになる。その点でエンジニアに魅力を感じてもらえると思うし、成功事例が出てきたらみんなが取り組むようになるだろう」と展望を語る。
台湾CyberLink日本法人
発売前の画像、社外に出さず広告作成
台湾CyberLink(サイバーリンク)は、マーケティング用などの広告素材を社内で内製化できる画像編集ツール「Promeo(プロメオ)」で、AI機能を充実させている。クラウドベースのものに加え、エッジ側で使えるAI機能を備え、コストや利便性の点で強みがあるとアピールする。
台湾CyberLink 日本法人
今澤浩之 ディレクター
日本法人のマーケティングデパートメントの今澤浩之・ディレクターによると、AI PCへの最適化をいち早く実現させたプロダクトがPromeo。クラウドを使う機能ではユーザーはコストを意識しなければならないが、エッジ側で処理可能な機能の利用なら、言わば「使い放題」となるのが利点だ。
マーケティング素材をつくる際に、アップロードした画像を分析しキャッチコピーなどを提案してくれる「AIマーケティングアドバイザー」機能などをAI PC上で処理できるようにしている。「企業にとっては、商品発売前の画像はなるべく外に出したくない。文面もあまり外へ漏れないようにしたいという場合でも、エッジ側で処理ができれば外部のサーバーに送らなくても済むため、大きなメリットになるだろう」(今澤ディレクター)。
Promeoの操作画面
そのほかのエッジ側で処理可能な機能としては、一度にたくさんの画像をつくりたいときにデータを一気に読み込み、背景や大きさなどを調整できる一括編集なども備える。
エッジ処理可能な機能は、クラウドと比較しても遜色のない程度に精度が発揮できるものを選んで搭載している。AI PCに搭載されたGPUは処理スピードを上げ、NPUは消費電力を抑える利点があり、Promeoでは機能によって両者を使い分けている。
Promeoは、スマートフォンで撮った写真を基にAI機能で広告用のビジュアルに仕上げることなどが可能なため、専門業者に撮影を外注する費用を抑えられ、内製化のニーズに応えるツールになる。現在はクラウドベースで提供する機能も、今後のPC側の性能向上でエッジ側で使えるようになる可能性があり、さらなる進化を目指している。
これまでも、同社のクリエイティブツールをビジネス用途で使いたいと関心を寄せる企業は多かったという。「AI PCへの最適化は25年頃から進めてきた。その点が決め手になり選んでくれるお客様を今後増やしたい。PCの入れ替え時に機能を紹介してもらうなどしている」と、この先の展開に期待を寄せる。
サードウェーブ
オンプレAIに最適な製品そろえる導入後の支援体制も拡充
PCの製造・販売を行うサードウェーブは、オンプレミスでAIを利用できる製品ラインアップを充実させている。ハードウェアに加え、ソフトウェア開発や、自社利用での検証を通じたチューニングにも力を入れ、機器にマッチした性能を発揮できるよう工夫している。
(左から)サードウェーブの張大鵬シニアスペシャリスト、
鈴木由希子部長
法人事業統括本部法人マーケティング本部営業企画部の鈴木由希子・部長は、ローカル環境でAI処理が可能なハードウェアの需要に関して、「やはり企業の持つ顧客情報や設計のデータ、あるいは特許が絡むような情報など、機密情報をクラウドに預けることはなかなかハードルが高い」と指摘。「そうした企業にとって、AIを動かすためハードを社内に置くことは大変需要が高まっていると感じる」とニーズを説明する。また、「『試しに使ってみたい』『チームなど小さな単位で試したい』というお客様にとっては、そこまで大きな製品は不要。当社は小さいものからラインアップをそろえているので対応できる」とも話し、オンプレミスのAIをスモールスタートで導入することにも市場の関心は高まっているという。
システム本部デジタルイノベーション3部の張大鵬・シニアスペシャリストは、インターネットを介さず現場でデータを処理することでレイテンシーを削減できる利点を強調。「特に医療や製造業の現場などは(エッジ側で処理する)メリットが大きい。それ以外に普段の会話を扱う場合でも、例えばAIを使って議事録を作成して分析する時やリアルタイムで通訳する場合は、クラウドと比べてレイテンシーが抑えられる点は強みがある」と解説する。
THIRDWAVE Workstation X6640 MAXモデル
同社が開発した「THIRDWAVE Workstation X6640 MAXモデル」や「THIRDWAVE Workstation N8632 MAXモデル」は、米NVIDIA(エヌビディア)製のGPUを4基搭載でき、「オンプレミスでもかなりのパフォーマンスを出すことができるモデル」(鈴木部長)となる。タワー型のワークステーションだが、2基の電源ユニットを搭載する設計としており、大電力を必要とするGPUを使用する場合も、電気工事不要でオフィス内に設置できるため導入を容易にしている。ニーズに合わせGPUが4本未満のモデルも選べる。またコンパクトながらユニファイドメモリーが128GBあり、個人や小グループ用の専用オンプレミスAI機器として活用できる「ASUS Ascent GX10」など、用途やニーズに応じて他社製品も提供している。
ASUS Ascent GX10
同社は機器導入後のサポートも提供。例えば、社内の情報をローカルのマシンに学習させたいというユーザー企業などに向けても、AIの選定からRAG(検索拡張生成)などのナレッジベース構築、エージェントの開発や運用面まで広く支援ができる。現時点では同社のエンジニアがサポートをしているが、エヌビディアのネットワークを活用したパートナーによる顧客支援も今後進めていくという。