男女間の賃金格差是正や女性管理職比率向上など、企業での女性活躍推進が叫ばれて久しい。2026年4月には改正女性活躍推進法の施行によって、男女間の賃金差異や管理職比率の公表義務が拡大するなど、企業には格差是正に向けたより強いコミットが求められている。ただ、多くの業務を抱える人事担当者だけで課題を解消していくのは困難だ。HRSaaSベンダーはこうしたニーズに応え、プロダクトの提供と直接的な支援の両輪で、問題に取り組む顧客を後押ししている。同様の手法は女性活躍推進の領域だけでなく、さまざまな人事課題の解決にも通じるという。ビジネスチャンスを見いだし、それぞれのツールを強化しながらも製品の枠を超えてユーザーに伴走する3社を取材した。
(取材・文/下澤 悠)
法改正で数値公表の対象拡大 担当者の負荷削減へ機能充実
改正女性活躍推進法で、厚生労働省が定めた関連の開示項目は計16項目に及ぶ。HRSaaSを提供する各社は、プロダクト内のデータを抽出して可視化し、公表に関連する業務を容易にするほか、改善に向けた課題特定につなげられるよう機能をブラッシュアップさせている。
【画像1】SmartHRの人事労務レポート機能のイメージ
SmartHRは、労務手続きで蓄積されたデータを基に「人事労務レポート」機能を使って項目ごとに数値をグラフ化できるようにしている(画像1)。あらかじめ設定されている内容のレポートであれば、データ加工なしにワンクリックで簡単に可視化でき、ユーザーが必要な項目を自由にカスタマイズすることもできる。今回の公表に関連するもの以外にも、多岐にわたる報告様式をプリセットで揃えており、公表目的だけでなく、データを月ごとに同期して継続運用したりオリジナルレポートを作成することで、課題解消を目指すプロセスにも役立てられる。
【画像2】HRMOSタレントマネジメントのダッシュボード機能のイメージ
HRMOSシリーズを提供するビズリーチも、「HRMOSタレントマネジメント」のダッシュボード機能を使って、各項目のビジュアル化を可能にしている(画像2)。製品導入時における定着支援の際に、ユーザーに項目を選択してもらい、ダッシュボードを作成。こちらも、定められた公表や報告に備えるだけでなく、例えば社内の会議で資料として活用できるように工夫している。
【画像3】ジンジャー人事データ分析のイメージ
jinjerは3月、「ジンジャー人事データ分析」でチャット形式で尋ねれば、AIが従業員データの要点をまとめてインサイトまで提示してくれる機能を備えた(画像3)。可視化の前段となる集計も人が行う必要がなくなるため、工数を削減して担当者の負担を軽減できるという。
データ可視化の先へ 顧客への伴走支援を強化
データを基に現状を可視化できても、具体的な課題の特定と解消につながらなければ、女性活躍は実現せず、人事施策を起点とした企業の競争力向上にも結びつかない。各社は導入したプロダクトを生かしながら、顧客に伴走してコンサルティングを重ねるなど、人による具体的な支援の取り組みを強化している。
jinjer
武田 晃 ジェネラルマネージャー
jinjerは26年3月頃から、大手不動産業での女性活躍支援プロジェクトに携わっている。具体的には、現在3%の女性管理職比率を28年に8%にし、女性採用比率を30%から50%へ引き上げるのが目標だ。コンサルティングを担当しているビジネス統括本部の武田晃・ジェネラルマネージャー(人事コンサルタント)は、「女性のライフイベントやロールモデルを考慮した人事評価制度が今までなかったことが、根本的な論点になっていた。制度やキャリア面談などの内容の見直しに向け、経営層や人事のトップも含めて解釈や配慮のばらつきなどを整理している段階だ」と話す。
「ジンジャーサーベイ」を活用して、本人が管理職候補になりたいかどうかを把握して育成に反映させることができ、その後のキャリア面談へとつなげるプロセスを踏んでいくという。さらに、「過去の経歴といった人に基づく情報は社内にほかにもたくさんあるはず。情報は残ったままでは意味がなく、資産化すべきだ」として、蓄積したデータを生かした今後の支援拡充にも力を入れる構えだ。
SmartHRでは、女性活躍支援を直接的に実行しているわけではないものの、顧客のニーズに合わせて支援機能やサービスの提供は可能とする。例えば、企業側が女性管理職比率を上げたい場合には、まず、候補が一定数必要になるが、経歴や評価、サーベイ結果などの従業員情報がまとまっている「キャリア台帳」において、個人に「昇進候補者」「昇格候補者」などのタグを付けておくことで候補を抽出できる。また、AIによるタレントマネジメント分析機能「HRアナリティクス」は、類似候補の検索・抽出に対応する。AIが客観的にスキルなどのデータを基に提案するため、伝聞や印象が影響しがちな人による判断を補助できるという。
加えて、同社はタレントマネジメント部門に専門のカスタマーサクセス部を設けており、製品導入後も継続的にコミュニケーションをとって課題解決に向けた提案をしている。現在はオプションとしてコンサルティングサービスも強化しており、人事施策に関して専門のアドバイスを行っている。多数の顧客へのSaaS提供を通じて豊富に蓄えた事例やデータを生かし、業種や企業規模などごとに異なる有効な施策を勧められるのが強みだ。
ビズリーチは、女性管理職比率のほか、若手社員の定着率向上などに関して顧客から相談を受けることが多いという。評価制度の見直しや目標設定、評価の仕方など細かな点について、事例を紹介したりファシリテーターとして支援を行うなどの実績がある。また、例えば具体的なポジションを提示して社内で募集をかける際にも、顧客側とコミュニケーションを取りながら、情報にリーチできる社員の範囲やシステム上の権限といったセンシティブな項目を設計していくなど、システム・運用面でも細かな支援を重ねている。
HRMOSタレントマネジメントと連携して使えるサービス「社内版ビズリーチ」でも、AIがポジションと従業員のキャリアを可視化してマッチング支援ができる。必要なスキルのタグをあらかじめ従業員情報に付与しておくことでポジションに合った候補を探せるため、最終的な人による判断の手前まで支援できる。
運用面に踏み込むアプローチ 新たなビジネスチャンスに
プロダクトの提供を超え、具体的な人事課題解決に寄り添うアプローチは、HRSaaS企業にとって新たなビジネスチャンスになり得る。ビズリーチの大塚健司・HRMOS事業部シリーズセールス部部長は、「女性活躍に関する情報公表の対象拡大もあり、具体的な人事施策の運用も含めて考えたいというお客様が増えている実感はある。われわれがソリューションを提供する機会も増えていくだろう」と今後の展開に期待を寄せる。
ビズリーチ
大塚健司 部長
SmartHRの松栄友希・タレントマネジメント事業本部事業本部長は、「人事の人手は増えないのに、やってほしいことは増えている。まず工数を削減することに加え、増えた業務をサポートしなければ回らない。定型業務はAIに任せ、担当者が時間を生み出せるよう支援する」と話す。また「人事担当者にとっては、何か施策を展開していくようなプロジェクトマネジメントは難しい現状もある。ただ、ツールを導入してもらうだけでは変化が生まれないので、足りない点を当社の持つ専門性で補うなどのサポートにも力を入れていく」とも強調。女性活躍推進など、具体的な目標へ向かって取り組む顧客に寄り添い、後押しすることにビジネス機会を見いだしている。
SmartHR
松栄友希 事業本部長
jinjerの松山雄一郎・CPO(最高製品責任者)も、タレントマネジメント領域では、ツールだけでなく、いかに顧客の課題に踏み込むかが重要になると指摘。「出てきたデータに対するさまざまな示唆を、担当者に大きな負荷がかかることなく分析でき、ネクストアクションまでサポートできるかどうかがポイントになるはずだ」と話す。
jinjer
松山 雄一郎 CPO
一方で、女性活躍に限らず、人材の適材適所や従業員それぞれに応じた活躍の在り方を志向すると、管理職の負荷は増えがちになる。そのため同社は、退職などの問題が起きる前に、管理職の業務量が増えないよう組織や個人のコンディションを可視化できるようなツールを充実させていく方針だ。松山CPOは「われわれ自身は、プロダクトそのものの可能性もまだまだ追求したい」と意欲を見せる。