生成AIの普及によって、エンジニア採用は縮小に向かうのだろうか。週刊BCN編集部がSIer向けに行ったアンケート調査では、採用数を減らす動きは限定的だった。一方、多くの企業が採用計画や求める人材像を見直しており、AIを使いこなして顧客の課題を解決できる人材を重視する姿勢が鮮明になった。人手不足感は依然として強いものの、AI活用能力に加え、顧客理解や要件定義力、課題設定力を重視する声が目立つ。AI時代に求められるエンジニア像と採用戦略の変化を探った。
(取材・文/山本浩資)
変わる「採用戦略」
本紙編集部は7月、「AI時代のエンジニア採用に関するアンケート」調査を実施し、17社のSIerから回答を得た。AI時代のエンジニア採用方針について聞いたところ、「採用数を減らす方向で検討している」と回答した企業は1社にとどまった。一方で、「採用計画を見直している」「直ちに影響はないが中長期的には見直しが必要」「採用数を増やしている」「現状維持」はいずれも3社だった。「求める人材像を見直している」も2社あった。多くの企業が採用そのものを縮小するのではなく、AI時代を見据えて採用戦略の見直しに取り組む傾向がうかがえる。
一方、富士通は設問の選択肢には当てはまらないとの立場を示した上で、「事業ポートフォリオと連動した人材ポートフォリオの実現に向け、新卒・キャリアの区分にこだわらず必要な職務を担う人材を通年でフレキシブルに採用している。今後はAIの活用を前提として新たな価値を創出できる人材を獲得していくことを重視している」と回答した。
各社のコメントからは、生成AIによる業務効率化に伴い、エンジニアに求める役割が変化していることがうかがえる。「AIで代替が難しい顧客折衝や要件定義・設計を担う人材の採用を強化していく」「コードを書くだけのジュニア人材ではなく、設計構築や案件管理、顧客折衝ができるミドル層へシフトする方針」といった声が上がった。
人材確保も「量」から「質」へ
現在のエンジニア人材の充足状況について聞いたところ、「大きく不足している」が6社、「やや不足している」が9社となり、17社中15社が不足感を抱えていた。残る2社は「やや過剰である」とし、生成AIによる業務効率化が進む中でも、多くの企業で人材確保が依然として重要課題となっているようだ。
不足の背景としては、事業拡大や案件増加に加え、AI時代に求められる人材の獲得難が挙げられた。「事業成長に必要な人材が不足している」「現場部門が求める技術・経験要件を満たすエンジニアが不足している」といった声が寄せられた。また、「顧客課題を起点に価値創出を推進できる人材」「AIを活用して新たなビジネス創出をけん引できる人材」など、高度人材の不足も指摘された。
求められる人材の要件が高度化していることがうかがえ、人材不足の焦点は「質」へ移りつつある。AI時代に必要なスキルや経験を備えた人材の獲得競争は今後さらに激しくなりそうだ。
求められるのは 顧客理解と要件定義力
AI時代において特に重視するスキル・資質を尋ねたところ、「AI活用能力」が最多で、「今後のエンジニアにとって必須」との意見が目立った。一方で、「コミュニケーション能力」「顧客業務への理解力」「要件定義力」も多くの企業が挙げており、生成AIの活用スキルだけでなく、人間ならではの能力も重視されている。
各社のコメントからは、AIを使いこなすこと自体が目的ではなく、AIを活用して顧客や事業に価値を生み出すことが重要との認識が見て取れる。「顧客のビジネスプロセスを本質的に理解し、課題を解決することが重要」「AIを効率化ツールではなく、新たな価値創出につなげる実践力が必要」などの意見があった。
育成の主軸は「AI前提」へ
生成AIの普及を受けた人材育成や活用方針について尋ねたところ、「AI活用に関する教育を強化している」と「AIを前提とした業務設計を進めている」が並んで最も多く、「若手・新人の育成方法を見直している」「リスキリングを強化している」といった回答も複数あった。企業がAI活用を一時的な取り組みではなく、組織変革の一環として位置付けていることが推察できる。
各社からは、「生成AIリテラシー研修を実施」「AI活用スキルを評価する認定制度を設けた」「全社員にAI関連資格の取得を推奨」といった取り組みが寄せられた。また、AI活用を推進する専門組織の設置や、AIを前提とした業務プロセスの見直しを進める企業もあった。AI教育は一時的な研修ではなく、業務設計そのものを変える取り組みへ移行している。
工数から「価値」で評価する時代に
生成AIが人月型ビジネスに与える影響について聞いたところ、「大きな影響がある」が10社、「一定の影響がある」が6社となった。「限定的」と回答した企業は1社にとどまり、ほとんどの企業が変化を予想している。
背景には、生成AIによる開発生産性の向上がある。回答企業からは、「単純な開発や保守業務をAIが担うようになる」「開発工程の工数が大幅に削減される」「人月工数では測れなくなる」といった声が寄せられた。
また、「AI活用によって生産性を高めるほど売り上げが減少するという矛盾が生じる」「人月モデルから顧客価値提供モデルへの変革が進む」といった意見もあり、労働投入量を前提とした従来のビジネスモデルの見直しは避けて通れないとの見方が大勢を占めた。
人月型ビジネスはAIによる効率化によって転換点を迎えており、成果や価値を基準とするビジネスへの転換が現実味を帯びている。
5年後に価値が高まるエンジニア像
各社に「5年後に価値が高まるエンジニア像」について聞いたところ、「顧客理解」「課題設定」「AI活用」を重視する声が目立った。単にシステムを開発するだけではなく、「何をつくるべきか」を定義し、新たな価値を提供できるエンジニアの重要性が高まっている。
KDDIアイレットは、生成AIが設計補佐やテストなど開発プロセスの多くを担うようになる可能性を指摘。その上で、単に「システムをつくる(How)」ではなく、「何のために、何をつくるべきか(Why/What)」を定義できるエンジニアの価値が高まるとした。
JBCCホールディングスは、AIによる定型業務の自動化が進む一方で、「何を解決すべきか」を定義する力や、顧客課題を理解する力、人とAIを組み合わせて成果を最大化する力が重要になると分析している。
東芝は、AIを使いこなしながら事業や社会課題の解決をリードできるエンジニアを挙げた。特にエネルギーや社会インフラなどの分野では、安全性や信頼性、倫理性を踏まえて技術を社会実装できる能力が重要になるとしている。
伊藤忠テクノソリューションズは、顧客の事業に寄り添うドメインナレッジの重要性を指摘した。AIの原理を理解し、正しく実装できるスキルが必要になるとしている。
富士通は今後価値が高まる人材として、FDE(Forward Deployed Engineer)を挙げた。顧客の現場に入り込み、課題を理解した上で成果創出まで伴走する役割を担う。AIによって開発業務そのものは大幅に効率化される一方で、「何を実現するべきか」を定義し、価値創出につなげる人材の重要性は高まるとみている。
共通するのは、コーディングそのものではなく、顧客理解や課題設定といった領域に価値が移りつつあるという点だ。AI時代のエンジニアには、技術力に加え、新たな価値を創出する役割が求められている。
調査概要
調査期間:2026年7月
調査方法:Webアンケート
回答企業(五十音順)
伊藤忠テクノソリューションズ、NSW、NTTドコモソリューションズ、オーシーシー、KDDIアイレット、コア、クロスキャット、サイオス、シーエーシー、JBCCホールディングス、テクノスジャパン、テラスカイ、東芝、BIPROGY、Fusic、富士通、三谷産業