米IBM(アイビーエム)が1988年に発表した中規模コンピューター「AS/400」の時代から、企業の基幹業務を支えるシステムとして長く頼られている「IBM i」。現在は、信頼性や可用性の高さを特徴とするエンタープライズサーバー「IBM Power」で稼働するOSの一つとして提供されている。IBMとパートナー企業はAI駆動開発の活用で技術者不足などの課題を克服し、新たな顧客の獲得を見据える。IBM iビジネスの最新戦略を、日本IBMとパートナー3社に聞いた。
(取材・文/下澤 悠)
日本IBM
技術者コミュニティーを活性化 新しいモダナイゼーション像を提案
パートナーと共にIBM i事業の強化を進める日本IBMは▽技術者や後継者不足への対応▽次期システム更改時の稟議上申ポイントの助言▽IBM iによるDXのすすめ▽次世代ERPパッケージ開発―という4段階の施策を展開している。
ユーザー企業側に所属するIBM iの技術者コミュニティーをつくり活性化させ、活動の中で情報共有を促すほか、パートナーと連携して技術者プールを用意して必要とする企業側に紹介する制度も整備。仮に経営者がシステムを見直す場合には、数値やデータをもってIBM iの効果を明確に示せるように支援している。またDXの実現には、過去に導入したシステムを無駄にせず新たな技術と結びつけて効率化を図ることができる、IBM iを用いる手法が結局は「最短ルート」になるとアピールする。
特に、第4段階の次世代ERPパッケージ「IBM ERPフレームワーク(IEF)」は、新規顧客獲得を目指すための日本独自の製品で、AIとIBM iを活用して生産性向上につながる基幹システムを再構築する。国内のベンダーがメインフレームやオフコンの事業から撤退していく中での乗り換え需要なども見込んでおり、約20社のパートナーが取り組みに前向きな意向を示しているという。今春からパートナーとのコンソーシアムを設けて正式にリリースする予定だ。
日本IBM
原 寛世 事業部長
PowerやIBM iの強みについて、テクノロジー事業本部Power and Cloud事業部の原寛世・事業部長は、長年培われた信頼性と事業の継続性、セキュリティーにあると強調する。高性能かつ運用負荷の少ないマシンで、常に3世代先までの開発ロードマップが示されているため、顧客は将来にわたり使い続けることが可能。同社によると、過去にIBM i内のデータがランサムウェア被害に遭ったことはないとしており、安全性への信頼も高い。
また、AIエージェント型の新たな開発支援ツール「IBM Bob」(2026年中に一般提供を開始)は、既存資産を理解し、技術的負債の可視化・改善・仕様化を行うことができるとしている。Bobの投入で、「『つくり直す』のではなく『継承しながら進化させる』新しいモダナイゼーション像を提案できる」(原事業部長)と意気込む。
福岡情報ビジネスセンター
セキュリティーの強さが売り 九州各県からも頼られる存在に
福岡情報ビジネスセンターは、IBM i上で稼働するソリューションを提案するSIerだ。顧客に対しては、多くは現行アプリケーションのモダナイゼーションを進めるアプローチを取り、IBM iのリプレースや新規導入も図っていく。福岡市内を主な拠点としながら、九州各県の地場のSIerとのパイプを生かして技術者派遣の要望に応えるなど、IBM i関連の事業では頼られる存在となっている。最近は特にIBM iのセキュリティーの高さを売りにビジネスを強化している。
福岡情報ビジネスセンター
酒井浩二 取締役
取締役CCO兼IBM iPro事業部の酒井浩二・事業部長は、IBM iの強みを「安定性と信頼性が高く、『ほとんど止まらない』という特徴がある。ミッドレンジサーバーというポジションで考えたときに、他社のマシンと比べ処理能力が飛びぬけている」と説明。特に昨今重視している価値は、マルウェアやサイバー攻撃で狙われにくいという点だ。オープン系と違いOSレベルでオブジェクトが一元管理されているほか、強固なセキュリティー機能を搭載する専用のリレーショナルデータベース「IBM DB2 for i」が利用できることから、不正アクセスのリスクが小さいという利点がある。
酒井取締役は、IBM iの運用コストについて「一見高く見えるが、オープン系では(障害など)実際に何かあったとき、システム担当者など多くの人を動かすための人件費が増える。IBM iの場合はそうではないので、さまざまな費用を含めるとやはり運用コストは低いと言える」と強調する。近年、サイバー攻撃の被害が広く知られるようになったことで、セキュリティー面の特徴は新規顧客の獲得に向けた訴求ポイントになっており、一度離れた企業もオープン系の弱みに気づいてIBM iに戻るケースもあるという。
近年の技術者の減少という背景から、同社はIBMパートナー会の「愛徳会」などを通じたパートナー同士の連携も重視する。また、「IBM iをまだAS/400(の頃のイメージ)や『レガシー系』だと思われているお客様もいて、最新のオープン系と同じようにAPI構築やSaaS連携などもできることを伝えていかないといけない」と課題を認識。導入時の価格がネックになる企業も少なくなく、柔軟に扱えるクラウド利用の促進も進める構えだ。
イグアス
IBM Bob活用サービスに注力 パートナー同士の連携も後押し
IBM製品のディストリビューターであるイグアスは、販売パートナーのビジネスをサポートするだけでなく、パートナー同士の連携やエンドユーザーへの情報提供を促進することでIBM i市場の活性化に取り組んでいる。今後は特に、IEFによる顧客開拓を進めていくほか、AI駆動開発支援ツールのIBM Bobを活用したサービスに力を入れ、自社のブランディングも図る戦略だ。
IHCCの様子
パートナーに対する支援は、エンドユーザーへの販売のコツ、ユースケースを伝えるほか、要望に応じた技術者の紹介や自社のセットアップ部隊によるサポートまで幅広い。「仲人のような仲介役であり、相談役でありたい」(常務執行役員パートナービジネス事業部テクノロジー製品本部の今西修一・本部長)という同社は、IBM iに関するセミナーをたびたび開催。パートナー側からの関心は高く、会場には数十社が集まり参加企業が互いに取り扱う製品を紹介しあう場面も見られるなど、パートナー間での連携も促進されている。
(左から)イグアスの藤沼貴士担当部長、今西修一本部長、五島昌美氏
同本部システム製品営業部の五島昌美氏は、パートナー側のスキルアップも重視する姿勢を強調。イグアス社内に設けた「IHCC(IGUAZU Hybrid Cloud Center)」を活用し、技術者がPowerやストレージなどの機器を実際に利用してソリューションの検証ができる環境を提供している。このほか、IBM iの総合情報サイト「iWorld」の運営を担い、ユーザー主体のコミュニティー形成にも取り組む。運営はパートナー企業と共同で行っており、製品・技術や事例などの情報を紹介している。
目下注力するのは、IBM Bobを活用した開発支援だ。グループのアルファー・コミュニケーションズは、テクノロジープレビューの段階からBobの検証に携わっており、活用のノウハウを蓄積してきた。同事業部クラウド&AI営業開発部テクニカルセールスグループの藤沼貴士・担当部長は「Bobのことならイグアスに聞いてほしい」と自信を見せる。「新規顧客の獲得はIEFによるものが見込めるが、Bobは新規で開発することもコンバートを支援することも可能。画期的で力強い『相棒』が登場した」と期待は大きい。
ベル・データ
協業強化で顧客ニーズに応える 安定運用支援と「国産」クラウドがかぎ
IBM iの取り扱いで長年の経験と実績を持つベル・データ。強化してきた既存顧客に向けた安定運用のサポートと併せ、IEFなどでの他社製品からの乗り換え需要を見込んだ顧客開拓にもコミットする。エンドユーザーへの販売をメインとしながらも、保守サービスや技術者の派遣でパートナー企業への支援も行うなど、協業にも注力。企業にとって導入しやすいクラウド環境での利用も促して展開を強化している。
ベル・データ
村上真之 執行役員
同社は、既存顧客層を「深堀りする」長期の安定運用支援を基本としながら、利用企業を増やす「面を広げる」アプローチも意識。約40年前の発表当時からAS/400を基幹システムとして利用している顧客もおり、安定運用のため継続的な技術支援を提供し続けている。従来多かったインフラ面だけではなく、最近はAIとの連携や技術者不足なども同社がサポートしている。執行役員Power事業部の村上真之・事業部長は、「他の国産汎用機の保守終了に伴いIBM iに移る企業もあるため、さまざまなパートナーと連携したエコシステムをもって市場拡大にも取り組んでいる」と話す。
24年12月には、競合関係にあったNDIソリューションズ(NDIS)と戦略的パートナーシップ基本合意契約を取り交わした。Power事業部パートナー営業部の木村友之・部長は、NDIS側のAI関連ソリューションの活用などが可能になり、単独ではできない柔軟な販売体制がとれるようになったと利点を強調。木村部長が率いるパートナー営業部は25年10月の設立で、業界各社とIBM iのサービスやスキルなどを補完しあう協業をさらに強める。
ベル・データ
木村友之 部長
Powerのクラウドサービス「PowerCloudNEXT」も、NTTインテグレーション(旧日本情報通信)との共創による事業だ。IBM iを利用できるPowerアーキテクチャーのインフラでありながら、クラウドサービスのため顧客がリソースの規模を自由に選ぶことができ、また導入時に多額の費用がかかるオンプレミスと比較すると導入のハードルが低い。豊富な技術者によるフルサポートを備え、また多くの企業にとってネックとなる為替の影響を受けない「国産クラウド」の一つとして価値を訴求していく。