デジタル庁が推進する「自治体窓口DXSaaS」が広がりつつある。2023年度からデジタル庁は、窓口DXSaaS仕様に準拠したサービスを開発する事業者を採択しており、これまで9社が参画した。採択事業者である富士フイルムシステムサービスは35年度までに300団体の獲得を目指し、TKCは既存顧客の130団体に窓口DXSaaS準拠サービスへ移行してもらうことを視野に入れる。新規参入した両備システムズは30年までに100団体の獲得を目標に掲げる。現時点で実際に導入している自治体は100団体に満たないものの、向こう数年で急速に増えていく見通しだ。
(取材・文/安藤章司)
デジタル庁
DXSaaSとBPRの2本柱で臨む
自治体窓口DXSaaSの目的は「書かないワンストップ窓口」の実現にある。自治体の窓口では、さまざまな手続きにおいて、名前や住所を複数の書類に手書きするケースが存在する。この手書きのフローを削減し、住民と職員の双方にとって負担の少ない快適な窓口体験をもたらしたいとする。
デジタル庁は、自治体窓口DXSaaSと「窓口BPRアドバイザー」の2本柱で事業を展開している。後者については、自治体の窓口業務のBPR(業務改革)を手がけた経験を持つ自治体職員を窓口BPRアドバイザーに認定し、自治体に派遣する取り組みだ。
自治体窓口DXSaaSに関しては▽手続きガイダンス▽申請書作成▽マイナンバーカード利用▽基幹業務システムなどとの連携─の四つの基本機能を規定し、採択事業者はこの基本機能の要件を満たしたサービスを提供する。
デジタル庁
谷 吉郎 参事官補佐
25年度までの3年余りでSIerなど9社を採択事業者として認定し、各社が提供する窓口DXSaaSを自治体に使ってもらうよう推奨している段階だ。これまで全国約1700ある自治体のうち、実際に窓口DXSaaSを採用、または採用を決めた自治体は78団体だが、多くの自治体が過去にOCRなど何らかの窓口業務の効率化用途でITシステムを導入しており、「今後、段階的にガバメントクラウド上に構築された窓口DXSaaSに乗り換えていくことを見込んでいる」と、窓口DXSaaS推進を担当する谷吉郎・窓口DX推進班参事官補佐は話す。
ベンダー各社による独自機能やBPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)など多彩なサービスも加わる見込みで、どのベンダーのどのサービスを選ぶのかは、自治体自身によるBPRを行わないと選定することは難しい。
そのBPRの支援を担う窓口BPRアドバイザーは、窓口業務のBPRに先進的に取り組んでいる北海道北見市、埼玉県深谷市、富山県高岡市、宮崎県都城市などから直近で20人ほどに委嘱している。支援を受ける自治体の職員は、窓口BPRアドバイザーからノウハウを学び、自身の自治体のBPRに着手することになる。こうしてBPRの知見を習得した職員に新たなアドバイザーとなってもらうことで「BPRの知見やノウハウを全国の自治体へ広げていく」(谷・参事官補佐)考えだ。
富士フイルムシステムサービス
転入手続きに焦点当て業務時間を大幅短縮
富士フイルムシステムサービスは、26年12月をめどに、自治体窓口DXSaaSに準拠した窓口総合支援システム「つながる窓口」の提供をスタートし、35年度までに300自治体に納入する目標を掲げている。同社は前身となる「異動受付支援システム」を19年に開発し、これまで124の自治体に納入してきた。既存システムを窓口DXSaaS準拠へとリニューアルすることで、自治体ユーザーの窓口DXSaaS準拠システムへの乗り換えと、新規の自治体顧客の獲得を目指している。
富士フイルムシステムサービスの
蛭沼一人グループ長(右)と北澤淳チーム長
異動受付支援システムは、自治体の窓口業務の中でも特に頻度が高い住民の転入手続きに焦点を当てている。転出先の自治体が発行した転出証明書をOCRで読み込み、転入手続きの書類にデータを反映。タブレット端末に表示された情報を職員と住民が確認し、住民基本台帳などの基幹業務システムにデータを受け渡す仕組みで、従来の手書きによる手続きに比べて「半分ほどの業務時間に短縮することが可能になった」(蛭沼一人・公共事業本部ソリューション推進グループグループ長)という。
ガバメントクラウド上で提供する予定のつながる窓口では、異動受付支援システムをさらに進化させ、子育てや介護などのライフイベント全般に対応した行政手続きの効率化を支援する。加えて、外国人の一斉転入への対応やシステム利用状況のレポート機能も実装する見通しだ。
外国人労働者の受け入れでは、「職業訓練校から40~50人まとまって転入手続きするケースが多く見られる」(北澤淳・ソリューション推進グループ企画推進チームチーム長)ことから、身分を証明する在留カードを認証機器で読み取り、申請書類への住所・氏名の記入に至るまでワンストップで支援する。利用状況レポート機能は、どの業務でどの程度時間が削減できたか、あるいはどの業務プロセスに想定より多くの時間がかかっているのかを可視化でき、次の業務改革につながる基礎資料としての活用を想定している。
TKC
既存ユーザーの乗り換え促進に商機
TKCは、26年7月をめどに窓口DXSaaS準拠のサービスを始める予定だ。同社は19年に前身となるTASKクラウド「かんたん窓口システム」のサービスを開始し、これまで130団体のユーザーを獲得してきた実績がある。マイナンバーカードやタブレット端末などを駆使して「待たない、書かない、迷わない窓口サービスの実現」を支援しており、「自治体の要望を踏まえて窓口DXSaaSに準拠することを決めた」(坂井淳徳・地方公共団体事業部自治体DX推進本部営業企画部長)という。
TKCの坂井淳徳部長(右)と大森明日香課長
同社は全国164の自治体の住民基本台帳や税務、保険、福祉といった基幹業務システム「TASKクラウドサービス」を運営するなど、自治体向けシステムに強いSIerだ。この2月までにすべての顧客の基幹業務システムのガバメントクラウドへの移行を完了させており、「次のフェーズとして窓口業務システムの窓口DXSaaS準拠に移行する」(大森明日香・自治体DX推進本部営業企画部行政サービス・デジタル化支援課長)と、このタイミングで採択事業者になった背景を語る。
164団体の基幹業務システムユーザーのうち、かんたん窓口システムのユーザーはおよそ半数に過ぎないため、まずは基幹業務ユーザーに窓口DXSaaS準拠の次期バージョンの採用を働きかけるとともに、新規顧客の開拓にも力を入れる。国が定める標準仕様に準拠し、ガバメントクラウド上で稼働する基幹業務システムと窓口DXSaaSのデータは「従来の個別仕様のシステムに比べて連携しやすく、業務効率化や利便性を発揮しやすくなっているメリットがある」(大森課長)ことを訴求していく。
TKC独自機能である「オンライン申請システム」と連携し、事前に自宅からオンラインで入力したデータを申請書類に反映させ、来庁時の手続き時間を短縮する機能も提供する予定だ。
両備システムズ
複数ヒット製品のノウハウを生かす
両備システムズは、採択事業者になったことを契機として、窓口業務システム領域へ本格的に参入した。同社は自治体向けのシステム開発に強みをもっており、「全国で延べ1100団体余りが何らかの当社製システムを利用している」(石原雅晴・官公庁ソリューション営業部中四国第1グループエキスパート)ほどのシェアを持つ。窓口業務に関しては、25年度に窓口DXSaaS準拠の「R-STAGE窓口DXサービス」第1号ユーザーを獲得したところだ。直近のユーザー数は、採用予定の自治体も含めて累計3団体となっている。
(左から)両備システムズの石原雅晴エキスパート、小野晴生スペシャリスト、
大後戸舞アソシエイト、石田淳一エキスパート
窓口業務は、一つの窓口でワンストップ対応する「総合式」と、複数の窓口を巡回してもらう「リレー式」、あるいはそれらを組み合わせた「複合式」に分けられ、「当社の窓口DXサービスは、そのいずれにも対応できる点が強み」と、石田淳一・エリア・アカウントビジネス事業部エリアビジネス部エキスパートは話す。転入者の家族構成や職業によって、健康保険や子育て・介護支援などの担当課と連携する必要があるが「窓口業務のBPRの結果に合わせて、柔軟に対応できるサービス構成」(大後戸舞・ビジネス企画推進室サービス開発グループアソシエイト)に仕立てた。
同社は自治体向けに複数のヒット製品を擁しており、例えば健康管理システム「健康かるて」は全国約800団体、福祉系の「R-STAGE福祉情報システム」は約200団体、グループ会社のシンクが開発する統合滞納管理システムは約500団体に納入してきた。これらの自治体向け業務のノウハウを生かし、「窓口業務のBPRの支援からシステム導入に至るまで、全国のビジネスパートナーと密に連携しながらシェア拡大を推し進める」(小野晴生・官公庁ソリューション営業部中四国第1グループスペシャリスト)とし、30年までに100団体への納入を目標に掲げている。