Sansanはマルチプロダクト戦略を進める中、名刺管理サービスでも次の一手を打ち出している。名刺を含むさまざまな接点情報をデータベース化するサービス「Sansan」は「AIが利用するデータソース」としての役割を磨き、それに基づく機能を拡充。他方で法人向けには「Eight Team」も名刺管理サービスとして提供し、シンプルな機能を売りに中小企業市場を中心に存在感を高めている。Sansan、Eight Teamはどちらも、パートナーとの連携を通じた付加価値の創出で、成長に弾みをつけたい考えだ。同社の祖業はいかなる進化を遂げるか。名刺管理サービスの現在地と展望を探る。
(取材・文/大畑直悠)
顧客の状況に合わせたサービスを提供
名刺管理をめぐる市場状況に関して、Sansan事業部プロダクトマーケティング室の柳生大智・室長は「よく『刈り尽くした』と言われるが、名刺管理を導入していない企業はまだ圧倒的に多い。起業から間もない企業にとって名刺管理は課題となるポイントだ。その意味で名刺管理は普遍的な課題であり続けている」と話す。
柳生大智 室長
実際、Sansan事業の2026年5月期の売上高は前期比16.2%増の310億8900万円で堅調な成長を続け、契約件数でも前期比14%増の1万2199社まで伸ばしている。
Sansanは現在、名刺を中心としたデータをAIの情報源とし、営業活動の高度化を支援する「営業AXサービス」への進化を図っている。これを背景に料金プランを見直し、基本的な名刺管理機能を有した「Lite」、AI関連機能や詳細な企業情報などを掲載する「ビジネスデータベース」機能が付随する「Standard」、さらに、デジタル名刺を送付する「デジタル名刺ソリューション」を追加した「Advanced」を用意する。新規顧客の開拓だけでなく、AI機能を有するStandardの顧客の獲得を進めている。
Sansanに加え、同社が展開するもう一つの名刺管理ツールが、400万人を超えるユーザー数を誇る「Eight」だ。個人向けのイメージが強いものの、この強固な顧客基盤を生かし、法人向け名刺管理ツールとして「Eight Team」を展開している。26年5月には契約件数が6000社を突破し、首都圏だけではなく、地方でも順調にビジネスを拡大させている。豊富な機能を有するSansanに対して、名刺管理機能だけが目的であれば、Eight Teamで十分となるケースは少なくない。
Eight Teamは個人がEightに登録した名刺情報をチームで活用できるようにするソリューションだ。名刺情報は、名刺の撮影やスキャナーなどで取得できる。基本機能としては▽各チームメンバーが取得した名刺情報の横断的な管理・検索▽名刺にひも付けて残したメモの共有▽タグの付与による名刺のグループ分け▽CSVデータのダウンロード─の四つを備えている。名刺の管理・検索機能については、都道府県や役職によるリスト化も可能だ。
さらにオプション機能としてチームメンバーが異動や退職をしても名刺情報をチームに残せるアーカイブ機能、米HubSpot(ハブスポット)製品や「kintone」との連携機能を提供する。
顧客層は中小企業に加え、規模の大きい企業が部署や支店、プロジェクト単位で導入する例も多い。安齋安美・Eight事業部Eight Team部副部長は「シンプルな機能でスマホさえあれば手軽に利用できる点が評価されている。また既存のEightユーザーにとっては同じ操作感で利用できる点も強みだ」とする。
安齋安美 副部長
SansanのLiteプランとの違いは、従業員のメールのやり取りから接点情報を把握する機能がないなど、名刺交換以外からの情報収集には対応できない点が挙げられる。一方で、最低限の名刺管理を気軽に始められる点こそが支持されており、安齋副部長は「そもそも取得した名刺の利用をチームで習慣化できるか不安を感じる顧客は多い。Eight Teamでまずは試し、慣れたいというケースもある」とし、Eight Teamが名刺管理を始める入り口となり「営業DXの一歩目としての役割を担う」と強調する。
名刺データの活用に習熟し、より複雑な用途を求める顧客に対してはSansanを提案し、アップセルにつなげる仕組みも構築している。Sansanを担当する柳生室長も「顧客の状況に応じて選べるようにしており、『かゆいところに手が届かない』ような状況になればSansanにステップアップしてほしい」と訴える。個人向けに圧倒的な知名度を誇るEightと、法人市場で確かな地位を築いているSansanの間を埋める商材として、Eight Teamが果たす役割は同社にとって大きいと言える。
DISとの連携でEight Teamを拡販
Eight Teamの躍進には、パートナービジネスによる成果が寄与しており、今後も連携の拡大に注力する方針だ。安齋副部長は「機能がシンプルであるがゆえに、さまざまな製品とセットで提案するパートナーが増加している」と説明し、パートナーには取り込んだ名刺データを活用するためのSFAやMAといった製品との組み合わせを期待する。
具体的な取り組みとしては、ラクスがメールマーケティングサービス「楽楽メールマーケティング」のオプションとしてEight Teamを展開。通信キャリア系パートナーとしてNTTドコモビジネスとも連携し、法人端末と組み合わせた提案が進んでいる。KDDI Biz Edgeでも同様の取り組みを始めた。
地方への拡販にも取り組む。すでに地銀パートナーと連携したビジネスを展開し、地方の顧客数は着実に増加している。26年7月にはダイワボウ情報システム(DIS)と販売代理店契約を締結した。DISのパートナーはサブスクリプション管理ポータル「iKAZUCHI(雷)」を活用してEight Teamを販売できるようになる。DISの販売網を生かして地方企業への拡販に弾みを付けたい考えだ。
今後のビジネス展開では認知度の拡大がかぎになると見ている。安齋副部長は「Eightのユーザーは地方にも多くいるがEight Teamを知ってもらえていないのが一番の課題」と話し、Eightの顧客基盤を生かしたアップセルを目指す構えだ。現在はハンズオンやセミナーを積極的に開催している。参加者は、DXの担当者よりも、営業部長など現場の役職者が多いとし、安齋副部長は「事例を共有しながら、名刺データの活用法を伝えたい」と意気込む。
SaaSベンダーとしてのビジネスに変化
Sansanでは名刺管理を軸としつつ、多様な接点情報の管理や、商談機会の発掘、商談準備まで提供価値を拡大させており、新機能となる「AIサーチ」の開発も進めている。プロダクトの発展が進む中、今後のビジネス展開やパートナー戦略でも変化が進む。
AIサーチはSansan内に蓄積した接点情報に加え、Web上の公開情報も含めて企業や人物についての横断的な情報収集を可能にする。トライアルで提供している、外部AIモデルからSansan内のデータを利用できるようにする「Sansan MCPサーバー」や、同社の経理向けサービス「Bill One」や契約書管理サービス「Contract One」、SFAや基幹システムといった他社製システムも含めたデータを横断的に活用する「Sansan AIエージェント」と併せて、AI機能の中核としたい考えだ。
AI関連機能について、柳生室長は「商談準備の際の接点情報の検索など、これまでSansanが提供してきた価値をAIがより高速に実現してくれる。もともとあったSansanに対するニーズにAIが応えており、需要は大きい」と話す。
販売ターゲットとしては、MCPサーバーは「Claude」や「ChatGPT」などの生成AIツールを利用している大企業のニーズに対応し、さまざまなデータを組み合わせたAI活用をこれから始めたいという中堅規模の顧客にはSansan AIエージェントを訴求する。Sansan内のデータを中心としたAI活用を気軽に始めたいとする顧客にはAIサーチをアピールしていく。
AI機能を顧客が使いこなすためには機能面の充実だけではなく、導入や活用の支援、データのつなぎ込みなどのサポートが重要になるとみており、組織面での充実も図る。柳生室長は「いわゆるSaaSビジネスからかけ離れているように思われるかもしれないが、エンジニアが顧客に合わせて伴走支援するケースも生まれている。AIの発展で、かつてのSaaSベンダーのあり方は変わってきていると考えており、当社のビジネスにも変革が訪れつつある」と紹介する。
パートナー戦略においても、これまでの販売や活用支援のみならず、データのインテグレーションでの協業を模索する。柳生室長は「当社の組織をつくり育てていくことに加えて、パートナーとの連携が重要になる」と話す。その上で、「パートナービジネスの拡大はSansanにとって悲願だ。これを伸ばしたいというのは今も昔も変わらずチャレンジを続けている」と力を込める。AI関連での取り組みに加え、米Salesforce(セールスフォース)製品との連携など、顧客の営業に関するDX案件の中でSansanが貢献できるような付加価値の高い提案を期待する。
Sansanにおいても、地方への拡販に向けてパートナー連携を推進する構えで、柳生室長は「Eightは知っているがSansanは知らない場合や、同じ会社のプロダクトだと認識されていない部分はまだまだある。開拓を続けていきたい」と意気込む。