生成AIブームの加速により、AIインフラを支えるデータセンター(DC)の建設・拡張が進んでいる。その裏側で起きているのが、メモリーやストレージなどPC関連部材の需給逼迫だ。DC向け需要の急増によって部材価格が上昇し続ける中、法人向けPCビジネスにおいて、コスト抑制や環境負荷低減の観点からPCの再利用を見直す動きがある。生成AI時代におけるPC市場の変化を踏まえ、リファービッシュPCやリユースPC市場の将来性を探る。
(取材・文/南雲亮平)
まず、PC価格の実態を確認しよう。電子情報技術産業協会(JEITA)の「パーソナルコンピュータ国内出荷実績」で、2025年6月からのPC平均単価推移(図参照)を見ると、GIGAスクール需要やセールなどの影響で所々、一時的に単価が下がっているものの、上昇傾向が続いている。直近の26年6月は前年同月比で約1.36倍となる約12万5052円となった。
NECパーソナルコンピュータとレノボ・ジャパンの両社で代表を務める檜山太郎社長は、5月に開催したレノボ・ジャパンの26年度事業戦略説明会で、AIの急速な成長により部品コストの上昇が続くとの認識を示した。特にメモリー価格の上昇が顕著で「どのように対応するかが26年の大きな取り組みの一つになる」と語った。レノボ・ジャパンのサービスセールス事業部サービスプロダクトマーケティング本部サービスプロダクトマーケティング部の八木下敦・部長も、業界全体の課題として、納期遅延や価格高騰への対応に追われていると話す。
レノボ・ジャパン
八木下 敦 部長
この流れを受け、新品購入に代わる選択肢として、リファービッシュPCが存在感を増している。顧客が一度使用したPCをメーカー自らが回収・再生し再販売するビジネスモデルで、新品購入よりもコストを抑えられる点が魅力になっているようだ。新品PC向け部材の調達が難しくなる中、PCメーカーも代替手段として戦略的に訴求を図っている。
VAIOは「Reborn VAIO」ブランドで、25年8月から法人向けリファービッシュPCを本格展開している。PCの回収から再生、検査までを同社が一貫して担っている。法人営業本部Reborn VAIO事業室の花村英樹・室長は、「長野県安曇野市の工場で、新品PCの製造で培った知見や検査設備を活用し、1台1台を分解・整備している。『安曇野フィニッシュ』と呼ばれる最終検査工程を経て再製造することで、高い品質を実現している」と説明する。
特に、使用感が表れやすいキーボードやタッチパッド、天板、バッテリーなどを新品の純正部品に交換する点が特徴だ。1年間のメーカー保証も付帯する。中古品のようなランク分けがなく、均一な品質でまとまった台数を提供できるほか、新たなシリアル番号を付与することで、過去の管理情報をリセットできる点も法人ユーザーから好評だ。
レノボ・ジャパンもリファービッシュPCを26年度の重点戦略の一つとして位置付けており、既存の「Lenovo認定済み再生デバイス」の強化を進めている。同事業では、初期返品された未使用品や、DaaS(Device as a Service)を通じて返却された状態の良い端末を活用する。
検査やデータ消去、純正部品を用いた修理、OSの再インストールなど35段階以上の工程を経て顧客に提供している。品質は3段階に分類されるが、いずれも品質テスト済みで100%の動作保証と1年間のメーカー保証が付く。バッテリー容量は80%以上を確保し、最大3年間の保証延長や、オンサイト修理・プレミアサポートへのアップグレードも可能だ。
高まる需要と広がる活用シーン
各社の取り組みを背景に、リファービッシュPCは単なる「安価な代替品」という枠を超えつつある。VAIOの花村室長は「新品PCが高くなっているため、安価に購入できるリファービッシュPCへの関心が高まっている」としつつ、それだけでなく「品質やサポートを含めて安心して導入できることが求められている」とも指摘する。
VAIO
花村英樹 室長
レノボ・ジャパンの八木下部長も、メーカー自らによる純正部品を用いた修理や保証を求める声があるとし、「営業現場からは、リファービッシュ品があれば検討したいという顧客の声が非常に強い」と明かす。
需要面では、全従業員に最新・最高性能の端末が必要ではなく、事務作業に従事する派遣社員や短期プロジェクト向けなど、用途に応じた最適な機材調達を目指す企業が採用する傾向にある。また、リファービッシュ対象となるPCは比較的新しい世代に限られるため、新品との間で性能差が大きくない点も評価されている。
さらに、リファービッシュの重要な要素であるサーキュラーエコノミー(循環型経済)への貢献も追い風となっている。レノボ・ジャパンの八木下部長は「海外では調達基準にリファービッシュ品の検討を組み込む流れが生まれている」と紹介し、日本でも公共機関を中心に調達基準見直しの動きが加速するとの見方を示した。
実際に、環境意識の高い大手企業がCO2削減の観点から導入する事例も出ている。25年8月には三菱HCキャピタルグループがReborn VAIOを280台導入した。26年7月には同社とVAIOが連携し、Jリーグが参画する「Sports Positive Leagues」において、「持続可能な調達」に該当する取り組みとして、長野パルセイロ・アスレチッククラブ(AC長野パルセイロ)へReborn VAIOを提供した。
将来的には、Reborn VAIOを活用した資源循環モデルの構築も目指している。三菱HCキャピタルが新品PCをVAIOから調達し、ユーザーにカーボン・オフセット付きPC-LCM(Life Cycle Management)サービスとして提供。使用後は回収してVAIOへ再販売し、VAIOが整備・再生したReborn VAIOをAC長野パルセイロやパートナー企業へ提供することで、PCの資源循環を促進する考えだ。
新品販売にも波及する好循環
リファービッシュPC事業を展開する上での大きな課題は、再生対象となる「良質な中古PC」を安定的に調達することだ。VAIOはこの課題に対し、新品販売時に数年後の買い取り価格と返却時期をあらかじめ決めておく「買い取り予約」の仕組みを導入している。これにより、高品質なPCを計画的に回収・再生できるほか、顧客も将来の資産価値を見据えた導入が可能となる。さらに、リース会社との協業を強化し、返却品を優先的に回収する体制も整えている。
レノボ・ジャパンも調達ボリュームの確保を重要課題と位置付けている。対策として、PCの調達から運用管理までを包括的に提供するDaaS事業との連携強化を進める。企業のIT部門では、PC管理業務を外部に委ね、その分AI活用やDX推進に注力したいというニーズが高まっており、こうした需要の取り込みを図る。
両社とも自社のみで回収できる台数には限界があるため、今後はパートナー企業との連携拡大も視野に入れているという。
リファービッシュPC事業は、各社のコア事業にも好影響をもたらしている。VAIOは、使用済みPCの回収・再生を通じて得られる「大量の使用済みPCの検品データ」を新品PCの設計部門へフィードバックしている。故障に至らないまでも、ユーザーが不満を感じるポイントを次期モデルへ反映することで、製品寿命そのものを延ばす好循環を生み出している。
レノボ・ジャパンは、ハードウェアの提供にとどまらず、保守サービスも含めた「端末をより長く使い続けるための仕組み」をグローバルで検討している。リファービッシュ事業を一時的な需要対応ではなく、環境負荷低減と企業の資産最適化を両立するサーキュラーエコノミーの中核事業へ育成する方針だ。
PC部材価格の高騰は依然として先行きが見通しにくい状況にある。今後も、限られた予算で高品質なPCを求める企業の需要が、リファービッシュ市場を支えるとみられる。AI活用や高負荷業務には最新の新品PCを、一般事務や定型業務にはリファービッシュPCを活用するといったように、コストと性能を最適化したハイブリッド運用が広がる可能性がありそうだ。
リユース・レンタル市場にも影響
メーカー自身による再生品だけでなく、リユース市場やレンタル市場も新品PC価格高騰の影響を受けている。横河レンタ・リースは、レンタル事業で貸し出したPCなどを「Qualitセンター」で検査・整備し、ECサイトや入札を通じてリユースPCとして販売している。事業統括本部リセール本部の亀田隆彦・Qualitセンター長は、「プロが20年以上の経験を生かし、クリーニングと並行して厳格に審査している」と強調する。バッテリー容量80%以上を保証し、1年間の保証も付帯する。
横河レンタ・リース
亀田隆彦 Qualitセンター長
需要の傾向について亀田Qualitセンター長は、「新品PCの価格高騰を受け、レンタル市場では既存契約の延長が増えており、新品への入れ替えを遅らせる動きがある」と説明する。その結果、中古市場への供給量は一時的に抑制されている一方で、需要は引き続き旺盛だという。特に米Intel(インテル)の第8世代以降のCPUを搭載した「Windows 11」対応モデルへの需要は高く、価格が下がりにくい状況が続く。むしろ需要増を背景に市場相場は上昇しており、同社のリユース事業全体でも平均単価は約20%上昇している。
さらなる成長に向けて、同社は中古品へのネガティブなイメージ払拭に取り組む。清掃工程や保証体制、法人向け一括導入への対応などを積極的に発信し、顧客の安心感の醸成に努めている。また、レンタルから返却、再整備、再販売へとつながる循環モデルを強化することで、循環型社会への貢献と顧客のコスト削減の両立を目指す考えだ。