富士通とNECの経営計画が相次いで発表された。両社は引き続きオファリング型ビジネスの拡大による収益構造の転換に注力する方針だ。かぎを握るのはAI活用となる。顧客に提供する商材としての価値を最大化するほか、自社の生産性を高めるためにAIの使い手としての習熟も目指す。本格的なAI時代の突入を見据えた新規ビジネスの創出にも意欲を示す。
(取材・文/大畑直悠)
NEC
価値の重心はコンサルと運用に
NECは5月12日、2030年度までの中期経営計画を発表した。コード生成AIの普及で、システム構築の価値の重心は上流のコンサルティングや最下流のオペレーションに移るとみており、AI時代に対応したDX事業の確立を目指す。
市場環境に関しては、AIの進化によるシステム構築の価値低下や、内製化の拡大によるSIerの事業機会の減少、AI運用責任の不明瞭化によるリスクの増大を懸念事項として挙げる。こうした状況を受け、森田隆之社長兼CEOは「AI産業革命が本格化し、優勝劣敗が鮮明になる」との見方を示す。AI市場の見通しとして、森田社長兼CEOは「現時点では、半導体やハードウェアコンポーネント、ハイパースケーラーを中心とするデータセンターやクラウド基盤が市場の期待、注目を集めている。一方で過去のテクノロジーイノベーションの歴史を踏まえれば、長期的にはAIアプリケーションやプラットフォーム、さらには新たに生み出される産業がより大きな市場になる」との考えを示す。
NEC
森田隆之 社長兼CEO
この環境においてNECは「勝者」となるために、▽業種別のナレッジと業種横断的なナレッジからなるAI実装の「ドメインナレッジ」▽AIガバナンスやデータ整備などを兼ね備えた「システムアーキテクチャー」▽最先端のAI基盤やAIネイティブなプロセスと文化、パートナーシップによる「ファウンデーション」ーをグループ一体で提供することが不可欠だとする。AIの実装に関しては、効率性や適用範囲の拡大の観点で内製化だけでは難しい面もあるとし、全ての工程で一貫して顧客を支援できる専門的知見や実装力を武器に成長する。
目標としては、30年度にNon-GAAP営業利益を25年度の3972億円から2倍に伸ばす方針だ。売上収益のCAGR(年平均成長率)は3%超、Non-GAAP営業利益率は15%超、海外利益比率は50%を掲げる。25年度実績は売上収益3兆5827億円、Non-GAAP営業利益率11.1%だった。
ITサービス事業ではCAGRは3~5%、Non-GAAP営業利益率は20%程度への改善を目指す。同事業ではBPOも含むオペレーション領域に進出する計画で、AIシステムやセキュリティーの運用能力の向上に加え、ソブリンクラウドへの対応に取り組む。30年度末までに最大で1兆2000億円から1兆3000億円を成長投資余力として見込んでおり、ここからAI向けスーパーコンピューターやソブリンクラウドのためのデータセンターの確保などへの投資を検討している。また、NECネクサソリューションズとNECネッツエスアイ、NECフィールディングを傘下とするNESICホールディングスとの連携により、全国に向けてDXやAIによる変革の支援を展開する。
価値創造モデル「BluStellar」では売上収益で1兆3000億円、Non-GAAP営業利益率で25%を計画し、引き続きITサービス事業の成長のけん引役として位置付ける。コンサルティングを起点とした顧客への提供価値を型化した「BluStellar Scenario」の展開による高付加価値化や、全てのシナリオでAIの適用を進める。さらに、顧客のAI活用に必要なサービスをフルスタックで提供する「AI Platform Service」を用意する。グループ会社や販売パートナーとの連携強化による拡販にも期待を示す。
NEC
藤川 修 副社長兼COO
BluStellarによるバリューベースへのビジネスモデルの転換に関して、ITサービス事業担当の藤川修・副社長兼COOは「ミッションクリティカル性の高い受託SI、運用、レガシー保守などが従来の工数ベースのビジネスとして一定量存在している」と話す。一方で、「この2年間で工数提供型であったものをモデル化し、反復性のあるシナリオとして提供することに取り組み、その手法も含めて実績と自信を得ている」と胸を張る。
AIを活用したサービス実装力の強化も図る。26年4月に発表した米Anthropic(アンソロピック)との戦略的協業に基づき、「Claude」をNECグループ約3万人の従業員に導入している。藤川副社長兼COOは「(AIを活用した)利益率の改善については、主にBluStellarの領域で発現することを想定しており、25年から30年にかけて10.5ポイントの改善を目指す。28年度以降に本格的な効果が出るだろう」と話す。
防衛市場の拡大も好材料だ。地政学的緊張の常態化やAIの進化、デジタルインフラの重要性の高まりに伴って、安全保障の裾野の広がりが見込まれる。森田社長兼CEOは「高度化するサイバー攻撃への対処や、社会システム全体を守るサイバーセキュリティーはNECにとっての大きな事業機会になる」との認識を示す。
組織マネジメントの観点では、AIネイティブ企業への変革を推進し、AIを活用した経営基盤の強化を図る。AIと人間の共働を前提としたジョブ型人材マネジメントにも取り組む。
富士通
Uvanceの成長を原資に新規事業を創出
富士通は5月28日、35年度までの10年間の中長期経営ビジョンを発表した。これまでの3年から計画期間を大幅に伸ばした点に関して、時田隆仁社長CEOは「今日の勝者が明日も勝者でいるかは分からない事業環境だ。今使われている技術が来月には新しい技術によって上書きされている可能性も大いにある状況で、事業の成長をリニアに描くこと、予測することが難しくなっている」と説明。ある程度の目標水準は掲げながらも、まずは単年度の業績目標にコミットする姿勢を強調する。
指標としてはCAGRを6~9%、調整後営業利益率を25~30%とする方針だ。25年度実績は売上収益3兆5029億円、調整後営業利益率11.2%だった。
富士通
時田隆仁 社長CEO
時田社長CEOは、オファリングを中核とする「Uvance」とモダナイゼーションサービスの進化を成長の要に据える。事業モデルの転換も加速し、26年度からはすべてのサービスをAIで駆動させ、労働集約的なシステムインテグレーションからの脱却を図る。Uvanceではドメイン知識と業種特化型のAIエージェントを組み合わせた発展に取り組む。時田社長CEOは「(依然として)Uvanceの収益の約7割が人月モデルに支えられており、データ量課金やコンピューティングパワーのワークロード・使用量に基づいた課金モデルは約3割しか実現できていない。この人月モデルと価値創造モデルの比率をKPIとして重要視している」と指摘し、「(10年後の目標ではなく)早期に人月モデルの比重を下げていきたい」と意気込んだ。
モダナイゼーションビジネスに関しては自社製品のモダナイズで培った知見を基に、他社製品も対象として拡大する。またデプロイからテストまでの全工程で専門のAIエージェントをそれぞれ活用して生産性を向上させる。35年度におけるサービスソリューションセグメントの売上収益に占める比率に関しては、Uvance事業を70%超、モダナイゼーション事業を10%超とする目標を掲げる。
サービスソリューションの進化に伴うキャッシュフローを原資として、新規事業の創出につなげる考えだ。新規事業で解決を目指す課題としては▽AIの利用拡大によって急増する電力需要や、グローバル依存による技術主権のリスク▽労働人口減少による生産性・競争力の低下、熟練技術者のノウハウや暗黙知の断絶▽自然災害の常態化による社会への被害拡大、高齢化や財政ひっ迫が招く社会運営の複雑化ーを挙げる。
これらの課題を解決するための自社ソリューションとして、信頼と省エネルギーを実現する計算基盤を提供する「Sovereign Platform」、人とロボットが協調する「Physical AI」、デジタルツインによって施策を高度化する「Intelligent Society」を挙げ、これらの3領域で新規事業を創出したい構えだ。
富士通では、この3領域で35年までに国内と欧州で30兆円規模の市場が創出されると推定する。時田社長CEOは「新たに創出される市場に対して35年までで、3兆円規模の投資を確保する」と意気込む。新事業の市場においては、10%のシェア獲得を目指す。
Sovereign Platformでは、産業用ロボットの本格普及や安全保障の観点での需要の拡大を見込み、同社の独自CPUである「FUJITSU-MONAKA」の活用を推進する。27年度の一般提供開始を予定し、すでに金融や通信、製造、サービスといった業界の15社が26年度から試用機での検証を開始しているという。また、量子コンピューターの活用も中核に据える。少ない量子ビット数でも実用的な量子計算を実現できる独自技術「STARアーキテクチャー」などを生かすほか、26年には1024量子ビット、35年には1000論理ビットの量子コンピューターを開発する計画だ。30年にはスーパーコンピューター「富岳」の次世代機の登場も予定しており、時田社長CEOは「量子とハイパフォーマンスコンピューター、AIを組み合わせたハイブリッドな計算技術を自社技術で構築できる点が競争優位性になる」と話す。
Physical AIでは、産業用ロボットを制御するデータの仕様が各社で異なる点が普及のボトルネックになるとみており、人間や複数メーカーのロボットの協調を支援する基盤として、フィジカル環境向けのAI基盤「Fujitsu Kozuchi Physical OS」を活用した成長曲線を描く。さまざまなロボットから収集したデータを同基盤で統合し、リアルタイム制御を可能にする。
Intelligent Societyに関しては今後、ロボットやセンサーなどの普及で予想される膨大なデータの分析で、気候変動や紛争といった社会課題への対応を後押しする。また、企業や公的機関が持つデータを連携させ、生活者ごとにパーソナライズされたサービスの提供を目指す。
組織体制の見直しも図る。AIサービスの提供においては、業種・業務への深い理解が競争優位性を生むとみており、国内では25年度に業種を軸とした組織体制を適用した。今後はこれをグローバルに拡大する。時田社長CEOは「マネジメントの体制について、従来のリージョンで捉える発想から、業種を軸にグローバルで最適に事業を行う体制へと移行する」とし、業種ごとに売り上げから利益まで一貫してコントロールし、ビジネスのスピードを高める。