【タイ・バンコク発】セキュリティー製品ベンダーの米CrowdStrike(クラウドストライク)は、日本を含むアジア太平洋地域(APJ)のパートナーに向けたイベント「APJ Partner Symposium」をタイ・バンコクで3月13日(現地時間)に開催した。同地域でのビジネスが順調に成長していることを受け、グローバルで今後5年から7年をめどにARR(年間経常利益)100億ドルを達成するとの目標を掲げた。ナンバーワンセキュリティーベンダーを目指すため、より一層パートナー施策を強化し、販売拡大に向けた戦略を説明した。
(取材・文/堀 茜)
日本などで業績が拡大
同社はアジア太平洋地域でのパートナーイベントを昨年も同所で開催しており、今回初めて日本のパートナーも参加した。シンポジウムでは、製品の最新情報やパートナープログラムの特徴、今後の成長目標など、パートナービジネスの現状と展望について、米国本社の幹部が説明した。
同社は、セキュリティー統合プラットフォーム「Falcon Platform」上で、EDR(Endpoint Detection and Response)や次世代アンチウイルスなど28のセキュリティー機能をモジュールで提供している。ユーザーはシングルエージェントでモジュールを選択するだけで容易にセキュリティー強化ができるのに加え、一つのコンソールで管理できる利点がある。モジュールで多くの機能を提供し、顧客は必要なものだけ選べる点も特徴。セキュリティー運用の簡易性が支持され、日本をはじめAPJでの業績は近年大きく拡大した。APJでは売り上げの大部分を間接販売が占めており、約1000社のパートナーがいる。
ダニエル・バーナード CBO
基調講演には、米国本社のダニエル・バーナードCBO(最高業務責任者)が登壇。Falcon Platformについて、シングルプラットフォームのため一度導入すれば、顧客が必要な機能を選んですぐに使い始められる点が競合ベンダーに対して大きな優位性を持っていると強調。サイバーセキュリティーは、最も急速に成長しているテクノロジーカテゴリーの一つで、その重要性は高まる一方であることから、市場規模も大きく伸びていくと強調。「脅威からデータを守りたいという顧客の課題は深刻で、その解決を支援する必要がある」と述べた。
バーナードCBOは、グローバルでみると企業の約半数が使っているセキュリティー製品はレガシーなアンチウイルスソフトにとどまっているとの見方を示し、「この場に来てくれたパートナーの皆さんは、レガシーアンチウイルスから(EDRや最新テクノロジーへ)の置き換えに長けている。市場にはまだまだ大きなチャンスがある」とさらなる販売拡大に期待を寄せた。
多くのモジュールで既存顧客へのアップセルも
またバーナードCBOは、自社に対する顧客の認識について「クラウドストライクを『EDRベンダーだ』と思っている人は多い」と述べ、「それは誤っている。パートナーの皆さんが、当社が提供している幅広いテクノロジーについて正しく伝える役割を担ってほしい」と呼び掛けた。パートナー販売に際して重視している点は、「製品単体ではなくプラットフォームの販売を拡大することだ」と説明。「EDRはほんの一部の機能に過ぎず、28のモジュールには非常に多くの機能がある。既存顧客に対してもアップセルの可能性が大きい」とアピールした。
バーナードCBOは、グローバルで向こう5~7年程度でARR100億ドルを突破する初めてのセキュリティーベンダーになるとの目標を紹介し、達成に向けてAPJを市場として非常に重視していることを強調。「パートナーの協力によって、単なる成長ではなく、爆発的に成長できることを確信している」と話した。
導入しているパートナープログラムでは、パートナーに対するインセンティブを大きくしていることを説明。「パートナーの皆さんにクラウドセキュリティーのエキスパートになってもらうことが重要だ」として、新しい製品が発売されたら、それが顧客にどういったメリットがあるのか理解した上で顧客に提案してほしいと求め、「正しい製品を正しく伝え、共に大きく成長していこう」と呼び掛けた。
インシデント対応を容易にする新機能
続いて、ラジ・ラジャマニCPO(最高製品責任者)が、サイバー攻撃の実態や同社が提供するセキュリティー機能の最新情報を解説した。サイバー攻撃の最新動向として、攻撃者はクラウド環境を特に狙っているわけではなく、多くの場合はエンドポイントから侵入し、クラウドへと横展開しようとしており、侵入から攻撃までの時間も短縮していると説明。他社のセキュリティー製品を利用していた企業から、アラートを解消しているにも関わらず侵害を受けたと相談を受けたという例を挙げ、「クラウド環境の構成や設定を監視しリスクを可視化するCSPM(Cloud Security Posture Management)機能を使うだけでは、侵害を食い止めるには不十分だ。エンドポイントからクラウドまで、あらゆる種類の攻撃をカバーする単一プラットフォームが必要になる」と強調。Falcon Platformは多様な攻撃に対応できる仕組みだからこそ支持されているとした。
ラジ・ラジャマニ CPO
ラジャマニCPOは、セキュリティー運用では、大量のインシデントに対して対応や復旧にかかる時間をいかに短縮するかが求められると指摘。複数のインシデント対応者がそれぞれ対応した内容について、共有ドキュメントにコメントを追加したり変更を加えたりすることで、共同での作業をスムーズにする新機能を紹介し「すべてのアナリストは、インシデントの洪水に対応するという課題をクリアし、単一のプラットフォーム上で作業の優先順位をつけることができる」と機能面の優位性を強調した。ほとんどの大企業がハイブリッドクラウドを活用している現状を踏まえ、「どんな環境のクラウドにも対応できる、全領域向けのソリューションを提供するのが当社の方針だ」と述べた。
シンポジウムでは、APJ各国のパートナーのうち売り上げ拡大など大きな成果を上げた企業への表彰も行われた。
日本語対応に積極投資
シンポジウム開催に合わせ、バーナードCBOと、APJのジョン・フォックス・チャネル担当バイスプレジデントが週刊BCNの個別取材に応じ、日本市場での販売戦略について説明した。日本市場は、グローバルで3位、APJの売り上げの25%を占める大きな市場で、経済規模や今後の成長可能性からみて非常に重要なマーケットだとの認識を示した上で、バーナードCBOは「新規顧客開拓、既存顧客のクロスセルも進んでいる。近く日本でナンバーワンセキュリティーベンダーになるだろう」と手応えを語った。
ジョン・フォックス バイスプレジデント
同社は販売の柱として、「Amazon Web Services(AWS)」上でサードパーティー製ソフトウェアやプロフェッショナルサービスを購入できる「AWS Marketplace」経由での販売を大きく伸ばしている。バーナードCBOは、パートナーがAWS Marketplaceから顧客のためにクラウドストライク製品を購入することで、より調達の利便性が高まるとメリットを強調。「パートナーは、迅速な購入によってビジネスを拡大できる場として活用してほしい」と話した。
フォックスバイスプレジデントは、日本進出から10年について「パートナー販売が順調に拡大しており、大きな成功を収めた」と評価しつつ「まだまだ成長のチャンスがある」と指摘。パートナーについては、日本で複数の大手ディストリビューターとパートナーシップを締結するなどある程度体制が固まったとして「拡大より、関係を深堀りしていきたい」と述べた。販売カテゴリーによって異なるパートナーによる販売が必要になってくるとの認識を示し「当社がベストソリューションだと考えるパートナーとより密接な付き合いをしていきたい」と展望した。
さらなるパートナービジネス拡大に必要な点として「パートナー自身が当社のセールスやエンジニアを介さずにクラウドストライクのストーリーを顧客に語ってもらえるようになる必要がある」。プラットフォームを理解し、包括的なサービスから顧客が必要とする機能を提案することが販売拡大のかぎになるとした。
APJ全体と日本のビジネス傾向の違いとして、フォックスバイスプレジデントは、企業が採用するモジュール数を比較すると、APJ全体に比べて日本では採用モジュール数が少ない傾向で、日本でのボリュームゾーンは五~七つの利用になっていると明らかにした。背景として、機能の日本語対応が済んでいるかどうかが壁になっているとの見方を示し、「新しいモジュールを採用するまでに英語圏の国より時間がかかっている」と説明。日本語対応が進めば採用モジュール数が増え、パートナーのアップセルにもつなげられるとして「ローカライズが重要だと考えており、そのための投資を進めている」と話した。
また、日本ではパートナーが顧客を支援し、顧客に代わって製品選定を行って提案、採用されるというケースが多いため、「パートナーに対してモジュールの教育が重要になる」との見解を示した。そのための支援として、製品トレーニングの提供に注力していると説明。パートナーの販売ポートフォリオを拡充するため、製品の売り方や技術について学ぶための日本語動画教育プログラムを提供したり、エンジニア向けのセミナーなどを開催したりしていることを紹介した。フォックスバイスプレジデントは、製品の日本語対応以外にも、マーケティング活動や社員の採用など日本向けに積極的に投資してきたとして、「エンタープライズでは導入が進んでいるが、SMB向けは多くの販売機会がある。パートナーとともに成長していくことに大きく期待している」と語った。