近年のセキュリティー市場において、存在感を示しているのが米CrowdStrike(クラウドストライク)だ。セキュリティープラットフォーム「Falcon Platform」で、EDR(Endpoint Detection and Response)をはじめとしたさまざまな機能をモジュールで提供し、セキュリティー強化の容易さが多くの企業に支持されている。日本法人の尾羽沢功社長は、エンタープライズ中心の顧客層をさらに広げるべく、パートナー施策の強化などに取り組み、最新のテクノロジーによるセキュリティー対策を全国の企業に届ける考えだ。
(取材・文/岩田晃久 写真/大星直輝)
会社の基礎づくりにフォーカス
──2022年2月から日本法人の代表を務められていますが、どのような部分を強化してきましたか。
私が入社したときは、営業組織はありましたが、例えば、サポート部隊がなくディストリビューターにすべてお願いしているなど、会社が完全なかたちにはなっていませんでした。そのため、会社の基礎をつくることにフォーカスして取り組みました。現在は、私の入社時と比較すると社員数は3倍近くになり、必要な部門も設置できたので、会社としてあるべきかたちになったと思います。
──近年の成長要因はどういった部分になりますか。
要因は三つあると考えています。まずは製品力です。シングルプラットフォームでセキュリティーを強化できるというコンセプトが市場で認知されたことが大きいですね。進化するサイバー攻撃に対抗するために、研究開発に積極的な投資を行い、常に製品を強化しています。次にパートナーです。国内では直販をしておらず、すべて間接販売です。その中で、当社の戦略を理解するパートナーが増加しています。実際、私が入社した時に比べてパートナー数は約3倍になりました。そして何より、社員が一生懸命に頑張って働いていることに尽きます。
──国内企業のセキュリティー意識についてはどう捉えていますか。
グローバルと比較すると、国内企業のセキュリティー意識はまだのんびりしているという印象を受けます。例えば、米国企業の場合、優れた製品があればすぐに導入しますが、国内企業の場合、SIerに何とかしてもらいたいなどの考えがあり導入に時間がかかります。こういった部分には、ギャップを感じています。また、日本市場では、予算と人が限られている中小企業のセキュリティーをどう強化していくかが重要になるため、そこの支援にもしっかりと取り組む必要があります。
セキュリティー運用を楽にする
──Falcon Platformの強みを教えてください。
現在は、EDR、次世代アンチウイルス、ID管理など27のセキュリティー機能をモジュールで提供しています。お客様はエージェントをインストールし、必要なモジュールを選ぶだけで対策の強化が図れます。このテクノロジーが最大の強みです。
すべてをシングルコンソールで管理できるため、運用が楽なのもポイントです。お客様と話をしていると、セキュリティーの悩みは二つだと感じています。一つはグローバルガバナンス、もう一つは運用です。(多くの企業は)自社が侵害を受けないのが当たり前と見ており、もし侵害を受けてしまうとSOC(Security Operation Center)やCSIRT(Computer Security Incident Response Team)で働く人たちは批判されてしまいますし、24時間対応しなければなりません。結果、疲れ切った状態で働いているケースが多くなっています。そのため、企業のCISO(Chief Information Security Officer)をはじめとしたマネジメント層は、運用に携わる人たちのモチベーションを維持するのに苦心されています。だからこそ、運用が楽になるというのはすごく重要なことです。
──運用の面では、23年に生成AIアシスタント機能「Charlotte AI(シャーロットAI)」を発表されました。
レポーティングといったSOCの業務をCharlotte AIが行うため、SOCで働く人たちの拘束時間を大幅に短くできます。セキュリティー業界は人手不足ですが、この課題を解決できる最適なツールだと考えています。
──IT市場では、多くのAI関連ソリューションが提供されるようになっています。AIを利用する中では、どういったセキュリティーリスクが考えられますか。
AIは完璧ではなく、必ずぜい弱性があるはずです。そこを攻撃者が攻めてくるケースが一つ挙げられます。加えて、承認されていないAIを社員が勝手に利用してしまい、そこから攻撃者に侵入されるといったリスクもあります。現在は、ブレークアウト時間(攻撃者が侵入してからネットワーク内で横展開するまでの時間)がどんどんと短くなっています。つまり、守る時間が短くなるということです。企業は攻撃者の先をいく対策を打ち、侵入する余地のない環境にしていかなければなりません。
AIを利用した脅威アクターの流行も予想されています。そこには、脅威インテリジェンスを活用して守りたいと思っています。
パートナーと市場を広げる
──セキュリティー市場では、XDR(Extended Detection and Response)への関心が高まっています。
非常に興味を持たれているお客様が多く、引き合いも増えています。XDRで大事なポイントは、ベンダー側の視点ではなく、お客様の視点で考えることです。当社は創業以来、ベストオブブリードの考え方を重視してきました。XDRでは、ネットワークセキュリティーや認証など(自社で)提供していない部分について、米Zscaler(ゼットスケーラー)、米Palo Alto Networks(パロアルトネットワークス)、米Okta(オクタ)といった、その分野に強いベンダーと協業し、そのベンダーの製品のログを取り込んで相関分析を行います。これは、セキュリティーの強化や運用においてあるべき姿でしょうし、実現できるのが当社のXDRの特徴です。
──クラウドストライクに対し、EDRのベンダーという認識を持つユーザーがまだ多い印象を受けます。さまざまなセキュリティー機能を提供できる強みをどう訴求していきますか。
総合的なセキュリティー対策を提供できるという部分の認知は広がっていますが、まだ途中という状況だと捉えています。総合セキュリティープラットフォームベンダーと言っても、理解してくださるお客様もいれば、理解されないお客様もいるので、EDRのほかにもさまざまなことができるという点を一つ一つ丁寧に説明するようにしています。
──販売戦略について教えてください。
当社では、従業員数2501人以上の企業をエンタープライズ、2500人以下の企業をコーポレートとしています。エンタープライズでの製品利用は進んでいるので、今後は、コーポレートと地方企業への販売を強化します。そのため、2月に全国に販路を持つSB C&Sとディストリビューター契約を結びました。既存のマクニカ、ネットワールドと合わせてディストリビューターが3社となり、国内のすべてをカバーできる体制になったので、結果を出すために本年度は勝負の年として頑張ります。
国内ではSOCを持たない企業が多いため、MDR(Managed Detection and Response)サービス「Falcon Complete」の提案を強化します。日本語対応していることが支持され、年々、利用が増えているので、国内のアナリストを増やしていく予定です。自社でMDRサービスを提供していますが、MSSP(マネージドセキュリティサービス事業者)経由での販売も伸ばしていきます。パートナーは単に製品を売るだけでは、今後、生き残っていくのが難しい状況です。付加価値を付けサービスとして提供するやり方は、国内市場にマッチしていると思います。既存のお客様には、テクニカルアカウントマネージャーを付けてしっかりとサポートしたいです。
──パートナーへの支援についてはいかがですか。
パートナー専任のSE部隊を強化しています。彼らのミッションは、パートナーに当社の最新のテクノロジーを理解してもらい、ファンになってもらうことです。そのほかにも、パートナーのSEに対しては、四半期に一度、「Falcon Tech Club」というイベントを開催し、最新情報を提供するといった取り組みもしています。認定資格制度も設けており、資格を取得されるパートナーのSEも増加しています。資格を持つパートナーが増えれば、お客様に安心して製品を使っていただけるので、今後も、多くの人に資格を取得してもらいたいですね。
私は、直販を考えていません。これからもパートナーとともにマーケットを広げていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「高いポテンシャルを持つ企業だ。やり方次第ではより会社を大きく成長させられると思っている」。日本法人の代表に就任した直後のインタビューで出た言葉だ。さまざまなITベンダーで結果を出してきた経験から、強みと課題をすぐに把握し、何をするべきかをイメージできていたのだろう。
その後、組織体制の整備や販路の拡大などに着手、成長スピードを大幅に加速させ、国内のセキュリティー市場において、トップベンダーの一角まで登り詰めた。
米国本社から日本法人への期待は年々高まっており、積極的な投資がされている。「プレッシャーを感じる」と話すが、その顔には自信が感じられた。現在は、中堅・中小企業や地方企業での製品利用の拡大を目指し、さまざまな施策を展開中だ。進化するサイバー攻撃に負けない社会をつくるためにその手腕を振るい続ける。
プロフィール
尾羽沢 功
(おばざわ いさお)
1959年12月生まれ。日本ルーセントテクノロジー(現ノキアソリューションズ&ネットワークス)、日本アバイア、SAS Institute Japanなどで要職を務めた。その後、インフォアジャパン、JDAソフトウェア・ジャパン、シトリックス・システムズ・ジャパンで社長を歴任。2022年2月に米CrowdStrike(クラウドストライク)日本法人のカントリー・マネージャーに就任。23年11月から現職。
会社紹介
【クラウドストライク】米CrowdStrike(クラウドストライク)の日本法人。セキュリティー統合プラットフォーム「Falcon Platform」上で、EDR(Endpoint Detection and Response)や次世代アンチウイルスなどのセキュリティー機能を提供する。米本社は2011年に創業。