法人向けLearning Management System(学習管理システム、LMS)が注目されている。コロナ禍を機にeラーニングの需要が急増したほか、リスキリングへの意識が高まっていることなどが背景にある。すでに多くの製品が登場する中、導入拡大に向けて各ベンダーはパートナーの役割を重要視している。堅調に推移するとみられている市場の動向を紹介する。
(取材・文/袖山俊夫 編集/齋藤秀平)
矢野経済研究所が2024年4月に発表した調査結果によると、LMSを含むeラーニング市場のうち、法人向け市場は着実に伸びている。20年度に862億5000万円だった市場規模は、23年度は1140億円になったと見込まれ24年度は1173億5000万円に達すると予測している。
同社は「コロナ禍で生じたeラーニングの特需(遠隔教育需要の急速な高まり)は完全に落ち着きがみられているものの、企業のDX推進、リスキリングへの対応としてeラーニングを志向する需要は高まる環境にあり、企業研修におけるeラーニングの利用は堅調な状況を維持している」と現状を分析。
将来の展望については「顧客の裾野拡大による小規模導入の増加からなる顧客単価の下落や競合状況の激化、学習塾・予備校業界の不振などを受けて市場成長率は鈍化傾向に進む」とするものの、「企業のDX推進やリスキリングへの対応としてeラーニングが志向される環境が引き続き高まっていくと考えられることなどから、市場は堅調な需要を維持し推移する」とみる。
富士通ラーニングメディア
豊富な実績を生かして課題を解決
富士通グループの総合人材育成企業である富士通ラーニングメディアは、人材育成・組織開発を支援するLMS「KnowledgeC@fe」を提供している。これまでに培った豊富な実績や知見、ノウハウを生かして、顧客の課題を多角的に解決できることなどを強みとする。
富士通ラーニングメディアの深谷眞・事業部長(左)と程田恭介・シニアマネージャー
KnowledgeC@feは、元々は富士通向けの学習基盤として構築された。人材育成企業として蓄積してきた研修運営の実績を踏まえ、研修の効果を最大限に高める設計になっているのが特徴。LMSとして国内で唯一、「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)」の認証を受けている強固なセキュリティーもアピールポイントになっている。
ほかにも、2700以上の豊富なコンテンツを提供できる点も強みと言える。機能面では、スマートフォンやタブレット端末に対応。ほかの受講者の投稿を確認したり、教材のテストやアンケートなどの作成をWeb上で完結したりすることができる。
営業戦略では、パートナー経由の販売に力点を置いている。富士通の製品・サービスを手掛ける販売パートナーに商材の一つとして取り扱ってもらっており、パートナーからは「課題解決を支援するソリューションとして提案したことで、お客様とのリレーションが強化できた」との声が多く寄せられているという。
導入企業数は右肩上がりになっており、業種や業界を問わずに活用されている。導入先の規模は従業員数が百~数十万人と幅広い。しかし、ナレッジエクスペリエンスサービス事業本部ナレッジプラットフォームサービス事業部の程田恭介・シニアマネージャーは「現状だと東名阪エリアでの販売が中心」と説明し、さらなる成長のためには、全国の企業への導入が必要との考えを示す。
導入拡大に向けて、同事業部の深谷眞・事業部長は、狙い目とする大手企業のニーズをしっかり取り込むことに加え、中小・中堅企業についても「富士通の製品を上手く活用しつつ、パートナーとの連携も進めながら導入を広げていきたい」と意気込む。
インソース
中堅・中小企業もターゲットに
講師派遣型研修事業や公開講座事業、ITサービス事業などを手掛けるインソースは、LMS「Leafシリーズ」を提供している。事業は好調に推移しており、利用組織やアクティブユーザー数は順調に伸びている。LMSへの需要は今後も続くとみており、新規パートナーの獲得を本格化させている。
同社によると、24年5月現在、Leafシリーズの有料利用組織数は698組織(前年同期比115.8%)、アクティブユーザー数は375万4000人(同141.7%)。利用組織も自治体や公官庁、民間企業など多岐にわたっている。加えて、カスタマイズ案件数も伸びているという。
Leafシリーズの中核製品である「Leaf Lightning」の最大の特徴は多機能性だ。具体的には、研修運営の負荷を軽減する研修管理や、知識定着を促す確認・テスト、受講者管理、人事評価の運用のWeb化などに関する機能を備える。さらに社内に数十人の専属エンジニアを確保し、機能を次々と追加。セルフケアeラーニングや職場環境改善プログラムなどのオプション機能を数多く用意しており、拡張性の高さも優位性になっている。
インソース 田中 俊 執行役員
Leaf Lightningが選ばれている理由について、執行役員でITサービス事業部の田中俊・部長は「同時アクセス無制限で全てのお客様に提供している冗長性と頑丈性に加え、シングルテナント方式で安全性を確保しているがある。さらに、上に国内のサーバーで運用していることも理由になっている」と説明する。
これまでは主に直販で導入を進めてきたが、23年11月にプラスアルファ・コンサルティングと結んだ包括的業務提携契約をきっかけに、導入をさらに広げる上でパートナーが重要になると判断。直近の注力領域の一つとして新規パートナーの獲得を掲げている。
特に自社のパッケージやサービスとLeafシリーズを組み合わせて販売する代理販売パートナーの拡大に取り組んでおり、SIerとの協業も見据えている。田中執行役員は「例えば、人事システムと連携させるかたちでLeafシリーズを顧客に導入すれば、継続的な利用につながり、当社の強みである拡張性も生かせる」と展望し、「顧客との契約が続く限り、当社は継続的にフィーを支払うため、長期に渡って収益が期待できる」と代理販売パートナーのメリットを説明する。
田中執行役員は「拡大が予想される市場で事業を伸ばしていくためには、大企業に加え、中堅・中小企業にも広げていく必要があり、東京以外のエリアの企業へのアプローチも重要になる」とし、「パートナーセールスを強力に展開していきたい」話す。
カオナビ
強みの領域から市場を開拓
カオナビは、タレントマネジメントシステム「カオナビ」のオプション機能として、LMS「ラーニングライブラリ」を提供し、カオナビとセットで活用することを推奨している。従業員ごとに受講や履歴・成績を管理できたり、学習理解度テストを作成・管理できたりと、LMSの定番機能を実装。受講対象者の選定や登録情報に基づいた講座レコメンドなど、従業員のキャリアプランやスキルとのマッチングを促す機能も充実させている。
カオナビの岩月順子氏(左)と田中瑛一・マネージャー
プロダクトデベロップメント本部カスタマーエクスペリエンス部Kaizen2グループの岩月順子氏は「数年前からリスキリングや人的資本経営などの言葉が注目されたことに伴い、多くの企業から引き合いが寄せられた。それらに応え、タレントマネジメントシステムの価値向上に寄与するオプション機能としてリリースするに至った」と経緯を紹介する。
ラーニングライブラリのリリースは、カオナビが以前から進めてきたパートナー企業との連携にも一定の効果をもたらしたと言えそうだ。アライアンス事業本部パートナーディベロップメントグループの田中瑛一・マネージャーは「当社はコンサルティングの能力や機能は持っていない。それだけに、顧客の経営戦略・人事戦略を上流から支援されているパートナーは非常に重要な存在だ。ラーニングライブラリによって、昨今、企業が注力するリスキリングや人的資本経営に関しても、より支援しやすくなっている」と語る。
パートナーとしては、近年の経営・人事トレンドに対応したラーニングライブラリを商談のきっかけとして顧客の課題に入り込むことが可能で、エンドユーザーへの提案の幅も広げられる。
カオナビは、SIerを含めた協業先の獲得や、カオナビの利用拡大につながると見込む。田中マネージャーは「セールスパートナー経由の販売拡大と紹介パートナーの拡大は重点施策と位置づけている」と述べる。
現状、LMSの市場には競合製品が多くある。岩月氏は「LMSの市場はまさに飽和状態だ。そこに対峙してもコモディティー化が進むだけで、価格競争にしかならない」と指摘し、「当社はタレントマネジメントシステムという強みを持っているので、その領域からLMSの新しい市場を開拓していきたい」と力説する。