Special Feature
シャープの液晶パネル工場 AI戦略の加速に向けた重要な節目に
2024/08/01 09:00
週刊BCN 2024年07月29日vol.2024掲載
シャープの液晶パネル工場である堺ディスプレイプロダクト(SDP、大阪府堺市)が、AIデータセンター(DC)として生まれ変わることになった。現在、KDDIとソフトバンクの両陣営との話し合いを進めており、その動きは液晶パネル生産が停止する8月下旬以降、一気に進展する可能性がある。シャープにとって新たな収益モデルに向けた大きな転換点であるとともに、両陣営にとってもAI戦略を加速するための重要な節目になりそうだ。
(取材・文/大河原克行 編集/齋藤秀平)
だが、稼働を開始した時期は、リーマン・ショックの影響で世界的にテレビ需要が低迷した時期と重なり、市場では液晶パネルの過剰生産によって価格競争が激化。競合する韓国勢が、政府の支援措置やウォン安を追い風に国際競争力を高めたのに対し、円高に苦しむシャープの液晶パネルの輸出台数は計画を大幅に下回り、工場の稼働率が上がらない状態に陥った。
シャープの業績がSDPの稼働率低迷によって急激に悪化する中、12年には、現在のシャープの親会社である台湾鴻海(ホンハイ)グループの郭台銘CEO(当時)の投資会社がSDPに出資し、社名を現在の堺ディスプレイプロダクトに変更。SDPの略称はそのまま使用した。さらに、凸版印刷と大日本印刷の子会社の液晶カラーフィルター事業もSDPに統合し、立て直しを図った。
それでも低迷した稼働率は改善されず、19年までに別の海外投資会社が約8割の株式を取得。シャープの持ち株比率は約2割となっていた。
シャープは、ホンハイ傘下で業績改善を進める中で、SDPの残り2割の株式売却を検討していたが、シャープ再建に尽力したホンハイ出身の戴正呉会長(当時)が、一転してSDPの完全子会社化を決定。戴氏が会長を退任する直前の22年6月にシャープがSDPを完全子会社化した。
SDPの赤字は、バトンを受け取った呉柏勲・副会長(当時は社長兼CEO)が率いる新体制の足かせとなり、シャープは22、23の両年度に2年連続で最終赤字を計上。再建策としてデバイス事業のアセットライト化をこのほど決定し、その目玉として液晶パネルの生産停止を発表した。
液晶パネルの生産停止が決まったSDPの建屋
呉副会長は「当初想定した再生計画の遂行が困難になり、SDPの生産停止を決定した」と語る。
シャープは、5月14日に開催した23年度連結業績発表で、24年9月末までにSDPの生産を停止し、AIDCに転換することを発表。SDPの生産業務従事者に対する社外転身支援プログラムを開始している。
最新の情報によると、SDPでは7月20日過ぎに最終の生産を開始し、約1カ月後にパネルを完成させて工場の操業を停止。8月下旬以降にAIDCへの移行が開始されることになる。現在、液晶パネルの生産設備の売却についても、外部企業に働きかけているという。
KDDIなどによる調印式の様子
KDDIなどは、米NVIDIA(エヌビディア)の最先端AI計算基盤である「GB200 NVL72」を約1000ユニット導入し、同計算基盤を導入したAIDCとしてはアジアで最大規模になると見込んでいる。
GB200 NVL72は、36個のGrace CPUと72個のBlackwell GPUを、一つのラック内で接続した水冷式ラックスケールソリューションで、参加するスーパーマイクロコンピューターが発熱量に対応可能なプラットフォームを提供。データセクションはAIDCの運営支援を行い、KDDIはネットワークの構築と運用をサポートする。シャープは電力の調達などを行うことになる。
KDDIは「AIが加速的に進化する中、急増するAI処理に対応できるAIDCの構築が求められている。だが、大規模なAI計算基盤を持つDCを構築するにあたっては、最先端の演算装置の調達、設備の発熱を抑える高効率な冷却システムの整備、電力および場所の確保の3点が課題となる。これらの課題に素早く対応したAIDCの構築を目指すべく、各パートナー企業のアセットを集結することになる」としている。
KDDIは、東京大学の松尾豊教授の研究室からスピンアウトしたAIスタートアップのELYZAを24年4月に子会社化。KDDIが持つ計算リソースを活用することで、日本語に特化した700億パラメータの国産LLMである「Llama-3-ELYZA-JP-70B」をELYZAが開発するなど、KDDIグループとしてAI分野に力を注いでいる。
KDDIの高橋誠社長CEOは「LLMの開発に伴う膨大な計算量に対応できるDCを構築する。中長期で1000億円規模の設備投資を行い、GPUなどの計算リソースを集積する。これにより、生成AIを活用した事業やサービスの共創を加速する。さらに、全国8拠点の通信センターと結び、快適なAIサービスの利用にも貢献したい」と述べている。三菱商事と共同経営するローソンでもAIを活用した「リアルテックなコンビニ」に取り組む考えで、大規模なAIDCの開設は、KDDIのAI戦略を一気に加速させることになる。
もう一つの陣営が、ソフトバンクである。グリーンフロント堺全体の約6割にあたる約44万平方メートルの敷地と、延べ床面積約75万平方メートルにおよぶ複数の建物に、受電容量で約150メガワット規模のAIDCを構築し、25年中の本格稼働を目指す。将来的には、受電容量を400メガワット超の規模まで拡大する見込みだという。
中央にあるSDPの建屋を含めてソフトバンクが譲り受けるエリア(赤枠内)
ソフトバンクは「AIDCの構築について、24年1月から協議を進めており、シャープ堺工場の土地や建物、電源設備、冷却設備などを譲り受けることで、DCの早期構築を図る。環境負荷が低いDCとして、クリーンエネルギーの活用を検討する予定である。生成AIの開発やAI関連事業に活用するほか、社外からのさまざまな利用ニーズに応えるため、大学や研究機関、企業などにも幅広く提供していく予定である」としている。
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は、人間を大きく超える知能を持つAIの集合体であるASI(Artificial Super Intelligence、人口超知能)の世界が訪れると予測。AIが自己学習したり、自己進化を行ったりすることで、自ら知識や能力を向上するものになるとしている。
そして、英Arm(アーム)を中心としたAIチップ、シャープの液晶パネル工場跡地で展開するAIDCや、ソフトバンクが出資をしている米Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資するロボット関連企業などと連携したAIロボットを通じて、ASIに対してグループ総力で取り組む姿勢を強調。中でも「AIDCは、ソフトバンクグループの総力をあげて、続々と世界中につくっていくべきだと思っている」と述べ、今回のAIDCの新設が第一歩になるとの意向を示している。
シャープの沖津雅浩社長兼CEOは「これ以上、新たな協業が増えることはない」としており、SDPのAIDCへの移行は、両陣営との協業で進められることになる。こうした状況で、KDDIとソフトバンクのライバル2社が、同じ敷地内でAIDCをどう共存させるのか、また、電気やガス、水道などのインフラ設備の共有をどうするのかといった点については、関係者が関心を寄せている。
AIDCでは、最新のGPUを搭載したサーバーが大量に設置されることになる。生成AIの学習に使用されるGPUは、今後、TDP(熱設計電力)が300ワットを超えると想定されており、既存の空冷方式では対応できず、高い冷却効率を持つ水冷方式が前提となる。サーバールームへの電力や水の供給が重要だが、SDPは、水冷ラックソリューションを導入する際の十分な電力供給が可能で、設備を支える耐荷重性も備えている。
AIDCとしての活用は、シャープにとってもメリットがある。沖津社長兼CEOは「SDPの建屋を貸与するか、売却するかは、現時点では決まっていない」としながらも、「AIDC関連ビジネスも推進することになる。AIDCでは、シャープが持っている技術などを生かせるように検討を開始しており、シャープにも相手にもメリットがあるかたちで敷地を活用していきたいと考えている」と語り、AIDCにより、新たな収益モデルを構築する考えを示す。「ホンハイが生産しているAIサーバーの販売やメンテナンス、サービスを事業化する方向での検討も開始した」と、ホンハイのノウハウも活用する姿勢だ。
呉副会長も「シャープの親会社であるホンハイは、AI向けサーバーの生産においては、世界で40%のシェアがあり、AIDCに関する構築ノウハウも持っている」と強調。「シャープが持つクラウドAIやエッジAIの活用も提案することができ、ストレージ、コンピューティングといったハードウェア面での協力も可能だ」とする。
シャープの本社
沖津社長兼CEOは「しっかりと利益を出すことは前提」とする一方、「(16年に堺市へ移した)本社を大阪市内に戻したいと考えている」と発言しており、本社移転を含むグリーンフロント堺全体の見直しに関しても注目が集まっている。
(取材・文/大河原克行 編集/齋藤秀平)

再建策の目玉で生産停止
SDPは、大阪湾に面した埋め立て地にある。敷地面積は127万平方メートルで、新日本製鉄(現日本製鉄)が製鉄工場として使っていた土地をシャープが取得し、「グリーンフロント堺」と命名。その中核として2009年10月にSDPを稼働させた。当時の社名はシャープディスプレイプロダクト。世界最先端だった第10世代の液晶パネルを生産し、大画面テレビのコスト競争力の強化に直結することが期待された。だが、稼働を開始した時期は、リーマン・ショックの影響で世界的にテレビ需要が低迷した時期と重なり、市場では液晶パネルの過剰生産によって価格競争が激化。競合する韓国勢が、政府の支援措置やウォン安を追い風に国際競争力を高めたのに対し、円高に苦しむシャープの液晶パネルの輸出台数は計画を大幅に下回り、工場の稼働率が上がらない状態に陥った。
シャープの業績がSDPの稼働率低迷によって急激に悪化する中、12年には、現在のシャープの親会社である台湾鴻海(ホンハイ)グループの郭台銘CEO(当時)の投資会社がSDPに出資し、社名を現在の堺ディスプレイプロダクトに変更。SDPの略称はそのまま使用した。さらに、凸版印刷と大日本印刷の子会社の液晶カラーフィルター事業もSDPに統合し、立て直しを図った。
それでも低迷した稼働率は改善されず、19年までに別の海外投資会社が約8割の株式を取得。シャープの持ち株比率は約2割となっていた。
シャープは、ホンハイ傘下で業績改善を進める中で、SDPの残り2割の株式売却を検討していたが、シャープ再建に尽力したホンハイ出身の戴正呉会長(当時)が、一転してSDPの完全子会社化を決定。戴氏が会長を退任する直前の22年6月にシャープがSDPを完全子会社化した。
SDPの赤字は、バトンを受け取った呉柏勲・副会長(当時は社長兼CEO)が率いる新体制の足かせとなり、シャープは22、23の両年度に2年連続で最終赤字を計上。再建策としてデバイス事業のアセットライト化をこのほど決定し、その目玉として液晶パネルの生産停止を発表した。
呉副会長は「当初想定した再生計画の遂行が困難になり、SDPの生産停止を決定した」と語る。
シャープは、5月14日に開催した23年度連結業績発表で、24年9月末までにSDPの生産を停止し、AIDCに転換することを発表。SDPの生産業務従事者に対する社外転身支援プログラムを開始している。
最新の情報によると、SDPでは7月20日過ぎに最終の生産を開始し、約1カ月後にパネルを完成させて工場の操業を停止。8月下旬以降にAIDCへの移行が開始されることになる。現在、液晶パネルの生産設備の売却についても、外部企業に働きかけているという。
両陣営の思惑
現在、AIDCには二つの陣営が名乗りをあげている。一つは、KDDIと米Super Micro Computer(スーパーマイクロコンピューター)、データセクションである。ここにはシャープも協業企業として参加することになる。
KDDIなどは、米NVIDIA(エヌビディア)の最先端AI計算基盤である「GB200 NVL72」を約1000ユニット導入し、同計算基盤を導入したAIDCとしてはアジアで最大規模になると見込んでいる。
GB200 NVL72は、36個のGrace CPUと72個のBlackwell GPUを、一つのラック内で接続した水冷式ラックスケールソリューションで、参加するスーパーマイクロコンピューターが発熱量に対応可能なプラットフォームを提供。データセクションはAIDCの運営支援を行い、KDDIはネットワークの構築と運用をサポートする。シャープは電力の調達などを行うことになる。
KDDIは「AIが加速的に進化する中、急増するAI処理に対応できるAIDCの構築が求められている。だが、大規模なAI計算基盤を持つDCを構築するにあたっては、最先端の演算装置の調達、設備の発熱を抑える高効率な冷却システムの整備、電力および場所の確保の3点が課題となる。これらの課題に素早く対応したAIDCの構築を目指すべく、各パートナー企業のアセットを集結することになる」としている。
KDDIは、東京大学の松尾豊教授の研究室からスピンアウトしたAIスタートアップのELYZAを24年4月に子会社化。KDDIが持つ計算リソースを活用することで、日本語に特化した700億パラメータの国産LLMである「Llama-3-ELYZA-JP-70B」をELYZAが開発するなど、KDDIグループとしてAI分野に力を注いでいる。
KDDIの高橋誠社長CEOは「LLMの開発に伴う膨大な計算量に対応できるDCを構築する。中長期で1000億円規模の設備投資を行い、GPUなどの計算リソースを集積する。これにより、生成AIを活用した事業やサービスの共創を加速する。さらに、全国8拠点の通信センターと結び、快適なAIサービスの利用にも貢献したい」と述べている。三菱商事と共同経営するローソンでもAIを活用した「リアルテックなコンビニ」に取り組む考えで、大規模なAIDCの開設は、KDDIのAI戦略を一気に加速させることになる。
もう一つの陣営が、ソフトバンクである。グリーンフロント堺全体の約6割にあたる約44万平方メートルの敷地と、延べ床面積約75万平方メートルにおよぶ複数の建物に、受電容量で約150メガワット規模のAIDCを構築し、25年中の本格稼働を目指す。将来的には、受電容量を400メガワット超の規模まで拡大する見込みだという。
ソフトバンクは「AIDCの構築について、24年1月から協議を進めており、シャープ堺工場の土地や建物、電源設備、冷却設備などを譲り受けることで、DCの早期構築を図る。環境負荷が低いDCとして、クリーンエネルギーの活用を検討する予定である。生成AIの開発やAI関連事業に活用するほか、社外からのさまざまな利用ニーズに応えるため、大学や研究機関、企業などにも幅広く提供していく予定である」としている。
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は、人間を大きく超える知能を持つAIの集合体であるASI(Artificial Super Intelligence、人口超知能)の世界が訪れると予測。AIが自己学習したり、自己進化を行ったりすることで、自ら知識や能力を向上するものになるとしている。
そして、英Arm(アーム)を中心としたAIチップ、シャープの液晶パネル工場跡地で展開するAIDCや、ソフトバンクが出資をしている米Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資するロボット関連企業などと連携したAIロボットを通じて、ASIに対してグループ総力で取り組む姿勢を強調。中でも「AIDCは、ソフトバンクグループの総力をあげて、続々と世界中につくっていくべきだと思っている」と述べ、今回のAIDCの新設が第一歩になるとの意向を示している。
シャープの沖津雅浩社長兼CEOは「これ以上、新たな協業が増えることはない」としており、SDPのAIDCへの移行は、両陣営との協業で進められることになる。こうした状況で、KDDIとソフトバンクのライバル2社が、同じ敷地内でAIDCをどう共存させるのか、また、電気やガス、水道などのインフラ設備の共有をどうするのかといった点については、関係者が関心を寄せている。
新たな収益モデルを構築
SDPの建屋は、地上4階建て、延床面積59万平方メートルの規模で、AIDCとして利用するには最適だと言える。生産設備は、露光措置だけでもテニスコート1面分ほどの大きさを持つ。AIDCでは、最新のGPUを搭載したサーバーが大量に設置されることになる。生成AIの学習に使用されるGPUは、今後、TDP(熱設計電力)が300ワットを超えると想定されており、既存の空冷方式では対応できず、高い冷却効率を持つ水冷方式が前提となる。サーバールームへの電力や水の供給が重要だが、SDPは、水冷ラックソリューションを導入する際の十分な電力供給が可能で、設備を支える耐荷重性も備えている。
AIDCとしての活用は、シャープにとってもメリットがある。沖津社長兼CEOは「SDPの建屋を貸与するか、売却するかは、現時点では決まっていない」としながらも、「AIDC関連ビジネスも推進することになる。AIDCでは、シャープが持っている技術などを生かせるように検討を開始しており、シャープにも相手にもメリットがあるかたちで敷地を活用していきたいと考えている」と語り、AIDCにより、新たな収益モデルを構築する考えを示す。「ホンハイが生産しているAIサーバーの販売やメンテナンス、サービスを事業化する方向での検討も開始した」と、ホンハイのノウハウも活用する姿勢だ。
呉副会長も「シャープの親会社であるホンハイは、AI向けサーバーの生産においては、世界で40%のシェアがあり、AIDCに関する構築ノウハウも持っている」と強調。「シャープが持つクラウドAIやエッジAIの活用も提案することができ、ストレージ、コンピューティングといったハードウェア面での協力も可能だ」とする。
沖津社長兼CEOは「しっかりと利益を出すことは前提」とする一方、「(16年に堺市へ移した)本社を大阪市内に戻したいと考えている」と発言しており、本社移転を含むグリーンフロント堺全体の見直しに関しても注目が集まっている。
シャープの液晶パネル工場である堺ディスプレイプロダクト(SDP、大阪府堺市)が、AIデータセンター(DC)として生まれ変わることになった。現在、KDDIとソフトバンクの両陣営との話し合いを進めており、その動きは液晶パネル生産が停止する8月下旬以降、一気に進展する可能性がある。シャープにとって新たな収益モデルに向けた大きな転換点であるとともに、両陣営にとってもAI戦略を加速するための重要な節目になりそうだ。
(取材・文/大河原克行 編集/齋藤秀平)
だが、稼働を開始した時期は、リーマン・ショックの影響で世界的にテレビ需要が低迷した時期と重なり、市場では液晶パネルの過剰生産によって価格競争が激化。競合する韓国勢が、政府の支援措置やウォン安を追い風に国際競争力を高めたのに対し、円高に苦しむシャープの液晶パネルの輸出台数は計画を大幅に下回り、工場の稼働率が上がらない状態に陥った。
シャープの業績がSDPの稼働率低迷によって急激に悪化する中、12年には、現在のシャープの親会社である台湾鴻海(ホンハイ)グループの郭台銘CEO(当時)の投資会社がSDPに出資し、社名を現在の堺ディスプレイプロダクトに変更。SDPの略称はそのまま使用した。さらに、凸版印刷と大日本印刷の子会社の液晶カラーフィルター事業もSDPに統合し、立て直しを図った。
それでも低迷した稼働率は改善されず、19年までに別の海外投資会社が約8割の株式を取得。シャープの持ち株比率は約2割となっていた。
シャープは、ホンハイ傘下で業績改善を進める中で、SDPの残り2割の株式売却を検討していたが、シャープ再建に尽力したホンハイ出身の戴正呉会長(当時)が、一転してSDPの完全子会社化を決定。戴氏が会長を退任する直前の22年6月にシャープがSDPを完全子会社化した。
SDPの赤字は、バトンを受け取った呉柏勲・副会長(当時は社長兼CEO)が率いる新体制の足かせとなり、シャープは22、23の両年度に2年連続で最終赤字を計上。再建策としてデバイス事業のアセットライト化をこのほど決定し、その目玉として液晶パネルの生産停止を発表した。
液晶パネルの生産停止が決まったSDPの建屋
呉副会長は「当初想定した再生計画の遂行が困難になり、SDPの生産停止を決定した」と語る。
シャープは、5月14日に開催した23年度連結業績発表で、24年9月末までにSDPの生産を停止し、AIDCに転換することを発表。SDPの生産業務従事者に対する社外転身支援プログラムを開始している。
最新の情報によると、SDPでは7月20日過ぎに最終の生産を開始し、約1カ月後にパネルを完成させて工場の操業を停止。8月下旬以降にAIDCへの移行が開始されることになる。現在、液晶パネルの生産設備の売却についても、外部企業に働きかけているという。
(取材・文/大河原克行 編集/齋藤秀平)

再建策の目玉で生産停止
SDPは、大阪湾に面した埋め立て地にある。敷地面積は127万平方メートルで、新日本製鉄(現日本製鉄)が製鉄工場として使っていた土地をシャープが取得し、「グリーンフロント堺」と命名。その中核として2009年10月にSDPを稼働させた。当時の社名はシャープディスプレイプロダクト。世界最先端だった第10世代の液晶パネルを生産し、大画面テレビのコスト競争力の強化に直結することが期待された。だが、稼働を開始した時期は、リーマン・ショックの影響で世界的にテレビ需要が低迷した時期と重なり、市場では液晶パネルの過剰生産によって価格競争が激化。競合する韓国勢が、政府の支援措置やウォン安を追い風に国際競争力を高めたのに対し、円高に苦しむシャープの液晶パネルの輸出台数は計画を大幅に下回り、工場の稼働率が上がらない状態に陥った。
シャープの業績がSDPの稼働率低迷によって急激に悪化する中、12年には、現在のシャープの親会社である台湾鴻海(ホンハイ)グループの郭台銘CEO(当時)の投資会社がSDPに出資し、社名を現在の堺ディスプレイプロダクトに変更。SDPの略称はそのまま使用した。さらに、凸版印刷と大日本印刷の子会社の液晶カラーフィルター事業もSDPに統合し、立て直しを図った。
それでも低迷した稼働率は改善されず、19年までに別の海外投資会社が約8割の株式を取得。シャープの持ち株比率は約2割となっていた。
シャープは、ホンハイ傘下で業績改善を進める中で、SDPの残り2割の株式売却を検討していたが、シャープ再建に尽力したホンハイ出身の戴正呉会長(当時)が、一転してSDPの完全子会社化を決定。戴氏が会長を退任する直前の22年6月にシャープがSDPを完全子会社化した。
SDPの赤字は、バトンを受け取った呉柏勲・副会長(当時は社長兼CEO)が率いる新体制の足かせとなり、シャープは22、23の両年度に2年連続で最終赤字を計上。再建策としてデバイス事業のアセットライト化をこのほど決定し、その目玉として液晶パネルの生産停止を発表した。
呉副会長は「当初想定した再生計画の遂行が困難になり、SDPの生産停止を決定した」と語る。
シャープは、5月14日に開催した23年度連結業績発表で、24年9月末までにSDPの生産を停止し、AIDCに転換することを発表。SDPの生産業務従事者に対する社外転身支援プログラムを開始している。
最新の情報によると、SDPでは7月20日過ぎに最終の生産を開始し、約1カ月後にパネルを完成させて工場の操業を停止。8月下旬以降にAIDCへの移行が開始されることになる。現在、液晶パネルの生産設備の売却についても、外部企業に働きかけているという。
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