生成AIの開発・導入に取り組む企業の増加により、大電力を消費するGPUサーバーを設置可能なデータセンター(DC)の需要が急増している。これまでのDCの仕様ではGPUサーバーへの対応が難しいケースが出てきているが、新たな建屋を設計・建設していては直近のニーズに間に合わせることは難しい。そこで注目を集めているのが、コンテナなどの中にIT機器を搭載することで、素早くDCを展開できるコンテナ型DCだ。コンテナはDC投資の新たな主流となるのか、コンテナ型DCに取り組む各社に聞いた。
(取材・文/日高 彰、大向琴音、大畑直悠)
ラックあたりの電力は10倍以上に
政府は経済安全保障推進法に基づき、AI用の計算資源を国内で安定供給することを目指し、23年度から国内のクラウド事業者に向けてGPUサーバーの調達支援を開始した。これまでに総額1200億円以上の助成を行っており、国内の通信事業者やクラウド事業者、DC事業者がGPUサーバーの配備に一斉にかじを切ったことで、各地で生成AI向けDCの展開が加速している。
GPUサーバーは従来の一般業務向けのサーバーに比べて大きな電力を消費し、大量の熱を発生させる。従来のDCは1ラックあたり3~4kWの電力供給、冷却ができるように設計されていたが、GPUサーバーを満載するとなると50kW程度を想定する必要があり、給電・冷却とも従来の設計では対応できない。現在のDCにGPUサーバーを設置した場合、1本のラックにサーバーが1~2台しか搭載できないといった状態となり、設備の運営効率としては非常に悪い。また、高密度でGPUサーバーを搭載するとなると、本紙2050(2025年3月10日)号の特集「水冷GPUサーバーの販売増へ」でも伝えた通り、DCも水冷への対応が前提となる。
とはいえ、GPUサーバーの導入を目的としたDCを新たに建てるとなると、設計や施工に加えて、建設確認など手続き面での時間も要するため、数年単位のプロジェクトになり目の前の需要に応えることはできない。最新の製品の仕様に合わせて建屋を設計しても、GPUサーバーや生成AIの技術トレンドが変わり、数年後には設備が陳腐化してしまうおそれもある。建設業界の人手不足やコスト増で、大規模な建物に対する投資が難しくなっているという現状もある。
貨物コンテナなどの中にサーバーやネットワーク機器、電源・冷却設備などを搭載するコンテナ型DCが注目を集めている背景には、このようなGPUサーバーに関する需要と技術的な制約がある。コンテナ型DC自体は、遠隔地の拠点へのDCの展開や、遊休地の活用といった目的で従来から一部で活用されてきた設備形態だが、ここ数年の動きとしては、従来型DCでカバーできない生成AI特需に対応するには、コンテナ型を選択せざるを得ないという側面も大きい。
大量GPUの迅速な配備にはコンテナ型の選択が必然
さくらインターネットは、経済産業省の認定を受けて得た助成金を活用し、27年末までに同社の石狩データセンター(北海道)に1万基のGPUを整備する計画を進めている。石狩データセンターは現在1号棟から3号棟までがサービスの提供に用いられているが、同社では当初4号棟の建設予定地として確保していた土地に、建屋ではなくコンテナを並べ、水冷に対応したGPUサーバーの配備を進めている。
さくらインターネット
宍戸隆志 執行役員
同社でDC構築の責任者を務める宍戸隆志・執行役員は、コンテナ型での整備を決定した理由として「ビル型のDCはGPUサーバーの仕様に合わせるのが難しく、工事期間も長くかかるのに対し、コンテナ型であれば早くできる」ことを挙げ、タイトなスケジュールの中で、GPUサーバーへの投資の決定からサービス投入までの時間を短縮することが最大の目的だったと説明する。
現在の空冷方式では、今後GPU数を1万基まで拡大するにあたり、スペースの利用効率に無理があった。水冷など新たな冷却技術へ対応しやすい点もコンテナ型を選択する理由となった。
同社のコンテナ型DCではCPUやGPUに接触するプレートに冷水を流して冷却する直接液体冷却(DLC)方式を採用し、空冷に比べ高密度でGPUサーバーをラックに搭載可能とした。宍戸執行役員は「DLCはHPCなどの分野で実績のある技術なので、大きな課題はなかった。配管や、冷却液の温度などもメーカーの定めた仕様があるので、それに従えば良い」と話し、水冷を導入することに自体に大きな技術的チャレンジはなかったという。同社では11年に高電圧直流(HVDC)給電の技術検証を行った際にコンテナ型DCを用いており、コンテナの取り扱いについて一定の知見があったこともスムーズな導入を可能にした。
同社のコンテナ型DCは自社のサービス運営基盤として展開しており、コンテナ型DC自体を外販する計画はないが、DC構築のアドバイザリーサービスも一部手がけており、コンテナ型DCの構築支援を他社から求められた場合は、今回の知見を外部にも提供していく考え。また、現在施工を進めている25年度の投資分に加え、GPU1万基の計画実現に向けて26年度以降もコンテナ型DCの設置を段階的に進めていく方針だ。
自社に基盤を置けない企業にモジュール型DCで対応
インターネットイニシアティブ(IIJ)は11年、同社の松江データセンターパーク(島根県)を開設するにあたりコンテナ型DCを採用した。外気冷却機構を採用したコンテナ型DCは当時国内初の取り組みだった。同社では、コンテナ型DCの構築・運用で得たノウハウを活用した外販用製品「co-IZmo/I」なども用意し、ユーザー企業の屋外拠点に展開できるDCとして提供している。
IIJ
久保 力 本部長補佐
11年時点のコンテナ型DCは当然GPUサーバーの導入を想定としたものではなく、同社としてクラウドサービスを提供するための基盤の整備が目的だった。基盤エンジニアリング本部の久保力・本部長補佐は「1ラックあたり3~4kWを想定していた従来のDCに対し、クラウドの提供では10kW程度に対応する必要があった。また、クラウドサービスの提供にあたりエネルギー効率を高めるため、外気冷却を導入したかったのもコンテナ型にした理由だった」と説明する。自社クラウドサービスの需要がどの程度のスピードで伸びていくか予測しにくい状況で、リスクを抑えながら段階的に投資が行える点でも、コンテナ型DCが有利と判断した。
同社では現在のところGPUサーバーを大規模に導入したGPUクラウドサービスは提供していないが、23年からPreferred Networks、北陸先端科学技術大学院大学と共同でエネルギー効率の高いAI計算基盤の研究を行っており、ここでは高度な空調制御と水冷を組み合わせた、ハイブリッド冷却方式を導入したコンテナ型DCの開発を進めている。
また、サーバーラック、UPS、冷却装置などのモジュールを並べることで屋外にDCを構築できる、「モジュール型エッジデータセンター」を、受配電設備大手の河村電器産業と共同開発し、3月11日に発表した。「キュービクル」と呼ばれる、ビルの受電装置などに用いられるキャビネットの中にサーバーラックなどを搭載。サーバー自体は空冷式だが、排熱に水冷を使用する「In-Row空調」方式を採用し、1モジュールあたり45kWの電力供給・冷却が可能となっている。
キュービクルを活用したモジュール型エッジデータセンター
基盤エンジニアリング本部エンジニアリング事業推進室の室崎貴司・副室長は、「24年ごろから、1ラックあたり10kWを超えるDC構築の引き合いが増えている」と話し、GPUサーバーを導入したいが、対応するDCが見つからないといった相談が寄せられているという。生成AIの開発や利用を本格化したいが、自社の現状の設備ではGPUサーバーを設置できないという企業に向けて販売する計画で、価値検証を実施するパートナーを募集している。25年度下期の製品化を目指す。
IIJ
室崎貴司 副室長
今後の主流か、それとも過渡期か
では、今後新たなDCの投資においては、ビル型よりもコンテナ型が主流となるのだろうか。さくらインターネットの宍戸執行役員は「外部から絶対に触れられたくないIT資産を、コンクリート製の堅固な建屋内に収容したいという需要は確実に残る」と述べ、異なるニーズに対応するため、ビル型とコンテナ型それぞれに対する投資を、需要を見ながら柔軟に検討していく考えを示した。
IIJの久保本部長補佐は、「今はIT側の要件が定まっていない過渡期だと考えている。DCが大規模になればなるほど、原理的には1ラックあたりのコストはビル型のほうが安くなっていく」と話し、GPUサーバーが要求する電力や冷却性能の拡大に一定のめどが付き、AI向けDC構築のベストプラクティスが蓄積されてくれば、AI用途でも再びビル型DCが主流になる可能性を示唆した。また、「発電機などの電気設備は納期が長いことがあり、その場合ビル型の新設と期間が大差ないこともある」(久保本部長補佐)といい、コンテナ型を選択することで工期を劇的に短縮できるとは限らないことに注意が必要とした。
サービス事業者に新たな収益機会を提供
電気通信工事大手のミライト・ワンは3月6日、コンテナ型DCの設置に加え、サーバーの調達や運用までをトータルで行う「コンテナDCワンストップソリューション」の提供を開始した。同社は通信キャリアなどのサービス事業者向けに工事や保守・運用のサービスを提供しているが、今回のサービスでは、AI向けDCの制御ソリューションを手がけるモルゲンロットと協業し、建物を含めたハードウェア面だけなく、ユーザーにGPUリソースをオンデマンドで供給するクラウドサービスの部分まで担う点に特徴がある。
ミライト・ワン
宮崎達三 専務
GPUを利用したいユーザーがサービスにアクセスすると、事業者が保有するコンテナDCの中から、計算力に余剰があるコンテナとのマッチングが図られるという。同社取締役でみらいビジネス推進本部長グローバル事業推進本部担当の宮崎達三・専務執行役員は「コンテナ型DCを一貫して提供できるのは国内で唯一無二の強み。年間で10の案件を獲得し、70~100億円の売り上げを目指す」とし、急拡大する生成AI市場からサービス事業者が早期に収益を得るための仕組みとして提案を図る。また、冷却液の重量も加味すると従来のビル型DCでは耐荷重が足りないケースがあり、水冷方式の普及もコンテナDCの市場拡大を後押しする要因になるとしている。