【米ワシントンD.C.発】米Nutanix(ニュータニックス)は、米ワシントンD.C.で5月7~9日(米国時間)の3日間にわたって年次プライベートカンファレンス「Nutanix .NEXT 2025」を開催した。米Broadcom(ブロードコム)が米VMware(ヴイエムウェア)の買収後に新たな製品戦略を開始して1年あまりが経過する中、ニュータニックスはVMware環境からの移行先として最右翼の一社と見られている。会期中には新たなパートナーシップや大型事例を相次いで発表し、この1年で顧客やパートナーの期待に応える体制を着実に構築してきたことをアピールした。
(取材・文/五味明子、編集/日高 彰)
基調講演でカンファレンスのテーマ“Run Anything Anywhere”を掲げる
ニュータニックスのラジブ・ラマスワミCEO
「パートナーはわれわれのビジネスにとってノーススター(北極星)。パートナーエコシステムの拡大こそが“Run Anything Anywhere”、そして2年前に掲げた“Build Once, Run Anywhere”の実現に近づくかぎとなる」
ニュータニックスでアジア太平洋地域(APJ)チャネルセールス部門を担当するマイケル・マグラ・バイスプレジデントは、.NEXT 2025の期間中に実施した筆者とのインタビューで、同社におけるパートナービジネスの重要性をこう強調した。
米Nutanix
マイケル・マグラ バイスプレジデント
今回のカンファレンスのテーマとして掲げられた“Run Anything Anywhere”は、AIエージェントに代表される最先端のAIワークロードからERPのような基幹システムまで、ありとあらゆるアプリケーション/ワークロードをどんな環境(物理/ベアメタル/パブリッククラウド/エッジなど)でも動かすという同社のビジョンにあらためてコミットしたものだが、特にVMware製品からの移行を検討する企業が急増している現在、それら企業のニーズを捉えるためのパートナーシップ強化が今回のカンファレンスでは目立った印象だ。
その最たるものが、ストレージや仮想化などの機能を提供する基盤製品であるNCI(Nutanix Cloud Infrastructure)における、米Pure Storage(ピュア・ストレージ)の「FlashArray」シリーズのサポートだ(2025年後半に一般提供予定)。これは1年前の「.NEXT 2024」で発表した、米Dell Technologies(デル・テクノロジーズ)の「PowerFlex」に続く外部ストレージ機器のサポートとなる。これまで外部ストレージのサポートが手薄だったことが、VMwareユーザーのニュータニックスへの移行のハードルとなっていたが、これを改善する動きにさらに力を入れてきた。
そして会期中には、VMwareのエンドユーザーコンピューティング製品がスピンアウトして立ち上がった米Omnissa(オムニッサ)や、Linuxディストリビューション「Ubuntu」の開発元である英Canonical(カノニカル)、そして「Google Cloud」などとの新たなパートナーシップを矢継ぎ早に発表。顧客の選択肢を広げる最大の推進力がパートナーエコシステムの拡大であることをあらためて示したといえる。
東芝が2200台のVM移行を発表
.NEXT 2025に参加した顧客/パートナーの最大の関心事が、VMwareからの移行に対するニュータニックスの対応であったことは間違いない。ブロードコムがVMwareの買収を完了させ、永続ライセンスを廃止するなどライセンス体系の大幅な変更を発表したのが24年2月で、以来、多くのユーザー企業が大幅なコスト増を嫌ってVMwareからの移行を検討し始めた。
(右から)ニュータニックス・ジャパンの金古毅社長、
東芝インフォメーションシステムズの濁川克宏フェロー、
同社デジタルエンジニアリングセンター マネージドサービス・インフラビジネスユニットの落合信・統括責任者、ニュータニックス・ジャパンの荒木裕介・執行役員
マグラバイスプレジデントはVMwareユーザーの傾向について「VMwareのユーザー企業が100社あるとする。そのうち50社は当面、VMwareの顧客であり続けることを選び、30社は移行を望むもののある程度の時間を必要としており、残りの20社はいますぐVMwareから移行したいと希望している」と指摘しているが、同時に「彼らがどんな選択をしても、われわれはそれを尊重する。たとえ現在はVMware環境を維持するという決定をしたとしても、われわれとコンタクトを取り続けるユーザーは少なくない」とも語っており、ユーザー企業が自ら選択する姿勢が移行の成功には欠かせないとしている。
ブロードコムによるVMware買収以来、ニュータニックスはVMwareの移行先として頻繁に名前が挙がる候補だが、1年前の.NEXT 2024の時点では、ニュータニックスにも移行を推進するためのポートフォリオやサポート体制が完全に整っている状態ではなく、そのためVMwareユーザーの動向を慎重に見極めていた節があった。だが、HCI以外のポートフォリオも拡充し、グローバルでの移行案件が増えた今年は、1年前よりもはるかに強い自信を見せており、顧客のあらゆる“選択”を受け入れる準備をより整えてきた印象だ。
そうしたニュータニックスとユーザー企業のこの1年の変化を象徴する事例が、東芝のVMwareからの移行決定だろう。同社は25年10月から2200台の仮想マシン(VM)を、約2年かけてニュータニックスのHCI環境に移行することを今回のカンファレンスで明らかにし、グローバルからも大きな注目を集めた。この規模でVMware環境からニュータニックスへの移行を明らかにしたのは、日本企業では東芝が初となる。
16年来のVMwareユーザーだった東芝が移行を決めた最大の理由は、やはりコスト増だった。24年2月のライセンス改定でブロードコムから示された価格に「もう付いていくことは難しい」(東芝インフォメーションシステムズの濁川克宏・フェロー技術統括責任者)と判断したという。移行の選択肢は数多くあったが、最終的にニュータニックスに決定した要因として濁川フェローは「最大の決め手はニュータニックスのHCIがコスト削減に寄与できそうだという点、あとは2200ものVMを管理するためのツールが充実している点も高く評価した。製品のロードマップに関する説明も丁寧で、今後も東芝のインフラを継続的にサポートしてくれると感じた」と話す。
移行に2年をかける方針について濁川フェローは「(ニュータニックスの)ラジブ・ラマスワミCEOからは『2年と言わず、もっと短い期間で移行することも可能』と言われたが、社内の事業部間の調整もあり、業務への影響を最小限に抑えながら段階的に移行することを選択した。長い道のりではあるが、まずは今回のリフト&シフトを2年で無事に完了させ、クラウドネイティブな環境構築やグローバルへの適用など次のフェーズに移る試金石にしたい」と語る。
東芝の移行決定に対し、ニュータニックス・ジャパンの金古毅コーポレートバイスプレジデント兼代表執行役員社長は「大規模移行を成功させる自信はある。だが、それ以上に大変な重責を担っているという思いのほうが強い。プロジェクト開始から本稼働まで、日本法人はもちろんのこと米国本社の開発チームも交えた体制でしっかりとお支えしていきたい」と全面的なサポートを行うことを約束している。
また、濁川フェローは次のようにもコメントしている。「今回、われわれがあえてニュータニックスへの移行を明らかにした理由の一つに、グローバルにおける日本企業のプレゼンスを上げたいという思いもあった。東芝の事例公開がほかの日本企業にとって導入のきっかけとなり、外資系ベンダーが日本企業の要望を聞いてくれる機会が増えればうれしい」
パートナーのマネージドサービスにも最適な基盤に
ラマスワミCEOは「日本企業は変わりつつある」と指摘する。日本のパートナー企業も国内市場におけるトレンドの変化を感じているのだろうか。大企業だけでなく中堅・中小企業や地方にも広く顧客を抱えるNECフィールディングの平井真樹・執行役員常務は「時代が大きく速く変わっていることは顧客も敏感に感じ取っている。われわれもその変化にあわせ、メインビジネスを人月型からオファリング型へと転換しつつある」と語る。
NECフィールディング
平井真樹 常務
同社はマネージドサービスをオファリングモデルとして提供しており、そのメニューでニュータニックスの仮想環境の構築や移行、保守・運用監視を含めたトータルサービスを提供している。マネージドサービスは情報システム部門の人員・スキル不足に悩む企業に自動化や効率化のメリットを24時間365日提供できる基盤として人気が高く、将来的にAIワークロードの運用を検討している企業にとっても魅力的な選択肢だ。
「当社には、どうしてもオンプレミスの環境を手放せないという顧客が多い。例えば、文教・医療などの顧客はセキュリティーやプライバシーの関係でデータをパブリッククラウドに上げられないこともある。ニュータニックスのソリューションはオンプレとハイブリッドクラウドを組み合わせて提供できるため、マネージドサービスの基盤として適している部分が非常に多い」(平井常務)。
今回のカンファレンスでニュータニックスが発表した内容に関して平井常務は「最初は“HCIの会社”だったニュータニックスが、ソフトウェアインフラベンダーとしてどんどん変わっていく姿を見てきたが、今回はこれまでに加えてさらに選択肢を広げてきたように思う。ニュータニックスが提供する選択肢が増えれば、われわれパートナーの選択肢も増える。とくにワンプラットフォームでクラウドや仮想環境、ベアメタルまで広くサポートする動きに期待している。ただ、(コンテナ環境を管理・運用する)Nutanix Kubernetes Platformなどは、保守・運用を行う企業にとってそれなりの技術者が必要な分野でもある。われわれもパートナーとしてしっかりと新しい製品を検証し、スキルアップを図りながら、顧客に提供するマネージドサービスの基盤に反映し、顧客のビジネスを支えていきたい」と語る。
時代のニーズを取り入れたニュータニックスの進化をパートナーが吸収し、パートナーの成長が顧客のビジネスに変化を与えるエコシステムが日本でも徐々に形成されつつあるようだ。
ノックする側からノックされる側に
「2年前に日本に行ったときはニュータニックスのことを知らない企業も多く、こちらから連絡しても会ってもらえないこともあった。だがこの4月に日本に行ったときは相手のほうから先に会いたいと言ってくるようになった。ノックする側からノックされる側に変わったと確信した」
ラマスワミCEOは、報道関係者向けのラウンドテーブルで日本企業の反応の変化についてこう表現した。VMwareのオルタナティブとして注目されながらもHCIベンダーのイメージから抜けきれなかった2年前に比べ、パートナーエコシステムの拡大と多くの大規模移行事例の成功により、現在ではVMware移行の最有力候補として名前が挙がるほどの実績を積み上げてきた。これから数年後、“VMwareの移行先”というラベルを超えた、ニュータニックスならではのかたちでソフトウェアベンダーとしてのプレゼンスを上げることができるのか、その重要なかぎがエコシステムのさらなる拡大にあることは間違いない。