2025年のIT市場は、AIを軸に市場拡大の動きが加速している。インフラ面では、生成AI活用のためGPUサーバーへの需要が高まる中、メーカー各社はGPUが発する大量の熱に対処できる水冷方式のサーバー製品でシェア拡大を狙う。ソフトウェアでは、AIが自律的に業務を行うAIエージェントの開発、ビジネス実装を目指す動きが一気に進んだ。人口減が進む日本において、業務効率化や生産性向上にIT業界が果たす役割はますます高まっている。25年上期(1~6月)の「週刊BCN」の紙面を振り返りながら、IT業界の新たな商流とビジネスチャンスのありかを考える。
(構成/堀 茜)
Chapter1
生成AIを支えるインフラ
25年は生成AIのビジネス実装が進むとみられている。生成AIに欠かせないのがGPUを搭載したサーバーだが、高性能になるほど課題となるのが、GPUが発する大量の熱をどう処理するかという問題だ。
3月10日・2050号の「
水冷GPUサーバーの販売増へ 生成AI需要とDC受け入れ整備が後押し 」では、主要サーバーメーカーが、発熱量の多いGPUサーバーを冷却効率が高い水冷方式を採用することで効率良く冷やし、高まる生成AI需要に対応する動きをまとめた。
3月10日・2050号の紙面
従来のサーバーは空冷が主流だが、今後、GPUサーバーの消費電力がより増える見込みであることから、冷水の配管を発熱部位であるGPUに直接接触させて冷やす「直接水冷」の需要が急増すると予想されている。これを商機とみて、メーカー各社はそれぞれの強みを生かし、水冷の製品の販売拡大を狙う。
ただ、課題としては、データセンター(DC)側の水冷サーバーの受け入れ体制が整っていなかったり、水冷方式が威力を発揮するラックあたり100kW級の大電力を供給できるDC設備が限られるなどの背景もある。メーカー側は、生成AIを活用するユーザー企業が増え、水冷方式のGPUサーバーを受け入れることが可能なDC設備の整備が進み、大電力を供給できるDCが増えれば、市場全体の水冷サーバーの比率が高まり販売増も見込めると予測する。
DCの設備がGPUサーバー向けに整うには一定程度時間が必要になる。3月24日・2052号では、「
GPUサーバー特需対応の切り札となる コンテナ型データセンター 」を掲載。従来型DCでカバーできない生成AI特需に対応するために、コンテナ型のDCを展開するベンダーの動きを紹介した。
さくらインターネットは、27年末までに同社の石狩データセンター(北海道)に1万基のGPUを整備する計画を進めている。その一部敷地内に、建屋ではなくコンテナを並べ、水冷に対応したGPUサーバーの配備を進めている。コンテナ型での整備を決定した理由として、ビル型のDCはGPUサーバーの仕様に合わせるのが難しく、工事期間も長くかかるのに対し、コンテナ型であれば早くできる点を挙げた。需要が一気に拡大する中、GPUサーバーへの投資の決定からサービス投入までの時間を短縮することに注力する。
Chapter2
注目高まるAIエージェント
登場以来注目を集め続けている生成AIだが、25年前半は、対話型だけでなく、自立的に業務を実行するAIエージェントが急速に存在感を高めた。
6月16日・2063号「
セールスフォース・ジャパンの『Agentforce』戦略 AIエージェントが企業の挑戦を後押しする労働力に 」では、AIエージェント機能群の国内展開を加速させる同社の戦略について伝えた。
6月16日・2063号の紙面
最新版のソリューション「Agentforce 2dx」では、人間の指示を受けなくてもAIエージェントが自律的に動作する機能を用意。さまざまな業務プロセスの中へのAIエージェントの組み込みを可能とした。国内でのビジネスの状況としては、業種業態や企業規模を問わず幅広い企業の本番環境で稼働しており、すでに実装フェーズに入っているという。AIエージェントの導入が進む背景としてセールスフォース・ジャパンは、労働力不足の問題を指摘する。同社は、AIエージェントの導入で既存の業務を代替するというよりも、これまで人手が足りず実現できなかった対人コミュニケーションを伴う業務などを任せられるようになるとみている。
5月26日・2060号では、米ServiceNow(サービスナウ)が米ラスベガスで開催した年次イベントでAIエージェントの製品方針を示した内容を「
米ServiceNow、CRMを新しい事業の柱に 複数AIエージェントの活用を支える 」と題して詳報した。
同社はこれまで「Now Platform」として提供してきた、製品・サービスの統合基盤を「ServiceNow AI Platform」として新たに打ち出した。同基盤をAIエージェント活用における「中枢神経」と位置付け、ServiceNow AI Platformを企業のAIエージェント活用の中心にする方針を示した。これを実現する新製品として、AIエージェント管理製品「AI Control Tower」と、AIエージェント間の連携を支援する「AI Agent Fabric」を発表した。
国内ベンダーの動きとして、2月3日・2046号では、「
SIプロジェクトの生産革新が進行中 主要ITベンダーの生成AI活用 」を掲載。伊藤忠テクノソリューションズが、AIエージェントと人間が協調し、生産性や品質を高めていく手法を重視するなど、生産性向上に向けた生成AI活用の例を紹介した。
Chapter3
仮想化市場の動向
ITインフラの領域では、仮想化ソリューションで大きなシェアを持っていた米VMware(ヴイエムウェア)が米Broadcom(ブロードコム)に買収され、ライセンス体系が大きく変更された影響が続いている。4月14日・2055号では、「
白熱するOSS仮想化基盤市場 強み異なるプレイヤーが続々登場 」として、新たなプレイヤーが市場を開拓する動きを追った。
4月14日・2055号の紙面
ネットワールドは、オーストリアProxmox Server Solutions(プロックスモックスサーバーソリューションズ)とリセラー契約を締結し、OSSベースのサーバー仮想化プラットフォーム「Proxmox Virtual Environment(Proxmox VE)」の販売を開始した。Proxmox VEは操作性などが最も「vSphere」に近く、顧客にとって学習コストが低いことが取り扱いの決め手になったという。
日本ヒューレット・パッカードは、標準的な仮想化機能を価格を抑えて提供する「HPE VM Essentials Software」の提供を開始した。ターゲットは、「vSphere Standard」のユーザーの移行需要だ。
一方NTTデータグループは25年7月、KVM(Kernel-based Virtual Machine)を活用した仮想化基盤の運用管理サブスクリプションサービス「Prossione Virtualization」をローンチする。金融などですでに実績のあるKVMのスキル、ノウハウを生かしたソリューションで、OSSの透明性の高さや、運用の安定性に基づくシステムの主権=「ソブリン」を売りに市場の開拓を進める。
仮想化ソリューションでヴイエムウェアの競合である米Nutanix(ニュータニックス)も、VMware環境からの移行を促す方針を鮮明にしている。6月2日・2061号では、「
米Nutanixが年次イベント『.NEXT 2025』開催 急増するVMwareからの移行にエコシステム拡大で臨む 」として、イベントの詳報とともに移行に関わる同社の方針を伝えた。
注目を集めたのが、VMwareユーザーの東芝が、25年10月から2200台の仮想マシンを、約2年かけてニュータニックスのHCI環境に移行することを明らかにしたことだ。最大の理由はコスト。東芝の事例公開がほかの日本企業にとって同様の動きのきっかけとなるのか、引き続き注視していく。
Extra
脅威続くサイバー攻撃
サイバー攻撃の脅威は依然継続しており、セキュリティーに関する特集も複数回掲載した。
Webサーバーなどに対して大量の通信を行いサービスの提供を妨げる「DoS(Denial of Service、サービス拒否)攻撃」。このDoS攻撃を、分散された(Distributed)複数のコンピューターから大量に行うのがDDoS攻撃となる。24年12月下旬から25年1月上旬にかけて、DDoS攻撃が複数の国内企業を襲った。2月10日・2047号では、「
猛威を振るうDDoS攻撃 国内では大規模な被害が発生 」として、DDoS攻撃の大規模化、巧妙化が進む背景や、激しさを増すDDoS攻撃に、企業はどう対峙すべきかをまとめた。
2月10日・2047号の紙面
3月31日・2053号は、「
XDRの現在地 セキュリティー対策のスタンダードになるのか 」を掲載。近年のセキュリティー市場で注目されている、エンドポイントやネットワーク、クラウドなど幅広い環境から情報を収集・分析して脅威の検出や対処を行うXDR(Extended Detection and Response)を特集した。
サイバー攻撃の巧妙化による被害が拡大する中で、ユーザー企業にはこれまで以上にセキュリティー対策の強化が求められている。しかし、クラウドの活用による攻撃対象領域の拡大、セキュリティー人材不足、導入するセキュリティーツールの増加による運用負荷の増大といった課題があるのが現実だ。こうした課題を解決する一つの手段としてXDRには高いニーズが見込まれることを紹介した。
アイデンティティーを悪用したサイバー攻撃による被害が拡大し、アイデンティティーセキュリティーの強化の重要性が高まっている中、4月14日・2055号では、存在感を高めている米Okta(オクタ)の戦略をまとめた。日本法人Okta Japanの取り組みから、その強みや特徴を分析した。