BtoBのITビジネスで、ハイパースケーラーが設ける「クラウドマーケットプレイス」の販路が存在感を増している。一覧性を持ってSaaSを即時購入でき、クラウド移行した業務システムと親和性が高い点などがユーザーの支持を得ているようだ。グローバルで浸透しているのは米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)の「AWS Marketplace」で、直販だけではなく、パートナーを経由して購入できる複数の制度が整えられ、流通経路の一つとして確立されつつある。国内では複数のディストリビューターが認知向上と利用拡大を図っており、市場のさらなる活性化が期待される。
(取材・文/大畑直悠、春菜孝明)
アマゾン・ウェブ・サービス・ジャパン
法人向けITでも「Amazon」の購買体験を
AWS Marketplaceは主にAWS上で構築する製品やサービスを購入できるデジタルカタログだ。サービスの提供開始からすでに10年以上経とうとしているが、2025年に製品情報が日本語に対応したことを機に、国内でも急速にプレゼンスを高めている。6000以上のISV、2500以上のチャネルパートナーが参画しており、アマゾン・ウェブ・サービス・ジャパン(AWSジャパン)の相田哲也・パートナーアライアンス事業統括本部ストラテジックパートナー統括本部長・第一ストラテジックパートナー本部長は「AWS Marketplaceは非常にポテンシャルがあり、ビジネスはこれからさらに拡大していく」と期待を寄せる。
AWSジャパン
相田哲也 統括本部長
AWS Marketplaceは、AWSアカウントでさまざまなIT製品を購入し、別に利用しているAWSのサービスと支払いを一元化できるなど、顧客にシンプルな調達体験を提供することを主眼に開発が進められている。相田統括本部長は「(ECの)『Amazon』と同じ購買体験を目指している。あったらいいなと思うものをワンクリックで実現できるようにしたい」と訴える。
チャネルパートナーに対しては、独自契約や割引価格での製品の提供に加え、付加価値をつけて販売できるプログラム「CPPO(Channel Partner Private Offers)」を用意。CPPOパートナーはプロフェッショナルサービスなど、独自の商材やサービスを組み合わせて顧客に提供できる。また、「DSOR(Designated Seller of Record)」プログラムでは、ISVに代わり販売店によるAWS Marketplace上での出品や販売、特定顧客向けの価格・条件の作成などができ、ディストリビューターから販売パートナーを経由した製品提供を可能とする。竹部智実・パートナーアライアンス事業統括本部テクノロジーパートナー本部長は「日本の商慣習に合った商流でAWS Marketplaceでも取引できる」と説明する。
AWSジャパン
竹部智実 本部長
機能の拡充も進めており、直近では出品者が設定した条件を基に、顧客に応じたプライベートオファーを自動提示するAI機能「Express private offers」や、AIエージェントとの会話で必要とする商材を検索できる「Agent mode」といった機能を追加した。また、複数製品を組み合わせて出品できる機能も搭載し、相田統括本部長は「データレイクとAI、SIサービスの組み合わせなど、今まで(のAWS Marketplaceでは)想定していなかったコラボレーションが生まれるだろう」と説明する。
今後は、エンドユーザーに対して購買体験の利便性をさらにアピールする構えだ。パートナーと共同での提案の機会も設ける予定で、組織面ではすでにAWS Marketplaceとパートナーの部隊を統合し、ISVだけではなくチャネルパートナーまで一体的に支援する体制を整えている。出品される製品をより充実させる方針で、竹部本部長は「グローバルISVを中心に実績は多いとはいえ、国内のISVやSIerの商材が見つからないという声も寄せられている。いかに意味のある品ぞろえをつくれるかが今後のチャレンジだ」と話す。
ネットワールド
いち早くDSOR取得、CIer開拓を加速
ネットワールドは25年6月、国内のディストリビューターで初めてDSOR認定を取得した。現在は販売パートナーに向けて浸透を図っているところで、CIer(クラウドインテグレーター)がアーリーアダプターとなってビジネスを始動している。ITインフラを強みとしてきた同社はクラウド系SIerのパートナーを増やしており、今回のDSOR認定を受けてその流れを一層加速させる考えだ。
ネットワールドの猪原伯光部長(右)と嶋田悟氏
同社はAWSアカウントを再販する「AWS認定ディストリビューター」でもある。マーケティング本部クラウド推進部クラウドビジネス課の嶋田悟氏は「AWSビジネス体系のナレッジを生かせる」と強調する。具体的には、どのAWSアカウントに請求がひも付くかによって処理が複雑になる場合があり、そうしたサポートを同社で担えるという。製品の保守などを同社のエンジニアが行うこともメリットの一つになる。AWS Marketplace上で提供できる「プロフェッショナルサービス」として、自社での役務提供も検討する。自身もAWS認定資格を複数保有しているという嶋田氏は「エンジニアとの距離感の近さも当社の強みだ」と自信を示す。
取り扱うラインアップは米CrowdStrike(クラウドストライク)、日本IBM、インドHCL Technologies(エイチシーエルテクノロジーズ)のソフトウェアビジネス部門であるHCLSoftwareといったグローバルベンダーから始まり、25年12月には新たに国内ISVのギークフィードが加わった。ISVにとってもリアルの商流と同様、ディストリビューターを通すことでチャネルを拡大できるメリットがある。メニューの充実に向け、ネットワールドはグローバルとローカルのISVを並行して開拓するほか、国内ISV製品のSaaS化も支援する。
パートナーへは個別の商談に加えて、イベントでのセッションやウェビナーなどを通じて周知に努めている。親和性の高いCIerからの反応は良く、実績を先行して積み重ね、フィードバックを得る方針だ。さらに、オンプレミス製品を扱ってきたリセラーにクラウドシフトを促す一手にもなり得るとして、「これからクラウドを扱うパートナーにマーケットプレイスも含めて啓発する」(同本部の猪原伯光・クラウド推進部長)とする。
事業の目標について猪原部長は「会社の軸、柱にすること」と意欲を示し、「パートナーとわれわれで市場をつくっていきたい」と言葉に力を込めた。
SB C&S
ハイパースケーラー3社をカバーへ
SB C&Sは25年11月、DSOR認定の取得を発表した。DSORモデルで扱うISV製品は「10社がReadyな状態」(ICT事業本部の山名広朗・ネットワーク&セキュリティ推進本部長)という。セキュリティー製品から取り扱いを始め、ビジネスソフトや業務アプリ、国産SaaSにも拡大を目指す。
SB C&Sの山名広朗本部長(左)と山口健二本部長
パートナーの開拓にも余念はなく、現在のCPPOパートナーをまずは2倍にする計画だ。オリジナルのプロフェッショナルサービスの展開も視野に入れる。山名本部長は「エンドユーザーだけでは(マーケットプレイス経由で)導入しづらかった製品も、パートナーが商流に入ることでお届けできる」と意義を示す。同社のセキュリティー専任部隊などもサービスに生かす。
SB C&SはAWSだけでなく、米Google(グーグル)と米Microsoft(マイクロソフト)のクラウドマーケットプレイスのパートナー展開も探る。ハイパースケーラー3社のマーケットプレイスを取り扱う意図について山名本部長は「ISVによって相性のいいハイパースケーラーが異なる」と解説する。“相性”とは、SaaSがどのクラウドに基盤を構えているか、どのクラウド事業者の傘下にあるかを意味する。パートナーにとって、いずれかのマーケットプレイスだけだと選択肢が限られる可能性があるという。そこでSB C&Sが3社ともカバーし、可能性を広げる。
その上でAWSはいち早く取り組みを進めているため、ビジネスに打って出た格好だ。山名本部長は「1年以内にビジネスとして相当のボリュームに持っていきたい」と息巻く。ICT事業本部の山口健二・クラウドプラットフォーム推進本部長も「(マーケットプレイス経由の販売を)ポジティブなビジネスとして落とし込む元年になる」と表明した。
グローバルで急拡大 米Salesforceなど「ビリオネア」に
英調査会社のOmdia(オムディア)は、ハイパースケーラー(AWS、Microsoft、Google Cloud)のクラウドマーケットプレイスを通じたエンタープライズソフトウェアの売上高が、24年の300億米ドルから30年までに1630億米ドルに急増すると予測している。AWSの年次イベント「re:Invent 2025」で紹介されたAWS Marketplaceを介したグローバルベンダーの単年売り上げは、米Salesforce(セールスフォース)、米Snowflake(スノーフレイク)がそれぞれ30億米ドル、米Datadog(データドッグ)が20億米ドルを超えている。年次で10億米ドル以上売り上げるベンダーは「Marketplace billionaires」と表現された。
国内ディストリビューター各社はこの成長を事業開始の理由に挙げる。AWSの従来のCPPOのみでは、リセラーパートナーがISV各社と個別に販売契約を締結する必要があるなど負担が大きかったが、DSOR制度の登場でディストリビューターが間に入ることで「転換期になる」との声もある。潮目を変えるには、ユーザーやパートナーにとってのメリットを訴求できるかが焦点になる。