Special Issue

<メルコ特集>コンポーネントビジネスに新たな挑戦 牧 誠社長

1996/11/25 14:11

夢多いコンポビジネス

メルコは9月2日に東証1部に上場した。主力のメモリ事業は、急速な価格低下を繰り返しているが、在庫調整に踏み切ったのが早かったため、業績への影響は軽微で切り抜けようとしている。新しいヒジネスである「コンポーネントパソコン」も助走期間を終え、成長期を迎えようとしている。牧誠社長に、同社の現状と将来構想を聞いた。

メモリ暴落軽微で切り抜ける

下がった分新規需要拡大

 

 ーーメモリ事業が主体の御社にとっては、今年は大変な年だったと思いますが、業績見通しはいかがですか。

 牧 年度当初は、売上高650億円、経常利益59億円、利益29億円をと考えていましたが、7月29日付けでそれぞれ560億円、53億5000万円、26億5000万円に修正させていただきました。 RAMボードは、ビット当たりのコストがここまで急落するとは思っていませんでしたが、何とか業績面への影響は軽微で切り抜けられるめどがたったかなと思っています。

 ーー打つ手が早かったですね。どんな情報収集を行っているのですか。

牧 わたしはシリコンサイクルを過去に3回経験しており、今年4回目ということになります。昨年、半導体業界には、シリコンサイクルは消えたという楽観的な見方も広がっていたのですが、わたし自身はこんな好況がいつまでも続くはずがない、そろそろ要注意だぞと思っていました。永遠に夏が続くはずはないという思いがありました。

 シリコンサイクルというのは、秋を経由せずにいきなり夏から冬に入ってしまう現象です。それも厳冬です。その転換点を見逃し、夏着のまま厳冬に直面したら凍死してしまう。 過去に苦い経験をしていますので、この点には常に注意してきましたが、とくに昨年後半は全神経を張りつめて、半導体の需給状況、価格の変動状況などの把握に努めていました。あらゆる兆候からして転換点は近いと判断、今年1月10日に発注は絞れ、在庫は持つなという決断をしました。

 ーー在庫調整も実際には大変だと思いますが。

 牧 当社は5年前から「METS」という生産方式を採用しています。市場の変化に合わせ、即時に柔軟な対応がはかれる生産体制ですが、これが効果を発揮しました。

ーー今後の展開はどう判断しておられますか。

 牧 パソコン市場の動きを見ていますと、アメリカではウィンドウズNT4.0に対する需要が予想以上に強いですね。アメリカ企業は暦年決算のところが多いので、NT4.0には年度末需要が期待できる。そこにクリスマス需要が重なるわけですから、年内の半導体需要は相当旺盛で、需給はタイトのまま推移するかなと思っています。 当社の場合も、リードタイムにばらつきがでてきています。どんなメモリも発注したらすぐ入荷するという状態がしばらく続いていたのですが、ものによっては随分待たされるケースもでてきました。こうしたまだら模様が生まれるということは、需要のほうが供給を上回りだした製品もあるということで、価格は下げ止まりに入ったという兆候ではあるんです。

 そうはいっても、来年1月以降はなかなか読み切れません。希望的観測をいいますと、3月頃までは現状のまま16MビットDRAMで1000円くらいでいって欲しいとは思っています。  これ以上価格が下がりますと、メモリメーカーの中に持ちこたえられないところがででくる可能性もあります。もし、そんことになれば、横並び意識の強い日本メーカーのことですから、新規の設備投資を一斉に控えるでしょう。事業部レベルでは、いまがチャンスだから積極的に投資したいといっても、トップ経営層は慎重にならざるを得ないでしょう。 いま、設備投資しなければ、2、3年後に影響がでてくる。供給が間に合わず、再び高値に張り付いたままという現象も予想できるわけです。

ーー高値安定なら御社には好都合なのでは。

 牧 そう単純な話ではないんです。今年の例でも明らかですが、価格が下がったことで、メモリの需要そのものは急拡大している。当社の場合、昨年までは主力は8MB RAMボードでしたが、今年は16-32MBが主流になり、ウィンドウズNT4.0が売れ出せば64MBの比重が高まっていくでしょう。ボードの出荷個数にして倍増くらいで推移しています。 メモリの需要というのは、コストとの見合いなんです。下がれば下がった分、新しいマーケットが開ける。ですから、わたしどもにとっては、暴落でなく、なだらかに下がりながら新しいマーケットを開拓していけるというのが、理想なんですがね。

 ーーところで、メモリが高速になるとボードの設計も大変なようですね。

 牧 そうなんです。そこで当社は「基板シュミレータ」を導入して、設計段階で実際の波形を見ながら、ノイズ対策などに万全の対策を講じています。

 

コンポパソコン独自の市場を開拓

ニッチでも集まれば巨大

 

 ーーコンポーネントビジネスが注目を集めていますが、第1号機のDOS/Vコンポを出されて1年、成果はいかがですか。

 牧 ようやく当社のいうコンポーネントパソコンの位置づけが理解され出してきたように思っています。今回3モデル体制にしましたが、基本的なベースはできたかなと思っています。

 ーーコンポーネントパソコンの発想はどういうところから生まれたのですか。

 牧 94年にハードディスクに参入しましたが、当時パソコンはベースモデルから一体型パソコンにシフトしはじめていました。ベースモデルというのは、基本的な機能は本体に収容されていますが、メモリをはじめモニターや外部記憶装置などはある程度ユーザーが選択できました。ところが、一体型が主流になってきた。一体型は、構造からいってメモリ事業にはマイナスになるのではないかという危機感を持っていました。

 ベースモデルにメモリやハードディスクを積んでいくと、一体型より高くなってしまう。その最大の理由は、ハードディスクが高いところにあるのは明らかでしたので、安いハードディスクを出し、もう一度ベースモデル全盛時代に引き戻したいという思いから、ハードディスクへの参入を急ぎました。 ベースモデル時代に引き戻すことはできませんでしたが、一体型パソコンというのは、様々なモデルがあるようでいて、実際にはユーザーの選択肢は案外狭い。ペンティアム100Mヘルツマシンとなると結局各社似たような仕様なんですね。 これは違うんじゃないか。たとえば、マザーボードは1つでも、そこに乗せるCPUは最高スペックのものから一世代前の486クラスまで揃えて、ユーザーが選択できるようにすればニーズはあるのではないか、そんなことを考えました。

これを発展させて、ケースまで当社が用意、そこに組み込む多種類の周辺機器を揃えてDOS/Vコンポを出したわけです。 建て売り住宅と注文住宅のたとえでよく説明するんですが、わたしどもが狙っているのは注文住宅です。 ユーザーニーズにもっとも合ったパソコンを、ユーザー自身が組み立てられるようにする。どんなパソコンが欲しいか、それをいちばん良く知っているのはユーザー自身です。 とはいっても、まったくの素人さんがパソコンを組み立てるのは大変で、相談相手が必要です。パソコンの大工さんといっているのですが、そうした人材を養成するために、メルコテクノスクールもスタートさせました。

 ーー今度の新モデルでは、ミニコンポが斬新なイメージですね。

牧 反響はすごいですね。当初は、わが社の社内1人1台体制のためにはどんなパソコンが欲しいかというところからスタートしたんです。スペースの限界、コストの限界に挑戦しようということで、本体ケースなどは省スペース性をとことん追求したのですが、出してみると液晶ディスプレイへの反応が大きい。デザインがよい、映り込みが少ないので目が疲れないかもしれない、など様々な反応をいただいています。CRTですと画面サイズを多少操作できるんですが、液晶は、画面上の縦、横の寸法の狂いがないんですね。この機能が欲しかったというユーザーさんもおられます。

LCDの駆動方式には、デジタル式とアナログ式の2つがあります。一長一短があり、アナログ式はブラウン管向けで、LCDではもうひとついい色が出にくい。

 

日本だって独創性ある。コンポで革新のチャンスを

 

牧 そこで当社は、発色の良いデジタル式を採用、専用のインターフェイスを開発しました。CADに使おうとしたらちょっと物足りないかなというきらいはありますが、ハイスペックのグラフィックスボードを開発すれば、CADでも十分使えるようになります。課題は見えていますのでその方向で努力していきます。

 ーースーパーコンポも話題を呼びそうですね。

牧 これは、パソコンでもここまで出来るという最高速マシンを追求しました。DECのアルファチップを採用しています。 コンポーネントパソコンにあっては、特定用途の市場を開拓することが重要です。その仕事に精通した人たちが、注文を出してくれることで本当にニーズに合ったパソコンを作れるようになります。スーパーコンポのような高速マシンになりますと、よりノウハウが必要になります。そこで、このマシンについては、ビジュアル・テクノロジーさんと提携、OEM供給することにしました。 戦略的アライアンスは必要だと兼ね兼ね考えてきましたが、そのひとつが動き出したということです。

 ーーコンポーネントビジネスが動き出したことで、2000年に1000億円という中期目標は射程距離に入ってきたといえますか。

 牧 それはなんとしても実現します。メモリビジネスは、今年は足踏みといえば足踏みですが、これは一過性の現象です。新しい市場が、どんどん開けてくるので、いずれ売上額も伸び出すでしょう。 コンポーネントビジネスは、1年実際にやってみて先行きに自信をもてるようになりました。 わたしどもは、NECさんや富士通さんといった大手の本体メーカーさんと正面からシェア争いするつもりはまったくありません。ニッチな市場を数多く開拓していこうと思っているわけですが、そうした市場は全マーケットの中で20-30%はあるなと思っています。 数年後には、日本のパソコン市場が1500万台くらいになるとして、その20%といえば300万台です。半分のシェアをとったとして150万台、まあかなりのマーケットはあると。

 実は、コンポネントパソコンをはじめて、改めて痛感していることがあるんです。 いまのパソコンというのは、70年代にゼロックス・パロアルト研究所で提案されたコンピュータモデルから本質的なところでは進歩していないんじゃないかという思いです。 改良、改善は行われてきたが、革新、改革は行われていない。   本当の革新を行ったのはファミコンであり、カラオケあるいはザウルスもそれに近いかなと思っているんです。

 ファミコンは、ROMカセットとコントローラーというふたつの革新を行った。当時、ROMカセットというのは、テープに比べてコスト高になったはずですが、使い勝手のほうを重視してあえて踏み切った。これは、相当な決断だったと思うんです。その結果、子供達の生活習慣を変えてしまった。 パソコンは、私たちの生活を本当に変えるところまではまだ来ていません。 日本のメーカーには独創性がないと良くいわれますが、そんなことはない。ユーザーニーズが本当にわかって、リスクを冒す決断が出来れば、革新は起こせるはずです。コンポーネントビジネスを通じてそんなチャンスをつかんでみたいーーわたしの夢です。

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