Special Issue
<東芝ソリューション特集> システム品質を大幅強化
2007/10/18 19:56
週刊BCN 2007年10月15日vol.1207掲載
標準化を積極的に推進 設計工程から開発基盤を見直し
大手SIerの東芝ソリューション(梶川茂司社長)は、システム開発の品質向上に向けた取り組みを強化する。公的機関や業界団体と密接に連携し、開発の標準化を積極的に推進。自社内においても独自の検証ツールやソフトウェア部品を活用することで生産性を高め、大幅な品質向上を図る。これまでもさまざまな品質向上策を打ってきたが、一方で情報システムの高度化、複雑化は従来の予想を上回る速度で進行。新しい開発標準基盤をいち早く構築することが求められていた。設計工程から開発に至るまで、一連の基盤整備を通じて顧客満足度を高め、事業拡大を目指す。■顧客に分かりやすい設計
東芝ソリューションをはじめとする大手SIerの有志6社が発起人会社となり、その後3社を加えた「実践的アプローチに基づく要求仕様の発注者ビュー検討会」は、9月に中間報告を行った。2006年4月に発足した2年間のプロジェクトチームである。画面、システム振舞い、およびデータモデルの3分野の設計書を、顧客企業が理解しやすくするための標準化を進める。今年度末(08年3月期)までにすべて完成させる予定だ。情報サービス産業では、これまでプログラム開発における品質向上を重視する傾向が強かった。開発工程は多数のSE・プログラマを動員するため、生産性や品質を高める余地が大きかったからだ。だが、今回の検討会では、より上流に位置する設計書づくりに焦点を当て、顧客本位の設計ガイドラインの策定作業に取り組む。
この背景には、顧客企業が思い描くシステムをSIerが正しく理解できないケースが後を絶たないことが挙げられる。情報システムが多様化するのに伴い、間違った理解を“正しいもの”と思いこんで設計書を作成。顧客企業は専門用語でつづられた難解な設計書を十分理解せずに承諾してしまう。最初のボタンの掛け違いによって、顧客のイメージと異なるシステムができあがる失敗事例が相次いでいる。
システム品質の統括責任者である恩地和明取締役は、「正しい設計書づくりも品質の一環」とし、分かりやすい設計書づくりに取り組む。万が一、SIerに誤解があっても顧客が容易に判別できるようにすることで、品質向上を進める考えだ。
■公的機関による標準化を積極的に採用
同様の取り組みは公的機関でも行われている。ソフトウェア工学の研究機関である情報処理推進機構(IPA)ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)では、今年、ソフトウェア開発の共通フレーム「ソフトウェアライフサイクルプロセス規格(SLCP)」を刷新。SLCP2007年度版では要求仕様を正しく理解し、設計書をつくる“上流工程”を重点的に強化しているのが特長だ。東芝ソリューションではソフト開発の成熟度モデルを示すCMMI、プロジェクト管理の知識体系を示すPMBOKや独自の品質管理ノウハウなどを加味して、これまでに開発したオリジナルの開発標準「統合型システム開発標準(ISDS)」をSLCP2007年度版に早急に対応すべく改訂作業を進めている。
業界標準と独自ノウハウを融合させたISDSを適用することで、個々の技術者の成熟度の差異によって起こるシステム品質のバラツキが排除できる。「要求仕様を正しく理解し、設計書に反映する上流工程の基盤整備は欠かせない」(恩地取締役)と、ISDSによる上流工程の標準化に力を入れる。
また、検証ツールの導入や開発体制の見直しによる品質、生産性の向上にも取り組む。設計書の整合性を自動的に検証する「基本設計書作成・検証支援ツール」を10月から本格的に採用。SEが設計の“内容”を入力するだけで、ベースとなる設計書を自動的に生成し、かつ要件やデータなどの整合性を検証するオリジナルのツールである。設計書の表現はテンプレートによって自由に変更でき、分かりやすい設計書づくりに大いに役立つ。
■独自ツールや部品化を推進
開発体制では、ソフトウェア部品の標準的な組み合わせを体系化した東芝ソリューション独自の「CommonStyle(コモンスタイル)」を今年3月に策定。最新アーキテクチャのSOA(サービス指向アーキテクチャ)に基づくもので、XMLデータの統合やビジネスプロセス管理などサービス単位での部品化を急ぐ。こうしたサービスはすでに20種類余りに増えており、今後も順次拡充していく計画である。CommonStyleを活用することで、SOAベースの迅速なシステム構築が可能になる。体系化されたサービスは事前に相互接続テストを終えており、すぐに使えるものばかりだ。サービス化による生産性の向上で、「納期短縮、コスト削減」(恩地取締役)が期待できる。
標準化は業務システム領域だけにとどまらない。近年、需要が急拡大している組み込みソフトでも東芝ソリューション独自の「組み込みシステム開発標準(ESDS)」を策定した。今年4月に初版が完成し、現在さまざまな組み込みソフト開発プロジェクトに適用。効果を上げている。
さらにハードウェア環境をソフトウェアでシミュレーションするオリジナルの仮想プラットフォーム開発キット(VPDK)も開発。ハードウェアの完成を待たずとも、あらかじめ定めた仕様に基づいて組み込みソフトが正常に動作するか検証できるようにした。
一連の標準化作業によって、顧客企業が思い描くシステムを確実に設計書に反映する基盤ができあがった。開発工程においてもCommonStyleやVPDKなどを活用することで飛躍的に生産性を高めた。「システム設計の精度を高め、ものづくりの体制を強化する」(恩地取締役)ことで顧客満足度を向上させ、事業拡大を目指す。(週刊BCN 2007年10月15日号掲載)
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