Special Issue

<Windows Server特集>関心は前版以上の新サーバーOS

2008/10/28 19:56

週刊BCN 2008年10月27日vol.1257掲載

 マイクロソフトは今年4月、約5年ぶりにバージョンアップしたサーバーOS「Windows Server 2008」を出荷開始した。仮想化機能の標準搭載など新機能・技術を採用したほか、IHV・ISVなどのパートナーを巻き込んだマイクロソフトの戦略は奏功し、出荷開始時の盛り上がりは前版以上。発売からおよそ半年が経過した今、改めて新サーバーOSとマイクロソフトが進める戦略をみる。

パートナーとの協業体制と機能が話題に

5年ぶりの新版 ソリューション提案を重視

 「Windows Server 2008」は約5年ぶりのバージョンアップ版で、「Windows NT 3.1」から数えれば6世代目にあたる。「Longhorn」の愛称で、発売前からユーザー企業やITベンダーに知れ渡っていた新OSが、4月中旬に満を持して発売された格好だ。新サーバーOSを発表したイベント「the Microsoft Conference 2008」では、ユーザー企業とITベンダーの参加者で会場はごった返すほどの盛況ぶりをみせた。

 OSのバージョンアップは、以前よりもユーザーのIT投資を喚起できる材料ではなくなりつつある。また、サーバー向けOS分野では、Linuxの普及が急速に進み、古くからのUNIXファンも依然多い。クライアントOSのように「Windows」が市場を席巻する状況ではない。そんな環境下でも、「Windows Server 2008」の関心が高いのはなぜか。主に二つの理由が考えられる。一つは、仮想化機能の標準搭載やクライアントOS「Windows Vista」との連携による付加価値など、機能・技術で目新しいものがあること。そして、もう一つがパートナーの対応状況だ。

 「Windows Server 2008」の出荷開始にあたり、マイクロソフトはパートナーとの連携強化を前版以上に重視していた。それは、「OSのバージョンアップだけでは何の意味もない。ハードとソフト、SIサービスとを連携したソリューションをユーザー企業にみせることが重要」(五十嵐光喜・サーバープラットフォームビジネス本部業務執行役員本部長)という考えからだ。

 その具体策として、まず新OSの出荷開始前としては初めてとなる認定資格者の育成プログラムをスタート。有資格者は出荷開始時に700人を突破していた。また、プリインストールサーバーは約100種類、対応アプリケーションソフトは約500種類を用意。これは前版に比べると、ともに約3割増しの数値だ。また、38社のITベンダーが「Windows Server 2008」を使ったソリューションを発表した。マイクロソフトが着々と進めていたIHVやISV、SIerとの交渉が実った格好だ。ユーザー企業に新OSのメリットを享受してもらえる環境を整えたわけだ。



目玉は仮想化 標準搭載でコストメリット訴求

 一方、機能・技術面ではどうか。まず筆頭に挙げられるのが、標準搭載した仮想化技術「Hyper─Vテクノロジー」だろう。これはマイクロソフトの独自開発による、1台の物理サーバーに複数の仮想OS環境を同時に実行可能とするテクノロジーのことだ。これを使えば、複数の物理サーバーを1台に集約して統合管理し運用効率を上げたり、逆に複数OS下で必要なテスト環境を容易に構築できたりする。結果的に情報システムのコスト削減や柔軟性向上に貢献する。

 旬の技術とはいえ、仮想化システムはまだ全体の3%程度といわれている。その要因がコストだ。仮想化システムを構築すれば、運用コストは削減できることがみえていても、目先の導入コストの高さにユーザー企業は二の足を踏むケースが多い。マイクロソフトは、OSに標準搭載することでコスト面の導入障壁を下げ、仮想化を一気に普及させようとしているのだ。

 このほかにも、同じく仮想化技術の一つであるターミナルサービスや、セキュリティ機能の「ネットワークアクセス保護(NAP)」、「Windows Vista」との連携動作によるパフォーマンス向上といった目を引く機能を「Windows Server 2008」は豊富に搭載している。

 注目の新機能に、パートナーと築いた強固な協業体制。「Windows Server 2008」が元気がないIT市場を盛り上げる可能性は十分にある。

サーバー仮想化に向け着々
パートナー連携強化施策開始
 マイクロソフトは10月中旬、「Windows Server 2008」をベースとしたサーバー仮想化プラットフォームのシェア拡大に向け、新たな策を打った。独自開発したサーバー仮想化ソフト「Hyper─V」と、仮想化環境を統合管理する「System Center Virtual Machine Manager 2008」を組み合わせた戦略「Microsoft 360 Virtualization」を展開する。NECや日本IBM、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)など9社のハードベンダー、および多数のSIer・ISVとパートナーシップを結び、10月14日から本格的にスタートした。
 主要ハードベンダーが仮想化の基盤となる「Hyper─V」への対応をほぼ済ませたことで、先行するヴイエムウェアを追撃する態勢が整った。これまでも、Windows技術者数の多さと認知度の高さを武器に、Hyper─Vのシェアはサーバー仮想化ソフト市場で30%近くを占めているとマイクロソフトでは捉える。しかし国内では、サーバー仮想化を行っている比率自体が全体の約3%と少ない。欧米の同約10%と比べると、本格的な普及は「これからが本番」(五十嵐光喜・業務執行役員本部長)とみる。パートナーと密に連携し、シェアの拡大を推進する。
 パートナー各社はすでに具体的に動き始めている。例えば、NECはHyper─Vへの対応強化の一環として技術者を早期に2000人に増やす。日本IBMはHyper─Vの動作検証済みPCサーバーを発売。中堅・中小規模のシステムでも手軽に仮想化技術を利用できるようにする。NECソフトはクライアント仮想化技術のSIパートナーとしてビジネス拡大を目指す。ERPベンダーのオービックビジネスコンサルタント(OBC)は、主力の「奉行V ERPシリーズ」のHyper─V上での動作検証を富士通と組んで実施。同シリーズの販売パートナーやSIerと協調し、主力ターゲットである中堅成長企業向けの拡販に努める。
 サーバー仮想化ビジネスはこれまで、どちらかといえば大規模システムでの需要が中心だった。だが、仮想化技術の普及拡大によって、今後は中小規模のシステムでも手軽に仮想化技術を利用したいというニーズが高まるのは必至。馴染みが深く、使い勝手のよいWindowsベースの仮想化ソフトが本格的に普及し始めたことで、市場のすそ野が一気に広がることが期待される。また、これを機に「Windows Server 2008」の拡販にも弾みがつきそうだ。

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