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<総括企画 週刊BCN 新旧編集長対談>サイボウズはなぜ、クラウドのリーディングカンパニーに成れたのか

2015/05/21 19:55

週刊BCN 2015年05月18日vol.1579掲載

 リリースから約3年という短期間で、利用企業が1万社を超えたサイボウズのクラウドサービス群「cybozu.com」。多くのパッケージベンダーがクラウド対応を躊躇するなか、サイボウズはいち早くパッケージベンダーからクラウドベンダーへの転身を宣言し、クラウド化に注力してきた。「気になるクラウド」として5回もの取材を実施したのは、クラウドベンダーへの転身に成功した理由、そして「kintone」が注目されている理由を知りたかったからだ。取材からみえてきたのは、「サイボウズは、すでにクラウドのリーディングカンパニーである」ということ。サイボウズがクラウドで成功できた理由はどこにあるのか。サイボウズを長年みてきた『週刊BCN』の前編集長である木村剛士の見解から、“気になる”シリーズを担当した現編集長の畔上文昭が分析する。

クラウドとパートナーの関係

週刊BCN 第十代編集長
畔上文昭(あぜがみふみあき)

月刊ITセレクト(中央公論新社発行)、月刊e・Gov(IDGジャパン発行)、月刊CIO Magazine(IDGジャパン発行)の編集長を歴任。2015年2月より現職。
畔上 cybozu.comの利用企業が、2015年3月で1万社を超えました。数もさることながら、2011年11月のクラウド参入から約3年4か月という短期間。しかも、オンプレミス版のグループウェアも、クラウド参入前と変わらず伸びているといいます。

木村 サイボウズがクラウドに参入した2011年には、多くのパッケージベンダーがパートナーの拒否反応を恐れてクラウドにシフトできませんでした。まだクラウドに対して前向きになりきれない時期だったのです。ところが、青野慶久社長には信念があった。クラウドの参入を発表したときから強い意志をもっていると感じました。

畔上 クラウドとパートナービジネスは相性が悪いともいわれます。ソフトではなく、サービスを売ることになるため、保守・運用などの売り上げをクラウドベンダーがもっていってしまうことを懸念するからだと思います。しかし、営業本部長の中原裕幸氏は「間違っている」と断言していました。

木村 確かに、サイボウズはクラウドに参入しても、パートナー重視の姿勢を維持してきました。

畔上 ただ、営業副本部長の栗山圭太氏は「今の支援制度では不十分」だと感じていて、クラウドに最適なパートナー支援制度となるように見直していくとのこと。また、ガルーン プロダクトマネージャーの池田陽介氏によると、「クラウド版ガルーンの販売実績は、約60%がパートナー経由」ということでしたから、新制度によるさらなるパートナーとの信頼強化を期待したいですね。

木村 現状に満足せず、常に改善しようとするところがサイボウズの強みといえるでしょうね。

kintoneで生まれた新しいSIの形

週刊BCN 第九代編集長
木村剛士(きむらつよし)

埼玉県出身。駒澤大学卒業後、2002年にコンピュータ・ニュース社(現・BCN)に入社。『週刊BCN』編集部で記者を務め、2010年に副編集長。12年12月に編集長に就任。
木村 進化を続けるサイボウズの創業当時からのこだわりは、製品の使いやすさです。サイボウズのグループウェアが勝ち残ることができた理由の一つともいえます。

畔上 取材からも、使いやすさを追求する姿勢は随所で感じ取ることができました。そのこだわりがとくに表れた製品が、kintoneです。kintoneはドラッグ・アンド・ドロップで業務アプリを作成でき、ユーザーにとって非常に使いやすい操作性を実現。さらに、プログラミング環境の提供により、個別ニーズに応えられる柔軟性を兼ね備えています。使いやすく応用が利くからこそ、システム開発を加速し、アジャイル開発を超えた“リアルタイム・アジャイル”ともいうべき新しいシステム開発の形を誕生させることができました。

木村 使いやすさに開発が伴ったことで、SIという新たな領域でもパートナーが活躍できるようになったんですね。

畔上 新たな領域の登場で、今までになかったコミュニティも生まれています。その一つが、インタビューにも登場した「kintone Café」です。サイボウズは一切介入せず、開発者やユーザーが自発的に集まって情報交換を行う画期的な取り組みです。

 また、kintone Caféの運営メンバーでもあるジョイゾーやラジカルブリッジでは「システム39」や「ベストチーム365」といった定額システム開発サービスを行っています。システム開発で定額という料金プランは大変珍しい。

 「kintoneのメリットは、いい意味で制限があること」と、アールスリーインスティテュートの金春利幸氏がおっしゃったように、kintoneは基本機能のなかで実現できることを突き詰め、不足分を開発で補うことができるため、定額という新たな料金体系が可能となりました。これはユーザーのコスト削減だけでなく、無駄な作業と時間を費やさずにユーザーの要望を取り入れることができるので、SIerにとっても効率的な手法といえます。

木村 定額システム開発サービスは、もはやkintoneの代名詞になりそうです。サイボウズの意図しないところで、kintoneを使ったサービスがパートナーのビジネスモデルとして独り歩きしていく。kintoneの強さは、サービスの性能と有力なパートナーの存在によるところが大きいのですね。

クラウドのリーディングカンパニー サイボウズの未来

畔上 使いやすさと、セキュリティ対策や安定稼働で評価の高いkintoneですが、青野社長は「まだやりたいことの1%もできていない」とおっしゃっていました。残りの99%を実現する頃には、どうなっているんだろうと期待が高まります。

木村 kintoneの進化から想像すると、すごい新機能が続々と追加されるというよりも、使いやすさの向上に注力するのではないでしょうか。

畔上 ガルーンなどとの連携機能も強化するとのことでした。グループウェアの概念が、cybozu.comによってどんどん拡大していく。そこではどのような進化をみせるのか、本当に楽しみです。

木村 サイボウズはクラウドのリーディングカンパニーだと思っています。理由としては、パッケージ分野でいち早くクラウドに参入したこと、クラウドの参入を成功させたこと、パートナーを納得させたこと、kintoneでシステム開発のスピードを変えたことが挙げられます。結果、cybozu.comの利用企業が1万社を超えた。

畔上 利用企業が1万社を超えたのは、やはりパートナーの存在が大きいと思うのです。クラウドに参入するにあたって、みごとにパートナーを巻き込んだ。パートナー戦略で成功したという点においても、成功モデルとして、他のソフトウェアベンダーにも波及していくことを期待したいと思います。
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