Special Feature

実践からみるSaaSベンダーの地方展開 ラクスはパートナーとの関係構築をどう進めているか

2025/08/25 09:00

週刊BCN 2025年08月25日vol.2072掲載

 近年、多くのSaaSベンダーが地方での販売促進に乗り出し、パートナービジネスの重要性が叫ばれている。地方のSIerでは、ストックビジネスの拡大を目指す動きが広がり、SaaSは魅力的な商材となっている。ただ、販売店契約を結んだからといって、パートナーがそのサービスを積極的に販売するとは限らず、間接販売の難しさを感じているSaaSベンダーも少なくないだろう。そんな中で、国内大手のラクスは本格的に地方での展開を強化している。ラクスと、そのパートナー2社の実践から、SaaSベンダーの地方展開について考える。
(取材・文/藤岡 堯)
 

広告宣伝と現地での支援 両輪で攻勢をかける

 「楽楽シリーズにおいては、戦略の柱の一つとして、地方攻略を大々的に掲げている」。上級執行役員の吉岡耕児・楽楽クラウド事業本部長はこう語る。一般的に、地方ではSaaSの浸透はこれからとみるベンダーが多い。もちろんラクスもその例外ではないが、吉岡上級執行役員は「『楽楽精算』や『楽楽明細』といったサービス名の認知はかなり得られている」と話す。ラクスによる調査では、同社のサービスは地方でも高い認知度があり、テレビCMをはじめとした積極的な広告宣伝が功を奏しているようだ。
 
ラクス
吉岡耕児 上級執行役員

 ただ、吉岡上級執行役員は「こうした認知の一方で、自分たちの経費精算や請求書発行などにおける課題の解決手段として、サービスが結びつかないケースがあり、それが都市部と地方の違いになっている」と分析する。あくまで名前は知られているものの、そのサービスが、業務改善や省人化といった経営課題の解決に役立つものとして認識されていないということだ。加えて、規模が小さい企業では、紙や「Excel」であっても人力でどうにか対応できてしまうほか、業務担当者の年齢層が高く、現状のワークフローを変えることへの抵抗感、サービス導入によって自分の仕事が失われてしまう不安など、心情面でのハードルもあるという。

 ただ、労働力不足がより深刻となる中で、業務のスリム化、非属人化は大きな課題であることは地方も同じだ。生産性の向上や属人性の低い業務フローの構築においてSaaSの有効性は高く、そう遠くない未来に地方でも本格的な普及段階に移行するとみている。 

 そこで重要な役割を果たすのが各地のパートナーである。普段から顧客企業に寄り添って活動しているパートナーが、顧客の課題解消につながる存在としてラクスのサービスを紹介すれば、顧客との距離は飛躍的に近づく。サービス自体はすでに知られていることが多いため、パートナーからの“ひと押し”によって、商談が生まれやすくなるという。

 今春、ラクスは地方パートナーの開拓に向けた専門チームを新設し、全国各地で働き掛けを強化している。特に、いわゆる“ローカルキング”に位置付けられるパートナーとの関係構築は目下の注力事項となる。パートナーにとってもSaaSは扱い慣れていない商材であるため、ラクスが主体となって営業担当者への講習会やトレーニングなどを実施して、ノウハウの共有を進めている。顧客への営業にラクスのスタッフが同行し、実際に製品説明を行うことも少なくない。吉岡上級執行役員は「パートナーの皆さんには『本当に売れるのか』『紹介して収益になるのか』『製品を理解するのが大変なのでは』といった不安もある。そこに過去の実績や当社のサポート体制を示すことで、安心して動いてもらえる環境をつくりたい」とする。

 パートナーとの関係をより深める観点から、地方での拠点開設も重視している。大阪や名古屋、福岡、札幌といった主要都市以外にも、広島、静岡、新潟に営業所を置き、仙台への進出も決定している。地域に拠点を置くことで、よりパートナーや顧客に密着し、地域に根づいた活動が可能になる。吉岡上級執行役員が、「パートナーからは歓迎されており、『仲間』だと思っていただけている」と述べるように、拠点の設置は地方展開への本気度を伝える意義もある。

 楽楽シリーズの都市部と地方での新規契約件数の比率は、おおむね8:2から7:3となっているが、2027年3月期から始まる次期の中期経営計画期間内に、地方を4割程度にまで引き上げたい考えだ。吉岡上級執行役員は「地方でも熱は高まっている感覚がある。私たちの戦略、手法の横展開も徐々に進んでおり、実績も上がりつつある」と話す。同社は今後、テレビCMなどの広告宣伝による認知拡大施策と、現地拠点を活用したパートナー支援の密度向上を両輪として、地方市場での存在感を高めていく方針だ。
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外部リンク

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