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<BCN Conference 2015>NTTコミュニケーションズ IoT普及に立ちはだかるセキュリティ問題 セキュアIoTで乗り越える

2016/02/04 19:55

週刊BCN 2016年02月01日vol.1614掲載

 今や、ちょっとした流行語にもなっている「IoT」。明るい未来社会を象徴するIoTではあるが、実は大きな課題も抱えている。それがセキュリティリスクだ。「BCN Conference 2015」のIoTセッションで、NTTコミュニケーションズの境野哲・技術開発部IoTクラウド戦略ユニット経営企画IoT推進室IoT・エバンジェリスト担当部長は、「IoT普及の課題と解決の方向性、ビジネスチャンス~セキュアなICTインフラとデータ解析技術の活用~」と題して、IoTの課題とその解決に向けた取り組みについて語った。

なぜIoTに注目が集まるのか?

境野 哲
技術開発部IoTクラウド戦略ユニット
経営企画IoT推進室
IoT・エバンジェリスト
担当部長
 セッションの冒頭、境野担当部長は、こう切り出した。「まだIoTに取り組んでいない企業には、始めてみることを、ぜひ、お勧めしたい」。

 IoTが実現可能となった背景として、半導体の超小型軽量化、無線通信の広帯域化(高速化)が挙げられる。とりわけ無線通信については、過去36年の間に実に1000倍以上も高速化が進んでいる。最近になって、急に注目され出したかにみえるIoTだが、境野担当部長によると、通信事業者や総務省では何年も前から検証を進めていたという。そして今やIoTとビッグデータは、新たなビジネスサイクルを創出するトリガーとして、世界中の企業が実践に乗り出そうとしているのだ。

 IoTソリューションが期待されるものとして、大きく次の五つの分野がある。まず最も期待が大きいのが、電気、ガス、水道、ビルなど重要インフラを遠隔で見守ることによる「安全・防災への寄与」だ。二つ目は、人口減少などを受けてセンサやロボットの活用による「業務の効率化」がある。そして、「サービス向上」「省エネ・省資源」「人の見守り」といった分野が続く。

 すでに国内において、製造業を中心にIoTを活用した取り組みが成果を上げているが、それはまだ全体の一部でしかない。2000年以降、日本の製造業は相対的な競争力を失い続けており、貿易収支をみると、かつて世界を席巻した電気機器の黒字額は05年と比較して約8割も縮小している。その一方で、日本の産業界は依然としてIT投資の目的をコスト削減へと偏重する傾向にあって、IoTやビッグデータ利活用による高付加価値化、差異化の取り組みは欧米に比べて少ないというのが現実だ。

 「このままでは、日本の産業競争力が欧米に比べてますます低下してしまうのではと危惧している。だからこそ、冒頭で述べたようにIoTに今すぐ取り組むべきなのだ」と境野担当部長は訴えている。

IoTに求められるセキュリティ

 企業にとって、高度化しているサイバー攻撃の手口は大きなリスクになっているのが広く知られている。ところが、ここ数年の間にその脅威がビルや工場などの制御システムにも迫っていることはあまり知られていない。もし、制御システムがサイバー攻撃を受ければ、設備の破壊や製品の品質低下、さらに顧客への被害など、企業にとって存続にかかわる被害が生じる恐れもある。

 「防御ノウハウがまだ日本にはほとんどないので、制御システムのセキュリティ対策をこれから勉強することの効果は高いだろう」と境野担当部長は分析する。

 実際、米国では重工業を中心に制御システムへのサイバー攻撃件数が増加していて、欧州でも同様の傾向にあるという。また、自動車や医療機器のぜい弱性やハッキング事例も次々と発表され始めている。例えばポーランドでは、鉄道の線路のトラックポイントに対するハッキングで車両が脱線、12人のけが人を出すという事件が発生している。

 境野担当部長は、「IoTの普及で最大の障壁となるのがセキュリティ問題だといえる。IoTシステム内部でのマルウェアの活動を、内部解析でみつけるような新しいソリューションが今後は必要になってくるだろう」と強調する。

セキュアIoTの実現に向けて

 IoTをめぐるリスクの増大を受けて、国やインフラ系企業を中心に日本では具体的な対策に乗り出し始めている。NTTコミュニケーションズでも、セキュアなIoTシステムを提案しているが、その要となるのが、世界196か国に提供されているクラウド直結のプライベートネットワークだ。

 例えば、15年3月から同社が参加しているセキュアIoT共同実験では、制御システムをプライベートクラウドに集約し、工場・プラントを遠隔でリアルタイムに監視できる仕組みを構築。プライベートクラウドで工場向けパッケージソフトを運用し、IP-VPNでデータを安全に伝送することで、リアルタイムに監視しながら故障/障害の予兆検知を可能にする実験を進めている。

 ほかにも、監視カメラの映像からAIで人物の容姿・属性を自動検知するシステムの検証など、IoTセキュリティにつながる複数の取り組みが繰り広げられている。さらに、同社では企業のIoTへの挑戦を支援するために、15年10月からIoTトライアルパックサービスを順次提供している。

 最後に境野担当部長は、「IoTの課題解決に向けて、少しでも多くのパートナーと協業していきたい。セキュアIoTに興味をもたれたならば、ぜひお声がけいただきたい」と会場に呼びかけて壇を後にした。
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外部リンク

NTTコミュニケーションズ=http://www.ntt.com/