日立製作所(東原敏昭社長)は1月12日、同社の統合システム運用管理の最新版「JP1 Version 11」を発表した。実に約3年3か月ぶりとなる今回のメジャーバージョンアップでは、JP1史上初となる世界同時発売を実現。どの地域でも最新機能を使いたいというユーザーのニーズに応えた。また、ユーザーインターフェースなどについても、使い勝手を追求した。では、グローバル展開を強く意識したJP1 Version 11の最新機能を紹介しよう。
サービスとしてのJP1
JP1は、Version 11で歴史的な一歩を踏み出した。オンプレミスからクラウドサービスへ。その一環として、SaaS型サービス「JP1 SaaS」の提供が始まった。対応したのは、2商品。資産管理「JP1/IT Desktop Management 2 as a Service」と高速データ転送「JP1/Data Highway as a Service」である。サービスとして必要なときに必要なだけ使用したいという顧客ニーズに応える。
第一弾として、顧客ニーズの多い資産管理と高速データ転送をSaaS化の対象とした。今後はユーザーニーズを把握しながら、他の製品についてもSaaS化を検討していく。
クラウドを支えるJP1
ユーザー企業がクラウドを採用する理由として、導入スピードの速さや構成変更における柔軟性が挙げられる。こうしたクラウドのメリットを生かすには、その上で動くシステムにも俊敏性や柔軟性が求められる。
そこでJP1 Version 11は、設定パラメータにデフォルトで推奨値を用意し、すぐに使い始められるようにした。カスタマイズ仕様に設定が必要なパラメータ数も、ジョブ系で約70%、監視系で約60%の削減を実現している。パラメータの設定内容は、運用自動化製品「JP1/Automatic Operation(JP1/AO)」を使えば、システムに自動で一括反映させることが可能となり、構築作業を簡易化できる。
また、ライセンス体系も、物理環境を前提とした考え方を撤廃し、クラウド環境での利用に適したものにリニューアルしている。
IT運用に革新をもたらすJP1
JP1 Version 11では、新製品としてシステム障害発生時の原因を分析する「JP1/Operations Analytics(JP1/OA)」が加わった。JP1/OAは、JP1で取り組んできた“運用の自律化”を進め、システムの自動運用をめざす製品である。運用の自律化は、図1にある通り、そのサイクルを「把握」「分析」「対処」の各フェーズでの自動化・自律化で捉える。JP1/OAは、そのサイクルの自動化を支援する。
「把握」では、サーバーやストレージ、ネットワークといったシステム全体の構成要素を自動収集。それらの上で稼働する業務システムとの相関関係をわかりやすく可視化する。これによって、仮想化・クラウドによって随時変化するシステムを動的に把握することができるようになり、効率的な運用が可能となる。障害が起きた際には、どの業務システムに影響するかが、ダッシュボード画面を見ればすぐにわかるので業務システムの重要度に応じて、緊急体制をとるといった判断をすばやく行うことができる(図2)。
「分析」では、万が一、障害が発生した際に、原因特定の分析に必要な情報を自動で抽出し可視化する(図3)。分析には「ボトルネック状況の確認」「システム変更の影響分析」など多角的な分析軸が用意されており、原因を特定する分析作業が容易になる。
「対処」では、「復旧対処の作業手順」や、「対処で求められるアクション(関係者へのメール、対処に必要なコマンドなど)」をあらかじめ登録しておくことで、必要になった際には各作業者にメールで迅速に通知することができる。さらに、前述したJP1/AOを使えば、問題の対処に必要な作業プロセスを自動実行し、問題発生時にミスのないシステム運用を行うことができる。
JP1初の世界同時発売
世界同時発売を実現したJP1 Version 11では、日本語版と複数言語版を一本化した複数言語版を標準で提供する。そのため、ユーザー企業はJP1 Version 11を導入するにあたって、言語を意識する必要がない。また、ライセンスについても一本化を実現。以前は言語別に購入する必要があったが、複数言語が混在するケースでも言語を意識することなく見積もることが可能になった。ユーザー企業は、本部で一括してJP1 Version 11の導入を推進しやすくなった。
以前はグローバル拠点で運用していた顧客向けサイトについても、見た目やコンテンツを共通化し、公開した。用意したサイトは、中国拠点向け、日本国内向け、グローバル向けの三つ。どのサイトでも、グローバル共通の情報が得られるようにしている。
グローバル向け製品も充実
JP1 Version 11では、グローバル向け製品ラインアップも充実させている。新たに追加したのは三つ。一つは、運用手順や運用ノウハウの可視化と共有化により、担当者に的確な操作をナビゲートする製品「JP1/Navigation Platform」。もう一つは、OpenStackで構築したプライベートクラウドの各種操作において、カタログやウィザードを介して、利用者が直接実行できるようにするセルフサービスポータル「JP1/Service Portal for OpenStack」である。
この二つは、オートメーションのカテゴリにおけるラインアップとなる。中国では、オートメーションを運用効率化のツールとするよりも、運用の品質向上を支援するツールとしての位置づけが強い。オートメーションの強化は、そうしたニーズに応えるものだ。今後もJP1では、世界各地のニーズを汲みながらラインアップを強化していく予定である。
三つ目は、先ほど紹介したJP1/OAだ。JP1/OAは、JP1 Version 11で投入した新製品だが、世界同時発売の方針の下、国内と同じタイミングでリリースしている。
運用の自律化に向けて進化
JP1は運用を自律化し、システムの自動運用を追求していくことを将来像として描いている。JP1 Version 11では、前述のとおり、「把握」「分析」「対処」の各フェーズでの自動化と自律化を実現する製品が揃った。これらの精度を高めていけば、自動運用の高度化につながっていくことになるが、それには、より多くのデータを活用することが必要となる。
中国は近年、ビッグデータ総合試験区に貴州省を指定し、貴陽ビッグデータ取引所を開設するなど、ビッグデータの利活用に注力している。データをいかにして集めるか、データを取得するデバイスをどう管理していくか、保有するビッグデータをいかに活用するか、運用管理の役割は今後ますます重要になってくると考えられる。
現状、JP1は人の経験や知見にもとづく自律化を進めているが、今後は機械学習/人工知能(AI)といった技術を取り入れて、IoT(Internet of Things)デバイスから取得したデータやITシステム運用のデータも含む社内外のビッグデータを利活用するなどの方法も模索していく。真の自律運用の実現に向けて進化し続けていくJP1の今後の取り組みに注目だ。