Special Issue

アイレット/cloudpack “Lambdaファースト”をエンジンに cloudpackはさらなる飛躍を遂げる サーバーレスへと進化するクラウド

2016/06/02 19:55

週刊BCN 2016年05月30日vol.1630掲載

 ユーザー企業をサーバーの保有から解放したクラウドが、サーバーという概念からの解放も実現してしまう。アマゾンウェブサービス(AWS)が提供するイベント駆動型のプログラム実行環境「AWS Lambda(Lambda、ラムダ)」だ。プログラムを動かすにはサーバーが必要という常識を根底から変えてしまうだけでなく、クラウドサービスのメリットとして挙げられるオートスケールさえも無用の長物にしてしまうサービスである。ユーザー企業には、コストの面で大きなメリットをもたらす。ただ、クラウドインテグレータには、大打撃となってしまうのではないか。cloudpackでクラウド市場を牽引してきたアイレットの答えはノーだ。

サーバーレスの衝撃

後藤和貴
執行役員
 「AWSに取り組み始めたときのように、サーバーレスという新しいコンセプトがエンジニアに刺さっている」と、後藤和貴・執行役員はLambdaに対するエンジニアの注目度を説明する。まだ、ユーザー企業への浸透度は低いものの、エンジニアに支持されるクラウドサービスは必ず普及するとcloudpackでは考えている。

 では、Lambdaの何がエンジニアに“刺さっている”のか。答えは、オンプレミスからクラウドへの流れの延長線上にある。

 オンプレミスでは事前にシステム負荷のピークを予測し、それにあわせたサーバー環境を用意していた。そのため、ピーク時以外は多くのリソースを使っていないという状況になる。しかも、予測外のシステム負荷には対応できない。これに対して、AWSの仮想サーバー「Amazon EC2」では、好きなタイミングで構成を変更できる。オートスケールにも対応しているため、システム負荷が想定を超えても、動的に対応できるのである。サーバーメーカーに依存することなく、自由にサーバーを構成できるため、EC2が多くのエンジニアに刺さった。

鈴木宏康
取締役CTO
 ただし、EC2は時間単位で課金されるため、1分で終わる処理でも1時間分の料金を支払うことになる。そのカベを破るのが、Lambdaというわけだ。EC2は時間単位でサーバーを借りるという概念だが、Lambdaはプログラムの実行時間と実行回数で課金するため、サーバーという概念がない。よりコストを最適化できるのである。

 「EC2には、サーバーの運用という把握しにくいコストがある。Lambdaはイベントドリブンなため、そのコストが不要になる。PaaS的な環境であることから、インフラまわりを考える必要もない」と、鈴木宏康・取締役CTOはLambdaによるサーバーレス環境のメリットを語る。

いずれLambdaが主流になる

 Lambdaのメリットはコスト削減にあるが、それだけではない。セキュリティリスクを下げるという効果もある。図をみていただきたい。利用者とAWSのセキュリティリスクに関する責任分岐点が、EC2とLambdaで大きく変わるのである。EC2ではOS以上のレイヤが利用者の責任となるが、Lambdaではソフトウェアのみ。つまり、ソフトウェア以外のセキュリティリスクに関する対策は、AWSが担うのである。その分、Lambdaユーザーは、よりビジネスに近いところに注力することができる。


 「オンプレミスとの比較をしないクラウドファーストが浸透したが、今後は“Lambdaファースト”になる。実際、社内のエンジニアの間では、その傾向が出始めてきた。エンジニアにとってEC2の採用は、Lambdaを活かせない場合の最後の手段になる」と後藤執行役員は、いずれEC2とLambdaが比較対象ではなくなるとしている。Lambdaの特長が活きるのであれば、EC2を選ぶ理由はないというわけだ。

 気になるのは、EC2の行方である。「EC2が不要になるとは考えていないが、Lambdaが主流になるのは時間の問題。ただ、現時点では開発言語に制限があるなど、自由度の点で課題を残している。そのため、EC2上で稼働しているシステムの移行はまだハードルが高い。現時点では、新規システムでの採用がLambdaには向いている」と、鈴木CTOは考えている。

危機感を成長につなげる

 EC2を中心にAWSの導入設計から環境構築、運用までをトータルでサポートするcloudpackにとって、Lambdaは既存のビジネスを脅かす存在となる。

 「cloudpackとしては、Lambdaを押せば押すほど既存ビジネスがきつくなる。ただ、幸いなことに、cloudpackのエンジニアが積極的に取り組んでいるため、Lambdaのメリットとデメリットの知見が溜まってきている。EC2の時と同様に、案件をこなしながらノウハウを蓄積して、新たな案件をこなすという、正のスパイラルにしていきたい」と、後藤執行役員は今後のビジネスの軸足をLambdaに置くことに覚悟を決めている。ちなみに、cloudpackでは社内でLambdaに関する多くのノウハウが蓄積されたことから、すでにサーバーレス開発のホワイトペーパーを作成していて、惜しげもなくウェブサイト上に公開している。

 Lambdaと同様のサービスは、AWS以外のクラウドベンダーも提供し始めており、いずれはLambdaのようなサービスが一般化すると考えられる。オンプレミスからクラウドへの転換では、多くのITベンダーが既存ビジネスを捨てきれず、対応に苦しんだ。Lambdaも既存のクラウドインテグレータを苦しめることになるかもしれない。cloudpackはそこを乗り越えることで、次の成長へとつなげようとしている。
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外部リンク

アイレット=http://www.iret.co.jp/

cloudpack=https://cloudpack.jp/