レノボ・ジャパンは2015年から、「無制限テレワーク」を制度化して積極的な取り組みを行ってきた。また、そのノウハウをまとめたガイドを無償提供するなど、注目を集めている。こうした取り組みの背景にあるのがレノボの新戦略「Smarter Technology for All(STFA)」だ。三つの領域で展開される戦略の内容をはじめ、注力する分野、パートナー施策などについて、コマーシャル事業本部の荒木俊彦・執行役員に聞いた。

レノボ自身が培った
テレワークのノウハウを無償公開

――レノボが掲げるSTFA戦略の理念について教えてください。

 STFAには単なる営利目的ではなく、テクノロジーの恩恵を全ての人に提供することを目的に事業活動を推進するという理念が込められており、その活動を通じてレノボが培ってきた知見を社会に還元していくことをコンセプトにしています。それが結果として、顧客体験を高め、ロイヤリティの高いお客様を作ることにもつながるのです。
 
荒木俊彦 コマーシャル事業本部 執行役員

――その一例が、レノボ自身のテレワークの取り組みについて、ノウハウをまとめた「スタートガイド」や「環境ガイド」などの公開でもあるわけですね。

 はい。レノボは15年から始めた「無制限テレワーク」をはじめとするさまざまな先進的な取り組みを行ってきました。それが2月25日に政府の感染症対策の基本方針を受けて即日、原則テレワークの推奨へと移行できた背景にもなっています。各ガイドでは、当社が培ってきたノウハウのほか、テレワーク導入における落とし穴、労働関係法に関連した注意点なども網羅しており、急きょ、テレワーク導入に取り組まざるを得なかった方々に役立つ内容です。実際、かなりの反響をいただいています。

――テレワークへの移行では、多くの企業が生産性低下を懸念しているようですが。

 われわれ自身についていえば、おかげさまで4~6月期はマーケット進捗を上回る売上を達成をすることができました。また、テレワークはコロナ対策だけで終わりではないので、どう生かすかが重要です。一つのアドバイスとして、テレワークでは営業のアプローチも変化するということです。例えば、新規のお客様に初めからオンラインは難しいでしょう。しかし、従来のように大人数での訪問ではなく最小のメンバーで訪問し、必要に応じてその会議に必要となるスペシャリストや上席をオンライン会議で呼出し、提案詳細やメッセージをお客様に一つでも多く伝えるなどの手法に切り替えていけば、効率や現場のモチベーションも高まります。単なるオンラインと対面のハイブリッドを超えた、その上のハイブリッドなアプローチが重要です。

GIGAスクールの取り込み
サービスの拡充を目指す

――STFAの具体的なビジネス展開について教えてください。

 Smarter「デバイス」「ワークプレイス」「ビジネス」の三領域で展開するもので、各領域に向けた製品ラインアップやソリューションの拡充を図ります。強調しておきたいのは、PCの見た目はどれも同じように見えますが、技術や特長などは各社で異なるという点です。テレビ会議の質もハードの性能や品質が左右する部分はとても大きい。当社では、IBM時代からPCの開発拠点である大和研究所(みなとみらい)にて、お客様やパートナー様を年に数回招待して意見をもらい、それをいち早く製品開発に反映させています。また、生産体制では、NECパーソナルコンピュータの米沢事業場の生産製品も拡大しています。
 
――注力する分野はありますか。

 一つは、GIGAスクール構想へのコミットメントです。つまりは、STFAの理念に照らし合わせ、こども達へテクノロジーの恩恵を提供することです。GIGAスクール構想をサポートする小・中学生の学習向けPCをはじめ、PCとクラウドサービスをパッケージ化したソリューションをパートナー様と共同で開発しました。PCのラインアップもWindowsとChromeの双方をそろえて、WindowsソリューションではSky様、Chromeソリューションは、NTTコミュニケーションズ様と強力なパートナーシップを結ばせていただきました。さらに、営業活動をサポートするために文教の専任部隊も新設しました。もう一つの注力分野として、ハードの付加価値を高めるためサービスポートフォリオの拡充を進めています。PCの導入を検討する段階からのライフサイクル全体を含めたサービスを充実させていきます。アジアパシフィック全体でもサービス売上は、前年比66%増加しており、グローバルで新たな成長領域、注力分野と位置付けています。

――最後に、パートナー施策についても教えてください。

 2年前からvelocityというパートナー・トランスフォーメーション・プロジェクトを推進し、国やエリアで異なっていた方針を統一化しています。昨年はインセンティブ・プログラムを改訂し、シンプル化しました。今年は、パートナー様向けポータルサイトを刷新する予定です。より効率よく、お客様への要求にもタイムリーにお応えできるようになります。また、今後は、グローバル戦略と日本固有の戦略を、上手く組み合わせて、日本のパートナー様とお客様のニーズに応えてまいりたいと考えています。

サービスを通じてお客様のDXを支援
レノボのサービスソリューション

 「PCに対するお客様ニーズは多様化している。よりPCを活用していただいてDXの推進やビジネスの成長に貢献していくため、われわれに何ができるかを考えた時、その一つの回答がサービスポートフォリオの充実だった」と、サービス事業部サービスセールス&マーケティング本部の上村省吾・執行役員統括本部長は語る。
 
上村省吾 サービス事業部 サービスセールス&マーケティング本部 執行役員

 レノボは、2年前からサービスポートフォリオの充実に取り組んできた。安心保証などによってデバイス自体の価値を高める「Attached Services」、製品のライフサイクル全般をカバーする「Managed Services and Device as a Service」、顧客の業務領域にまで踏み込んだ「Complex Solutions」の三領域でサービスの拡充を図っている。

 注力するサービスの一つが、PCのライフサイクルサービスだ。調達の「計画」から「構成」「導入」「サポート」「管理」「破棄」までのトータルサービスを提供する。

 「レノボは全ステージをカバーする取り組みも行ってきたが、管理や破棄の部分では、パートナーの方々が強みを持つ部分も多い。そこで、アライアンスでサービスを補完し、質の高いサービスを実現している。お客様の満足度も高まり、大きな成果につながっている」という。

 Attached Servicesでは、2019年に開始したAIチャットボットによる24時間チャットサポートがある。これは、グループ企業のNECパーソナルコンピュータが17年から提供しているサービスをベースにしたものだ。

 上村執行役員は、「お客様を待たせず、われわれのコスト削減にもつながるサービスとして力を入れている。先行するNECパーソナルコンピュータではAIと有人の対応比率が75%対25%とその多くを解決している」と話す。

 顧客のDX推進をサポートしていくには、先端技術を活用して顧客の業務領域にまで踏み込んだサービスを提供していく必要がある。この領域では、自社事例として修理拠点であるNECパーソナルコンピュータの群馬事業場での伝票処理に、AI-OCR+RPAソリューションの採用検討を開始した。「RPAについては既に一部業務に適用を開始しており、データのダウンロードやデータ登録など、人に依存していた処理の自動化で年間91時間の削減効果が生まれた。今回の知見をもとにキッティング業務へのRPA活用など、定型業務の30~50%程度を自動化することを目指したい」と上村執行役員は力を込める。

従業員の創造性と企業競争力を高める
テレワーク先進企業レノボの取り組み

 レノボ・ジャパンは、2015年12月から本格的にテレワークに取り組んできた。まず、対象を特定部門に限定せず、回数を設けない「全社無制限テレワーク」をテスト導入し、16年4月に正式運用をスタートした。その後、毎年3月の定例行事として、全社一斉テレワークディを実施するなど、社内への定着、浸透を図ってきた。
 
鋤柄明子 人事部 マネージャー

 「レノボ・グループでは、多様性のある働き方によって理想のワークライフバランスを追求することが、従業員の創造性を高めるとともに、企業の競争力を高めることになると考えている。テレワークはそのための重要な手段。ICT企業として自ら率先して促進を図り、その知見を社会に還元していく」と人事部の鋤柄明子・マネージャーは強調する。

 実際、同社の18年業績は、PC出荷台数が35%増、従業員満足度も28%増と大幅に向上した。

 テレワーク導入にあたっては、制度、環境の整備が欠かせない。運用ルールは、前日までにマネージャーの承認取得を求め、勤怠管理はオフィスと同様に定めた。なお、時間単位での利用も可能と柔軟性をもたせている。環境面では、全従業員に働き方に合わせたノートPCを配布。電話は、ソフトフォン化し、常時UCをアクティブにするルールを設けた。オンライン会議の標準ツールは、Skype for BusinessまたはMicrosoft Teamsとしている。

 鋤柄マネージャーは、「もう一つ大切なのは、文化として定着させることで、定期的に社内調査を実施したり、上司と部下の定期的な1-on-1ミーティングを設けて、運用にフィードバックしている。重要な点は、トップのコミットメント。実は、会社設立当初からテレワークが認められていたのに活用されなかったのは、使おうという空気になっていなかったため。15年以降は、リーダー自ら実践した影響が大きかった」と振り返る。

 コロナ禍後は、2月25日の政府における感染症対策の基本方針を受けて即日「原則テレワーク推奨」へと移行。マネージャー向けのコミュニケーションガイドの発信、フィットネス企業との提携によるリフレッシュプログラムを取り入れるなど、各社員へのケアを充実させているが、今後もテレワークが常態化すると考え、光熱費など個人へのさらなるサポートも検討している。

 鋤柄マネージャーは、「開発部隊などは独自の運用ルールを取り入れるなど、ボトムアップの積極的な動きも出ている。現場にとって最も効率的な働き方ができるよう環境を整えていきたい」との考えを示している。