キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は、向こう5年の経営ビジョンの中で、大規模SIプロジェクトでAIをどこまで積極的に活用できるかがビジネスの成否を分けるとの見方を示した。同社は2030年度に足元の1.4倍に相当する2000億円超の売り上げ目標を掲げている。達成には、大規模SIプロジェクトにおいてAIを活用した開発メソッドを確立し、従来の人月ベースのビジネスから軸足を移すことが不可欠という考えだ。AI駆動の価値創造ビジネスを推進し、持続的な成長基盤の構築を急ぐ。3月23日付でトップに就任した須山寛社長に話を聞いた。
(取材・文/安藤章司 撮影/大星直輝)
SIビジネスは転換点を迎える
――トップ就任の抱負をお聞かせください。
社長就任のタイミングで30年度に向けた経営ビジョンを策定しました。向こう5年は、目覚ましいAIの進化によってSIビジネスが大きな転換点を迎えると見ています。
金融や製造など、業種向けの大規模プロジェクトでもAIエージェントの活用が進む見込みですが、足元を見るとまだ不足している技術要素や知見が垣間見られます。画面遷移が数枚程度の軽い業務アプリケーションならAIで自動生成しても問題ないレベルですが、複数のシステムが密接に絡み合う大規模システムになると、AIにインプットすべき情報が膨大になり、思ったより時間がかかる印象です。
当社は大規模プロジェクトへの対応力を強みにしているSIerでもありますので、できる限り早期に開発メソッドを確立し、思い通りのシステムをAIによって生み出せるよう努めていきます。
――須山社長が掲げた経営ビジョンでは「価値創出システムインテグレーション」を挙げていますが、従来の人月単価をベースとした価格体系ではなく、価値ベースに切り替えるという意味ですか。
従来100人月で開発していたシステムが、AIを使えばわずかな人数で開発できてしまうとすれば、人月ベースで対価をいただくのは難しくなります。ユーザー企業にどう価値を認めてもらうのか、価値に相当する尺度を何に求めるのかを整理し、ユーザー企業と合意形成していく必要があります。過去を振り返るとITは省人化、効率化の側面が注目を集めてきました。例えば、AI-OCRを導入すれば、これまで30人で行っていた読み取り作業が3人でできるようになるといったように、効率化の度合いを削減可能な人員数で測ることもあったでしょう。
しかし、就労人口が減っていく国内において、「ITを入れて人員を削減する」のではなく、「減っていく人員をITで補う」逆転現象が起きる可能性が高いことが予想されます。多くのユーザー企業にとって人員減を補い、生産力を確保するためのAI活用は待ったなしの状況になる見込みですので、そうした領域に価値を見いだして対価をいただく。そのためには、当社のようなSIer側もユーザー需要の取りこぼしがないようAIを全面的に活用していくことが不可欠です。
重点7分野に経営資源を集中
親会社キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)が昨年度(25年12月期)までの5カ年の長期経営構想で達成したITソリューション(ITS)事業の売上高3434億円のうち、当社は約4割に当たる1472億円を占め、年平均成長率は11%でした。キヤノンMJでは30年度までにITS売上高を5000億円にする目標を設定しており、当社も同様に4割に当たる2000億円超の目標を掲げています。
前中計ではコロナ禍の混乱はあったものの、大規模プロジェクトを担えるプロジェクトマネージャー(PM)の育成が順調に進み、加えてユーザー企業が基幹システムの刷新を継続したことが追い風となりました。向こう5年の市況を見通すと、AI特需で最初の1~2年は今の延長線上でビジネスを伸ばせても、前述のようなAI時代の価値創造が可能なSIモデルに軸足を移していかなければ、持続的な成長は難しいと見ています。
――重点分野はどのように設定していますか。
自動車などのモビリティー、セキュリティー、文教、サプライチェーン、金融基幹系、バックオフィス、IT基盤サービスの重点7領域に経営資源を集中させ、30年度には売上高の半分以上をこれらで占めることを想定しています。足元の重点7領域の構成比は2~3割程度ですので、文字通り重点的に力を入れていかなければならない領域です。
――重点7領域を選定した背景は何ですか。
需要の大きさと、当社の強みを伸ばすという両面から選定しました。例えばランサムウェアが猛威を振るう中で、セキュリティー領域は着実に需要が見込めます。当社ではスロバキアESET(イーセット)や、JSecurityの「AppCheck」などの優れた製品を活用しつつ、ランサムウェアの侵入防御や、万が一侵入されて暗号化が始まる兆候を素早く検知し、バックアップデータを保護することで復旧を可能にするソリューションを展開しています。攻撃側はAIを駆使して一段と巧妙な攻撃を仕掛けてきますので、防御側もAIを駆使して、わずかな振る舞いの変化からランサムウェアを検知できるよう対策することが求められています。
――強みを伸ばす側面ではどうですか。
キヤノングループは映像に強みを持っており、かつ当社はキヤノン製の複合機やカメラに組み込むソフトの開発、自動車の電子制御ユニット(ECU)向けの組み込みソフト開発に実績があります。組み込みソフトはリアルタイム制御が重視されるなど業務アプリとは異なる技術が求められ、これに映像技術を掛け合わせることで複合的な強みを発揮できると自負しています。
近年の自動車に装着されているドライブレコーダーは、保険会社とモバイルネットワークで接続されているケースが増えています。強い衝撃が加わった際の動画を保険会社と共有し、事故後の対応を速やかに行うサービスですが、将来的にはAIで生成した偽動画を共有して保険金詐欺を行うケースも考えられます。映像やモビリティーの知見を駆使し、動画の真贋を判定するといった技術開発にも取り組んでいきます。
M&A後もそれぞれの強みを大切に
――須山社長ご自身のキャリアについてもお聞かせいただけますか。
私は独立系SIerのアルゴ21(入社時はアルゴテクノス21)に入社し、その後の08年にキヤノンシステムソリューションズがアルゴ21を吸収合併したことで今のキヤノンITSに合流しました。アルゴ21が金融業向け基幹システムに強かったこともあり、私は長らく金融分野のSIに従事してきました。
当社は住友金属システムソリューションズやアルゴ21、組み込みソフト開発に強いキヤノンソフトウェアや、ITインフラに実績のある東京日産コンピュータシステム(TCS)など、さまざまな出自のSIerが集まって現在の事業ポートフォリオを形成しています。今後のM&Aの可能性も踏まえ、それぞれの会社が持っていた強みをキヤノンITSでも生かせるよう、経営のかじ取りをしていきたいと考えています。
住友金属システムソリューションズは、需要予測をはじめとする数理モデルの開発に強く、独自のR&D能力も当社独自の商材開発に大いに役立っています。キヤノンソフトは重点分野の一つでもあるモビリティーに欠かせない組み込みソフト開発に長けていました。強みは強みとして大切にし、これらを複合的に組み合わせることで優位性を発揮していく考えです。
――課題はどのあたりにあると考えていますか。
市場に広く横展開できるサービス商材の開発がまだ弱い点が課題です。需要予測の「FOREMAST」や、ローコード開発の「WebPerformer」、自社データセンターを活用したIT基盤サービスの「SOLTAGE」など当社ならではの尖った売れ筋商材を多数開発してきましたが、中には尖りすぎてターゲットとする市場が小さすぎるケースも見られました。ニッチな課題を解決する能力も重要ですが、それと並行して市場全体を俯瞰するマーケティング力を生かし、月額課金によるストック型のサービス事業の規模拡大を推し進めていきます。
もう一つ、ユーザー企業が目指す方向に寄り添いながら、未来視点でともに事業を変革する「未来共創イノベーション」のビジネスをより一段と伸ばしていきます。当社の経営ビジョンのキャッチコピーである「共想共創カンパニー2030」にも通じるもので、ユーザー企業の思いを共有し、共に未来のビジネスを創り出せるよう努めていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
須山社長が情報サービス業界に関心を持ったのは、「父親が住友金属グループのIT部門で働いていたことがきっかけ」であった。高校時代、父親の同僚のSEが自宅を訪れたとき、「SEの仕事ぶりの話を聞く機会があり、気がついたらIBMマシンでプログラミングをして遊ぶようになっていた」と振り返る。
大学へ進学する際も将来SEになることを想定して情報学部を選び、卒業後は独立系SIerのアルゴテクノス21に就職した。13年ほど勤めたある日、住友金属システムソリューションズにルーツを持つキヤノンシステムソリューションズによるM&Aが決まり、期せずして父親と同じルーツの会社で働くことに。「巡り合わせの妙に運命を感じた」と話す。
複数のルーツを持つ企業体として、それぞれの企業が培ってきた組織文化の良い部分を大切に受け継ぎ、新たな未来へと向かう気構えだ。
プロフィール
須山 寛
(すやま ひろし)
1972年、茨城県生まれ。95年、文教大学情報学部卒業。同年、アルゴテクノス21(のちのアルゴ21)入社。2008年、アルゴ21とキヤノンシステムソリューションズが合併し、キヤノンITソリューションズに社名変更。16年、SIサービス事業本部金融事業部長。20年、執行役員。23年、取締役。24年、常務執行役員。26年3月23日付で代表取締役社長に就任。
会社紹介
【キヤノンITソリューションズ】キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)グループの中核SIerであり、2025年12月期の単体売上高は1471億円で、従業員数は約4200人。キヤノンMJグループのITソリューション事業の売上高全体の約4割を占める。