基調講演1には、教育ICT政策支援機構(JEIPO)代表理事の谷正友氏が「制度が動かす教育市場、その変化をどう事業機会に変えるか」と題して登壇。GIGAスクール構想第2期や校務DXに向け、SIerやIT販社が教育市場で伴走者となるための勘所を解説した。
教育ICT政策支援機構/代表理事
谷 正友 氏
第1の視点は「制度の地殻変動」。谷氏は「市場を動かすのは、製品トレンドではなく『制度』だ」と語り、文部科学省の制度文書を十分に理解せずに提案するのは論外だとした。そして、制度文書のポリシーが「学校で使える」ものにシフトしている現状を説明。次期学習指導要領の議論ではGIGAが便利な手段から各教科を学ぶ前提に変わり、教員と子どもの双方に「余白」を生み出すことを求めている。事業者は「なぜ市場が動くかを、顧客と同じ言葉で語れることが武器になる」と強調した。
第2の視点は「現場の痛点を読む」。文部科学省の「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」が改訂された現在でも、多くの学校ではネットワーク分離や端末の使い分け、校外からのアクセス不可といった過去の善意の設計の積み重ねが現場を窒息させ続けている。その結果、働き方改革という言葉自体が業務化しているという皮肉な構造になっている。
谷氏は「誰のためのICTか」と問いかけ、解決策として、ゼロトラストを提示した。認証基盤とデバイス管理基盤を組み合わせ、アカウントにひも付く役割ごとにアクセスを制御し、アクセスのたびに端末の状態と利用の文脈を検証し続ける考え方だ。さらに、何を新しく足すかではなく、何を引き算するかで価値は示されるとし、不要な制約をなくす引き算を語れる事業者が現場の信頼を勝ち取れると語った。
第3の視点は「過渡期の落とし穴」。クラウド化が進む中、ルールに反した運用や権限付与の誤操作によるインシデントが発生している。谷氏は、できることと、やっていいことを組織として区別できるかが次世代校務DXの分水嶺になると指摘。制度文書に照らして、自社設計の適合性をしっかり点検すべきであるとした。そして、選ばれる事業者になるには、「運用まで設計」「説明責任の根拠を用意」「一緒に考える共創」の姿勢が不可欠になると力説した。
第4の視点は「未成年×生成AI」。子どもは発達の途上にあり、過度な認知オフローディングによって、本来育てるべき思考のプロセスが省略されるリスクがある。そのため成人向けAI論を、そのまま子どもに持ち込まないことが重要になる。加えて、子どもの権利保護を背景としたEU AI ActやUNICEF「子どもの権利とAI」ポリシーガイダンスのような国際的な枠組みが、日本でも調達仕様の前提になる日は遠くないとした。サービス規約上の年齢制限や保護者同意の扱いも含め、それらとの整合性を語れる準備を、今のうちからしておくよう促した。
最後に谷氏は、ICTとは「今までやりたくてもできなかったこと、届かなかったことに、子どもを近づける道具」であるとし、「できないを、できるに変える」という言葉で講演を締めくくった。