「特別な流通施策をとったとは思っていない。販売店、ユーザー、そしてアップルにとって最適な施策は何か。この回答がiMacにある」 8月29日の発売から1週間を経過、マッキントッシュシリーズとしては過去最大規模の売れ行きを見せているiMac。その人気ぶりは、パソコン産業では異例の「定価販売」を維持している点にも現れている。「アップルはいよいよ成長戦略をスタートした。アップルらしさを追求しつつ、新たなビジネスモデルを構築する」と話すアップルコンピュータ・原田永幸社長に、iMacを中核とした今後の事業戦略を聞いた。
iMacが狙うのはWinユーザー獲得
――iMacの初期ロットはあっという間に完売だったようですね。
原田 厳密にいえば、メモリ増設で納品が遅れていたり、販売店のキャパシティの問題で売れ残ったという例もあるようですが、ほぼ土日の2日間だけで完売といっていいでしょうね。今後も、最大限の努力をして製品供給に努めます。
――iMac発売後の率直な感想はどうですか?
原田 社員が感動していますよ。アップルにいて良かったと(笑)。私も翌朝午前5時まで寝られませんでした。社員と反省会をしたり、各マスコミのウェブをチェックしたり(笑)。もちろん、大切なのはこれからだということは十分認識しています。
――初期の購入層はマックユーザーのようですね。
原田 これはどんな新製品でもそうですが、まず、既存ユーザーが購入し、その次にニューユーザーが購入する。iMacは、パソコンを購入したが結局使えなかったというユーザー達に、「iMacならば大丈夫ですよ」というメッセージを発信しています。
――新規市場開拓というメッセージがないですね。
原田 それは、これからです。まず、iMacはデザインと価格で訴求した。それと同時に簡単にパソコンが始められるというイメージができた。今月末からはパワーがあるということをアピールします。中身もすごいんだと。その後に、こんなことをしたいからiMacが必要なんだ、というような方向を打ち出したいと考えています。
――今回のiMacの発売とともに、成長戦略という言葉を使われましたが、そこに込めた意味は。
原田 ジョブズは、1年前にサバイバルという言葉を使った。それがステーブルとなり、グロース戦略へと変化してきた。ただ、ここでいう成長戦略とは、台数やシェアを追うものではない。いくら良いものをつくって、台数を売っても、結果が赤字では叩かれるということをアップルは経験してきましたから。
シェアを追うのは自分の首を絞める経営戦略です。需要を喚起し、その需要に適切な量の製品を、適切なタイミングで提供する。その結果、シェアが高まればいいのです。数字をベースに事業を推進するのではなく、質の高い経営体質を確立し、ビジネスチャンスを確実にモノにする。その結果として数値がついてくるというのがアップルの成長戦略の考え方となります。
販売店と議論を重ね新たな流通施策実施
――iMacに関しては、新たな流通施策をとられましたね。1つは、取扱店を限定するという手法、もう1つは高い仕切り価格設定。これは今後のアップルの事業戦略のスタンダードとなるのですか
原田 別に、特別な流通施策とは思っていません。ただ、販売店の方々とはこの1年間にわたって真剣に議論を繰り返してきた。過去15年のアップルの歴史のなかでも、こんなに流通施策について議論したのは初めてではないでしょうか。このなかで我々が訴えたのは、既得権とか、これまでの貢献度とかに左右されるのではなく、これからどういうビジネスを一緒にやっていくかを重視するという点。そして、ユーザーにとって何が最適なのかという点です。
今、企業の共通の課題はローコストオペレーションです。それを実現するためにはどうするか。物流手法、販売手法、サポート手法、販売店支援方法などもすべて見直した。例えば、2次店のサポートは、今はアップルが直接行う。この経費はアップルがもつ。販売店の方々は、プラットフォームでマージンをとっていたのでは経営が成り立たないことを知っている。では、ソリューションで利益を確保するために、アップルはどんな支援ができるのか。そうした話し合いのなかから、今回の流通施策が出てきたわけです。ただし、パワーマックやパワーブックは販売ターゲットが異なりますから、すぐに同じ手法を用いるというわけではありません。
――この手法は日本に定着するとお考えですか。
原田 今回のやり方は流通の方々との話し合いを行い、十分な理解を得たうえで実施したものです。今後、ローコストオペレーションを追求すればするほど、iMacの流通施策が定着すると思いますし、そうしなければ勝ち残れません。
――米国では一定数量の販売量をもつルートとの直接取引に絞りこんでいますが、日本でも同様の施策をとりますか。
原田 いいえ。それはありません。今回のiMacでも数量のコミットは設けていません。ただし、マックマスターズ3700店舗のなかでも、格差が出ています。同じ施策で均等に対応するということ自体がナンセンスですから、逆に販売店ごとに支援の差がでてくるのは当然でしょう。
――今後、BTOやアップルストアの展開も予定していますが。
原田 BTOはまだ検討段階です。先にインターネット販売のアップルストアの方がスタートすることになりますね。年内の開始を予定していますが、これは販売店と競合するのではなく、販売店を補完するような仕組みを提示したいと思います。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「地震も台風もiMac発売を祝福してくれましたよ」
iMac発売の8月29日は、台風接近、朝からの地震という極めて悪条件の一日となった。だが、原田社長のコメントからは悪条件の意識が感じられない。勢いがあると、悪条件さえも追い風に見えてしまうようだ。
当日午後2時からの記者会見のメインイベントは、午後3時のカウントダウン。「それまでは時間通りに進行しなくては、という意識ばかりでまったく落ち着かなかった」と原田社長。午後3時を過ぎて、札幌、大阪、福岡からの中継が入り、やっと落ち着いたという。「購入者の映像を見て、目頭が熱くなりましたよ」。中継用のスクリーンからは、購入者の興奮ぶりが伝わってきた。
アップル社員のiMac購入は、しばらく控えるようにとの通達がでている。潤沢な供給はいつになるのか?(君)
プロフィール
原田 泳幸
(はらだ えいこう) 1948年12月3日生まれ。71年東海大学工学部通信工学科卒業、72年日本NCR入社、83年シュルンベルジュグループ入社後、取締役マーケティング部長、取締役ATE事業部長を歴任、90年アップルコンピュータジャパン(当時)入社、取締役マーケティング本部長などを経て、97年4月、代表取締役社長兼米アップルコンピュータ副社長に就任。
会社紹介
iMacの販売開始によって、アップルコンピュータの事業戦略は大きな転換期を迎えたといっていい。ここ数年にわたるアップル不振説は一気に払拭され、「シェア2位を誇った時の強いアップルの気持ちに戻った」という原田社長のコメントは、現在のアップルを表現するのには最適のことばだといえるだろう。アップルコンピュータは、成長戦略へのシフトを明確に打ちだした。今後は、この成長戦略に基づいた、パワーマック、パワーブックの事業戦略が明確に打ち出されることになる。さらに、99年には、コンシューマ市場向けノートパソコンの投入を予定しており、新たなマッキントッシュのラインアップが完成する。今月末締めの決算内容も楽しみである。