IT大手各社がソフト・サービス分野へ大きくシフトを始めた。ハードではもはやコスト面で中国などに太刀打ちできない状況下、長年蓄積してきたシステム構築ノウハウ、運用ノウハウなどを武器に、グローバル競争に立ち向かう。NECがメーカーでなくなる日もあり得るかもしれない。西垣浩司社長は、将来のNEC像についてこんな見方すら示す。日本のIT産業にとって、2002年は復活の年になるのであろうか。
好調なソフト・サービス、来年度は絶対に黒字へ
──IT産業が冷え込んでいます。今年はどのように見通されますか。西垣 われわれの事業でいいますと、おかげさまで、不況不況といわれている中にあっても、SIを中心にソフト・サービスの分野は非常に良い状況です。というのも、今は国も企業もみな構造改革に取り組み、合併・分社化などの動きも活発です。こういう動きにともなって、システムの組み換えや新システムの採用が求められています。従って、この分野は非常に忙しくやらせて頂いてます。
問題はハードウェアの分野です。サーバーは数量は伸びていますが、オープン化にともなう価格競争が厳しく、全体の売り上げが落ちてます。パソコンはその最たるものです。
一方、通信の方もハード中心に落ちてます。米国のドットコムブームによる過剰投資のほか、欧州では電波のオークションで政府が多くのお金を吸い上げたことで、通信オペレーターが疲弊し投資意欲をなくしてます。通信分野はこの辺りの問題が解決しないと火がつかず、持ち直しは03年から04年にかけてと見ています。02年度はまだ厳しい状況でしょう。
こうしたハードの低迷が半導体や部品にくるわけで、DRAMに見られるように、設備投資の先行で明らかに過剰設備の問題を抱えてしまっています。これも解消は今年一杯は難しいと見ています。
──昨年夏に中期経営戦略を策定し、構造改革に取り組んでいます。その効果は下期業績に表れ始めていますか。西垣 昨年11月末時点でいえば(下期は)予算通りか、少し厳しい感じです。
12月末で第3四半期が終わり、1月末にその業績発表を予定していますが、今のところあまり良くなる要素は見られず、依然厳しい状況が続いてます。
この改善に向け、今年は半導体を始めとする部品分野で、大きなリストラを追加実施していく方針です。現在、具体的な内容を最終的に詰めています。われわれとしては、力のあるうちにできるだけリストラを進め、来年度以降の立ち上がりに備える考えです。追加のリストラはできれば3月までに着手したい。半導体は無駄な部分を極力そぎ落としていきます。
来年度は絶対に(グループ業績を)黒字にしていくことが大前提です。
生産機能は海外へ、パソコンは全方位戦略
──DRAM業界が揺れています。日立製作所との合弁、エルピーダメモリも再編の流れに加わる可能性はありますか。西垣 1つ言えることは、エルピーダの技術開発力は世界一だということです。問題は、その開発力と設備投資をリンクさせるかどうかです。生産をファウンドリーに委ねるという選択肢もあります。
量産設備をもつことが得策かどうかは、今後検討しなければなりません。その理由の1つはコストの問題、もう1つは日本の金融の仕組みの遅れがあります。
今後、半導体のような大型設備産業には直接金融が活用できる仕組みが必要になってきますし、マイクロン(米)とハイニックス(韓)のような株交換方式だと実際にお金は動かずに済みます。そういう仕組みが日本でもダイナミックにできるようにならなければ、量産設備を持ち続けるのが得策かは、よくよく考えなければなりません。ともあれ、現在のところエルピーダに新しいパートナーを加えるようなことは考えていません。
──ソフト・サービス事業へのシフトを掲げています。行き着くところ、NECはメーカーではなくなってしまう可能性はないのでしょうか。西垣 そうなるかもしれません(笑)。基本的には、中国でつくれるものは中国でつくらせないと世界に勝てなくなっています。これはコンパックもHPも、デルも同じです。中国で量産可能なものは、もはや日本では生産できません。
もちろん、金融端末のように少量だけど日本市場に必要なもの、あるいは日本でしかできないもの、そういうものは生き残っていきます。だが従来のように、大企業が大工場をつくり雇用を維持していくようなわけにはいかないでしょう。
われわれの位置づけとしては、マザーファクトリーは絶対日本で維持していかなければならず、そこで設計・試作を行い、生産プロセスの改善、コスト低減、品質安定につなげていく。だが、それが成功したら速やかに中国へ移転していくパターンになるでしょう。
──パソコン事業はコンシューマ、企業のどちらに重点を置かれますか。西垣 もちろん両方です。シェアトップのメーカーとして、どちらかに絞るというわけにはいきません。当社は多くの個人ユーザーを抱えており、そういう人たちが買い換える、あるいは家電化・サーバー化を求める──そうした際の需要にワンツーワンで応えていきます。
また、法人向け市場は、自社開発したパソコンをもっていないと、ミッションクリティカルなシステムは組めません。パソコンはいろいろ苦労しながらも、やらなくてはいけません。
──パソコン事業はこれからもNEC単独でやっていくのでしょうか。西垣 必ずしも単独にこだわってはいません。アライアンスを組めるところは、組んでいかなければと考えています。この方針に基づいて、コンシューマ向けはカスタムテクニカ、カスタマックスという組織をつくりました。できればそこに外部の人も入れて、コンシューマ市場をものにしていくつもりです。
──最後に今年のキーワードを3つ挙げてもらえますか。西垣 まずは何と言っても3G(第3世代携帯電話)です。欧州のオペレーターは疲弊していますが、3Gから始めようというハチソンのような動きもあり、これが全体を引っ張り始めると意外に化けます。
2つ目は、オープンミッションクリティカル。今年は銀行の勘定系、地銀の勘定系がオープンで動き出します。これでメインフレームがなくともいけることが証明できるようになります。
3番目はシステムLSIというか、任天堂さんですね。ゲームキューブのおかげで増産増産と非常にいいですよ(笑)。また、今年は地球環境シミュレータという巨大なスーパーコンピュータが動き始めます。内部のLSIは社内開発したもので、最先端の銅配線技術を使っています。これでIBMと肩を並べられるようになります。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ちょうど1年前、西垣社長はリストラの進捗状況について「まだ5-6合目。これからもどんどんやる」と語っていた。
今回、同じ質問を向けてみたところ「リストラは常に道半ばで、終わりはない。先端産業は常に構造改革の連続」との返答。昨年来、未曾有の半導体不況に直面し、構造改革への意欲は一段とトーンが高まっている。
米HPのカーリー・フィオリーナ会長兼CEOとは、よく国際電話で会話を交わす仲。この前もコンパックとの合併話で頭を痛める同氏に「頑張りなさいよ」とエールを送ったそうだ。構造改革は洋の東西を問わず、リーダーは反抗勢力の矢面に立たなければならない。
21世紀の生き残り競争で勝敗を決するカギは、リーダーのタフさ加減が握っている。(夏)
プロフィール
西垣浩司(にしがき こうじ)
1961年3月、東京大学経済学部卒。同年4月、NEC入社。情報処理製造・装置システム事業部製造業第一営業部長、情報処理金融システム事業部長などを経て、88年に理事。89年支配人、90年取締役支配人、92年常務取締役、94年専務取締役。99年3月に代表取締役社長に就任。
会社紹介
NECの2002年3月期の連結決算予想は、売上高が前期比2.0%減の5兆3000億円、当期純損益が1500億円の赤字(前期は566億300万円の黒字)の見込み。期初予想の売上高5兆8500億円、当期純損益650億円の黒字に対し、一転して大幅な赤字決算を強いられる見通しだ。半導体メモリ市況の急激な悪化に加え、パソコン事業の不振、米通信市場の急減速が業績を直撃する形になっている。
経営の建て直しに向け昨年7月末、半導体事業の構造改革やソフト・サービス分野への事業シフトなどを柱とする「中期経営戦略」を発表。さらに、半導体事業については同9月末に追加のリストラ策をまとめているが、近く第2弾の追加リストラ策も打ち出されるもようだ。
中期経営戦略では約4000人の人員削減が予定されている。2万人前後に及ぶ日立製作所、東芝、富士通の削減計画に比べると小規模に見えるが、実は99年3月の社長就任以来、西垣体制のもと、すでにNECでは1万5000人近い人員削減が実施されている。