中山隆志氏がイーエムシージャパン(EMCジャパン)の社長に就任してから約1か月が過ぎた。これまで数々のITベンダーで要職を務めてきた中山新社長は、EMCジャパンにこれまでにない改革をもたらそうとしている。この1か月の間で経営改革のために何を実行し、どのようなビジョンを打ち出してきたのか。中山新社長にその中身を聞いた。
情報の「ゆりかごから墓場まで」、パートナー協業重視へ転換
──社長就任から約1か月が経ちました。目指す方向は定まりましたか。
中山 「シェア拡大」。これしかありません。
EMCジャパンおよび米EMCは、これまで日の出の勢いで成長してきました。しかし、ここ1―2年は厳しい状況が続いています。ITバブルの崩壊、デフレの影響、経済全体の落ち込みが重なりIT市場全体が低迷し、EMCジャパンも苦戦を強いられています。しかし、米国IT市場が今年に入ってようやくプラスに転じ始めました。日本市場の回復スピードは米国に比べ遅いですが、今年で底を打ったと実感しています。今年はまだ我慢の年ですが、来年にはIT産業全体が再び息を吹き返すはずです。ストレージ市場はそのなかでも、IT全体の伸び率に比べ約2倍の成長率で推移する最も活気のある市場へと成長していくでしょう。だから、再びEMCジャパンを成長軌道に乗せるためには、シェア拡大が至上命題なのです。
──ストレージ市場での競争もますます激しくなっています。EMCジャパンの強みはどこにありますか。
中山 競争力のあるビジネス展開するために、情報をどのように活用するかという戦略構築が不可欠になっているのは言うまでもありません。そのために、常に増え続けている膨大な情報をいかに効率良く保存・管理・活用するかというニーズは当然拡大します。情報、つまりデジタルデータを「貯める」、「活用する」から「捨てる」という部分まで、いわば情報を「ゆりかごから墓場まで」どのように扱っていくかという、ストレージのトータルソリューションのニーズが高まってくるでしょう。当社には、このサイクルをすべてカバーする製品・ソリューションがあります。SAN(ストレージエリアネットワーク)、NAS(ネットワークアタッチドストレージ)、CAS(コンテンツアーカイブストレージ)など、すべてのストレージ製品を揃えており、ハイエンドからローエンドモデルまで品揃えは豊富です。ストレージ市場で当社以上の製品ラインアップを揃えているベンダーは他にありません。これが大きな武器です。
──シェア拡大に向けて、社長就任後、最初に着手したことは。
中山 ビジネスモデルの転換と、社員とのコミュニケーションを活発にすることです。ビジネスモデルの転換とは、具体的にはパートナー企業との協業体制を強化することです。これまで当社では、営業担当者が自ら顧客の元に足を運び、直接販売していくビジネススタイルがメインでした。しかし、これでは社内の人的リソース以上の展開は行えません。マーケットのカバレッジを広げていくことは難しい。そこで、パートナーとの協業で販路を拡大し、ユーザー層を拡大させることが重要だと認識しています。
日本の顧客は、トータルソリューションを求める傾向が他国に比べて強く、総合的なITサービスを提供している企業が強い傾向があります。「何でもできます」という謳い文句が受け入れられやすいのです。当社はストレージ市場では確固たる地位を築き上げていますが、その他のソリューションを手がけている訳ではありません。トータルのITサービスは当社には無理です。その点でも数多く製品やサービスを取り扱っているシステムインテグレータなどと連携したビジネス展開が必要になります。
直接販売はこれまで同様に継続、顧客に接し、要望を吸い上げる
──パートナーにはどのようなことを求めますか。
中山 ストレージ製品のなかで当社の製品を、ぜいたくを言えばナンバーワンに、少なくともナンバーツーとして取り扱ってもらえる企業、それを私はパートナーだと定義しています。就任直後にも関わらず、大それたことを言っていると思われるかもしれませんが、パートナーとの強固な体制を構築していくためには、まず最初にしっかりとこちらの要望を伝える必要があります。この約1か月間、パートナーになって頂きたい企業1社1社に直接足を運び、根気よく、そしてわかりやすく当社のビジネスプランを説明しています。
もちろん、当社もこれまで以上に努力していかなければなりません。パートナーになってもらいたいIT商社やシステムインテグレータは、複数の製品を手がけているだけにかなりのスキルを持っています。当社もそのレベルについていかなければなりません。パートナー企業に担いでもらえる製品、ベンダーになることが大前提ですので、さらなるレベルアップは必須です。
──直接販売はやめるつもりですか。
中山 その考えは全くありません。パートナーを軸とした展開を行っていく方針ですが、直販スタイルはこれまで同様に続けていきます。先程お話したように、当社はこれまで直販を主体に成長してきました。これまでの実績と誇りが社員にあり、捨てるどころか、当社の強みになっています。また、顧客に直接に接することで、エンドユーザーの要望を吸い上げられるメリットもあります。メーカーである以上、エンドユーザーに接する機会を失ってはいけません。すみ分けをどのようにしていくかが大きな課題ですが、これは今後、早急に方針を固め、パートナーとなってもらえる企業には、明確なメッセージを発信していきます。
──これまで直販メインでやってきただけに、パートナー経由のビジネスへの転換は社員にとっても大きな変化なのでは。
中山 確かにそうでしょう。ここまでEMCジャパンを成長させてきたのは直販ですし、ビジネスモデルの転換で社員が困惑や不安を抱えることもあるでしょう。「何言ってるんだ。まだ1か月しかいないのに」と思われ、社内に軋轢が生じるかもしれません。しかし、変わるということは必ず痛みをともなう。今までやってきたことを捨てなければならないこともあります。それはきちんとしたステップを踏んで取り組んでいきます。大変なエネルギーを費やしますが、着実に進めていきます。
それから、もう1点。私が就任後に力を入れているのは社員とのコミュニケーションです。社員1人ひとりと話す機会を積極的に持ち、7―8人のグループ単位で、EMCジャパンの目指す方向と私のビジョンを分かりやすく説明していき、社員の話も直接聞いています。自分の希望を明確に伝え、議論を戦わせながら社内のコンセンサスを取って私のビジョンを社内に浸透させていきます。
──その枠組みが確立するのはいつぐらいでしょう。
中山 来年3月までにはきちんとした体制を築き上げます。当社は流れの速いIT業界のなかでも、きわめてスピードが速い企業です。それほど長い時間をもらえるわけではありません。急ピッチで進めていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
パートナー戦略や社員の意識改革を「中長期的な戦略ではある」と話すが、第1フェーズの節目を中山社長は来年3月に設定した。EMCジャパンの社長就任以前には、数々の大手IT企業で要職を歴任してきた。「日本人は、たとえ悪いところがわかっていても、現状に甘んじて行動を起こさない。誰かが嫌われ役にならなければ、変化は起きない」と、人事制度の見直しやパートナー体制の構築など、これまでも摩擦覚悟の改革を断行してきたという。「軋轢は仕方がない」、「変わるためには痛みをともなう」と、終始厳しい表情で、力強く話す言葉には並々ならぬ決意を感じさせる。来年3月に蕫中山改革﨟はどこまで完成されているのか。今から楽しみである。(鈎)
プロフィール
中山 隆志
(なかやま たかし)1945年7月、神奈川県横浜市生まれ。69年、明治大学政治経済学部卒業後、AIU入社。71年、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)入社。80年、IBMワールド・トレード本社(南北アメリカ・アジア地域担当)出向。業務統括、製品業務管理などに担当マネージャーとして従事。86年、IBMアジア・パシフィックに出向。92年、日本サン・マイクロシスムズ(現サン・マイクロシステムズ)入社。96年に取締役・生産物流本部長、97年には取締役・営業企画本部長、98年常務取締役・パートナー営業統括本部長兼大阪支社長。01年、伊藤忠テクノサイエンス入社。専務取締役に就任。03年10月、イーエムシージャパン代表取締役社長に就任。
会社紹介
イーエムシージャパン(EMCジャパン)は、ストレージシステムを手がける米イーエムシーコーポレーションの日本法人して1994年に設立。日本市場での製品販売、保守業務を手がける。東京のほか、大阪、名古屋など8つの拠点で営業展開している。社員数は約600人。資本金は3億円。ワールドワイドの戦略として、91年に直接接続型ストレージ(DAS)の提供を開始して以来、95年には1つのアレイ装置で複数のサーバーを管理するエンタープライズストレージ技術、98年には複数のアレイ装置で複数のサーバーを管理するネットワークストレージ技術などストレージ市場において先進的なテクノロジーや製品を発表し続けている。最近では、デジタルデータの「創造」、「保護」、「活用」、「移行」、「アーカイブ」、「破棄」といった一連のデータのライフサイクルとストレージを組み合わせ、情報の価値に見合ったサービスを提供する「情報ライフサイクルマネージメント」戦略を発表している。