全産業にわたって大再編が進むなか、ソフトウェア開発産業だけが特別ということはあり得ない──。ソランは、過去に大規模な合併を経験しながらグループ年商530億円(2004年3月期)の情報サービス企業に成長してきた。再編と淘汰が予想される情報サービス産業において、千年正樹社長は「これまでのM&A(企業の合併・買収)の経験がプラスに動く」と、M&Aのノウハウをフルに駆使し、新しい時代にこれまで以上に存在感ある企業へと成長図を描く。
中国に開発子会社を設立、ソフト開発でもコスト削減
──ソフトウェア産業は、かつてないほどコスト削減圧力や品質管理強化など企業体質の向上が求められています。
千年 金融業や製造業では、すでに大規模な再編が進行しています。世界市場における競争力が必要だという市場原理が働いているわけですが、われわれソフト開発など情報サービス産業だけが例外ということはあり得ません。たとえば、製造業では3─4割のコスト削減という厳しい要求を耐え抜いた企業だけが生き残っています。

ソフトウェアは、手に取って見られるわけではありませんので、経営者の目の届かないところで、これまで見過ごされてきた印象もあります。しかし、構造改革が進むなかでソフトウェアのコストについても、経営者の厳しいコスト削減要求が来ています。こうした顧客企業の要望に、われわれ情報サービス企業は応えていかなければなりませんし、もし応えられないならば、淘汰されるということです。
当社では、中国・北京に開発子会社を1992年に設立し、開発コストの削減に努めてきたのに続き、今年3月には中国でトップ10社に入る上海復星高科技グループの上海索恩ソフトウェア産業に出資しました。出資比率は上海復星高科技グループが70%、当社が30%となります。これまでの北京に加え、上海にも大手企業との合弁会社を持つことで生産性を大幅に高めました。
一方、間接部門のコスト削減も進めており、グループ会社の間接業務を請け負うシェアードサービス専門会社、ウェブオフィスを01年に設立し、これまでに間接部門のコストを従来比で3割削減しました。ウェブオフィスでは、ソラングループ内のシェアードサービスの受託だけでなく、たとえば、新興株式市場の東証マザーズなどに上場する若い企業から総務や経理、人事などの間接業務を委託したいという引き合いも増えています。これまでのコストセンターから、プロフィットセンターへの転換も進んでいます。
──ソラングループは、これまでM&A(企業の合併・買収)により事業規模を拡大し、競争力を高めてきました。
千年 身動きがとれなくなるギリギリになってM&Aを決断するのではなく、早い段階でM&Aを決断する気構えが大切だと思います。M&Aで右往左往するのは経営者だけであって、従業員にとっては、生きていくための基盤が強くなるなどプラスの面が大きい。経営者もM&Aを大きな問題として捉えすぎず、成長するためのステップだと思い切ることも必要だと思います。少なくともわたしは、そう信じてやるしかないと考えています。
情報サービス産業は、他の産業と同じように、いま大きく変わろうとしています。国際的な競争力を得ることもそうですし、体力を得るためにある程度の規模も求められています。そういう時代の流れのなかで、一時代の経営を任されていると自負しています。つまり、自分の会社を自分の子供に残そうとか、家業として代々継いでいこうとか、そういう価値観ではとても生き残れません。いまの時代の経営者の1人として、提携先やM&Aの対象について、舵取りを間違えないように進めていく感覚を持つべきでしょう。この点については、当社のこれまでのM&Aの経験が今後の成長においてプラスに働きます。
当社は、基幹系システムに強く、ウェブシステムやセキュリティ方面にはそれほど強くないという印象がありました。1970年から30年あまりも情報システムを手がけている会社なので仕方がない部分もありますが、昨年7月にウェブシステムに強いネットイヤーグループを子会社化してからは、顧客企業からの評価が大きく変わりました。02年3月には、イスラエルの情報セキュリティコンサルタント会社との合弁でソラン・コムセックコンサルティングを設立し、セキュリティ方面でのビジネスも大きく伸びてきました。
行動しないことがリスクになることも、これからも事業拡大に努めていく
──新しい技術を持つ会社をグループの傘下に置くことで、営業力を強化する戦略ですね。
千年 最先端のウェブシステムやセキュリティのノウハウを持つ企業をグループ会社に置くことで、これまで獲りにくかった商談も多く受注できるようになりました。さらに、これまで当社は、ともすれば大型汎用機の“お守り役”という印象が一部にありました。現に、大型汎用機関連のビジネスは、依然として大きい比率を占める重要な分野であることには変わりありません。
しかし、既存のビジネスだけにしがみついていると、値下げ圧力に耐えきれずに収益が悪化します。逆に、これまで注文を獲れなかった新規の顧客企業から、ネットイヤーグループやソラン・コムセックコンサルティングのノウハウを駆使し、最先端の提案をすることで、既存ビジネスより収益性の高い仕事が獲れる可能性が広がりました。また、既存の大型汎用機のビジネスについても、アウトソーシングなどを深く掘り下げていくことで、安定した収益源になることも忘れてはなりません。
これまでの大型汎用機のビジネス形態は、たとえば100人の人員が3─4年もの長期間にわたって同じ顧客先に張り付いて作業をするというケースがありました。一方で現在、新規顧客の開拓に貢献しているウェブシステムやセキュリティのビジネス形態は、大型汎用機に比べて、件数は多くても、案件あたりの規模は小さい。また、件数が多いため営業コストや管理コストも余計にかかります。こうした新規ビジネスの形態に、われわれのコスト削減のスピードが常に追いついていくことが大切です。
──デジタル家電やモバイル機器など、組み込み型のソフトウェア市場が急成長しています。組み込みソフト分野での実績はどうですか。
千年 これまで基幹システムなどのエンタープライズ系を中心に手がけてきたことから、残念ながら組み込みソフト分野の売り上げはそれほど多くありません。この分野が伸びていることは承知しており、当社がどういう形で参入するべきかが目下の大きな課題となっています。機会があればM&A方式で、弱みを強みに転換することも視野に入れています。当社のこれまでのM&Aの実績を踏まえれば、逆にM&Aを積極的に進めないことが、投資家や株主から見てマイナス評価の要因になるほどです。
実際、M&Aの話はいろいろな局面でありますが、将来性のない会社はどこもM&Aしたがりませんし、魅力的な会社は当社だけでなく、他の会社もM&Aしたがります。当社の戦略は戦略として存在するわけですが、M&Aの機会は当社の都合だけでは何ともならないことの方が多いのも事実です。こんなことを申し上げたら、投資家や株主からお叱りを受けるかもしれませんが、M&Aは「出会い」を信じて行動することも時には必要です。情報サービス産業が大きく変遷するなか、行動しないことがリスクになることもあるからです。今後ともチャンスを捉えて、事業拡大に努めていく方針です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「どうしてソランじゃなきゃダメなんだ」。顧客から見たとき、ソランでなければならない理由の追求は永遠のテーマだ。「当社の社員はみなサービス過剰で、顧客の情報システム部門になりきって仕事に没頭する。経営者から見れば、少しは商売のことも考えて欲しいと思うこともあるが、そのサービス精神をなくすとソランらしさがなくなる」「ソフト会社は、愚直なまでに顧客と常に一体となって仕事をして、信頼を勝ち得てきた。言葉を換えれば、顧客から何もかも教えてもらってきた経緯がある」しかし、時代は顧客に向かってソリューションという名の提案をし、仕事を獲得することが求められる。仕事のスタイルが変わるなかで、新しいソランの価値創造を急ぐ。(寶)
プロフィール
千年 正樹
(ちとせ まさき)1954年生まれ、東京都出身。76年、慶應義塾大学卒業。84年、スタット・サービス代表取締役社長。89年、スタット代表取締役専務。95年、スタット代表取締役副社長。97年、ソラン専務取締役。00年、代表取締役副社長。02年、代表取締役社長に就任。
会社紹介
1970年、長野県松本市に松本計算センター設立。97年にスタットと合併し、社名をエムケーシー・スタットに変更。01年にエムエス情報システム(旧長銀情報システム)と合併し、社名をソランに変更するなど、大きなM&A(企業の合併・買収)を繰り返しながら事業を拡大してきた。03年7月には、ウェブ系のシステムに強いネットイヤーグループを連結対象子会社にする。また、中国・北京に開発合弁、北京ソラン計算機を持ち、今年3月には中国内でトップ10位に入る上海復星高科技グループの子会社、上海索恩ソフトウェア産業に資本参加した。中国でのソフト開発コストは、人月ベースで日本の半分から3分の1程度といわれる。その中国で同社は昨年度(04年3月期)、金額で約2億円、月間平均40人月を北京の開発子会社に発注した。今年度(05年3月期)は上海の出資会社が新たに加わることなどから、中国への発注は昨年度の約2倍の4億円程度を予定している。