高速・大容量化ニーズと料金体系の低額化で、市場の急拡大が見込まれるFTTH(ファイバー・トゥ・ザ・ホーム)。IP電話においても、従来の電話番号を利用できる「OAB─J(ゼロ・エービージェイ)」によって、導入の追い風が吹いてきている。昨年9月、100Mbps光ファイバーによるインターネットと光電話のセット料金で5200円という料金を打ち出したケイ・オプティコムの田邉忠夫社長が描く2005年の戦略は?
先手を打ってこその商売 戦略的料金体系を導入
──これまでのケイ・オプティコムの事業をどのように評価しますか。
田邉 近畿のFTTH(ファイバー・トゥ・ザ・ホーム)の拡大には、当社もある程度は寄与できているものと考えています。全体の数字が揃っていないため少し前のデータですが、2004年7月末の全国平均の世帯普及率2.9%に対し、近畿は3.8%と高くなっています。都道府県別でも、トップは東京都ですが、その次には和歌山県を除く近畿2府3県が続きます。当社の戸建て向けインターネット接続サービス「eoホームファイバー」のサービスエリアは、福井県の一部を含む近畿の総世帯数の92%をカバーしており、光ファイバー電話サービス「eo光電話」についても1月中旬からサービスエリアの96%をカバーするまでになっています。
例えば、兵庫県東部の篠山市は当社のダークファイバー(敷設済みの未稼動光ファイバー)を活用して行政のイントラネットを構築しました。市の出先機関を結ぶことになったため、同市の世帯カバー率は98%に達し、家庭での普及も進みました。申し込みレベルで世帯普及率は16%を超えています。
昨年9月時点の近畿のFTTH加入数は36万4000件で、NTT西日本が6割、当社が4割です。NTTのような「巨象」からすれば、当社は「アリ」ほどかもしれませんが、良い意味で健闘しているといえるのではないでしょうか。
──昨年9月に、「eoホームファイバー」の大幅値下げと「eo光電話」のサービス開始で思い切った戦略を打ち出しました。
田邉 昨年9月、光ファイバーを利用するインターネットと電話込みで5200円という価格設定を行いました。ヤフーBBがFTTHに参入し、一方ではNTTグループも「OAB─J」を手掛ける方針を打ち出していました。「商売上手」と「巨象」がやってくる以上、当社としても何かをやらねばならないと考えました。さらに、03年11月に行ったマーケティング調査では、20万人あったFTTHへの加入希望者が、04年5月には17万人に減少していました。これはADSLに流れたためです。ADSLに勝てる商品力を持たなければならないということです。12MbpsのADSLにNTTの基本料を含めると5547円。それを5%は下回る料金にしなければならない。2つの意味から、光電話込みで5200円という料金にしました。
本来は加入者が25万から30万人になった段階でと考えており、2年ほどの前倒しですが、商売というものは「後追い」で勝ったためしがなく、先手を打ってこその商売です。光インターネットの料金だけでなく、OAB─Jの光電話をセットにしたことが大きな要素で、申し込みは順調です。
工事体制の整備と効率化に施策あり 法人にはIPコミュニケーション提供
──05年は本格的な競争の時期を迎えます。
田邉 昨年末には首都圏でFTTHの伸びがADSLの伸びを上回るようになりました。近畿の場合、昨年の7─9月の新規加入はADSLの11万件に対し、FTTHは5万件とほぼ半分ですが、今年の早い時期に逆転することになると思われます。NTTは2010年までに、全国で3000万回線を光ファイバー化する計画を打ち出しています。近畿の経済規模は全国の6分の1と言われていますので500万回線ですが、将来的には200万から250万回線を取りたいと考えています。
投資については、エンドユーザーに近いところは問題ありません。固定投資も、バックボーンが整備されていますから落ち着いてくると考えています。もちろん、トータルの投資計画をどれぐらいのスパンで実施するのかということでの見直しはあるかもしれず、キャッシュフローを超えることも考えられます。しかし、その場合でも後年度のキャッシュフローが改善することになります。 当面の課題は、工事体制の整備と効率化です。普及が進めば、エンドユーザーのニーズに十分に応えるための工事要員の拡充が必要です。競合との関係もあるため、具体的には言えませんが、様々な策を準備しています。一方、効率化については、工法自体の改善やITを活用してファイバー網の設計を合理化することも進めています。
──法人向けサービスはどうでしょう。
田邉 当社からみると、回線数は非常に伸びていますが、価格の下落により売り上げの伸びは大きくありません。しかし、法人営業のモチベーションは高まっています。当社は、03年12月に大企業や携帯電話基地局間ネットワークに強みを持つ大阪メディアポート(OMP)と合併しました。市街地に強いケイ・オプティコムと都心部に強いOMPという地域の面、IPのケイ・オプティコムとイーサネットなどのOMPという商品の面──この2つの面でシナジーを得ることができたためです。これを生かし、トータルソリューションとまでは言わないまでも、ネットワークソリューションとIDC(インターネットデータセンター)、さらに電話という3つの柱を組み合わせて、企業の間接経費の削減に寄与するということをポイントにしたい。現代のホワイトカラー層は、勤務時間の大半をコミュニケーションに費やしているのが実状ですが、これをIPコミュニケーションの力によって救うことが重要です。
──他社との連携・協業も必要になります。
田邉 IPコミュニケーションやIDCは独力で対応できますが、ネットワークソリューションに絡んだASP的な要素は他社との組み合わせが必要です。第1に考えるのは、同じ関西電力グループの関電システムソリューションズですが、必要に応じて大手ITベンダーとのコラボレーションも考えます。兵庫県内の合併自治体のIPコミュニケーション整備では、当社が回線、大手ベンダーが機器でタッグを組みました。当社だけで重荷を背負うのでなく、状況に応じてフットワークを軽くすることを考えます。
──将来、250万回線を狙うには競争も厳しく、差別化も必要になります。
田邉 競争激化が予想されますが、これ以上の価格競争にはしない方がいいと考えています。それよりも、品質や付加価値サービスで勝負すべきです。法人向けでは電話部門がポイントで、OAB─J化を進めるのは中小企業であり、大手企業はIP電話と従来のNTT回線の組み合わせになります。そういう組み合わせがどこまで中堅企業にまで進んでくるかを見極め、いろいろなアイデアを提供していきたいと思います。
一方、コンシューマ向けは、インターネットと電話に、テレビを加えた3つを武器にしていきます。すでにVOD(ビデオオンデマンド)サービスを開始しており、ハイビジョン画像のインターネット配信実証実験も手掛け、映像についても幅広く対応できるようになります。さらに医療ネットや教育などの芽も成長させていきたい。
FTTHは時代変革の節目ともなるものです。かねてから申し上げてきた「関西を光の国へ」の実現を目指していきたいと考えます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
約800人の従業員の半分は、関西電力グループからの出向者。田邉社長は、「関電もようやく競争にさらされるようになったが、かつての電気事業は客の上にあぐらをかいていても日銭が入る商売。しかし、当社に来て、お客様に叱られることによって、徹底した意識改革が必要だということを学んでくれている」と効用を説く。
また、ビジネスの進め方も大きく異なる。「ロングスパンで考え、石橋を叩いて渡らず」の電力スタイルでなく、「明日をどう生きるかということを考えなければならないのが通信。お客様に引っ張っていただきながら、スパンの短いビジネスに慣れる必要がある」。
もっとも、安全第一など電力に見習うべき思想があるのも確か。電力で育った通信事業者の強みを発揮できるかがポイントだ。(逢)
プロフィール
田邉 忠夫
(たなべ ただお)1940年生まれ、兵庫県出身。63年3月、姫路工業大学工学部電機工学科卒業。同年4月、関西電力入社。91年6月、情報企画部長。97年6月、取締役情報通信室長。00年6月、取締役経営改革IT本部副本部長を経て、同年11月、ケイ・オプティコム代表取締役社長に就任。01年4月から関西どっとコム代表取締役社長を兼務。
会社紹介
関西電力グループ。1988年4月に「関西通信設備サービス」として設立、同年6月から無線用支持物他の賃貸事業を開始した。00年6月に「ケイ・オプティコム」に社名変更し、第1種電気通信事業免許を取得。さらに同年11月、関西ケーブルサービスと合併するとともに、アステル関西からその営業を譲り受けた。
01年6月、企業向けIP接続・IP─VPNサービス、64kbpsインターネット接続サービス、高速常時接続インターネット接続サービスを開始。03年12月には、法人向けイーサネットサービスや専用線サービスの大阪メディアポートと合併し、現在に至っている。
通信サービス事業のほか、通信設備構築・賃貸のファシリティ事業、関西密着情報のポータル「関西どっとコム」を運営するコンテンツ事業などを手掛けている。最近では、富士ソフトABCと共同で光ファイバーを用いてハイビジョン映像を配信する日本初の実証実験を行うなど、光ファイバーの利用領域拡大を進めている。