今年4月、NECパーソナルプロダクツの社長に執行役員専務を務めていた高須英世氏が就任した。高須社長は今年度のパソコン市場について「ワールドカップ特需の不振、下期についてはビスタ待ちの買い控えで厳しい2006年になるかもしれないが、これは一時的な現象」と指摘する。PCベンダーが常に新しい提案を通じて市場拡大路線を辿ってきたように、今後も提案次第で「次の新たな需要を喚起できる」と、パソコンが決して成熟した市場ではないと言い切る。
強い商品が元気を生む CS軸にナンバーワンを
──新社長の第一声として、社員にどんなメッセージを語りかけましたか。
高須 一番は、みんな元気に仕事をしてもらいたいと。元気の源とは、やっぱり強い商品ですよ。市場の競争は厳しいですが、まず強い商品を作って継続して出していけるようにしたい。それができれば、みんな健康になれるし、元気がつく。業界で新しい技術が生まれてくるなかで、自分たちの商品にうまく組み込んで、どのような使い方をするのか、知恵を出していい商品を作っていきたい。
──ビジネスについては、どのような点を強化していきますか。
高須 昨年度までは専務として、前社長の片山と一緒にやってきました。ですから、私が社長になったからといって、いきなり昨日と違うことを新たにやるんだ、ということではありません。まずは今まで通りの経営目標を継承して進めていきます。CS(顧客満足)をはじめ、オペレーションやSCM(サプライチェーンマネジメント)などのスピード、そしてシェア。この3つでナンバーワンを追求します。やっぱりCSの追求を軸に進めるべきだと思っています。
──パソコンはすでに成熟市場だといわれますが、今後伸びる要素はどこにあるのでしょうか。
高須 今でも台数ベースでは増えてますよね。家庭内パソコンの普及については、総務省によると90%くらいまできていますから、そういう意味では成熟した商品なのかなとは思います。しかし、パソコンの歴史を振り返ると、新しい技術と新しい使い方がどんどん提案されて、ここまできたわけですよ。昔でいうスタンダードゲームがあって、ワープロがあって、それからインターネットのメール。そして今まさにストリーミングの時代に入って大きく変わってきている。このようにみると、ぜんぜん成熟しているわけでもなくて、常にパソコンから新しい技術が生まれている。われわれPCベンダーが新しい使い方を考えて提案し、そしてまた次の需要が喚起されていく。その繰り返しで、まだパソコンは発展途上にある。その繰り返しがまだまだ続くと私は思っています。
──BCNランキングをみると、昨年の夏をピークに市場が2ケタ伸びました。完全にコンシューマ市場が勢いに乗ったと思ったのですが、今年の前半は逆に前年割れでしたね。
高須 年明け2月頃から6月のサッカーワードカップに向けて、薄型テレビの需要が盛り上がってきました。残念ながらテレビに需要が流れたのは間違いないでしょう。その影響もあって、上期は厳しいかもしれないですが、それは一時的な傾向であって、すぐまた盛り返してくると思いますよ。
──パソコンとテレビの融合がすすんだことで、ワールドカップをパソコンで観る若者需要も見込めたと思いますが。
高須 確かにTVパソコンという商品特性からすれば、ワールドカップは需要を加速するチャンスだったかもしれません。ただ、今回がすべてじゃないと思うんです。パソコンでテレビを観るというコンセプトは、リビングで楽しむためのものではなく、自分の部屋で楽しめるというパーソナルな環境の訴求です。正確なデータがあるわけではないですが、消費者は今回、まずはリビングのテレビを購入したんじゃないかとイメージしています。次は、パーソナルなところでテレビを楽しむという市場が残っていると思います。パーソナルな部分に入れば入るほど、パソコンが強い。小型テレビと戦ったらパソコンが勝つ可能性は高いと思いますよ。
06年は厳しいと覚悟 年明けのビスタに期待
──上期のパソコン市場は前年割れで推移しています。夏以降、市場が伸びていくうえでのポイントとは。
高須 この第一四半期は、前年割れするかもしれないですよね。下期については、ビスタで需要を喚起させるつもりだったのに、6か月遅れるわけですから、当面はCPUや液晶のスペック強化などで、買い控えを防ぐようにするしかありません。上期はパソコンのワールドカップ特需の不振、下期のビスタ待ちという状況のなかで、大変厳しい2006年になるかもしれない。しかし、来年1月にビスタが登場すれば、前年が良くなかったこともあるため、2ケタ増は期待できると思います。
──今年度通期ではどのくらいの成長を見込めますか。
高須 NECは今年度(07年3月期)、台数ベースで300万台の出荷を見込んでいます。これは前年度比103%です。JEITAの市場全体の予測では105%ですから、当社はまずこの数値をクリアし、業界の目標を上回るように積み増すことを考えています。
──最近、日本ヒューレット・パッカードが再参入するなど、コンシューマ市場での外資系メーカーの動きが活発化していますね。
高須 なんでこんな狭いところにみなさん入ってくるのかなと思いますよ。HPさんは、いつかはやると思っていましたが。店頭で販売するのであれば、われわれの脅威になってきますが、まだそこまで考えておられないようです。NECも直販をやっているので、そこでは競合しますね。
──AVやテレビ機能の差別化が難しくなってきています。NECのブランドを高めていくためには。
高須 NECのブランドイメージというのは、長いことパソコンをやってきたという信頼と実績に支えられています。それだけに、新しい技術をパソコンのなかでどんどん提案していきたい。新しい活用方法を提案して市場を広げていくことが、トップブランドであるわれわれの役割だと思っています。また、ここ3年ほどでサポート体制の強化に力を入れてきた結果、競合他社にもサポート重視の姿勢が広がり、業界に対してもいい影響を与えることができたと思います。他社とNECのサービスサポートの差が縮まってきましたが、それは仕方ない。また次の新しい仕掛けを編み出して、差別化を図っていかなければならないでしょう。
──ここにきてパソコン3強の争いが熾烈になっています。競合の追撃を振り切ってシェアナンバーワンを確保するには。
高須 シェアはいろんな要素で動いている。場合によっては流通在庫をためすぎて、それをさばいた結果でシェアが高まるなど、SCMの失敗がシェアの上昇となって現れることもあります。台数シェアなんていろんな要素で変わる。しかし、常に重視しなければならないのはCSです。CSというのは、すぐに数値に現れないんですよね。だから、地道にきっちりと粘り強くCS向上のために取り組んでいく。そういうことを息長くできるかということですよね。この成果はすぐに利益に結びつかない。われわれ自身が頑張れるかにかかっています。
My favorite NECが自社の直販サイトで販売しているモバイルマルチメディアプレーヤー「VoToL」。これにパソコンで録画したテレビのニュース番組を転送して観ているという。タクシーでの移動中に活躍している。「使い始めると実に便利」だそうだ
眼光紙背 ~取材を終えて~
パソコン市場で常にトップシェアを維持してきたが、今年前半は他社の追い上げに苦戦した。需要が低迷するなかで、低価格商品に人気が集まり、付加価値型商品が伸び悩んだ。攻めと守りの両面で横綱相撲を求められるのがNECの宿命。それだけにトップの責任は重い。
写真撮影は、会社が所在する大崎の目黒川沿いで行った。取材を終えて、このロケ先まで歩いたのだが、「最近はこんなにゆっくり歩くこともない」ほど多忙を極めているようだ。須社長が愛用品に「VoToL」を選んだことに納得できる。これを最大限に活用するために、社内のパソコンも企業向けの「メイト」から「バリュースター」に替えたのだとか。貴重な時間をフルに活用するために手放せないアイテムであるのは間違いないようだ。しかし、「電車の中では、これでテレビを観るのはいささか恥ずかしい」と照れる。シャイな一面を覗かせた。(理)
プロフィール
高須 英世
(たかす ひでよ)1948年11月21日生まれ。71年3月、名古屋大学工学部応用物理学科卒業。同年4月、日本電気入社。98年4月、第一パーソナルC&C事業本部パーソナルコンピュータ事業戦略室長。00年4月、NECソリューションズ第一パーソナル事業本部コマーシャルPC事業部長。01年10月、NECカスタマックス取締役常務就任。03年7月、NECパーソナルプロダクツ取締役常務就任。05年4月、NECパーソナルプロダクツ代表取締役執行役員専務就任。06年4月、代表取締役執行役員社長就任。
会社紹介
2003年7月の設立。NECパソコンの企画・開発・製造、サポートを行う。本社は東京都品川区。営業拠点は全国35か所。開発生産拠点として山形県米沢市の米沢事業場、保守サポート拠点として群馬県太田市に群馬事業場がある。従業員数は2550人(06年4月現在)。NECの昨年度(06年3月期)の国内パソコン出荷台数は290万台(前年同期比6.2%増)。今年度(07年3月期)は300万台(同3.4%増)を見込む。昨年度は、海外調達が多くを占めるパソコンキーコンポーネントでの為替差損が、収益圧迫の要因となった。為替レートに左右されず、全体のオペレーションを通じて利益を確保していく考えを示している。