伊藤忠テクノサイエンス(CTC)は伊藤忠テクノソリューションズ(略称は同じくCTC)として10月1日に生まれ変わる。同じ伊藤忠商事系列のCRCソリューションズ(CRC)との経営統合によるもので両社の単純合算ベースの売上規模は約3000億円。国内大手SIerとしての地位をより確実なものにする。先端技術を用いて大規模なIT基盤システムの構築を得意とするCTCらしさを新体制で伸ばせるかが成否のカギを握る。
円滑な統合を図るため、13の分科会が活動する
──今回の経営統合によって、CTCはNTTデータや野村総合研究所などトップグループのなかでの存在感がさらに高まる。市場が成熟するなか、規模を追求することが生き残る条件だということですか。
奥田 同業者による合従連衡は今後さらに進むと見ています。大手SIerはますます大きくなり、そうでないSIerは特定分野や特殊技術の領域で存続を模索する二極化が鮮明になるでしょう。
今は景気回復基調にあり、金融機関や一般企業の設備投資が増える傾向にあるために表面化する問題は少ないかもしれません。しかし、景気が落ち着いてくると、規模の大小が勝敗を分けることも考えられます。
規模を拡大して経営体力を強め、より大きな案件をこなせる力量を身につける。これがCRCソリューションズとの経営統合の最大の目的です。案件の大型化によるリスクの拡大を受け止められる経営体力を備えることは、顧客企業からも評価していただいています。
──CTCとCRCの経営統合はかねてから噂されていましたが、これまで両社の経営トップから肯定的なコメントはありませんでした。ところが、奥田社長がトップに就任後、1年足らずで統合に踏み切られた。
奥田 ハードウェアの価格下落に引きずられる形でここ5年間ほどの当社の業績は厳しいものがありました。特定のハードウェアへの依存度が高すぎ、一定の収益が見込めるソフト・サービスや保守運用の比率が低かったことなどがマイナスに働いたのです。一連の構造改革を経て昨年度は2001年3月期以来、5期ぶりの増収増益を果たしました。
一方、CRCはアウトソーシングやデータセンター事業などサービス型のビジネスを得意としており、当社がソフト・サービスに力を入れたことによって両社のビジネス領域が従来になく隣接してきました。お互いの領域が離れておらず、重なってもいない。そこで、経営統合に踏み切る機が熟したと判断したわけです。規模のメリットによって勝ち残るという狙いもあります。
──両社の昨年度売上高の単純合算ベースでは、約3000億円規模のSIerが誕生することになります。これだけの大型合併となると社内の意思統一も大変ですね。
奥田 10月1日の経営統合に向けて、大車輪で準備を進めています。13の分科会を設置し200人規模の幹部やキーパーソンを動員しています。情報通信やエンタープライズ(産業)、金融、データセンター、社内情報システム、人事制度、意識一体化など分野別の分科会を設けて議論しています。どの分科会も大切ですが、個人的には意識一体化の分科会に注目しています。CTCとCRCのビジネス領域は隣接しているため、うまく橋渡しすればスムーズな統合が可能です。統合作業を速やかに行って本来業務である顧客企業へのサービス向上や新しいビジネスの創出に経営リソースを投入していくべきです。
ただ、なかには「統合はいやだ」と思う人がいるかもしれません。新生CTCらしい方向性を分科会活動を通じて明確に示し、将来に向けて「やってやる」「なんとかしよう」という機運を盛り上げ、意識を一体化させていくことが何より大切です。
新しい商材の開発や顧客への提案など経営統合したからこそできることがたくさんあるはずです。
商社グループ企業としての強みを最大限生かしていく
──規模が大きくなると総花的になりがちで、特徴が薄れる傾向が見られますが、新生CTCらしさとはどんな点でしょう。
奥田 先行する同業他社をただ追うのでなく、世界の先端技術をいち早く採り入れて巨大なインフラ構築に強いCTCであり続けることが重要です。
国内で手がけたことのない先端技術にチャレンジして企業の基幹システムや社会インフラを支える基盤をつくる。複数のベンダー製品を組み合わせて動作検証を行い、導入のコンサルティングから保守運用まで一貫して請け負うなどはCTCらしいところです。社長室には「挑戦」と自筆した書を掲げ、果敢にチャレンジする精神を自らにも課しています。
──時代を先取りした提案を行うための具体的な取り組みは。
奥田 もともと商社のネットワークがあり、当社においてもニューヨークやシリコンバレーに社員を常駐させて最新の技術動向をウォッチしています。IT分野だけでなく、米国の流通業はどう変化しているとか、金融業はどうとかについての情報収集にも力を入れています。こんな取り組みは商社グループならではのもので、メーカーであるメインフレーマに同じことができるとは思えません。
こうしたバックグラウンドを生かして、特にエンタープライズ分野で目標や目線をもう一段高めようと社員に指示しています。統合によって経営基盤が強化され、世界の先端技術や経済情勢を得られるネットワークも手に入る。このような強みをエンタープライズ分野でもっと発揮していくべきだと考えています。
──昨年度はエンタープライズ領域の売上高が微減していますね。
奥田 情報通信や金融分野で大きな案件を獲る実力はついてきているのですが、エンタープライズ分野では小振りな案件にとどまっているように思います。とはいえ、それが悪いとは考えていません。小さな案件をどんどん獲っていく営業のやり方は非常に大切です。特定大口顧客に依存している競合他社と比較して、小さい案件を数多く持つことはCTCの大きな強みになっています。
ただ、中小案件をたくさん獲りながらも、一方で大企業の情報インフラを支える巨大システムを受注できるよう努めたい。統合により大きな案件を獲れる力が強まるわけですから、目標を高く掲げていきたい。
この第1四半期を見ると、エンタープライズ分野も前年同期比で伸びており、情報通信や金融と併せて受注残高は過去最高の970億円に達しました。社長になった直後の第1四半期に比べて260億円余り受注残が増えています。ソフト・サービスの比重が拡大したことにより商談期間が長期化していることが増加の背景にあります。
CRCソリューションズも上半期の業績を上方修正しており、業績が上向いているいいタイミングで統合できそうです。
──中期計画のイメージを教えてください。統合によりソフト・サービス事業を加速させる考えですか。
奥田 誤解のないようにしていただきたいのですが、技術を先取りしたハードウェアであれば十分に利益を出せます。だから、ハードを軽視しようという考えはありません。
直近の売上高構成比はおおよそ運用保守3割、SIとソフト開発2割、IT製品販売5割ですが、近い将来に保守運用やSI、ソフト開発の割合を増やしてそれぞれ4割、3割、5割にする計画です。
「合計すれば10割を超えるじゃないか」とよく言われるのですが、ハードウェアを含むIT製品販売を減らさずにソフト・サービスの比率を増やすという意思の現れです。連結売上高は今後3年程度で4000億円、純利益200億円をイメージしています。
My favorite 発電所の整備補修を行う米会社を買収するプロジェクト「NEUTRON(ニュートロン)」が成功したしたときの記念品。2001年、現地のスタッフたちと分け合ったうちの1つ。ガラス球の中で放電する様子が美しい。「米国には合わせて10年ほどいたが、苦労したプロジェクトだけに強く印象に残っている」そうだ
眼光紙背 ~取材を終えて~
何かシンボリックなものが欲しい──。統合後の旗印となる新生CTCのロゴや目指すべき指標の策定作業を急ピッチで進める。6000人もの社員をまとめ上げるには、「ビジュアルに訴えるシンボルが欠かせない」というのが奥田社長の考えだ。
営業力が強くSIを得意とするCTCは“狩猟型”とされ、アウトソーシングを主力とするCRCは“農耕型”といわれてきた。
「ビジネス領域が近寄りつつあり、かつ重なっていないので、統合の効果は大きい」と奥田社長は評価するものの、企業文化の差は大きい。「意識一体化」を担う統合作業分科会の活動には関心を払う。
分科会などの仕事が終わったあと、両社の社員が円滑な意思疎通を目的とした懇親会を開くことがある。「実際こうした懇親活動の積み重ねが大切」。互いに歩み寄り“なんとかしよう”という意識が大きなうねりにつながる。(寶)
プロフィール
奥田 陽一
(おくだ よういち)1947年、大阪府生まれ。70年、神戸大学経営学部卒業。同年、伊藤忠商事入社。78年、ニューヨーク大学経営大学院卒業。99年、執行役員。00年、取締役。03年、常務取締役。04年、専務取締役。05年4月、取締役副社長。05年6月、伊藤忠テクノサイエンス社長に就任。06年10月1日、伊藤忠テクノソリューションズ社長に就任予定。
会社紹介
伊藤忠テクノサイエンス(CTC)は今年10月1日付でアウトソーシングやデータセンター事業を柱とするCRCソリューションズ(CRC)と経営統合する。昨年度(06年3月期)連結売上高はCTCが2390億円、CRCが605億円で両社の単純合算ベースの売上高は約3000億円、純利益約140億円になる。社員数は約6000人に増え、協力会社や海外オフショア開発などを含めて動員できるSEの人員数は将来的に2万人規模になる見通し。現CTCの約1万人規模に比べて2倍近くに拡大する。新体制発足のタイミングで伊藤忠テクノソリューションズに社名を変更する。統合による相乗効果を発揮し、今後3年程度で連結売上高4000億円、純利益200億円を見込む。