東芝情報システムは2008年度(09年3月期)までに連結売上高700億円、経常利益率7%の実現に向けた基盤づくりを目指す。得意の組み込みソフト技術を生かして収益拡大を狙う。ハードメーカーとの密接な結びつきが求められる組み込みソフトは参入障壁が高いため、ここを伸ばせば競争優位性を強めることになる。SI事業ではここ数年、不採算のソフトウェア開発プロジェクトを抱えて苦しんだが、作業プロセスを基本から見直すことで改善を図っていく。
一過性の数字は追わない 社内に資産の残る仕事を
──昨年6月に社長に就任してから、 中期経営計画「キャッチ・ザ・セブン」で、連結売上高700億円、経常利益率7%の基盤づくりという目標を打ち出しました。その狙いは。
澤田 今年度(07年3月)の業績見通しは売上高610億円、経常利益40億円ですが、売り上げ規模はSE・プログラマの人数に依存しますから、急に拡大するのは難しい。むしろ利益を伸ばすことで、高収益体質の会社を目指そうというのが狙いです。中期計画では、08年度(09年3月期)に売上高650億円、経常利益44億円を目標にしています。これを達成できれば、09年度か10年度には売上高700億円、経常利益率7%という数値がみえてくる。これまでの4期は業績不振が続いてきましたが、不採算案件などの不良資産は、今期末で解消できるめどがつきました。うちはもともと技術力の強い企業ですから、得意分野でやるべきことをやれば達成可能な目標だと考えています。
──組み込みソフトと業務ソフト開発などのSIソリューションという2つの事業分野がありますが、目標達成のカギは。
澤田 売り上げ規模で見ると、組み込みソフトが4割強に対して、業務ソフト開発などのSI事業は6割弱です。組み込みソフト市場は年率平均15%で伸びていますから、売り上げ規模を追求するのは不可能ではない。ただ、そのためには外部の協力要員をかき集めて対応しなければなりません。それでは一過性の数字はあがっても、当社の資産にはならないと思うのです。外部に頼った売り上げ規模の拡大は追わずに、あくまでも利益の獲得をめざしたい。それだけの技術的な裏付けはありますからね。
──組み込みソフト市場の高成長に追いつけず、ビジネスチャンスをつかみ切れないという不安はないのですか。
澤田 組み込みソフト事業は、カーナビなどの自動車関連や、携帯電話、デジタル家電が中心ですが、現実問題として携帯電話のソフト開発などは、東芝の仕事をこなすだけで手一杯です。人がいなくてはとても手を広げられない。組み込みソフトの開発は技術者がメーカーなど顧客に張りつかなければなりません。社内の人員は限られていますから、協力会社も多数活用していますが、度が過ぎると単なる“人材派遣的”な仕事になってしまう。当社の社員がチームのリーダーを務め社内に資産を残してこそ次につながります。ですから、量ではなく質が重要なんです。
──SI事業では過去の不採算プロジェクトが足かせになってきたようですが。
澤田 SI事業は、なかなか儲からないというのが実感ですね。儲かったとしても、時々失敗をする。失敗の割合をいかに減らすかが課題です。調べてみると、ソフトウェアの開発プロセスの基本はすでに確立されているのに、忙しさにかまけて決められた手順を踏んでいない。そこから失敗プロジェクトが生じているんです。今は受注段階で、この案件は受けるべきかどうかを社内で徹底的に議論するようにしています。少なくとも採算の合わない見積もりで、案件を取りに行くなんて馬鹿なことはしない。リスクが大きければ、受注しないという決断が必要です。
──それで不採算案件の発生は防げるのですか。
澤田 失敗プロジェクトはゼロにはなりません、残念ながら。ただ基本に徹して判断することが重要です。受注してからずるずると赤字になってしまうくらいなら、初めから赤字覚悟で受けたほうがいい。少なくとも赤字をコントロールしながらマネジメントができますからね。結果が分かりきったものしか受けないというのでは成長がありません。ですからある程度の赤字案件は必要悪でもある。あくまでもリスクをコントロールできる状態で把握しておくことが前提です。
SI事業の見通しについては、状況は好転しています。07年問題でようやくレガシーからのリプレース需要がたちあがってきた。景気拡大で企業のシステム投資も拡大し、J─SOX法への対応も追い風で、少なくともここ3年は仕事はある。そのなかで、どうやって生き残っていくかを模索していかなければなりません。
新しい技術の習得で勝負 車載用ECU分野も有望
──競争が激しいSI分野での差別化策は。
澤田 独自のERP(統合基幹業務システム)パッケージなどを開発したいという思いはあります。しかし、現実問題として住商情報システムやオービックのような展開は、当社の企業体質からしても無理があると思います。
そうではなくて、Javaやネットワーク、セキュリティなど新しい技術を誰よりも早く習得して、ここで勝負をしなければならない。流通や製造、医療など得意業種の柱がいくつかありますので、こうした分野で最新技術を活用したソフト開発を積極的に行っていきます。
──新しい技術に対応するためには積極的な教育投資が欠かせませんね。
澤田 実は頭の痛い問題です。ソフト業界では、教育、研修にあてる時間が取れないという構造的な問題を抱えているんです。たとえば経営コンサルティング業界では、コンサルタントの実稼働率が勤務時間全体の4─5割だといわれています。残り5─6割は研究・教育や営業、プレゼンテーションなど経営コンサルティングの本業以外にあてられる。ところが、IT業界のSE・プログラマの勤務実態をみると、稼働率が9割に達している。技術進化に対応した研究・教育が大切だと言われていながら、そのための時間的な余地がほとんどないのが実態です。
当社の場合、創業から44年になるだけに55─56歳という年齢の社員も多い。こうした社員を有効に活用していくためにも、教育は欠かせません。理想的には稼働率を7割くらいに抑えて、残り3割を研究・教育などにあてるべきだと考えています。逆算すると最低でもSE・プログラマの単価である“人月”を100万円以上確保しないと採算が合わない勘定です。そうした意味でも、先端技術を生かした付加価値の高い開発能力を身につけなければならない。
──組み込みソフトの今後の注力分野は。
澤田 現在の売上構成でみると、カーナビやカーオーディオなどの自動車関連が約3割、組み込み用の回路設計が約3割を占め、残り約4割が携帯電話やデジタル家電などです。これから自動車分野はエレクトロニクス・コントロール・ユニット(ECU)が有望です。トヨタのレクサスを例にとれば、1台に80個のECUが搭載されている。当然、制御ソフトの重要性が増してきます。東芝も、ECU向けのICチップからソフトウェアまで大幅に強化する計画ですから、グループとの連携を図りながらECU関連のソフト事業に力を入れていきます。さらにDVDや薄型テレビなどのデジタル家電もソフトの塊ですから、われわれの得意分野を生かしながら、新しい事業への発展の余地は十分あると思っています。
My favoriteおよそ10年前から愛用しているシステム手帳。スケジュール管理だけでなく家計簿としても活用している。「妻の負担を軽減させる」ために、結婚当初から家計の管理は自身が担う。平社員の頃は「残業代が基本給の2倍ほどに達することもあった」にもかかわらず、奥方には基本給のみ記した帳簿を見せていたとか
眼光紙背 ~取材を終えて~
出したくても出せない──。開発コストの低減や生産性向上が見込める海外オフショア開発だが、「こと組み込みソフトに限っては海外生産にそぐわない特性がある」と頭を悩ませる。
主要顧客に海外オフショア開発の是非を打診したが、「東芝グループ100%出資の海外子会社であるべきなど厳しい注文がついた」と打ち明ける。
例えば携帯電話などの基幹ソフトは1-2年先の商品開発を見越して開発する。「開発情報が漏れたら一大事」との危惧感が強い。ましてや自動車の基幹制御ソフトのガード意識は相当なものだ。
アプリケーションなど表層的な部分は逆に納期が短くて出せない。「顧客は競合他社と激しい競争を展開しており、新製品の投入時期を逃したら莫大な損失になりかねない」。全般的に納期が短く「死ぬ思い」で開発することも…。組み込みソフト特有の難しさである。(寶)
プロフィール
澤田 晃三
(さわだ こうぞう)1947年、北海道生まれ。69年、慶應義塾大学工学部卒業。同年、東芝入社。89年、流通・金融システム事業部流通システム技術部長。00年、産業システム事業部長。01年、ソリューション第二事業部長。02年、ソリューション第一事業部長。03年、東芝ソリューション常務取締役。05年6月、東芝情報システム社長に就任。
会社紹介
今年度(07年3月期)の連結売上高は前年比約1.7%増の約610億円、経常利益は同約33.3%増の約40億円の見通し。昨年度の売上高構成比は組み込みソフト関連が4割強、業務ソフトなどエンタープライズ分野が6割弱を占めた。今年度からの3か年中期経営計画「キャッチ・ザ・セブン」の最終年度(09年3月期)では連結売上高は650億円、経常利益約44億円を目指す。併せて将来に向けた連結売上高700億円、経常利益率7%の基盤づくりの達成を掲げている。今年度の経常利益率は昨年度比約1.6ポイント増の6.6%の見込みで、組み込みソフトなど得意分野を原動力とした売り上げを着実に増やしながら経常利益率の維持拡大を図る。