国内L4-7スイッチ市場でトップメーカーのF5ネットワークスジャパン。業績も、前年比で40%近くの成長を遂げているが、2006年4月から社長に就任している長崎忠雄氏は今の状態に満足していない。L4-7が成長するといわれていながらも、まだまだスイッチ市場のなかでは規模が小さいからだ。アプリケーション配信の最適化を追求するコンセプト「ADN(アプリケーション・デリバリ・ネットワーキング)」を掲げ、社内の営業体制を強化しつつ、多くのISVを販売代理店として獲得することに力を注いでいる。これにより、国内市場で確固たる地位を築いていく方針だ。
現状の体制は70点どまり 課題解決で2.5倍に伸ばす
──社長就任から4月で丸1年ですね。今の体制は100点満点で何点くらいですか。
長崎 70点です。事業拡大に向けて昨年度(06年9月期)中に西日本拠点を設置する予定だったが、実現できなかった。また、通信事業者向けビジネスの本格化を打ち出したにもかかわらず、入り込めていないのが実情です。
──となると、“長崎体制”になったからといって、大きな変化が出ていないと。
長崎 そんなことはありません。「顧客満足度」という点では向上したと自負しています。顧客企業向けセミナーの実施などでユーザーが何を求めているかが把握できました。しかも、市場開拓を行うダイレクト・タッチの営業部門で顧客の声を吸い上げ、間接販売の営業部門を通じて販売代理店のビジネスに反映させるサイクルが構築できました。ほかには昨年度まで製品の機能面しかアピールしていませんでしたが、今年度からは当社の製品だからこそ可能となるソリューション提案を徹底。社員も、パートナー企業や顧客が何を求めているかを常に考えて仕事をするようにマインドが変わりました。こうした取り組みにより、販売代理店とユーザー企業の双方にメリットをもたらすビジネスが手がけられるようになったのが、大きな変化ですね。
私は長い年月、当社で勤務しています。その間、常に会社を成長させることを考えてきました。もちろん、それは社長になってからも同じです。気持ちのうえでは、「社長になったから」といった変わり方はしませんでした。当社の礎は販売代理店をはじめとしたパートナー企業や前社長が築いたものという意識が強かった。マーケットでのポジションは、L4─7スイッチの国内市場でトップを獲得しています。業績に関しては、ワールドワイドで成長率が前年比で約40%増と順調で、日本法人も同程度に推移しています。
社長就任前から、ある程度の基盤が整っていたわけですが、次の成長路線を築くという点では道半ばでした。というのも、当社の領域であるL4─7スイッチは、ネットワーク機器市場のなかで、まだまだ小さな規模だからです。突破口を見いだすには、マーケットを拡大していかなければならない。これが当社の業績拡大にもつながるというわけです。
──市場拡大に向けて実施することは。
長崎 当社の製品が、単なるロードバランサーだけでなく、アプリケーション配信を最適化する「ADN」を実現するものであることをユーザーに浸透させることです。そこで、「ビジネス・ディベロップ部門」を新設し、今月から本格的に動き始めました。この組織は、各販売代理店が最適なサービスを提供できるように、共同でソリューションを開発することを目的としています。提案強化でADNを普及させていきます。
──販売代理店制度の策定は。
長崎 検討しています。しかし、プログラムメニューや提供時期については具体的に決まっていません。パートナー企業とユーザー企業、当社のすべてがメリットになる内容に仕上げたいと考えています。
──最近は、NGN(次世代ネットワーク)をキーワードに通信事業者が新しいネットワークシステムを構築しようとしています。この分野の本格化を課題の1つとしてあげていましたが、打開策はあるのですか。
長崎 通信事業者向けに“ダイレクト・タッチ営業”を行う専門チームを設置します。本当は今年度早々に立ち上げる計画だったのですが、人材を採用できなかったために計画が遅れているのが実情です。
実は、携帯電話の通信事業者が当社の製品を購入しているケースがあるんですよ。ところが、パートナー経由で取引している関係で顧客が当社を知らないんです。米国本社では、専門チームの設置でテレコム関連事業が好調です。その実績を日本でも取り入れながら、体制を強化すればビジネスが軌道に乗るのではないかとみています。もちろん、この分野に強いベンダーとのアライアンスも進めていきます。
通信事業者向けのビジネスは、これまで正直いって本当に厳しかった。しかし、NGNで通信事業者はアプリケーションサービスを視野に入れたシステム構築を模索しています。これは、まさに当社の得意とする領域です。何としてでも入り込みます。
──社長就任早々、3年間で売り上げ2.5倍に引き上げる方針を掲げていました。達成できそうですか。
長崎 売上目標を達成するためには、年率35─40%の成長で推移することになります。高い壁ではありますが、出てきた課題を確実に解決していけば、乗り越えるのが不可能な壁ではないと確信しています。
ISVとの協調体制を強固に サーバーメーカーとの提携も
──コンセプトにしておられる「ADN」の普及には、アプリケーションとの親和性を追求することが重要ですね。
長崎 それには、ISVを中心にアプリケーションベンダーとのパートナーシップを一段と深めていかなければならない。ISVに対して、当社の製品と自社アプリケーションを組み合わせればニーズ適応のサービスが提供できることを訴えていきます。具体的には、アプリケーション開発者向けサイト「F5デブセントラル」を強化します。日本のパートナー向け専用ページも立ち上げる計画です。
──サイト強化は、業務アプリなど国内ベンダーとのパートナーシップを深める狙いもあるのですか。
長崎 実は、そうなんです。このサイトはワールドワイドで展開しているため、サイトを訪れる企業として北米地域が多い。国内ベンダーが参加しているケースもありますが、北米と比べれば少ないのは否めない。そのため、日本のサイトとの連動性を強めることが必要と判断しました。
──アプリケーションとの互換性を検証するセンターの設置も必要なのでは。
長崎 確かに。米国では、「テクノロジーセンター」と称した拠点でアライアンスベンダーと当社の製品検証を進めています。日本でも、将来的には設置を検討しています。
──国内スイッチ市場は、競争激化と低価格化が進んでいる。将来性はあるのですか。
長崎 市場の成長率をみると、基幹スイッチのL2/L3は年平均1%であるのに対して、当社の領域であるL4─7は11%との予測が出ています。そこで、製品面では一段とアプリケーション連携を視野に入れた製品を市場に投入していけば業績が伸びるとみています。また、当社には独自の統合プラットフォーム「TMOS」で、他社との差別化が図れます。しかも、今後はシャーシ型のプラットフォーム開発なども行っていきますので、トップシェアを維持できると確信しています。
──強いてあげる競合ベンダーというと。
長崎 最近では、L4─7がスイッチではなく、「ADC(アプリケーション・デリバリ・コントローラ)」という位置づけに変わっています。そこで、アプリケーションからネットワークに入り込もうとしているベンダーは脅威になる可能性が高いですね。
──アプリケーションとの連動を強化するうえでは、サーバーメーカーとのアライアンスも視野に入れなければなりませんね。
長崎 将来的には考えるべきことです。ワールドワイドでは、デルと戦略的な提携を結んでいます。販売代理店が売りやすい環境をつくるため、今後は国内サーバーメーカーとも強固なパートナーシップを組むつもりです。
My favorite 昨年2月に購入したロレックスの腕時計。「以前から欲しいと思っていて、やっと購入した」そうだ。機能面では、日本と米国など2か国の時間をデュアル表示できるのが特徴。外資系企業は、国内アライアンス企業との商談だけでなく、本社とのやり取りも重要な業務。「連絡を取る時は、時差があるため常に時間を気にしている」とのこと
眼光紙背 ~取材を終えて~
F5ネットワークスジャパンは社員数が50人と、まだまだ小さな企業だ。しかし、国内ネットワーク機器業界では大手メーカーと肩を並べるほどの実力を持っている。
国内市場でトップ、しかも好調な業績を継続している。このため、長崎社長から「社内体制がほぼ確立している」という言葉を予測していた。しかし、返ってきた答えは「70点」。今の状況に決して満足せず、また、現状を的確に捉えている。しかも、手がけなければならないことを明確にイメージしてもいる。
入社してから、セールスマネージャーやセールスディレクターなど営業畑を歴任してきた。国内事業は、すべて販売代理店経由。そのため、「パートナーが売りやすい体制を常に考えることがメーカーとしての使命」を念頭に置く。国内ネットワーク市場の拡大も踏まえ、長崎社長の手腕に期待したい。(郁)
プロフィール
長崎 忠雄
(ながさき ただお)1969年2月1日生まれ。福岡県出身。93年、米カリフォルニア州立大学ヘイワード校理学部数学科卒業。理学士号を取得。同年、西武ポリマ化成に入社、海洋資材の海外販売に従事する。その後、デルに入社、シニア・アカウントエグゼクティブに就任。00年、F5ネットワークスジャパンに入社。セールスマネージャ、セールスディレクター、セールスディベロップメントシニアディレクターなどを経て、06年4月に代表取締役社長に就任。
会社紹介
米F5ネットワークスの日本法人として2000年1月に設立。製品はL4-7スイッチ分野に特化しており、01年に市場でトップシェアを獲得した。
最近では、「ADN」をコンセプトとして掲げ、ウェブアプリケーションの配信に対応したADC機器の開発に焦点をあてている。独自の統合プラットフォーム「TMOS」で、アプリケーションソフトとのスムーズな連携が可能となり、安定感や高速化、安全性を追求したネットワークシステムの構築に力を注ぐ。
また、他社との差別化を図っていくため、ネットワーク系SIerを販売代理店として確保しつつ、アプリケーションサービスを含めたサーバーシステムの構築に強いベンダーとのアライアンスを進めている。