NECディスプレイソリューションズはプロジェクタメーカーのNECビューテクノロジーと4月1日付で合併し、新生NECディスプレイソリューションズとして再スタートした。国内では出遅れたNECのディスプレイ事業だが、液晶モニターとプロジェクタの両方を持つ強みや好調な海外ビジネスを追い風に、世界ナンバーワンのディスプレイベンダーを目指す。量販によるシェア拡大をすすめる一方、医療用モニターやデジタルシネマ、デジタル掲示板など付加価値の高い製品の品揃えを増やすことで、収益力の向上を狙う。
欧米のビジネスは好調 国内展開では出遅れも
──なぜ、今のタイミングで合併なのですか。
津田 映像ディスプレイに関して幅広い製品をカバーするベンダーに生まれ変わるためです。
旧NECディスプレイソリューションズは液晶モニター、旧NECビューテクノロジーはプロジェクタを主力としてきましたが、液晶モニターの大型化やプロジェクタの用途拡大など市場環境が大きく変わりました。いつでもどこでも映像に接する機会が増える映像ユビキタス社会も訪れようとしています。今回の合併はこうした時代の変化に対応するためです。
新会社では映像表示装置を巧みに活用してシステム提案能力を高めることで、事業の拡大を推し進めます。
──2005年3月に三菱電機との合弁事業を解消するまでは、NECブランドによるモニターの営業が国内では手薄になっていたと聞きます。
津田 NECのモニターは国内では新参者です。NECのパソコンは国内トップシェアですが、モニターのシェアは低い。
三菱電機とは「NEC三菱電機ビジュアルシステムズ」という合弁会社をつくり、国内市場では三菱ブランドを前面に押し出していました。この関係から、NECのモニターは海外市場に比べて影が薄い存在でした。
新会社では“映像ソリューションならNEC”とのキャッチコピーで臨みます。コンピュータの周辺機器の延長線のような位置づけで“映像でもNECかな”と思われているうちはダメ。きっぱりと“映像ならNEC”と思っていただくよう、国内での出遅れを取り戻すべく積極的な事業展開を図ります。
──NECはコンピュータ、通信、半導体の3つを中核事業としてきましたが、そもそもディスプレイ事業がどこまで“中核事業”に近い存在なのですか。
津田 既存の3本柱に続く主要な柱に育てると当社では位置づけています。初年度(08年3月期)は約1800億円の連結売上高を見込んでいますが、このうち欧米など海外での売り上げが約9割を占める見通しです。北米では企業顧客向けモニターの台数シェアでトップ、欧州でもトップ集団の主要メンバーとして激しいシェア争いを展開中です。
世界全体の中で国内のIT投資額は約10%を占める規模だとみられていますから、こうした観点からも地域別の売り上げ構成比のバランスはまずまず。グローバル展開を急ぐ他のNEC主要事業でも、海外でトップシェアをとっているケースはそれほど多くない。NECグループのグローバル展開の先導役を担っていく企業だと自負しています。
──モニターやプロジェクタなどハードの販売がメインでは、利益が限られませんか。
津田 ローエンド製品は国際的な価格競争が激しく利幅が薄い。ただシェアを取っていくには大量に売れるローエンドの品揃えは欠かせない。全社で見ると初年度の営業利益率は約3%、3年後は5%程度をイメージしています。利益率に関しては高い目標とは言えませんが、メーカーである限りシェアも大切です。粗利が小さいからといってシェア拡大の手綱を緩めるわけにはいきません。
経営者のなかには利益至上主義の方がおられますが、わたしは違います。付加価値を追求することで利益率は高まるかも知れません。ですが一般の顧客への浸透度合いは下がります。もしこの間に競合メーカーが販売台数を増やして顧客への浸透度を高め、なおかつ高いシェアを武器に付加価値のある製品を出してきたらどうなりますか? 付加価値だけに偏ったメーカーはじり貧状態になって、やがて負けてしまう。
イギリスのオートバイメーカーは高級志向にシフトしすぎて、最後には日本のメーカーに追いつかれてしまいました。
決して、利益率が大切でないと言っているのではありません。現に量販ばかりに偏っていては独自の技術が育たない。シェアを確保しながら付加価値を追求していくことが大切なのです。
利益率と付加価値を重視 単なる“箱売り”ではない
──ではどうやって利益率を高めていくのですか。
津田 デジタル機器特有の厳しい価格競争に打ち勝ちながら、付加価値の高い商材づくりに力を入れることで利益拡大に結びつけます。たとえば、液晶モニターでは大型化への迅速な対応、医療用の特殊な安全規格に対応したもの、出版・デザイン業界用には忠実な色彩再現性を備えたものなど、さまざまな種類の製品を開発してきました。
医療現場では電子カルテの例をあげるまでもなく急速にデジタル化が進んでおり、レントゲンやコンピュータ断層撮影(CT)による画像を高精細に映し出す付加価値の高いモニターが求められています。医療用モニターの開発に関しては業界をリードしていますので、今後より一層の拡大が期待できます。
また“デジタル掲示板”の領域でもシェアを伸ばしています。デジタル掲示板とは、公共の場所に設置したモニターに情報を表示し、多くの人に参照してもらう仕組みです。駅の待合室をはじめ企業や公共機関の受付、美容室、喫茶店に至るまで、人が集まる場所ならどこでもデジタル掲示板の需要は見込めます。
当社ではデジタル掲示板用のハードウェアはもちろんのこと、表示する情報を制御するソフトウェアに至るまでトータルに品揃えしている強みがあります。単なる“箱売り”ではありません。
──プロジェクタはどうですか。
津田 中央制御室用の大型モニターやデジタルシネマ向けの販売が好調です。
消防や警察、データセンターなどの中央制御室では情報を一元的にモニタリングするため壁一面を利用した巨大なモニターを備え付けることが多い。このシステム構築はNECグループが以前から得意としている領域でもあり、強みを発揮できます。
デジタルシネマでは今年2月、東京・新宿三丁目にオープンした映画館「新宿バルト9」に当社のプロジェクタを採用していただきました。館内の9つのスクリーンすべてがデジタルシネマに対応した最新式の劇場です。映画のデジタル化は世界的な潮流でもあり、今後も需要拡大が見込めます。
──新会社のトップとして目指すべき目標とは何ですか。
津田 顧客への浸透を図りながら利益を増やしていくことです。つまり映像ディスプレイの台数ベースで世界ナンバーワンを獲得し、かつ付加価値の高いハードやソフトの品揃えを増やすことです。前者は量販ビジネスで、後者はソリューションビジネスと呼ぶこともできるでしょう。当然、国内事業の拡大にも力を入れます。
当社のようなメーカーは、究極的にはハードで差別化できなければ生き残れない。ソリューションはハードというプラットフォームのうえで伸ばしていくべきだと捉えています。年間約200億円ずつ売り上げを伸ばし、3年後には2400億円規模の連結売上高を目指します。ボリュームを確保したうえで、付加価値の高いビジネスを展開する考えです。
My favorite最近購入した世界時間対応の腕時計と20年近く愛用する電卓。以前の腕時計は電卓同様20年近く使っていたが、壊れたので同じメーカー、同じブランドに買い替えた
眼光紙背 ~取材を終えて~
ソフト・サービス重視の潮流にあって「自社ハードウェアによるプラットフォーム事業こそメーカーの存続基盤だ」と、かたくなに訴えてきた。
いざ海外に足を踏み出すと「プラットフォームの大切さを痛感する」という。ソフト・サービスはその国の歴史や文化と密接にかかわる部分が多く、外国企業が単独で乗り込むにはハードルが高い。
ではNECの究極的な強みとは何か──。突き詰めて最後に残るのは“ものづくり”にある。「これを疎かにするのはまさに根無し草、砂上の楼閣」と切り捨てる。自社の強みが明確になれば、基盤の弱い海外でも顧客の気を引き寄せられるし、地元の有力ベンダーと組むこともできる。
ディスプレイでも“津田哲学”は変わらない。「ハード製品で世界トップシェアを取れば、自ずとソフト・サービスを活用したソリューションの道が開けてくる」と話す。(寶)
プロフィール
津田 芳明
(つだ よしあき)1946年、東京都生まれ。68年、横浜国立大学工学部卒業。70年、同大修士課程修了。同年、NEC入社。97年、第二コンピュータ事業本部ワークステーション・サーバ事業部長。99年、理事、第二コンピュータ事業本部長。00年、執行役員。ITソリューション事業を担当。02年からグローバルのプラットフォーム事業、パートナー事業を担当。03年、執行役員常務。05年、NECディスプレイソリューションズ専務。06年6月、同社社長。07年4月、新生NECディスプレイソリューションズ社長就任。
会社紹介
旧NECディスプレイソリューションズの2005年度(06年3月期)連結売上高は約1174億円。旧NECビューテクロジーを存続会社として07年4月1日付で合併した。社名は「NECディスプレイソリューションズ」を引き継いだ。合併により今年度の連結売上高は約1800億円に増える見通し。3年後の10年度には約2400億円を目指す。企業向けモニターで米国トップシェアを獲得するなど海外での売り上げが全体の約9割を占める。