L2/L3スイッチをはじめ、国内ネットワークインフラ市場が成熟したといわれてから長い年月が経過している。環境が厳しい状況のなか、エクストリームは事業拡大を模索。出した結論は、“つなぐ”から“利用する”ネットワークの追求だ。自社の技術をあえてオープンテクノロジーとし、他社製品との互換性を促進していく。ますます活発化していくネットワークとアプリケーションの連携を見据えた製品開発にも力を注ぐ。井戸直樹社長に今後の成長戦略について聞いた。
業績拡大に向け、積極的な協業へ
──2006年は、国内ネットワーク機器市場は厳しい状況でしたね。業績面で少なからずダメージがあったのでは。
井戸 本当に大変でした。企業がネットワークインフラに対する投資を抑制するといった状況でしたから、主力製品のスイッチやルータが売れない。業績が思うように伸ばせなかった年でもあります。
ネットワークインフラの国内市場はピークが過ぎて成熟が続いているといえます。市場自体が成長していた時期は、例えば01年に売り上げが前年の16倍程度に増えるなど、順調に業績を伸ばしていました。ところが、景気の落ち込みも相まって、企業の情報・通信システムに対する投資が減り始めてから厳しい環境になった。それでも、情報システムに関しては、徐々にリプレース需要が出始め、昨年は「サーバー統合」をテーマに市場が持ち直したといえます。しかし、ネットワークインフラについては需要が活発化していない。しかも、基幹部分であるL2/L3スイッチのコモディティ製品化や低価格化が進んでいることから、なおさら厳しくなっているといわざるを得ません。
──成熟市場で業績を上げるには、手をこまねいているわけにはいきませんね。
井戸 その通りです。ただ、いつまでも成熟市場の領域だけでは事業規模は拡大しません。市場拡大が期待されているIPテレフォニー分野でのビジネスに力を入れることが重要と判断しています。といっても、この分野に関連したハードウェアを開発するだけの単純な策では他社との差別化にはならない。そこで、IP電話導入を簡略化させる新しいハンドセット・プロビジョニング・モジュール(HPM)を開発し、IP電話機器メーカーとのアライアンス強化を徹底しています。
──「IP電話導入を簡略化させる」とは、具体的にどのようなことですか。
井戸 モジュラー型の独自ネットワーク・オペレーション・システム(OS)「エクストリームXOS」を応用した「ユニバーサル・ポート」とHPMを組み合わせることで、ユーザー企業によるIP電話導入の簡略化を実現しました。つまり、HPM対応のIP電話機が自動的にネットワーク接続への検知や設定を行うようになるのです。これにより、すべてのユーザー企業はIPテレフォニーシステムを導入する際の安全性や有効性、操作上の汎用性などを向上できるというわけです。
──HPM対応のIP電話はどのくらいあるのですか。
井戸 実数は把握していませんが、現段階でアバイアやノーテル、シスコシステムズなど大手メーカーのIP電話とHPMとの互換性が高い。そういった意味では、対応機種がワールドワイドで65%は占めているとみています。日本では、ワールドワイドよりは少ないといえますが、50%は超えているのではないでしょうか。
しかも、HPMはオープンテクノロジーとして公開しています。したがって、誰もが簡単接続のIP電話を開発できるということです。当社としては、企業向けIPテレフォニー事業の拡大を図っている国内のIP電話関連ベンダーとパートナーシップを深めていきたい。そして、スイッチの拡販につなげていきます。
IPテレフォニー市場の成長を加味すると、HPM対応のIP電話を増やして事業領域を広げるという意味では今年が基盤を固める勝負の年といえます。IPテレフォニー分野では、これまでネットワークインフラで競合していたメーカーとも協業することになります。販売代理店にとっては、当社のスイッチと他社のIP電話を組み合わせた販売が行えることになるわけです。ユーザー企業のネットワークシステムがマルチベンダー化している状況下、当社のポジションを積極的にアピールしていきます。
当面はリプレース需要狙い XOSで互換性の追求も
──IPテレフォニー領域でのビジネスを確立するには、HPMに対応したIP電話が増えなければ成り立たないので、ビジネスの本格化は来年以降のように思えるのですが。当面の“足元”についてはどうするのですか。
井戸 その点については、リプレース需要の掘り起こしに徹しようと考えています。今年に入ってから、徐々にではありますが、L2/L3スイッチのリプレース需要が出始めています。ユーザー企業に対し、当社の製品を継続して購入しておけば、IPテレフォニーシステムが必要になった際、スムーズに導入できることを訴えていきます。
──「リプレース需要の掘り起こし」を柱にするというのは、何だか“控えめ”というか、こぢんまりしたビジネスにとどまってしまいませんか。
井戸 そんなことはありませんよ。ネットワークインフラ市場が最盛期だった時期に、当社は多くのユーザー企業を獲得した。この土台を生かせば、リプレース需要を掘り起こすだけでも、2ケタ成長は見込めると試算しています。
メーカーをはじめ、“技術”で生きている会社は方向を見誤ってはいけない。市場環境を把握し、当面のビジネスで“足元”を固める。そして、将来性のあるビジネスも見据える。そういった意味でも、まずは確実に既存ユーザー企業を囲い込むことが重要と判断しています。
それに、既存ユーザー企業の囲い込みが主流とはいえ、新規顧客が存在するのにそれをないがしろにするということではありませんよ。当社の製品を求める企業に対しては、喜んで提供します。「既存ユーザー企業を囲い込む」戦略というのは、それだけでも十分に業績を伸ばせるということです。
──製品面で他社との差別化の決め手になるものは何ですか。
井戸 HPMでも活用している独自OSの「エクストリームXOS」です。これは、IP電話との互換性の追求で開発したものではなく、もともとは“インサイト・アンド・コントロール(可視化と制御)”をコンセプトに、「ネットワークはつなぐものでなく利用するものだ」ということを前提に開発しました。そのため、当社の製品はアプリケーションサービスとの互換性も高い。最近では、XOS搭載製品をハイエンドモデルだけでなく、ローエンドモデルまで広げています。販売代理店であるSIerやNIerにとっては、自社アプリケーションと当社の製品を組み合わせることで独自のネットワークソリューションを提供できます。こういった点では、リプレース需要だけでなく新規需要の開拓にもつながるのではないでしょうか。
──アプリケーションとの連動性を追求したネットワークシステムについては、NTTの“NGN”をはじめとして通信事業者が次世代通信網を構築しようと力を入れていますね。そういった意味では、通信事業者向けビジネスは売り上げ拡大の追い風になるのですか。
井戸 なります。当社は通信事業者をはじめサービスプロバイダ向けの製品販売は強いと自負しています。そのため、十分にチャンスはあります。ただ、NTTが実際にネットワークシステムを構築し始めるのは早くても今年の後半以降です。通信事業者へのアプローチは進めていますが、当面の製品拡販という点では一般オフィスへの提案を主流にしていきます。
My favorite1994年に米国で購入したフェンダー社ストラトキャスターのエレキギター。“40周年記念モデル”であることと、好みの色ということで「これだ!」と衝動買いしたそうだ。ギターを弾くのは、学生時代からの趣味。もっぱら60年代のロックやバラードが演目。以前は、社内のギター仲間と集まって楽しんだとか。この頃も、時折りホームパーティーで演奏する
眼光紙背 ~取材を終えて~
コンピュータとネットワークのふたつの業界を渡り歩いたからか、「コンピュータ」と「ネットワーク」とを切り離した考え方をしない。しかも、技術畑での経験が長く、コンピュータとネットワークの技術課題を把握している点では国内屈指の経営者だ。取材では、「本当は、経営よりも技術面のほうが話しやすい」などと冗談を飛ばすが、2005年8月の社長就任から軌道に乗せるための基盤を整備。不振が続いていた同社の成長は、今後の舵取りがカギを握る。
「この5年間、『“モノづくり”とは何か』を常に考えた」と。ネットワークインフラ市場が01年をピークに成熟化、次のキーポイントを模索しなければならない状況になった。これは、同社に限ったことではなくネットワーク業界全体の懸案事項ともいえよう。井戸社長が描く国内ネットワークインフラ市場の将来像が業界の課題解決につながるかにも注目したい。(郁)
プロフィール
井戸 直樹
(いど なおき)1952年、岐阜県生まれ。日本NCRやシャープなどで、業務系コンピュータ・システムや通信ネットワークなどの技術者として従事。78年、日本DECに入社、82年に設立されたネットワークシステムサポート部に所属し、ネットワーク・ビジネス基盤の確立や高速ネットワーク装置の開発・市場投入を手がけた。94年、フォア・システムズの設立作業に従事。98年、エクストリームネットワークス日本法人の設立に参画、05年8月に代表取締役社長兼米国本社副社長に就任、現在に至る。
会社紹介
米エクストリームは、スイッチをはじめとするネットワーク関連機器メーカーで、世界50か国でビジネスを手がける。エクストリームネットワークス日本法人は1998年に設立された。
日本市場では、通信事業者やISPなどサービスプロバイダを対象にビジネスを拡大。広域イーサネットが可能なスイッチを武器にL2/L3のマーケットで国内で上位シェアを誇る。しかし、他社と比べて法人向け製品のラインアップが少なく、国内を含めワールドワイドでシェア低下の傾向に陥った。そこで、アプリケーションソフトとの互換性を追求したモジュラー型OS「エクストリームXOS」搭載の製品ラインアップを拡充。日本では、一般オフィスをユーザーとして獲得するために専門部署を設置するとともに、SIerとのアライアンス強化を徹底している。