2007年4月1日付で「ITサービス」から社名を変更した「東芝ITサービス」。東芝グループの連携強化で成長を図ろうとしている。同社のシステム保守・サービスと、親会社の東芝ソリューションが手がけるシステム構築の相乗効果を追求。双方向から新規顧客の開拓や既存顧客の囲い込みを徹底していく方針だ。「保守・サービスは、ビジネス領域が拡大しているため、視野を広げなければならない」とする石橋英次社長に、今後の事業拡大策について聞いた。
“東芝”の冠で再始動 グループ連携で成長
──4月1日から「東芝ITサービス」に社名を変更しました。あえて「東芝」という冠を付けた感がありますが、何か狙いがあるのですか。
石橋 東芝グループでの連携強化が一番の狙いです。なかでも、親会社の東芝ソリューションとさらに密なビジネスを手がけることを目指しています。
というのも、システムの保守に対する顧客ニーズの変化が顕著に現れているからです。少し前までは、ハードウェアの保守だけを求められていたので、システム導入後の“下流”だけに専念すればよかった。しかし、最近では顧客は保守だけでない高付加価値のサービスを求めています。当社としてみれば、システム導入前の“上流”の部分も視野に入れなければなりません。つまり、ベンダーはトータルソリューションを提供しなければならないというわけです。そこで、SI事業を手がける東芝ソリューションと一体となったビジネスを手がけることが、ニーズに応えるための最適な策と判断しました。
また、「東芝」の冠がない時代には、当社の概要を一から説明しなければならないケースが多かった。これは、顧客に理解してもらううえで大きなハンデとなります。だから、東芝のグループ会社であることをアピールしたかった。
さらに、社内的な話ですが、東芝の冠がつけば社員のモチベーションも上がるのではないかとみています。実は、社員すべてにアンケートを行ったところ、「東芝グループと分かるような社名がよい」という回答が多かったんですよ。それに、東芝グループと一目で分かる社名であれば、社員の採用面でも効果を発揮するのではないでしょうか。“人材不足”の時代ですからね。優秀な人材をできるだけ多く確保することにもつなげていきたいと考えています。
──最近では、“マルチベンダー化”のニーズが高まっているといえます。東芝グループを強調すると、東芝ブランドのシステムでなければ保守・サービスが行えないといったイメージを与えかねませんか。
石橋 それはあり得ないですよ。マルチベンダー化のニーズが高まっているのは、世の中のシステムが1メーカーだけで完結していないからです。ですので、マルチベンダー化は当たり前。社名だけで行える、行えないかを判断されることはないでしょう。
そういった点では、ビジネスの内容が社名変更後、以前と比べて急激に変わるということはありません。ただ、当社の社員がシステムに関することなら何でも知っているというスキルを身につけることが必要です。システムのトラブル時に当社のエンジニアが今まで以上に素早く解決できる。それには、グループ連携強化を図ることで保守だけでなくシステム構築のノウハウも把握することが重要ということです。
システム構築と保守の連携は、今になって始まったことではありません。3─4年前から東芝グループ内で構想を練っていたんです。昨年度は、私が当社の社長に就任したことで基盤を整えることができた。この基盤を生かし、今年度はシステム構築から保守まで一貫したトータルソリューションの提供を加速していきます。
リモート運用を本格化 サービスの幅を広げる
──システム構築と保守の連携で提供可能になる、新しい保守・サービスは。
石橋 計画しているのが基幹システムを中心としたリモート運用です。現段階では、東京・府中市にある本社の基幹システムを別の場所にあるデータセンターで遠隔監視しています。まずは、社内システムをテスト的に運用し、それが成功すればサービスとして本格化します。今年度下期には提供できると見込んでいます。サービス開始の際には、神奈川・川崎市のデータセンターをリモートセンターとして機能させることになります。
このサービスをきっかけとして、システム案件の獲得がしやすくなる。というのも、システム構築の提案段階で基幹システムのリモート運用が行えることをアピールできるからです。その点では、グループ連携強化を図ることが功を奏するのです。
当社にとっては、基幹システムのリモート運用をサービス化することにより、システム構築の案件が増えたからといって駐在員を急激に増やす必要はない。当社と東芝ソリューションの両社にとってメリットがあるスパイラルが形づくられるというわけです。
──サービスメニューは基幹システムだけですか。
石橋 システムのリプレースをしばらく行わない既存顧客に対しては、IAサーバーなどフロント部分のシステム遠隔監視も提案していきます。既存のシステムで、いきなり基幹システムのリモート運用を訴えても、顧客は不安感を抱く可能性がありますからね。こうした顧客には、リモート運用のメリットを理解してもらう。そして、不安感を拭った段階で「基幹システムもリモートで運用できますよ」などと提案していきます。
──国内システム保守・サービス市場については、どのようにみてますか。
石橋 単なるハードウェアの保守だけですと、単価の下落が著しく、厳しい局面にあります。しかも、顧客ニーズが多様化している。サービスに対する信頼性や顧客満足度の向上を徹底していくことが生き残るカギといえるでしょう。
──ユニアデックスがKDDIとの提携で保守・運用の統合サービスを本格提供するなど、競合他社の動きが活発化していますね。
石橋 (競合他社が手がけ始めた)保守・運用の統合サービスは確かにニーズが高まっている分野ですね。もちろん、当社でも手がけていますよ。ただ、ビジネスモデルとして異なる点をいえば、当社はSIerとアライアンスを組んでトータルソリューションを提供していることです。“パートナー保守”と称しているのですが、SIerが構築したシステムに対して当社が一括して保守・運用を手がけるというものです。現在、10社程度と協業しており、今後も増やしていくつもりです。
──業績の目標は。
石橋 実は、昨年度に3か年の中期計画を立てたのですが、市場環境が厳しい点から、その計画では利益確保を最優先に掲げました。ですので、これまでは売上拡大を追求してこなかったんです。しかし、システム構築を視野に入れた保守・サービスの提供を加速すれば、新規顧客の開拓が図れるので売上規模の拡大が実現できる。そこで、今後は利益確保を引き続き掲げながら、売り上げを伸ばすことにも力を入れていきます。
──確か、中期計画では08年度に売上高317億円を掲げていましたね。上方修正するということですか。
石橋 その通りです。とはいっても、昨年度は売上312億円と前年度と比べて若干の増加でしたので、当面は大きな売上目標を掲げませんけど。まずは、08年度で320億円以上ですかね。ただ、利益面では昨年度は経常利益率2.8%の計画が3.2%と、目標値に比べ0・4ポイントの上乗せができた。ですので、今年度と来年度ともに利益率は上昇させていきますよ。
My favorite10年ほど前にサン・マイクロシステムズの関係者からもらったという名刺入れ。それまでは名刺入れを活用していなかったが、「使ってみると便利」と認識したそうだ。「これをみると、ふと当時を思い出すんだよ」と懐かしむ。10年前といえば、国内IT業界が過渡期を迎えていた。良くも悪くも、貴重な経験だったという
眼光紙背 ~取材を終えて~
同社では、システム保守要員のことを「CSE(カスタマー・サティスファクション・エンジニア)」と呼んでいる。これは、顧客満足度を高める技術者の育成をコンセプトとして掲げているため。「ユーザー企業と最も密着しているのが保守・サービス。システム構築も知らなければ、CSの向上につながらない」と断言する。今年に入ってから、神奈川・川崎市にあった本社を東京・府中市に移転。「常にハードウェアに触れることができる」という。現在の本拠地は、東芝ソリューションのシステム開発拠点でもある。システム構築と保守・サービスの相乗効果をさらに追求できる環境が整ったわけだ。
目標は、「売上規模を現状の3倍以上に引き上げる」。現段階が312億円だから、1000億円規模を目指すということだ。今年度下期から開始予定の基幹リモート運用サービスの応用で事業領域を拡大すれば、早期実現もあながち夢ではないかもしれない。(郁)
プロフィール
石橋 英次
(いしばし えいじ)1953年1月1日生まれ。71年4月、東芝に入社。03年10月、東芝ソリューションのプラットフォームソリューション事業部参事兼経営変革エキスパートに就任。06年4月、ITサービス(現・東芝ITサービス)社長附、同年6月に社長に就任。現在に至る。
会社紹介
2002年10月、東芝ITソリューションのサービス部門、東芝の社内カンパニーだったe─ソリューション社の保守企画部門、東芝通信テクノス、東芝ソシアルテクノスの統合で設立した。前身は東芝エンジニアリング。
これまでは、社名に「東芝」を入れていなかったが、システムの“マルチベンダー化”が当たり前になりつつあることや、顧客ニーズの多様化でシステム構築との親和性がさらに必要と判断。グループ連携強化の意味を込めて今年4月1日付で「東芝ITサービス」として再スタートを切った。