1998年、米国のナスダックでは、証券取引に使用する時計を米国標準時のプラスマイナス3秒以内に同期するという「OATS(注文監査追跡システム)ルール」が施行された。アマノは、日本市場でも標準時に時刻を同期させる「時刻管理」の需要が生まれるはずといち早く目をつけ事業部を立ち上げた。3年前には、この部門を独立させアマノタイムビジネスを立ち上げ、グループ横断的な事業を展開している。タイムスタンプを含め「時刻」に関する技術をパートナーの機器やソフトに組み込むことで「情報セキュリティのインフラ」(内藤隆光社長)としてバックエンドからのサービス提供を進めるほか、新たな市場の開拓にも意欲的だ。
「時刻管理」でサービス提供 パートナー製品に組み込み
──アマノグループ内でのアマノタイムビジネスの位置づけは?設立の背景には、e文書法が施行されたことも関係しているのですか。
内藤 もともとはアマノ本体の事業の一部門として「時刻配信認証サービス事業」を行ってきました。e文書法というより、1998年に米国のナスダックで、証券取引に使用する時計を米国標準時のプラスマイナス3秒以内に同期するという「OATSルール」が施行されたことが関係します。今までアマノではタイムレコーダーや時間管理の機器を製品化してきましたが、それはあくまで「時間」管理でした。時間は「時刻と時刻の間」なので、時計をきちんと合わせなければスタートが狂ったまま正確に時の幅を刻むだけの話です。時間ではなく、時刻。今後は日本でも「時刻管理」という概念で市場を創出できるのではないかと考えて00年に調査を始め、04年に分社化しました。
──「時刻管理」の概念に基づいて、ソリューションを展開していくのですね。
内藤 その通りです。アマノには「タイム」という「DNA」が刷り込まれているのです。「時刻」をベースにしてセキュリティビジネスをする「タイム&セキュリティ」をテーマに掲げています。
そのなかで柱を2本立てています。一つは時刻配信監査です。「標準時配信監査サービス」と呼んでいるのですが、顧客のサーバーなど、機器の時刻を正確に合わせ、その時刻が合っていることを第三者的に監査し、証明するサービスです。もう一つは「タイムスタンプサービス」。今まで紙にタイムスタンプを打刻していたように電子データに対してタイムスタンプを打つことで、特定の時刻に電子データが作成されたことを記録するのです。しかも後々10年間、データの内容が変わっていないということを証明できる技術です。
──時刻配信監査などの技術はハードに組み込んだり、ソフトに組み込んだり、あるいは全体の時刻管理のソリューションとして企業に導入をすすめるのですか。
内藤 時刻配信監査はそんなに普及していません。今は時刻配信認証機関、タイミングオーソリティ(TA)としてタイムスタンプサービスの事業者に対して提供しています。電子データに時刻を打つわけですから、当然ながら時刻が大事になります。電子データにはタイムスタンプの事業者の時計で打刻しています。そのタイムスタンプ事業者の時計が、正確であることを証明するのがTA機関となります。
──現在はタイムスタンプが主力サービスということですね。タイムスタンプではどのようにビジネスを展開しているのですか。
内藤 タイムスタンプをさまざまな機器やアプリケーションに組み込んでもらうことで、セキュリティを高めるようなサービスを展開しています。組み込んだタイムスタンプのサービスは当社から提供します。それでユーザーから毎月サービス料をいただくという仕組みです。理想は、ユーザーがタイムスタンプを打つことを意識することなく複合機を使い、文書管理ソフトを使うようになることです。タイムスタンプは「情報セキュリティのインフラ」として前面に出るものではありません。あくまで裏方です。
──組み込んだ機器やソフトを販売することで、毎月チャリンチャリンとお金が入ってくる、ストックビジネスなのですね。
内藤 そうです。良い表現ですね。われわれも「チャリンチャリンビジネス」と呼んでいました。そして今、チャリン、チャリンと入り始めているところです。
──さらにパートナーを拡充し、販売チャネルを増やしていくのですか。今後のビジネス展開について教えてください。
内藤 新しいパートナーを増やすこともそうですが、同時に製品開発も手を緩める時ではないと考えています。エンドユーザーがもっとタイムスタンプを理解して使うことができる商品を逐次投入していきたいと思っています。新しい独自の製品開発をしながら、ユーザーにタイムスタンプをより身近に使ってメリットを享受していただきたいと考えています。
──独自商品とは、どのようにイメージすればよいのでしょうか。
内藤 開発中なのであまり詳しくは言えないのですが…。今のところは複合機だったり、文書管理だったり、特別な用途でサービスを提供しています。でも日常ではもっと身近に文書を作成しますよね。特に知的財産関係だと分かりやすいのですが、この日時にどんな話し合いがされ、この時にはこんなアイデアを持っていたということを証明する用途は非常に大きな市場になると思います。日本は特に先願主義で、他の人が特許を先に出願すると、同様の開発をしていた人が知的財産権を得られなくなります。特許を出願するに際して、その発明を完成させた時刻の正確さを証明できれば、有利に働くケースが多くなるはずです。
──会社全体として今年から来年にかけて、どの程度の成長を見込んでいますか。
内藤 前年比2倍を目標にしています。02年には、05年あたりから急激に立ち上がるだろうと予測していたのですが、実際は緩やかなカーブで後ろ倒しにはなっています。ですが、着実に拡大していく市場であると誰もが認めています。
ぜい弱な電子データをタイムスタンプで安全に
──お話を聞くまでネガティブなことを考えていました。e文書法が施行された当時、アマノさんや複合機メーカーにも取材しましたが、大きな市場になるという業界の予想は外れました。その辺りをどのようにみていますか。
内藤 e文書法でタイムスタンプを使いたいという要望が国税当局から出ていました。われわれも協議会に入って、当局の方とともに基準を作りました。基準ができたことを受けてさまざまなメーカーが製品を市場に投入しましたが、税務調査の現場では、基準に書かれていないようなことを指摘することも多かったのです。実務上は帳簿に領収書の金額を書きますよね。書く時には領収書の日付を本当は書かなければいけないのだけれども、帳簿に登録した日付で処理されていることもあるのです。調査官はそれを見つけては領収書の提出を求めて確認していたというのが実態らしいのです。電子データになっても、その部分に関してはいまだに紙の原本の提出を求めているのが実情です。
──e文書法が本格的に機能するのはいつ頃だと思いますか。
内藤 少しずつ広がりをみせるのは半年くらい先からではないかと予想しています。でも、e文書法が機能しないからタイムスタンプがダメだとは思っていません。タイムスタンプを導入しない限り、国税当局は、かたくなに電子化に目を向けようとはしませんでした。重要なのは電子データの原本性確保です。電子データが連日、捏造だ、改ざんだ、なんて世の中でその電子データを簡単にやり取りすることに危機感を持っています。やはり電子データはそのままでは信頼できませんから、タイムスタンプを押してきちんとした電子社会を構築していきたいというのがわれわれの考えです。
My favorite アマノの甲本恭彬会長から贈られた額。かの有名な二宮尊徳(金治郎)の言葉が書かれている。「大きなことをなすためには小さなことを積み上げる」という意味で会長の知り合いである、中国の書道家に書いてもらった
眼光紙背 ~取材を終えて~
アマノといえば、タイムレコーダー。勤怠管理というイメージが強いせいか、堅い会社を想像していた。しかし、「時刻」のサービスを考えるうえで、必要なのは柔軟な思考であることを知った。タイムスタンプというと、e文書法での利用が真っ先に思い浮かぶが、用途はそれだけではない。知的財産関係で利用すれば、先願主義下の出願方法を見直す機運になりそうだ。アイデア次第で「時刻」の活用の場は広がっていくのだ。
「時間というのは二度と戻れない。ユニークな流れですよね。流れという概念で物事を捉えていくことは、すごく意義があることです」と内藤社長は笑顔で時刻に関するビジネスの魅力を語っていた。
取材の帰り際「一緒に写真を撮ってください」と内藤社長に記念撮影を求められた。このとき、携帯カメラで撮った画像にはタイムスタンプが付くのだろうか。(環)
プロフィール
内藤 隆光
(ないとう たかみつ)1953年、東京生まれ。75年、芝浦工業大学卒業。同年、アマノ入社。79年、米国カリフォルニア州のアマノ現地法人に出向。海外生産拠点の立ち上げにエンジニアとして従事。その後、AMANO CINCINNATI,INC.カリフォルニア工場の工場長に就任。96年、アマノ津久井事業所所長。00年、アマノの子会社シー・エス・ジェー(現アマノソリューションズ)副社長。01年、アマノe-timingビジネス開発部長、03年、アマノタイムビジネス社長に就任。
会社紹介
時刻配信・監査サービスや時刻認証サービス(タイムスタンプサービス)など、「タイムビジネス」にかかわる開発・営業、運用・サポートを専業として行っている。2001年アマノ本体の新規事業として立ち上がり、04年に法人化した。パートナーを通じて、複合機、文書管理システム、電子契約、ネットトレードなど幅広い導入実績がある。