業務ソフトウェアベンダーのピー・シー・エー(PCA)は、大幅な業績アップを目指す「第2期創業期」に向けた体制整備を急ピッチで進めている。中期的には、売上高100億円を維持し続けることが目標。6月22日付で川島正夫・前社長からバトンを受けた、技術者で公認会計士でもある水谷学・新社長は「『消費税改正』は“台風”。そのあとに訪れる“凪(なぎ)”のなかでも100億円を維持する」と、当面の追い風となる「消費税改正」をターゲットにしつつも、そのあとの成長戦略をすでに描いている。
「消費税改正」は大型台風 瞬間風速に対応する開発
──現在、「第2期創業期」に向けた社内改革を進め、売上高を昨年度(2007年3月期)の約63億円から中期的に100億円にすることを目標にしていると聞いています。
水谷 売上高100億円の大台に到達することが、当面の目標数字であることは、間違いありません。社内に「S100(セールス100億円)プロジェクト」を立ち上げ、何をすべきかディスカッションしています。まずは、社内体制を強化することを始め、どう効率化を図るべきか、社内の意見を求めています。
──具体的には、何をどう効率化するのですか。
水谷 いや、すべてですよ。トータルに判断して、どうすべきか、最終的なゴールに向け、どういう手順を踏むべきかを検討しているところです。例えば、販売促進費や広告宣伝費などを増やせば、売り上げを伸ばすことができますよね。こうした費用を適切に使って、できるだけ早く売上高を伸ばす、といったことを考えています。
──100億円という数字に達するには、相当のジャンプアップが必要ですね。
水谷 仮に、09年9月に消費税が改正されれば、10年3月期には100億円を達成できて然るべきでしょう。その段階で手が届かないようでは、そうそうチャンスは巡ってきません。当社としては「消費税改正」にフォーカスして、具体的な成果が上がるように調整しています。ただ、今年度は、それほど大きな数字を計画していません。
むしろ、期初の段階で「減益」を予想しているぐらいです。伸ばすうえでは、準備が必要だからです。これまでは、短期的な利益を優先していたところもあった。その先を見据えて大きく伸ばすための「力」がまだ備わっていません。まずは「人」の部分ですね。
──ただ、7月29日の参院選は、「消費税改正」を目論む自民党が劣勢のようです。
水谷 確かに怪しいですよね。しかし、小泉首相時代に繰り延べてきた「ツケ」があります。国の財政事情を考えれば、改正時期を先延ばしできるかというと、悠長な状況ではないはずです。
──参院選の結果は別として、選挙後に訪れるはずの最短の「消費税改正」に向けて、準備を万端に整えるということですか。
水谷 過去の例からも、4月1日に施行というのは確かでしょう。そうしますと、最短は09年4月1日になります。97年に消費税率が従来の3%から5%に引き上げられた時、当社の製品数は、現在のように多くはありませんでした。販売・財務・給与などの業務アプリケーションにERP(統合基幹業務システム)「Dream21」を加えたことで、製品数は当時の1.5倍に増えています。
PCAのカラーは、「先進的な技術に対応している」ということと、専門家の公認会計士(川島正夫会長)が設立した会社ですので、コンプライアンスや新制度については競合他社よりも迅速に対応できることです。「消費税改正」に関する対応で、競合他社に遅れることがあってはならないと考えています。
──業務ソフトベンダーならば、「消費税改正」など制度改正に適切に対応するのは当然ではありませんか。
水谷 「消費税改正」は“台風”なんですよ。瞬間風速で50メートルは吹いている感覚です。今度の改正では、税率が3%から5%に上がる程度のことだけではすまないばかりか、「多段階課税」が施行される可能性があります。こうなると、業務アプリケーションに複雑な仕組みを入れる必要があります。その場合、ソフトのプログラムを全部変更するほどの影響がでてくる。そういう意味で、万全の体制を整える必要があるんです。
──“台風一過”の対策というのは、何か考えていますか。
水谷 “台風”のあとには“凪”が来ますよね。ピーカンで風も吹かないなら、売上高で10億円以上は下がります。これはいけません。その準備もしています。
──水谷・新社長の役目は、“凪”が来ても100億円を維持できる経営の舵取りが求められているということですか。
水谷 100億円を達成したあと、再び60億円に戻ることはあってはならないことです。この間、エンジニアや営業の人員も増やしていますので、会社を維持するための新たな収益源が必要になります。
伝統の技術力を生かし、業界トップに返り咲く
──新しい技術を検討する委員会の要職を務めるなど、技術力を持つ社長として、アイデアがいろいろ生まれることが期待できます。“水谷カラー”をどう出していきますか。
水谷 プログラマ出身ですので、技術は詳しいですよ。技術的な仕組みとして、競合他社と異なるモノを持ち、打ち勝っていきます。残念ながら、業界ソフト市場で当社は順位をかなり落としています。過去にはトップにいたわけですから、再度、トップに戻すことが私の課題です。
──「他社と異なるモノ」とは何ですか。
水谷 マイクロソフトの技術抜きにして、将来的な発展はありません。そういう基盤を無視して独自のアプリケーションを開発することはありません。例えば、有価証券報告書などの電子開示システム「EDINET(エディネット)」にXBRLが採用され、その世界では“紙の無い会計”の仕組みが始まっています。最終的には企業内の関連文書がすべて電子化されるでしょう。そうしたことに向けた検討は、もちろん始めていますよ。
──PCAの製品群のなかでは、最上位製品「Dream21」が伸び悩んでいるようですが。
水谷 「Dream21」は、99年に私自身が「PCA21構想」と題して考えたのが始まりなんです。21世紀になっても通用するアーキテクチャで作り上げました。それ以前、当社ソフトのアーキテクチャは、「帳票を効率的に作成する」という観点でした。会社設立から30年を経て、一区切りを迎えました。「Dream21」は「情報の再利用、自動化」という観点で作っています。これは数年で終わる技術でなく、これから生きてくるコンセプトなんですよ。
──「Dream21」のコンセプトは、いまのままなんですか。
水谷 コンセプトに変更はありません。ただ、顧客管理や連結決算用などのモジュールが不足していることと、設計に着手したのが古かったので、拡張性の高い「ComPlas(コンプラス)」コンポーネントを採用していましたが、そこを最新技術に対応することなどが課題です。既存のユーザー企業がありますので、不完全なまま放置できませんから、まずはモジュールをフル機能で揃えます。そのうえで、然るべきタイミングでいっぺんにバージョンアップする計画です。
当然ですが、今秋の次期サーバーOS「Windows Server2008」の登場で、64ビット化されたソフト開発が必須になります。これにより、ソフトの提供方法がパッケージ型からサービス型、あるいはSaaS(Software as a Service)型へと変化しますので、当社としてもソフト提供方法の転換を検討するタイミングにあると感じています。
ただ、中小企業にサーバーが入らないんです。管理をするノウハウができていないためで、この問題を解決することを重要視しています。
──それは、サーバーを「遠隔監視」するサービスを提供するということですか。
水谷 そうですね。
My favorite 米BUZZSAW(バズソー)社の「LANE#1(レーンナンバーワン)」というボウリング用のマイボール。左は通常投げる際に使う。もう1つは、スペア専用のボール。直球で10ピンを取りに行く際に用いる。いずれも3フィンガー。1999年から趣味で始め、現在、「NBF(日本ボウラーズ連盟)東京」のメンバーだ
眼光紙背 ~取材を終えて~
公認会計士であり、プログラマでもある。技術力は自他ともに認める「超一流」のノウハウを持つ。企業の財務情報などを記述するXMLベースの言語「XBRL」に関する研究の第一人者でもある。
笑顔が絶えず、木訥(ぼくとつ)とした雰囲気を醸し出しているが、語り出すと止まらない。語り口調は“ボソボソ”といった感じだが、その内容は理路整然として説得力がある。他に迎合せず、常に自分の言葉で語っている。
それでも、「販売・営業関係は苦手」と正直に言う。「安定した上場企業ランキング」では、常に上位に顔をみせるPCA。創業者の川島正夫・会長からバトンを受け、技術者の目線からユーザー企業までを見渡せるため、これまでの路線とはひと味違う経営の舵取りが期待できそうだ。まずは、安定的に売上高100億円に到達し、堅持することに力を注ぐ。(吾)
プロフィール
水谷 学
(みずたに まなぶ)1958年3月、三重県多度町(現・桑名市)生まれ、49歳。80年3月、中央大学商学部経営学科卒業。同年7月、昭和監査法人(現・新日本監査法人)に入社。89年12月、ピー・シー・エー(PCA)に入社し、システム企画室長に就任。94年6月に取締役に昇格し、00年6月には常務取締役、02年4月に常務取締役開発技術担当CTO(最高技術責任者)になった。06年には専務取締役から取締役副社長になり、07年6月22日から現職。公認会計士であり、現在、日本公認会計士協会の「XBRL対応専門委員会」委員などの要職にも就いている。
会社紹介
1980年8月に現・川島正夫会長ら公認会計士の有志で設立した。翌年、シャープ製パソコン「MZシリーズ」に対応した同社初の会計ソフト「ABC財務会計システム」を出した。00年には、東証2部に上場。これまでに、財務、給与計算、販売仕入、税務計算などの業務ソフトウェアを開発・販売。99年から中堅企業向けのERP(統合基幹業務システム)「PCA Dream21」シリーズの開発に着手し、01年に販売を開始した。公益法人向け業務ソフトでは、国内1位のシェアを誇る。昨年度(07年3月期)の連結業績は、売上高が前年度比0.7%減の63億3600万円、営業利益が同12.2%減の15億3300万円。今年度は、売上高が同7.2%増の67億9000万円を見込んでいる。ただ、ジャンプアップに向けた「準備期間」として、人員や開発投資などを積極化するため、営業利益は、同13.9%の減益となる13億2100万円としている。