NECグループのハードウェア開発を担うNECプラットフォームズは、防衛・宇宙、海洋をはじめとする安全保障分野と、車載機器などのモビリティー分野を注力領域と位置づけ、国内生産を重視したものづくりを推進している。従来の量産型から顧客ごとのカスタム生産が必要となる車載機器や、人工衛星のような一品一様の付加価値の高い製品に注力する方針だ。加えて、価値創造を重視するNECグループの経営戦略とNECプラットフォームズの生産現場を一体化し、顧客ごとに最適化したすり合わせ型の生産を主軸に国内生産の価値を最大化する戦略によってビジネスを伸ばしていく。
(取材・文/安藤章司 撮影/大星直輝)
NEC流ものづくり「NEPS3.0」
――2025年夏にPOS関連事業を売却するなど、NECグループのハードウェア事業の改革が続いています。
24年度から「NEPS3.0」と銘打って「NEC流ものづくり」のアップデートを行っており、事業再編もその一環です。NEPS3.0では、NECグループの事業成長と当社のハードウェア開発生産を一体化させ、価値創造の最大化を目指しています。具体的には、経営と現場が一体で動けるようにする「経営視点からのものづくり全体設計」、多品種少量生産をさらに追求した「超多品種少量生産」への挑戦、経済安全保障を考慮した「セキュア開発生産」、AI活用の「人機AI共創」といった項目を目標に掲げています。
――NECの経営中枢からNECプラットフォームズが展開する国内外の工場現場までが一体で動くことを重視しているということですか。
当社の事業セグメントは、NEC本体との「連携ソリューション事業」と、当社の「自主事業」の大きく分けて二つで、売上高構成比は8対2で連携事業の割合が大きいです。NECグループの経営と現場の一体化を図る上で、これからは連携事業、自主事業を分けずに、すべてNECグループの事業の一つに位置づけたいと考えています。
連携事業は、防衛・宇宙、海洋、車載機器などのモビリティー分野といったNECグループが手がける事業と密接に関連する分野で、自主事業はホームゲートウェイ製品やUC(ユニファイド・コミュニケーション)機器など量産型の製品が多くを占めます。NECグループの強みを生かす観点では、NECグループが手がけるソリューション事業と連携した顧客仕様設計(BTO)製品や、人工衛星のような顧客仕様オリジナル製品に代表される、すり合わせ型の製品開発を伸ばすことが重要です。
――BTOや一品ものの生産力を高めるということですか。
車載機器や防衛装備品などユーザー企業の求める仕様に合わせたカスタム生産や、人工衛星のような一品一様のものづくりは、国内生産の価値を発揮しやすい分野です。NECグループの経営戦略と歩調を合わせて国内生産の強みを発揮するキーワードが超多品種少量生産だと捉えています。
NEC流ものづくりの前バージョンである「NEPS2.0」のときは、受注した製品を稼働率に余裕がある工場に割り振ることで、国内外の工場の稼働率を均一に高めていく「グローバルワンファクトリー」化を推進していました。NEPS3.0では、国内生産の価値を重視し、NECグループの経営戦略と私たち製造現場が一体となって動けるよう取り組みます。
――お話の中にあった人機AI共創とは、どのような概念でしょうか。
分かりやすく言えば、工場で人と機械、AIが一体となって生産を行う仕組みです。当社が重要視しているカスタム生産や超多品種少量生産の現場では、ロボットによる完全自動化はなじまず、人と機械が一体となり、そこにAIが加わることで生産性を高める手法が効果的だとみています。例えば、工場内で人と搬送ロボットが鉢合わせになったら、搬送ロボットが早々と人に道を譲ったり、熟練工の技をAIが分析して形式知とし、若い世代に匠の技を伝承する手助けをしたり、といった用途を想定しています。
当社工場の一つである掛川事業所では、NECの研究所と連携しながら最先端の人機AI共創を先駆けて導入しており、直近1年間では約200社の製造業ユーザーが見学に訪れています。掛川事業所でうまくいった事例は、当社の他の工場に横展開するだけでなく、人機AI共創ソリューションとしてNECグループと連携した上で広く一般ユーザーに提供していきます。
防衛・宇宙、車載を注力領域に
――直近の注力分野は何ですか。
前述の通り、安全保障に密接に関わる防衛・宇宙や海洋、車載機器などのNECグループとの連携事業の領域が当社の注力領域となっています。
とりわけ防衛分野では国の防衛関連予算の拡大や同盟国・同志国への輸出機会が増える見込みなどの変化が起きており、宇宙分野では複数の衛星を編隊飛行させる衛星コンステレーションの需要や、ASEAN・中東地域における宇宙関連ビジネスの需要増を見込んでいます。
海洋分野はNECグループの強みでもある海底光ケーブル通信の需要を取り込みたいと考えています。当社はNECの研究所と共に深海の水圧に耐える光海底中継器を製造しており、中継器に内蔵した光増幅器によって光通信の減衰を補い、拡大し続けるインターネット通信需要に応えていきます。
いずれも超多品種少量生産の強みを生かせる分野ですし、安全保障の観点からサプライチェーンを国内で完結させるセキュア開発生産が求められますので、NEPS3.0の方向性とも合致しています。当社では防衛・宇宙、海洋を成長分野と位置づけ、30年に向けて担当人員を倍増させる計画です。
――車載機器についてはどうですか。
自動車向けの電子機器ビジネスでは、ECU(電子制御ユニット)と呼ばれる制御系が多くを占めていますが、そのなかでもテレマティクス制御ユニット(TCU)に着目しています。TCUは外部のデータセンター(DC)やクラウドと通信をする電子機器であり、DCやクラウド、通信の分野で総合力を発揮できるNECグループの強みを生かせる分野だからです。
今後普及が見込まれる無人運転車は、常にクラウドとの通信を維持しながら走行する仕組みであり、現時点でも事故を起こした際にドライブレコーダーの映像を契約している自動車保険会社に即時送信して、事故処理を円滑に行うといった仕組みが普及しています。TCUを突破口にして、自動車をクラウドやAIと無線通信でつなぐビジネスを伸ばしていきます。
構造改革で利益は改善傾向
――新井社長のキャリアについて教えてください。
ソフトウェア技術者として主に通信キャリア向けの交換器やVoIP、SDN、ネットワークの仮想化などのプロジェクトに携わってきました。17年に経営企画本部に異動になり、20年度に向けた中期経営計画の策定に従事したことが、キャリアの大きな転機となりました。
通信キャリア向けの開発プロジェクトに携わったおよそ20年の中で、プロジェクトマネージャー(PM)の経験も積んできましたが、このPMの経験が思いのほか経営企画に通じるものがあると感じたのです。PMの仕事は、納期やコストなどの計画を立て、その計画を実現するために必要な人的リソースを確保することですが、中計策定においても社内外のヒト・モノ・カネを最適配置するという点で共通しています。
もちろん規模感はまったく違いますし、ステークホルダーが納得する計画を立てるに当たって最初は戸惑いましたが、中計策定の経験が今の当社経営に役立っていることに変わりはありません。PMの仕事が経営企画にも応用できるという点において、全国のPMの方は自信をもっていいと思いますね。
――業績についてもお話いただけますか。
直近3年間の単体売上高を振り返ると減少トレンドにあり、26年3月期はPOS関連事業の譲渡があったこともあり前期比18.5%減の2547億円でした。一方、23年度からNECグループの経営戦略とものづくりを密に連携させるなどの構造改革を始めたことで利益面では改善が進んでいます。とりわけNECグループと当社の連携事業全体で見た営業利益率は右肩上がりで伸びており、改革の成果が数字になって表れています。今後もNECグループの注力事業と一体となってものづくりを進めていくことで業績を伸ばしていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
国内のサプライチェーンを巡っては、「円安基調だから国内生産に回帰する動きが加速する」「経済安全保障の観点から国内でのものづくりを維持する必要がある」など、さまざまな経済的、政策的な見方がある。
新井社長は「社会基盤を支えるNECグループだからこそ、国内でつくらなければならない製品は確実に存在する」と、NECプラットフォームズの役割を再定義する。価値創造モデルのBluStellarに代表されるように、NECグループの経営戦略が大きく変化するなか、ハードウェア生産を担う同社も大きな変貌を遂げようとしている。
実際、同社の生産品目は、量産型からすり合わせ型のカスタム生産、一品一様生産へと、「ここ10年で生産の重心が大きく変わった」と話す。NECグループが社会的価値の創出を重視するのと歩調を合わせ、「やるべきことをやる」と、覚悟をもって、強みを磨き、進むべき道を固めていく。
プロフィール
新井智也
(あらい ともや)
1974年、新潟県生まれ。97年、東北大学工学部卒業。同年、NEC入社。12年、第一キャリアサービス事業部部長。20年、新事業推進本部本部長。23年、次世代ネットワーク戦略統括部統括部長。24年、NECプラットフォームズ執行役員常務。25年、取締役執行役員常務。26年4月1日、代表取締役執行役員社長に就任。
会社紹介
【NECプラットフォームズ】NECグループのハードウェア生産子会社として国内の開発生産拠点を14カ所(うち工場は6カ所)、タイに海外生産拠点を持つ。2026年3月期の単体売上高は、POS関連事業の譲渡の影響などで前期比18.5%減の2547億円。単体従業員数は約5200人。