ITシステム運用管理ソフト開発のビーエスピーは、次の10年を見据えた戦略的投資に踏み出した。ITライフサイクル全体をカバーする製品づくりを推進することで、中核事業である運用管理分野における競争力を高める。開発したシステムを本番環境へ移行する工程を自動化する独自フレームワークを策定、年内をめどに製品化を目指す。海外展開も積極的に進めることで事業を拡大させる。
本番への移行を円滑化 フレームワークを開発
──今年度の営業利益は前年度比で大幅減になる見通しを示していますが、何を成し遂げようとされているのですか。
竹藤 これからの10年、成長し続けるためのソフト開発の投資です。ITシステムの運用管理にかかわるさまざまなソフトウェア製品をラインアップしていますが、今、とくに焦点を当てているのがシステム開発から運用に“受け渡す”領域です。パッケージソフトは先行投資型のビジネスですから、利益を減らさざるを得ない時期があります。
ITシステムの不具合を検証してみると、新しく開発したソフトを本番環境で稼働させる際や、既存のシステムに結合させる時にトラブルが起きるケースが相次いでいます。それならば、この“受け渡し”の部分を円滑に行えるようにするコンセプトやパッケージソフト製品を当社が開発するべきだと判断しました。システム全体で捉えた品質向上にも役立ちます。
──主力製品の運用管理ソフト「A─AUTO(エーオート)」は今年で発売から30年。製品のライフサイクルが短いIT業界において異色のロングセラー商材です。これだけでは力不足ということ?
竹藤 システム運用管理は大手ベンダーがひしめく激戦区です。国内だけをみても日本IBM、日立製作所、富士通など巨大な資本力を持つベンダーが顔を揃えている。そのなかで運用管理専業ベンダーである当社は何ができるのか。彼らができないことを当社が先にやらなければこの先10年、競争優位性を保つことは難しい。
国内市場では企業がITシステムに投じる費用のうち、ざっくり2割が新規の開発投資、8割が運用費用だといわれています。市場規模からいえば後者のほうがずっと大きいわけで、大手がこぞって力を入れるのも無理もないところです。
──開発から運用への“受け渡し”を、具体的にどうやって円滑化させるのですか。
竹藤 本番移行に必要なシステムの設定情報をデータベース化するものです。
開発したシステムが本番稼働するまでには、移行計画→実行環境の整備→リハーサル→テスト→本番などの工程があります。これはプロジェクト全体のうち約4割の工数が投入される重要な部分です。
本番移行に必要な設定情報は膨大な量で、手作業で管理していては必ずミスが発生します。ここを機械化、自動化することでトラブルを未然に防ぐことは長年の課題でもありました。当社では開発→本番稼働、稼働後の問題点を開発部門にフィードバックするフレームワークを「LMIS(エルミス=Lifecycle Management for IT Service)」と名づけ、まずはこのコンセプトを発表しました。年内をめどに具体的なパッケージ製品に仕上げる計画です。
──LMISの登場により、ビジネスモデルに変化は起きますか。
竹藤 起きると思います。現在主力のA─AUTOでは大手と真正面から戦ってきました。ただLMISは運用管理だけではなく、開発から本番移行、課題のフィードバックとITシステムのライフサイクル全体をカバーするものです。競合他社のA─AUTO相当製品も含みトータルにサポートできる可能性があります。
もちろんA─AUTOは、従来以上に磨き上げ、LMISとの密接な連動を実現していきます。LMISを評価してくださった他社ユーザーが、当社の運用管理システムに乗り換えることも十分に考えられます。
データセンターがカギ 海外売り上げが3割に
──売り方に変化はありますか。これまで一部グループ会社を除いて直接販売がメインでしたが…。
竹藤 当社単体ベースでみれば直販がメインです。顧客企業と直接的に向き合うことでさまざまな改善点や要望を得ることができるメリットは大きい。使っているハードウェアをダウンサイジングするときなどプラットフォームの変更時に、ソフトウェアライセンスを一部無償にするなど優待制度も自由に打ち出せますし、こうした柔軟なライセンス体系は、これまでなかなか間接販売に馴染んでこなかったのは事実です。
ただ、情報システムを巡る動きは、大きく変わってきています。SaaSに象徴されるようなソフトウェアのサービス化など、システムを所有する形態から、インターネットをベースに利用する形態へと移行。たとえ自社所有であっても、運用をデータセンターに委託するケースが増えており、総じてシステムの集中化が進んでいます。こうした変化を受けて、販売経路もデータセンターの運営事業者を通じて間接的にユーザー企業に利用していただく方式が増えることも予想されます。
データセンターを運営する側にとっては、LMISやA─AUTOを使うことでユーザー企業により付加価値の高いサービスが提供できるメリットがあります。もともと大手ユーザーへの営業を得意としてきた経緯もあることから、さまざまな情報システムが大規模なデータセンターに集まってくれたほうが動きやすい。大手ベンダーに比べれば当社の営業人員は限られており、データセンターへの集約は営業効率から考えるとプラスです。
──ニューヨークの子会社で海外進出の陣頭指揮を執られていましたが、海外展開についてはいかがですか。
竹藤 パッケージソフトは先行投資型のビジネスだと先ほど申しましたが、市場が大きければ大きいほど素早く損益分岐点を越えることができる。利益が出てきたら、次の製品の開発に着手できますので競争力も高まります。こうした観点から、わたしは国内に閉じこもっていてはダメだと以前から思っていました。
残念ながら海外でのビジネスはまだこれからです。北米に進出してみて“メイドインジャパン”のブランドは、ことパッケージソフトについては通用しないことが痛いほど分かりました。薄型テレビや自動車は日本製が受け入れられますが、パッケージソフトでは日本企業の実績がなさすぎる。ただ、それだけに伸びる余地は大きく、これからも海外進出に力を入れていきます。
──今年12月には中国・上海に新しく子会社を設立されます。グローバル展開に向けた見通しは。
竹藤 北米同様、中国市場もそう簡単でないことは承知しています。すでに中国でのオフショア開発を行っており、昨年度は地元ソフト開発ベンダーとの業務提携も行うなど地盤づくりをしてきました。中国の拠点では、これまで通りオフショア開発をしながらも、早い段階で中国の巨大市場に向けた市場開拓を軌道に乗せていくつもりです。
今年度(08年3月期)の連結売上高は約44億円の見通しですが、このうち海外での売り上げ比率はまだ微々たるものです。これを2010年度には、少なくとも3割程度までに高めていきたい。
パッケージソフトベンダーはグローバル展開してこそ一人前。将来的には7割を海外で売り上げるグローバルカンパニーになることが目標です。この比率まで持っていければ、連結売上高100億円の突破も夢ではありません。利益率の拡大も期待できる。日本製のパッケージソフトの優秀さを世界に知らしめたいと思っています。
My favorite ワインボトルのキャップ「ミュズレ」。王冠とも呼ばれる。ボトルに貼ってあるラベル「エチケット」とともに収集している。ビンテージワインを楽しむ社内の同好会では、最も高額な参加費を負担してくれる社長は大歓迎されるとか
眼光紙背 ~取材を終えて~
北米進出の陣頭指揮を執っていた頃は“日本製のソフトウェア?”と、「信用がおけない目で見られてつらい思い」をした。“メイドインジャパン”の神通力をソフトでも通用させることを誓った。
上場してからは“営業利益率4割はいけるよね”と周囲に言われた。「パッケージソフトは必ず先行投資が必要で、これが競争力の源泉になる」と、投資家から厳しい目で見られつつも、研究開発費を増額。持続可能な成長基盤の構築を急ぐ。
新製品の開発にグローバル展開──。「大手よりも早くうちがやる。従業員数200人ほどの小さな会社だ。失敗しても舵取り次第で元に戻せる」。
将来的には得意分野を持つ社員50人ほどの小さな会社の集合体にしたい。30-40代の若い“社長”を多く育てたいからだ。「小さくてもトップに立てば企業経営がどんなものか理解できる」。大手に負けない独創的な企業グループの創造を目指す。(寶)
プロフィール
竹藤 浩樹
(たけふじ ひろき)1961年、長崎県生まれ。84年、日本大学生産工学部卒。同年、ソフトウェアエージー入社。94年、ソフトウェアエージーからビーエスピーが分社独立。ビーエスピーのカスタマーサービス部次長。98年、同部部長。99年、取締役。西暦2000年問題の対策責任者。00年、米子会社BSPインターナショナルの担当取締役としてニューヨークに赴任。01年、BSPインターナショナルのCOO(最高執行責任者)。03年1月、CEO(最高経営責任者)。同年9月、ビーエスピー常務取締役。04年、社長就任。
会社紹介
今年度(08年3月期)の連結売上高は前年度比10.9%増の44億円、営業利益は同42.4%減の6億2000万円を見込む。ITライフサイクル全体をカバーする新製品などの先行投資がかさむことで大幅な減益になる見通し。運用管理分野に軸足を置きつつ、ライフサイクル全域にビジネスを拡大させていくことで競争優位を高める。06年3月にジャスダック証券取引所に株式を上場。同年10月に国産パッケージソフトベンダーの海外進出を推進するコンソーシアム「MIJS(Made In Japan Software Consortium)」に参加。グローバル展開を加速させる。同年11月には帳票管理ツールの事業譲渡を受け、ビーエスピー・プリズムを設立。帳票管理分野への進出を果たす。毎年7月には「システム管理者感謝の日」のイベントを主催。